突然現れた少女は、上機嫌に部屋をうろつき周りながらこちらの様子を伺っている。
「君は、一体何者なんだ?もうひとりの
少女は唇に手を当てながら、妙に蠱惑的な仕草で話す。
「知っているわ、当然ね。だって、わたしは
自分が平行世界の衛宮士郎である事を知っている人物は、遠坂・ルヴィア、イリヤに美遊(あと人ではないけれど二本のカレイドステッキ)しかいないはずだ。
オーギュストをはじめとする、この屋敷のメイド達も感づいてはいるのかもしれないが、それを漏らすような人間をルヴィアが雇うとも考えにくい。
となると、この女の子は本当に…。
「今日のところは顔合わせで帰るわ。わたしにはわたしの目的があるしね」
こちらが色々と考え込んでいる内に、少女はサッと立ち去ってしまった。
「何だったんだ…」
疑問が絶えない、邂逅だった。
「というわけで…対策会議よ!」
あの謎の少女の出現は、先日の龍穴の拡張時に起きた事故に起因する。落盤で潰れるのを防ぐ為、咄嗟にイリヤがアーチャーのカードを
そして今日、イリヤはその黒イリヤに命を狙われ戦闘。その時は撃退したが、恐らく再び現れるであろう事が予想されている。
「黒イリヤの目的はどうやらイリヤの命…でも、そんな危機的状況なのに当のイリヤは――何故か弱体化してる…と」
「それに、懸念点は他にもある。あれ以来、行方の分からないアーチャーのカード。それに、襲われたイリヤと美遊が見た黒いイリヤ、ああもうややこしいからクロでいいわ。クロの戦い方は…」
「うん…おに、…士郎さんと同じだった」
「投影魔術に、弓兵の力…間違いないと思う…」
実際に戦ったという、イリヤと美遊はそう言う。
「以前に見た英霊の現象の一部?でも、思考力があって会話も可能だった…」
分からない事だらけだ。だが、俺が見た少女は、そう、なんというか。
寂しそうだと、感じたんだ。
「とにかく情報が少なすぎる。こうなった以上、やることはひとつ…黒イリヤこと、クロを捕獲する!」
「行動が的確すぎます!あの黒いイリヤさんてばなんか異常ですよ!」
アーチャーのクラスカードが無い俺は、後ろに下がっているように言われて俺は傍観していた。だがクロはまるで、こちらの手を読んでいるかのような対応力で美遊、遠坂とルヴィアを無力化した。
俺はこの少女と話す必要があると思った。
それにカードが無くても、俺は力を使える。
「ちょ…、士郎!?」
「ここは、俺に任せてくれ」
「ふーん?真打ち登場ってとこかしら」
他の皆を一端下がらせ、俺が前に出る。
「
彼女が持っているのは、間違いなく干将・莫耶。俺と同じ、エミヤの力だ。
「ふっ!!」
双剣で打ち合う。一合、二合。三合目で彼女の莫耶が折れる。
再び投影し、そしてまた打ち合う。だが、新たに投影した莫耶は先程よりもより真に近い。
「不思議ね…、あなたを見ているとこの
最初はこちらの方が優勢だった。だが、打ち合う事に彼女の動きは鋭くなり、投影の質も上がっている。
まるで、今までこの力の使い方が分かっていなかったかのように。俺の経験を吸い取るかのように。
「ねぇ、ひとつゲームをしない?」
突然、彼女がそう言い出した。
「わたしが勝ったら、お兄ちゃんはわたしのものになるの。多分、わたしの事を一番理解してくれそうなのは、あなただから」
「…俺が勝ったら?」
「その時は、お兄ちゃんの好きにして?どーんな事でも、受け入れてあ・げ・る」
これは、俺にとって有利な賭けではない。
だがせっかく彼女の方から交渉の席についたのだ。対話の為には、受け入れるほかない。
「良いだろう、ゲームを受ける」
「オーケー。それならわたしもちょっと、本気で行くわ!」
彼女の気配が、背後へと現れる。
これは、一度見たことがある。転移だ。
身を捻り、回避する。
「あらら…、躱されちゃった」
さして焦ってもいない態度で彼女は言う。
「……」
今は辛うじて躱せているが、彼女の技量が同等になれば俺は負ける。
英霊エミヤの力には、転移なんてものは無いからだ。
同じ武技で争っていては勝てない。
ならば僅かながらにも、技量で勝っている内に決着をつけなければならない。
こちらから距離を詰め、剣を振るう。
俺の狙いを悟らせてはいけない。狙うのは、一点のみで良い。
「焦っちゃダメよっ、お兄ちゃんッ!!」
こちらの体勢が崩れた所で、彼女が再び転移する。
エミヤの剣技では勝てない。ならば別のモノを使うしかない。
背後に現れたクロ。剣では間に合わない、絶妙なタイミング。
俺は、干将・莫耶を手放した。
「!?」
クロに背中を見せているこの体勢。それは、八極拳・貼山靠。またの名を、
これを、狙っていた!
「はぁああ!!」
身体の強化と合わせて放った打撃は、クロを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたクロは、やがて立ち上がったがフラフラとしている。
「ゲホッゲホッ、いったぁー…。なんなの?…今のはこの英霊の技じゃないわ」
俺がかつて、言峰との鍛錬の時に幾度となく見た八極拳。
正式に習ったわけではないが、俺は目が良かったから覚えてしまったものだ。
「どうだ?俺の勝ちで、良いか?」
「そうね、…降参よ。これ以上は、ただの殺し合いだし。それはわたしも望んでないわ」
ふぅー、と息を吐きながら安堵する。
謎に満ちた少女との戦闘は、とりあえずは俺の勝ちと相成った。