黒い舞台は神なる地   作:カタリア

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第2話 神浜デビューはお早めに

 翌日、ヨイは朝の支度をさっさと済ませる。

『マミの機嫌斜めの気配』『数が減った魔女達』『謎の少女との遭遇』『ありえないタイミングでのお菓子の魔女との遭遇』『固有魔法の変化』これらの謎を解くために6時から出かけるつもりなのだ。

 そんで夜遅くまで見滝原に戻らないつもりでいる。

 

「すべての答えが聞いたこともない町にある可能性は高いヨネ。あの子を見たことなんてない。それなのに神浜で救われるなんて言われたら怪しいに決まってるネ。さっさと調査して遊ぼっと」

 

 身支度を整えながら独り言を話してやることを確認する。

 制服を着て財布とスマホとグリーフシードを持ったらいざ出発だ。

 目指すはピンク髪の少女が言っていた神浜市だ。

 

 いつものように玄関で靴を履くと両親の写真に挨拶した。

 

「行ってきます」

 

 それからガチャンと静かで寂しげな家にドアの閉まる音を響かせた。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 電車で移動して神浜市の西側に到着した。

 

 駅を出たその時、同じ電車から降りたと思われる人の中から魔法少女の存在をキュピーンと感じ取った。

 まあまあな広さの駅なのでどこにいるか正確には分からないが、確実に魔法少女が3人も近くにいる。

 今は戦いたくないと思っているヨイはすぐにその場を離れて駅を後にした。

 

 なるべく人のいない方へと歩いて行く。

 途中まで栄えてる感じがしたが、しばらく歩いて行くと駄菓子屋に着いてしまった。

 その頃には近くを歩いている人も居なければ、魔法少女の気配も一切無くなっていた。

 

 ホッとしたヨイはちょうど休めると思ってその駄菓子屋に立ち寄った。

 その駄菓子屋は『あした屋』だ。

 

「すみませーん」

 

 そこそこ大きな声で店の人に向けて声をかけるとおばあさんが腰を上げて寄ってきた。

 

「見ない顔だね。まぁ、何かしら買ってくれるなら関係ないけどね」

 

「あはは」

 

 おばあさんの明るくて力のある声から出る言葉にヨイは思わず苦笑いを漏らしてしまった。

 それでも気を取り直しておばあさんに言う。

 

「おばあさん、ラムネ一本ちょうだい」

 

「いいけど、あんた学校はいいのかい?」

 

 ラムネを取りながらおばあさんはヨイの制服姿をチラッと見て言った。

 その言葉にヨイはダルそうに返答する。

 

「学校は良家組だの成金組だのとうるさくて嫌なんだヨネ。それに、あそこにはあたしが大っ嫌いな自分の底を見せない奴も居るから行きたく無いんだヨ」

 

 その話を聞いておばあさんは苦労してるんだなと思った。

 だから、その場を少し離れてふ菓子を取ってきた。

 

「はいよ。20円ね」

 

 おばあさんはラムネ一本とふ菓子をヨイに渡そうとしてきた。

 それを見たヨイは驚いて目を見開いた。

 

「はっ? ふ菓子なんて言ってないんだケド!」

 

「おまけだよ。アンタも苦労してるみたいだからさ」

 

「本当にいいのカナ?」

 

「いいんだよ!」

 

 そう言われてヨイはニコッとして20円を差し出しながらお礼を言った。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。外に座れるからそこで食べな」

 

「はい!」

 

 ラムネとふ菓子を持ったヨイはすぐに出て言われたところに座った。

 そして、ラムネを開栓してふ菓子も袋から出した。

 ヨイは普段から手間のかかる物を嫌ってるから、駄菓子みたいに手軽に食べらる物は大好物だ。

 その好物を目の前にしてヨイの青い目がキラキラと輝く。

 

「駄菓子なんて今の時代は滅多に食べられないから運がいいネ。これを食べてから見つからないように調査を始めよっと」

 

 そう言ってヨイはヒョイっとふ菓子を口に運ぶとパリッと一口食べた。

 その一口分をゆっくり味わうと幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「駄菓子のためなら神浜に来るのもいいのかもネ。グリーフシードは他のテリトリーでも侵入してサッと奪えばいいもんネ」

 

 そう言うとまた一口パクリとふ菓子を頬張った。そしてまた幸せそうな顔をする。

 その次はラムネをグイッと一口飲む。すると、ラムネでも幸せそうにギザ歯が見えるほどに表情を緩めた。

 

 

 

 それを十分ほど続けていると、油断しているヨイの元に青髪の女性が近づいてきた。

 その姿に気づいたヨイはすぐに立ち上がって距離を取って手刀の構えをした。

 

「あなた、この街の魔法少女じゃないわね」

 

「それが何だって言うのか分からないんだケド!」

 

「そんなに警戒しなくていいわ。あなたみたいに強い人ならこの町で死ぬことはないでしょうからね」

 

 ヨイはしばらく焦った状態が続いたが、冷静に青髪の女性を観察してその意思の真偽を測った。

 そして、本当にやる気が無いと判断して構えを解いた。

 だが、相手が魔法少女であることは同じ魔法少女だから分かるので警戒を解かなかった。

 

「今の言葉の意味が分からないんですケド」

 

「そのままの意味よ。この町の魔女は他と比べものにならないほどに強いんだもの」

 

「強い? 多くはないワケ?」

 

「そういえば、最近妙に魔女が多くなってきてるわね。いくら魔法少女が多い町と言っても限度があるわ」

 

「多くて強いなんて最高だけど命がいくらあっても足りないネ」

 

 ヨイはこの魔法少女から情報を聞き出そうとナチュラルに会話している。

 その途中で青髪の魔法少女はアドバイスくらいならしてもいいと思ってとある話を始めた。

 

「あなたみたいに見た目から強い人でも厳しいと思うなら、調整屋を探してみるといいわ。この町の魔法少女は彼女の助けを得ることで大抵の子が魔女と対等に戦えているのよ」

 

「それはいいことを聞いたヨ。来たばっかりで右も左も分からないからまずはそこを探してみることにするネ」

 

「あなたに死なれると迷惑なだけよ。別にあなたを助けるつもりではないわ」

 

「はいはい。そう言う奴は結構いるから分かってるヨ。それじゃ、そろそろ行かせてもらうネ」

 

 この会話を終えようと思ったヨイはイスの上に置いたゴミを取ると近くのゴミ箱に捨てた。

 それから青髪の女性の横を通って新たな目的の場所を求めて移動する。

 その途中で彼女の名前を聞くのを忘れていたことを思い出して振り返った。

 

「そこのあんた! 名前はなんて言うんだい?」

 

 その声が聞こえた青髪の女性は振り返って答えた。

 

「七海やちよ、この辺ではかなりのベテランよ」

 

 それを聞いたヨイはニカっと笑って自分も名乗った。

 

「あたしは猫宮宵だ! 見滝原の影に巣くうベテランだヨ!」

 

 そう言い終えると楽しそうな笑顔から今度は嬉しそうな笑顔に変えて言う。

 

「うちのマミと同じくらい強いであろう君と遊びたいけど我慢するヨ。次は戦おうネ。だから『またね』」

 

 言いたいことを言えたヨイはやちよの評価を『面白そう』に変えた。

 それからまた背を向けて栄えているかもしれない方を目指して歩いて行った。

 調整屋がそこなら仕事がしやすいんじゃないかと考えて。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 歩いていると途中で魔女の気配をいくつか感じ取った。

 そのうちの一つに近づくと魔女の強さを入る前から肌で感じ取ってビビってしまった。

 そのせいで何よりも先に調整屋を見つけようと必死になった。

 

 歩いては魔力を探り、歩いては魔力を探りを繰り返して少しずつ調べていく。

 ある程度それを繰り返すと途中でめんどくさくなってかなりの魔力を使って広範囲の捜索した。

 

「見つけた。独特なパターンをしてるからおそらくこれだネ」

 

 その魔力反応がある場所は今いるところから歩いて5分くらいの所だ。

 ヨイは早く行きたいのでグリーフシードを使いながら早歩きで調整屋に向かう。

 

 本当は誰にも会いたくないが、見つかったり仕方ない状況ならしょうがなく対面する。

 今回もできることなら七海やちよに見つかりたくなかったかったし、出来ることなら調整屋に行きたくもないが仕方ないからヨイは歩く。

 

 そして、調整屋にたどり着いた。

 外から見るとここにあるとは思えないが、中から独特なパターンの魔力と複数の魔力を感じるのでここで間違い無い。

 一応いつでも変身できるようにして中に入る覚悟を決めた。

 

 先に進むと一段と綺麗な場所に出た。

 そこの外観にそぐわない綺麗さにヨイは声を出して驚いた。

 

「マジか!」

 

 思わず声を出してしまったことに焦ったヨイは自分を落ち着かせようと深呼吸する。

 そこに例の魔力の持ち主である魔法少女が近寄ってきて声をかけてきた。

 

「あらぁ、お客さんかしら? 初めて見る顔ね」

 

 その声にヨイはビクッとしてから平静を装って仕事の話を始めた。

 

「あんたが調整屋であってる?」

 

「そうよ。私がこの神浜の魔法少女達をサポートしてる調整屋で八雲みたまと言うのよ」

 

「なら、この町の魔女を倒せるように調整してもらいたいんだヨネ。見滝原から来てるせいで勝てる気が全然しないんだヨ」

 

 ヨイが弱り果てた様子でそう言うとみたまはキョトンとした。

 

「見た感じかなりのベテランよね? それも1人で活動してきた感じだから、経験を活かせば勝てると思うんだけど?」

 

「確かに勝てるかもしないネ。でも、出来ることなら勝率は高いに越したことが無いんだヨネ。勝率が低いと戦いを楽しめても最後はこっちが死にかねないカラ」

 

「ふーん、なるほどねぇ」

 

 その直後、しばらくの静寂を辺りを包んだ。

 それから八雲みたまは笑顔で新しい客を受け入れた。

 

「分かったわ。いつもならグリーフシードを支払ってもらったりするけど、今回は初回のサービスでタダでやってあげるわよ!」

 

「本当か!」

 

 ヨイはみたまの言うことにとても喜んだ。

 その喜びを制すように笑顔のヨイの口元や人差し指を立てた。

 

「喜ぶのはまだ早いわよ。グリーフシードの代わりにあなたには1人で活動させるのが危険な子を2人預けさせてもらうわ!」

 

 そう言われてヨイは目を丸くした。

 それからすぐに警戒態勢に入って尋ねた。

 

「あんたみたいな人が危ないって言うならまだ新人だヨネ?」

 

「鋭いわね。その通りよ」

 

「そいつらを預かってあたしに何のメリットがあるワケ?」

 

「神浜ではあの子達の方が先輩よ。あなたより内部の事情に詳しいし、怪しい人達のことも教えてくれるかもしれないわよ」

 

 その話を聞いてヨイは何かが頭の中で引っ掛かった。

 しかし、すぐにはそれが何なのか理解できなかった。

 

「なるほどね。あんたは危なっかしい奴らを保護できる。あたしは情報を得られる。WIN-WINでしょって言いたいわけネ」

 

「この条件ならあなたは損しないわよ。どうするの?」

 

 そう言われてヨイはため息をついた。

 

「乗る以外に選択肢なんてないヨネ?」

 

「交渉成立ね! それじゃあ、今から調整を始めるから施術台に乗ってくれるかしら?」

 

 相手のペースに乗せられるといつもどうすることが出来ない。

 美国織莉子と同じ苦手なタイプと感じながら施術台の上に横になった。

 

「それじゃあ始めるわね。さぁ、目を閉じて」

 

 言われるがままにヨイは黙って目を閉じた。

 

 するとソウルジェムに触れられる気配を感じた。

 その直後にみたまは何かに驚いた反応をしたようだが、どうにか気を取り直して調整に挑んだ。

 

「終わったわよ」

 

 ほんの20秒くらいで調整は終わり、ヨイが目を開けるとよく分からない感情になっているみたまが見えた。

 そのみたまが降りるのを手伝うように手を差し出したのでその手を取って降りた。

 

「さぁて、終わったことだし早速2人を連れてくるわね」

 

「はぁ、どうぞ」

 

 ヨイがため息をついているのにみたまは気にせずに奥へと行ってしまった。

 ヨイはなにが変わったのかと考えた。

 変身してみたりして確認したが見た目などからはよく分からなかった。

 そうしているとみたまが赤髪の幼女と白髪の少女を連れてきた。

 

「この子達を預けたいのよ。神浜内のどのグループにも入れなかったから、いつも1人で無茶な戦い方をしてるのよ。それでいつもボロボロになってここに来るから見てられなくてねぇ。ベテランのあなたなら色々と分かるだろうから、ねっ」

 

 

 みたまがそう言ってる間にヨイは2人の品定めをした。

 その2人をよく見ると2人とも新人とは思えないほどに才能と魔力が満ち満ちている。

 これで神浜ではボロボロになると聞くと、ヨイは見滝原のマミ達が来たらどうなるのだろうかと想像してげんなりした。

 

「分かったヨ。2人ともまずはここを出るよ」

 

「はい!」

 

 2人揃って元気よく答えた。

 ヨイは元気とやる気のある奴が大好きなのでこの一瞬で後輩達の好感度が上がった。

 期待できそうだなと思ったヨイはみたまにこれ以上なにも言わないようにして出ていこうとした。

 

「待って!」

 

 みたまが大きな声でヨイを引き止める。

 そっと振り返ると険しい表情でヨイのことを睨みつけている。

 

「気をつけなさい。あなたのしようとしてることを少し見たけど、それは本当にいくつ命があっても足りないようなことよ。それに、そんなことをしようとしてるライバルがこの町にはいるから気をつけないと死ぬわよ。出来ることなら目的無しに神浜に来るのはやめて、その子達と一緒に遠くに逃げることね」

 

「御忠告ありがとう。でも、あたしはそれを達成するためにたくさんのグリーフシードがいるから、絶対にまたこの町に来るヨ」

 

「それなら警戒を怠らないことね。出来ることならもっと早くに会いたかったわ。でも、後の祭りね」

 

 最後の会話の意味を理解して噛み締めた。

 みたまに何も言わずに2人を引き連れてその場を後にする。

 

 ヨイ自身もやちよの穏やかじゃない様子や、みたまの何としても生かそうとする様子を見て、もう少し来るのが早ければ普通に遊べたかもしれないと思っている。

 それこそ神浜に来るのはお早めにって感じだ。

 

 しかし、どうすることも今はできないから黙って調整屋から離れていく。

 時間はすでに12時を過ぎている。


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