二人の“誓い”は運命を変える   作:坂本パン

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[第十九話]前任者

 あれから、時はさらに流れる。

 

 イリヤとクロがちょっと本気のドッジボールをして怪我をしたり。

 

 家の裏で新技の開発をしていたイリヤが誤って給湯器を壊してしまい、イリヤ一家がルヴィアの屋敷にお風呂を借りに来たり(こちらの世界の衛宮士郎も来ていた為、俺はずっと隠れていたが)。

 

 学校でパウンドケーキを作って料理勝負をしたらしく、美遊とクロからケーキを貰ったり。

 

 賑やかで、少しぎこちないけれど、クロとの新しい生活はちゃんと廻り初めた。

 

 彼女が居場所に悩む事は、もうないだろう。

 

 だが、平穏というのは脆く崩れ去る。

 

 カードにまつわる出来事はこれで終わりでは無かった。

 

 

 

 

 

「コンビニの水羊羹が食べたいなんて、ルヴィアも意外と庶民派な所があるんだな」

 

「うん。ルヴィアさんはちょっと変わってる」

 

 その日、ルヴィアに買い物を頼まれた俺と美遊は、外に出ていた。

 

 認識阻害の外套を貰ってから、こうして美遊ともちょこちょこ出かける事が出来ている。

 

 その時、不意にズゥンと音が鳴った気がした。

 

「今、変な音しなかったか…?」

 

「そう、かな?」

 

 音の方向は、ルヴィアの屋敷の方だった。

 

 胸騒ぎを感じ、急いで屋敷へと戻った俺達は、愕然とする。

 

 目に入ったのは、ほぼ全壊した屋敷。

 

 そして、ボロボロのイリヤとクロ。

 

「し…ろう、さん」

 

「はあ、はあ…遅いわよ、お兄ちゃん」

 

「屋敷の警告音がならない。貴方たちも関係者ですか…次から次へと…」

 

 どうゆうことなのか、この襲撃者は何者なのか。

 

 そう視線でクロに訴えかける。

 

「バゼット・フラガ・マクレミッツ。協会一線級の封印指定執行者。カード回収の、前任者ですって」

 

 なぜ、今更になって協会が…。疑問はあるが、とりあえずイリヤとクロを庇うように、俺と美遊は前に出た。

 

「クロ…少し休んだ方が良い。魔力もキツイだろ」

 

「そうさせてもらうわ…。でも気をつけて。カードの最初の二枚、黒化英霊のアーチャーとランサーを仕留めたのは彼女よ。わたしやお兄ちゃんの手の内は、もう知られているわ」

 

 それでも、黙ってこの状況を見過ごすわけにもいかない。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 相手は素手だ。それにもかかわらず、攻防はこちらの不利。

 

 斬撃は弾かれ、美遊の魔力弾は叩き潰される。

 

「確かに、貴方は手強いようだ。ですがその戦い方はもう、見飽きました」

 

 ギアをひとつ上げたように、バゼットの動きが加速する。

 

「硬化、強化、加速、相乗…!!」

 

 バゼットのグローブに刻まれたルーンらしきものが起動する。

 

 先程までの攻撃でもこちらを上回っているのだ。

 

 このままでは防げない。

 

 そう判断した俺は干将を防御に、莫耶に壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を発動し、爆発により少しでも攻撃を逸らす。

 

 それでも心臓を抉るような勢いの貫き手は干将を砕き、英霊化した俺の肋骨にヒビを入れた。

 

「グッ…ハッ…!!」

 

「「お兄ちゃんっ!!」」

 

 吹き飛ばされた俺を見て、三人が駆け寄ってくる。

 

「防ぎましたか。ですが、貴方にもう次の手は無い」

 

 そう冷酷に告げるバゼット。多少スーツは焦げているが、それでも彼女は健在だ。

 

 立ち塞がるように美遊が俺の前に立つ。

 

 その肩は、怒りで震えていた。

 

「…ゆる、さない。お兄ちゃんをこれ以上傷つけるのは、許さないッ!!」

 

 それは初めて見た、美遊の激昂であった。

 

「ライダー!夢幻召喚(インストール)!!!」

 

 夢幻召喚(インストール)と同時に天馬が現れ、そして魔力が高まっていく。

 

「美遊様…!いけません美遊様!!彼女相手に宝具は…」

 

「この瞬間を…待っていた…」

 

 そう呟いたバゼットの手に呼び寄せられたそれは、剣だった。

 

 無意識の内に解析し、その力に体がぶるりと震える。

 

 あれを使われれば、美遊が死ぬ。

 

 思考する暇なく、俺は投影を開始した。

 

 ハリボテでは駄目だ。あの剣の因果に割り込む必要がある。

 

 剣の正体は、逆行剣フラガラック。敵の切り札より後に発動しながら、時間をさかのぼり切り札発動前の敵の心臓を貫く魔剣。

 

 限りなくその魔剣の真に迫った投影が必要だ。

 

 基本骨子、解明。

 構成材質、解明。

 

 基本骨子、変更。

 対象補足、変更。

 

「「後より出でて先に断つもの(アンサラー)―――」」

 

斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!!!」

偽・斬り抉る戦神の剣(フラガラックⅡ)!!!」

 

 バゼットが放ったフラガめがけ、投影した俺のフラガが走る。そして、フラガが放たれたという事実がまるで無かったかのように、二本の剣は地面に転がり、ベキンと折れた。

 

「!!?、フラガを、相殺したッ!?」

 

 驚いているバゼットを尻目に、美遊の方へ向き直る。完全に頭に血が昇ってるようだ。天馬の突進は止まっていない。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――!!」

騎英の手綱(ベルレフォーン)―――!!」

 

 花弁の盾と、天馬が激しくぶつかり眩しく光る。

 

 光が晴れた頃には、天馬はもうそこにはいなかった。

 

「お、お兄ちゃん…、どうして…」

 

 美遊の言葉を引き継ぐように、バゼットが口を開く。

 

「…どうして私を助けたのです。聞く限り、貴方はその少女の兄なのでしょう?それを殺そうとした相手を助ける必要など無い。貴方は先の天馬の一撃を回避すれば、それで良かったはずだ」

 

「あんたの為じゃない。兄が妹を、美遊を人殺しになんて、させるわけないだろう」

 

 予想外の答えだったのか、バゼット少し目を見開いた。そして、構えを解き腕を下ろした。

 

「それで、どうするのです。どうやったのかは知りませんが、貴方はフラガラックを無効化できる。しかし、より消耗しているのはそちらの方でしょう。このまま戦闘を続行すれば、私が勝つ」

 

「待ちなさい、バゼット」

 

 そこに颯爽と現れたのは、遠坂だった。

 

「遠坂…無事だったのか」

 

 なんとかね、そう言った彼女はバゼットと交渉に入る。

 

 遠坂は、バゼットのカードを全て回収するという任務を逆手に取った。

 

 地脈を探ることができるのは冬木の管理者たる遠坂の者だけ。

 

 そしてその地脈図に写り込んだ、八枚目のカードの存在。

 

「八枚目――」

 

 それが決定打となり、バゼットは協会に指示を仰ぐために一時休戦の必要ありと判断。この場を立ち去った。

 

 交渉により、奪われた六枚のカードのうち三枚は返してもらえた。

 

 しかし、俺と美遊の表情は明るくない。

 

「八枚目のカード…それって、お兄ちゃん」

 

「ああ。聖杯起動時に用いたクラスカードは七枚だけ。八枚目なんて…ない」

 

 あるとするならば。

 

 あの聖杯戦争で使われるはずだった、本来のクラスカード・アーチャー。

 

 英雄王ギルガメッシュのカードしかない。

 

「………」

 

 底知れぬ不安感は、増していくばかりだった。

 




補足1:ブロークン・ファンタズムってカラドボルグでばかり使ってるイメージありますけど、原理的には干将莫耶でも発動可能ですよね?多分。

補足2:フラガラックの因果に割り込むのが可能なのかは、実際は作者もよく分かってないです。一応、本作では士郎が投影したフラガは、変質させる事で使用者を殺すのではなく、武器(バゼットのフラガ)に対して因果逆転を発動させてフラガを相殺したっていう設定にしています。
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