「それで、美遊は飛べるようになったのか?」
美遊が空を飛べるようにと、今日は朝早くからルヴィア達は屋敷を空けていた。
飛ぶ感覚を身につける為に、ヘリから突き落としたと聞いた時は正気を疑った。しかし、やはりカレイドステッキは一級品の魔術礼装であるらしく美遊に怪我は特に無かったようだ。
「美遊はなまじ頭が良いから、物理常識に捕らわれていますわ。魔術師としては理論・体系づけて考えられる点は好ましいけれど、魔法少女としては空想するという思考が足りませんわ」
「確かに、小難しい本ばかり読んでいたからなぁ、美遊は」
紅茶を差し出しながら、そんな会話を交わす。
たまたま墜落した所でイリヤと出くわした美遊は、あっさりと飛行に成功した彼女に教えを請うことにしたらしい。今はイリヤの家で、飛行のイメージの元になったアニメを見ている。
「血は繋がってないと聞きましたが、貴方達は本当に良い兄妹なんですわね」
どうやら、表情に出ていたようだ。そう、俺は嬉しいんだ。カード回収、カレイドステッキ。いまだに非日常的な毎日ではあるが、それでも美遊は人として生きている。
だからこそ、それを守る為に俺がいるのだと。改めてそう思った。
「複雑な作戦立てても混乱するだけだろうから、役割を単純化するわ。小回りの効くイリヤは陽動と撹乱担当。突破力のある美遊は本命の攻撃担当ね。士郎は地上からの狙撃と、不測の事態に備えて。キャスターの情報は士郎から聞いたけど、魔力反射平面の例もある。こちらの予想外の手札を持っている可能性も否定できないわ」
遠坂の立てた作戦は、今の所おおむね上手くいっている。
魔力反射平面の更に上へと飛んだ二人は、挟み撃ちの形を取りつつ攻撃する。そうして、イリヤの方へと注意が向いた時、美遊がイリヤから借りたランサーのカードを使おうとする。
だがその瞬間、フッとキャスターの体がかき消える。
現れたのは、美遊の真後ろだ。
「ふっ!!」
番えた矢を放ち、その攻撃を弾く。
「ありがとう!お兄ちゃん!!」
「転移魔術、そんなものまで!」
俺の後ろに控えている遠坂とルヴィアは驚いている。
やはり、何もかも計画どおりとはいかないか…。
美遊とイリヤは空中で合流し、今度はイリヤが前へと出た。
「極大の…散弾!!!」
イリヤが放った魔力砲は、反射平面に跳ね返り空間を埋め尽くさん限りに拡散。
「弾速最大…
そしてその防御の為に動きが止まったキャスターを、美遊が狙い撃つ。
撃ち落とされたキャスターは、地上へと落ちる。
「
放たれた二人の宝石は、爆風と共にキャスターを呑み込んだ。
だが、仕留めきれていない。俺にしか見えていなかったようだが、先程の転移のようにキャスターの姿が爆発の瞬間に消えていた。
「どこだ…!」
俺達の全員が異変に気が付いた時、キャスターの特大の魔法陣が目に入る。
「空間ごと焼き払う気よ!!!」
美遊がそれを止めようと一直線に飛ぶ。だが、距離が遠い!それでは間に合わない。
射線上に美遊がいるため、狙撃も出来ない。巻き込んでしまう。どうする…!
「乗って!!」
イリヤが放った砲撃。美遊はそれを足場に、加速した。
そして、美遊の放った刺突は、キャスターの心臓を穿った。
「しかし2枚目で早くもこんなに苦戦するとはね…先が思いやられるわ」
クラスカード、キャスターの回収は完了した。幸いにも、大きな怪我をした者はいなかった。だが、余裕の勝利だったという訳ではない。
イリヤの機転が無ければ、もっと被害は大きなものだった。あの一瞬で、まさか魔力砲を足場にする事を思いつき、実行するとは。あの子の発想は侮れない。
「カードの回収をしたってのに…空間の崩落がずいぶんと遅くない?」
遠坂がそう言った時、ゾワリと悪寒を感じた。
瞬間。自身の身体を捻り、逸らす。
躱したその空間を剣が切り裂いた。
見えていた訳ではない。英霊エミヤが数多の戦場を戦いぬき磨いた、心眼とも呼べる洞察力。それがあったからこそ躱せた一撃だった。
身を翻し、距離を取る。
「クラスカード、セイバー…」
その刃は暗く染まっていたが、間違いようもなくその剣はあの時見た究極の聖剣であった。
「あり得るの?こんなこと…!」
「完全に想定外…ですが現実に起こってしまいました」
二人目の敵、クラスカード・セイバー。アーサー王。
夜はまだ、終わらない。