カードの最後の一枚、バーサーカー。その回収に、イリヤは現れなかった。
遠坂が言うには、彼女との
俺も、その意見には大いに賛成だ。元々あの子が戦う事自体に心の底から賛同していたわけでもない。それに、戦いの世界に身を置くには、イリヤは優しすぎる。
逆に不安なこともある。彼女がアサシンとの戦闘で見せた膨大な魔力。この世界の衛宮士郎の妹であること。
イリヤもまた、逃げられない運命の歯車の中にいるのではないかと。
だが、今は目先の事に集中をするべきだろう。
バーサーカーのカードは手強い。正面切っての戦闘では敵わない相手だ。それに、一定ランクに達しないすべての攻撃を無効化する、宝具そのものと言える肉体。加えて、死亡した時に自動で発動する蘇生能力。
蘇生の回数は分からないが、持てる手は尽くす。だが、カードが回収されると共に鏡面界はどんどん小さくなっている。
今回のバーサーカー戦では、フィールドは殆どビル丸々一個分しかない。ライダーのカードを使うには狭すぎる。
鏡面界に入る前に、俺はアーチャー、美遊はランサーをあらかじめ
「ラストバトル…始めるわよ!!」
「
心臓を穿ち。
「
体を抉り取る。
それでも、時間が巻き戻っているかのようにその肉体は蘇る。
「聞いてはいたけれど、なんて能力…!」
「一度撤退よ!次の作戦に行くわ!」
遠坂が屋上の壁を切り取り穴を空ける。
俺達はビルの内部へと駆け出した。
「あの図体なら、ここじゃあ満足に動けないはずよ。少なくとも、時間は稼げる」
「まだ戦えますわね?シェロ、美遊」
「あぁ」「はい!」
ひとつ息をつき、呼吸を整える。
あの巨体を殺しうるに足る別の武具がいる。
セイバーの持つ究極の聖剣は、俺には投影できない。
ならばと脳裏に浮かぶのは、あの時バーサーカー自身が振るっていた斧剣。
「
投影するだけでは、俺には使いこなせない。
振るうに必要な筋力、奴の得た経験、技量。
その全てを投影する。
「
ビルの天井が壊れ、バーサーカーが現れる。
遠坂やルヴィアの声がどこか遠く聞こえる。
ここに、全ての工程は完了した。
「
迫りくるバーサーカーの拳を上回る神速の連撃で、その体を切り裂く。
だが、それでもまだ終わっていない。体の八割方を失っても、まだその体は復活の兆しを見せている。
「美遊っ!!」
「セイバー、
聖剣の光が蘇りつつある体を消し飛ばし、その余波でビルに大穴が空いた。
だが、それでもなおバーサーカーは生きていた。
「!?」
声をかける暇すら無い。魔力切れによりセイバーのカードが強制送還された美遊に、その巨躯が襲いかかる。
美遊とバーサーカーの間に割り込むように俺は駆け寄る。
防御のために再び斧剣を投影するが、急造のハリボテでは奴の膂力を殺しきれなかった。
斧剣は真っ二つに折られ、同時にメキメキと体が嫌な音を立てながら俺は吹き飛ばされる。
「お兄ちゃんッ!!」
「ゴホッ!…グッ…」
アーチャーのカードが強制的に排出される。
激痛に苛まれながらも、歯を食い縛り立ち上がろうとする。
「全力の…
その時、砲撃と共に現れたのはイリヤだった。
「凛さんッ!ルヴィアさんッ!」
本来来るはずのなかった増援に驚きながらも、声をかけられた二人はイリヤの意図を瞬時に理解した。
「
「「
宝石魔術により、一時的ではあるがバーサーカーの拘束に成功した。
そして、イリヤは泣きそうな顔でこちらに振り返った。
「わたし――バカだった。何の覚悟もないままただ言われるままに戦ってた。戦ってても…どこか他人事だったんだ。こんなウソみたいな戦いは現実じゃないって…」
「なのに…その『ウソみたいな力』が自分にもあるってわかって…急に…全部が怖くなって…!」
「本当にバカだったのは、逃げ出したことだ!友達を見捨てたままじゃ、前へは進めないから…ッ!」
「イリヤ…」
ああ、本当に。こんな子が、美遊の友達になってくれて良かった。
「受け取れ!イリヤ!君なら使えるはずだ!!」
俺は折れていない左腕でアーチャーのカードを投げ渡した。
受け取ったイリヤは、カードを見つめ言う。
「不思議…今のわたしには、このカードの使い方が分かる」
そして、イリヤから膨大な魔力が迸る。
アサシンの時と同じ現象だが、今回は自分の意思で制御出来ているらしく、暴走する気配は無い。
「アーチャー、
「
「セイバー、
イリヤと美遊の手には、それぞれ聖剣が握られている。
「いくよ?美遊」「うん、イリヤ!」
そして振り下ろされた、ふたつの光の奔流。
「「
それは今度こそバーサーカーを打ち倒し、任務完遂の狼煙となったのだった。
「すべてのカードを回収完了。これで…コンプリートよ」
鏡面界から帰った俺達は、ぐったりと腰を下ろしていた。
無理もないだろう。まさしく今回の敵は最強と言っても過言では無い相手だった。
とにかく、これでカードを届ければ任務は完了。そう言った遠坂の手から、スウッとカードが奪い取られる。
「ホ--ッホッホッホ!!最後の最後に油断しましたわね!ご安心なさい!カードはすべて
「んなああああああッ!?」
いつの間にやら呼ばれていたヘリコプターに乗り、ルヴィアは全てのカードを手にし立ち去ろうとしていた。
「ちょっ、ちょっとルヴィアさんっ!!お兄ちゃん、怪我してるんです!!放っておくんですか!!」
「そちらはちゃんとオーギュストに言付けてありますわッ!安心なさい、美遊!」
そうして高笑いを残して、ルヴィアは去っていった。
遠坂もそれを追って行ってしまう。
俺と美遊、そしてイリヤはその場にポカーンと取り残された。
「ハハッ…最後まで締まらないな…」
ひとまず、戦いの夜は終わりを迎えた。
だがなんとなく、これで俺達の騒がしい関係が終わるとも思えないでいる自分がいた。
補足1:黒化英霊のバーサーカーは素手なので、あの時というのは美遊世界の聖杯戦争で戦ったバーサーカーの事です。
補足2:黒化英霊のバーサーカーの蘇生のストックは、本来のバーサーカーより少ないと仮定して書いています(何回蘇ったか明言しているシーンが見当たらなかったので)。
けれど、原作漫画だとゲイ・ボルクで一回、エクスカリバーの斬撃で一回、宝具で一回。パラレル・インクルードで九本のエクスカリバーで同時攻撃しているので、もしかしたらストック分殺しきってるかもしれないです(耐性が上がる分、一本のエクスカリバーで一殺出来ているかは不明なため真偽は分かりませんが)