[第十六話]魔法少女は再び
時が流れるのは早いもので、あの戦いからもうすぐ一ヶ月が経とうとしている。
カード回収は完了したものの、俺達の日常はそんなに変わらなかった。俺と美遊は、相変わらずルヴィアの屋敷に世話になっている。
あのあと、逃走したルヴィアを追って二人は朝まで追いかけっこしていたそうだ。
そんな二人を大師父とやらは見かねたようで、喧嘩っ早いその性格を直してこいと言われ結局は一年間は日本に在留する事に決まったのだとか。
学校の方では、イリヤと美遊はかなり仲が良くなったようだ。
美遊は毎日のように、その日学校であった事を俺に聞かせてくれる。時折、屋敷にやってきたイリヤからも聞いているが、初めの頃は会話すらまともにできなかった美遊だが、最近はクラスにも馴染んできているようだ。
「士郎、あんた病み上がりなんだから無茶は禁物よ」
「はいはい…」
こちらはと言うと、いつの間にやら遠坂もルヴィアの屋敷で働いていた。
俺がしばらく、なかば強制的に休養を取らされていた間に雇われたらしい。
俺が休養を取らされた理由はふたつある。
骨折や傷の治療は遠坂とルヴィアにしてもらったが、二人共治療の魔術は得意ではないらしく傷は治ったものの念の為というのが一つ。
もうひとつは、改めて俺の体を医学的・魔術的に検査した所、筋繊維や骨、魔術回路などが極度の疲労状態であったらしい。先のバーサーカー戦での骨折はその影響もあったようだ。
考えてみれば不思議な事でもない。英霊の力を借り受けるといっても、この体はエーテルで構成されているわけじゃない、生身の人間だ。
度重なる戦闘に、
「よくこんな状態で平気な面して戦っていたわね」と、遠坂には呆れられたものだ。
言峰の鍛錬によって鍛えられた俺は、これぐらい問題無い範囲なのだと思い込んでいたが、それを話したらまた呆れられてしまった。
いかに言峰の治療の腕が良かったのか、思わぬところで知った場面だった。
「それと士郎。はい、これ」
そういって遠坂から手渡されたのは、俺がよく着るようなシンプルなデザインのパーカーやレインコート。
「どうしたんだ?これ」
「簡易的な魔術礼装よ。このルヴィアの屋敷に張られてる認識阻害と同系統のものね。それを着てる間は、あなたは衛宮士郎によく似てるだけの別人として認識されるはずよ。まぁ、魔術の心得が無い人間くらいしか騙せないけどね」
何でそんな物を?と聞き返すと、遠坂は少し暗い顔を見せる。
「士郎と美遊が、カードの回収に責任を感じてるのは分かってたわ…あなた達を見てればね。それでも、本来は私とルヴィアの任務だったから、協力に対して感謝の気持ちを込めてね。それに…」
「それに?」
「せっかく困難を乗り越えて、前へ進み始めた兄妹なのよ?報われなきゃ、そんなのってないじゃない」
不思議とその言葉には、重さが込められているように感じた。
「……、遠坂の気持ちは確かに受け取ったよ。正直なところ、こういう魔術は俺は不得手だからな。助かるよ」
特に拒否するような理由も無い。それらは素直に受け取る事にした。
「人が少ないところなら、これで出掛けても大丈夫だから。兄として、ちゃんと美遊を労ってやりなさい」
「ああ、そうだな」
明くる日、遠坂とルヴィアがイリヤと美遊を連れて任務へ向かった。
カードが回収されたことにより、自然に直るはずの地脈がなかなか正常化しない現状の解決に向かったらしい。
俺もついて行こうかと聞いてみたが、今回はカード回収のような戦闘も起きないから、カレイドの魔法少女だけで充分とのことだ。
その筈だったのだが…。
「はじめましてって言うべきなのかしら?よろしくね、もうひとりの
俺の目の前にはイリヤと同じ顔の、黒い少女がいる。
だが、この子は明らかにイリヤではない…。
「なんでさ…」
思わず、ため息をつかずにはいられなかった。