二人の“誓い”は運命を変える   作:坂本パン

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[第十八話]少女はクロエに

「さて…それじゃあ尋問を初めましょうか」

 

「………この扱いはあんまりじゃない?」

 

「俺もそこまでしなくとも、大丈夫だと思うがな」

 

 降参したクロは、おとなしく連行された。現在、遠坂とルヴィアにより拘束されている。

 

 磔にされ、体には抗魔布の拘束帯を巻かれている。だが、英霊の力を宿している彼女が本気で抗おうと思えば、この程度の拘束で済むはずが無い。つまりは、今の所は本当に争う気はないという事だろう。

 

「まったく、ここまでしなくても危害を加えたりしないわよ。イリヤ以外には」

 

「それが問題なんでしょーーッ!?」

 

 憤慨するイリヤ。命を狙われたのだから当然の反応ではある。

 

「わからないことだらけなの……全部答えてもらうわよ」

 

「全部…ねぇ」

 

 遠坂はクロに質問を重ねるが、重要な部分はのらりくらりと躱される。

 

「もういいわ」

 

 息を吐き、立ち上がる遠坂。

 

「遠坂、今度は俺がクロと話してもいいか?」

 

「士郎が?…良いけど、どうするの?」

 

 俺はどうしても、この少女と話したい事があった。それはきっと、この子の根幹に関わる大事な部分だ。

 

 だから、まずは俺とこの少女だけの方が話しやすいだろう。

 

「みんな、一度部屋を出てくれ。俺とクロの二人だけで話したい」

 

 一同皆、部屋から離れる事を渋ったが何回も説得して、ようやく部屋には二人だけになった。

 

 みんながいなくなると、俺はまずクロの拘束をすべて取り払った。

 

「逃してくれるの?優しいお兄ちゃん」

 

「そういうわけでもない。ただ、勝者の特権って奴をまだ俺は使ってないだろ?」

 

「大人しくついてきたじゃない、わたし」

 

「俺は降参するか、聞いただけだ。お願いしたわけじゃない」

 

「いたいけな少女に、随分と容赦ないのね」

 

「誰かさんのおかげで、その手の交渉は不得手ってわけでもないんでね」

 

 この場面で一番重要な事。俺の頼みは、そう。

 

「君の気持ちを素直に聞かせて欲しい。君は本当のイリヤスフィール。…奇跡のような偶然で現界した、聖杯だろう」

 

 彼女の存在の外殻がエミヤなのは、戦ってみて身にしみて分かっている。

 

 ならばその中身は?

 

 本来エミヤが持ち得ない、(転移)。まるで工程をキャンセルしたかのような投影。

 

 彼女の戦い方は、まるで結果のみを引き寄せているようなものだった。

 

「そう、そこまで分かっちゃったのね…」

 

 膝を抱えて座り込んだクロは、ぽつぽつと話してくれた。

 

 自分が、この世界の聖杯戦争。その儀式の(かぎ)となるべく生まれたこと。

 

 その為に生まれたのに、機能を封じられ、知識を封じられ、記憶を封じられたこと。

 

 自分が、なかったことにされたこと。

 

「わたし、どうしたらいいのかな」

 

「考える意思があって、動かせる身体がある。だから、この手で自分の日常を取り返したいと思って、イリヤを殺そうとした。でも、本当は分かってる。今更イリヤを殺したって、わたしがイリヤに成り代わるなんて不可能だわ」

 

「全部奪われた。全部失った。わたしには何も残ってない」

 

 そう肩を震わす少女は、弱りきっていた。

 

 だから俺は、独り言のように呟いた。

 

「かつて、神稚児として生まれた少女がいた。どんな願いでも叶えてしまうその性質を利用しようと、ある男は孤児となったその子を引き取った。でも男は死んで、その男の息子にその先は委ねられた」

 

「それって…」

 

「息子は、悩んだ。自身の正義の味方という願いの為に、その子を犠牲にするか。それとも、人として家族として共に生きていくか」

 

「選択を後押ししたのは、神稚児自身だった。その少女は、息子と本当の兄妹になりたいと、そう願ったんだ」

 

「間違いかもしれない。そう思いながらも、兄となった男は妹を守る事を誓った」

 

「その願いだけは、本当だったから」

 

 顔を上げ、こちらを見ていたクロの頬をスゥー、と涙が流れる。

 

「確かに何もかも失ったのかもしれない。だけどまだ、体が残っている。居場所は、これからでも作っていける。もし、本当に君に居場所が無いのなら、俺のもうひとりの妹になったって良い」

 

「だから、イリヤと話して、美遊と話して、君の家族と話して。君は、君の望みを見つけるんだ」

 

「どうして…そこまでしてくれるの…?」

 

 俺は少し照れくさくなり、ポリポリと頭を掻く。

 

「君はなんというか、その。俺の妹に、美遊に似ていたんだ。だから君だって、必ず生きられる道がある。幸せになれる」

 

 俺が微笑みかけると、クロも少しだけ笑い返す。

 

「わたしの望み…は…」

 

 目をつむり、考え込むクロ。

 

「家族が欲しい。友達が欲しい。なんの変哲もない普通の暮らしが欲しい。でも、それより。なにより…」

 

 開かれたその目には、もう涙は無かった。

 

「このまま消えたくない…!わたしはわたしとしてただ、生きていたい…!」

 

 一筋の光が少女から立ち昇り、その望みは叶えられた。

 

 

 

 

 

 後日、狙いすましたかのように帰国した彼女の母親とクロは話し、一応和解したそうだ。

 

 イリヤとも仲直り出来たようだ。本人的にはとても不服らしいが、イリヤの事を姉と認める事でその場は丸く収まったと話していた。

 

 目まぐるしく環境は変わっていったが、かくして。

 

 奇跡の少女はクロエ・フォン・アインツベルンとして、ここに生きている。

 

 それに関しては大変良い事なのだが……。

 

「お兄~~ちゃ~~ん!!魔力供給のキス~~!!」

 

「だから、それはダメだって言ってるだろ…クロ」

 

「クロッ!士郎さんはクロのお兄ちゃんじゃないでしょ!?」

 

「えー、でもそのお兄ちゃんが妹になってもいいって言ったのよ」

 

「!?、それは聞き捨てならない。本当?お兄ちゃん」

 

「はぁーー、…なんでさ」

 

 俺達の日常は、更に騒がしいものになっていくようだ。

 




補足1:クロエとの和解はかなりショートカットされました。実際、美遊兄士郎がクロエの事を知ったら放っておかないと思いますし。大活躍ですね。

補足2:クロエも美遊兄士郎にベタベタに。イリヤ世界の士郎の事は兄として受け止める事にして、美遊兄の方によくアタックしている。

補足3:クロエに痛覚共有の呪いは付与されない流れに。士郎とクロの会話後、凛はつけようとしたけど、エミヤが解析を得意としている事を士郎が説明した為、諦めた。
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