二人の“誓い”は運命を変える   作:坂本パン

20 / 28
 ようやっと、本編とはちょっと違う展開を作れそう。


[第二十話]変わりゆく体

 地獄を見た。

 

 終わりゆく人類を救う為に、多くの者を殺した。

 

 地獄を見た。

 

 人々を救いたかったはずなのに、守るべき人々に裏切られ続けた。

 

 地獄を見た。

 

 全ての人を救うなんて、そんな事が不可能なのは分かっていたはずなのに。

 

 ――ああ、またこの夢か。

 

 俺はただ、その地獄の光景を見ていた。

 

 そして最後には、いつも同じ場所にたどり着く。

 

 無数の剣が突き立てられた、一面の荒野。

 

 そしてその、剣の丘にたったひとり立つ男。

 

 赤い外套を纏う、白髪の男。肌は浅黒い。

 

 俺は一歩、また一歩と剣の丘を登り、外套の男に近づく。

 

 砂嵐が舞い、目を閉じる。

 

 目を開いた時、剣の丘に立っているのは、俺自身だった。

 

 

 

 

 

「………はぁ…」

 

 目覚めた俺は、思わずため息をついた。

 

 最近、同じ夢ばかりを見る。原因はなんとなく分かっている。

 

 体を起こし、視線を下へ降ろす。

 

 そこには、まだらに浅黒い色へと染まりつつある俺の腕があった。

 

 自分が至るかもしれなかった未来。(エミヤ)の技能と魔術回路を先取りし、その起源すらも譲り受けた。

 

 この身は戦うごとに、英霊エミヤに置換(侵食)されていってるのだ。

 

「それで、私達に相談に来たってわけね」

 

「賢明な判断ですわね。こんな現象、秘密にされていてはたまったものではないですわ」

 

 俺はこの現象に関して、遠坂とルヴィアに打ち明けることにした。

 

 黙っていたところで、自身で解決できるものでも無いと思ったからだ。

 

「人間の英霊化…。英霊の力を人の身で行使するなんて元来無茶があるわ。そんなことをすれば、体が耐えられず内側から崩壊しかねない」

 

「ええ…。好意的に考えれば、シェロの侵食現象は一種の防衛機能とも言えますわね」

 

「けど、侵食されきってしまえばそれは士郎では無くなってしまう…」

 

「本来は、クラスカードがその侵食を防ぐ役割も担っているのでしょうね」

 

 凄い。二人は次々と推論を重ねていく。

 

 だが、一番重要な本題。この侵食を防ぐ為にはどうしたら良いのかと話を振ると、二人共苦い顔をする。

 

「一番簡単な方法は、もう力を使わないことですわね」

 

 ルヴィアがそう言う。だが、その選択肢はまだ受け入れられない。俺はまだ戦えるし、戦いはおそらくまだ終わらないからだ。

 

 首を振る俺を見て、遠坂はため息をついた。

 

「はぁ…そうね。士郎がそう簡単に諦めるような人間じゃないのは分かってたわよ」

 

 遠坂が椅子から勢いよく立ち上がる。

 

「だから、出来ることをしましょう。手をこまねいて待ってるだけなんて、性に合わないわ」

 

 侵食を防ぐ有効な手立ては分からない。だから、遠坂が言うにはまず、自己の意識をエミヤとの接続から保護するらしい。

 

「洗脳や催眠の一種に近いかしらね。士郎が繋がっているエミヤと、一時的に意識のコンタクトを図る。相手が乗ってくれば、会話でもなんでも良いわ、彼と自分は違う自我だと士郎が強く意識できれば取り敢えず成功ね。ようは、上塗りされないように境界線を作れれば良いのよ」

 

 成功するかも分からないし、どれくらい効果があるかも分からないがやってみる価値は充分あるだろう。

 

 俺の額に、遠坂が手を当てた。

 

「いくわ…抵抗しないでよ?」

 

 俺の意識はやがて、遠のいていった。

 

 

 

 

 

「なんの用かね…わざわざ私と繋がりに来るとは」

 

 気が付くと、あの剣の丘にまた俺は来ていた。そして、目の前には夢で出てきた男。

 

 英霊エミヤがいる。

 

「なんの用っていうか、なんだろうな…俺はあんたに会うことが出来たら、ありがとうって、礼を言いたかったんだと思う。あの時、俺に力を貸してくれてありがとうって…本当に」

 

 その言葉を聞いた彼は、心底嫌そうな顔をした。

 

「その顔で真面目に礼を言われると、気味が悪いな」

 

「なっ!?こっちは、本気でそう思って…」

 

 クククッと彼は笑った。本当にこんな奴が俺の可能性のひとつなのか、疑いたくなるところだ。

 

「いや、済まない。今の言葉は撤回しよう。そうだな、礼は素直に受け取ろう」

 

「…ったく」

 

 そのあと俺達は、ポツポツと何点かだけ会話を交わした。

 

 彼の質問はシンプルなものだけだった。

 

 家族は?

 兄妹は?

 親友は?

 

 俺がそれらを話すと、彼はそろそろ時間だな、と背中を見せる。

 

「ひとつ、助言してやろう。致命的な侵食を防ぎたいのなら、固有結界だけは使うな。小手先を弄しても、それだけは誤魔化しが効かない。英霊エミヤの最たるものだからな」

 

 そして彼は背を向けたまま、最後にこう言い残した。

 

「衛宮士郎、妹の手を取ったのならば、離すなよ。…守り通してみせろ」

 

「言われるまでもない」

 

「ハッ…そうか。ではな、衛宮士郎」

 

 

 

 

 

「気が付いた?士郎。調子は…どう?」

 

 意識が戻ると、不安そうにソワソワとしている遠坂とルヴィアが目の前にいた。

 

「なんとなくだけど、前より調子は良い気がする。ありがとう、遠坂、ルヴィア」

 

 既存の魔術回路と、置き換えられたエミヤの魔術回路の境目の淀みのようなものが少なくなった気がする。さらに、体に感じる負担も前より軽くなっている。

 

 一応、様子見で休んだ方がいいと言われた為、俺は自室に戻ることにした。

 

 部屋を出る直前、遠坂がぼそりと言う。

 

「いつまでも、イリヤ達に隠し続けることは出来ないわよ」

 

「ああ、分かってるさ」

 

 力を使う限り、侵食は止まらない。いずれはこの肌の色も隠しきれないほどに広がるだろう。

 

 それでもまだ、俺は立ち止まれない。

 

 自身が掴んだ、大切なものを守るために。

 

 




補足1:遠坂が使った魔術は、アンジェリカがイリヤに使った忘却と洗脳の魔術がモチーフ。凛がそういった魔術を使えるかは分かりませんが、割となんでも出来るのが凛なので使えるという設定にしています。

補足2:ちょっとエミヤが士郎に対して優しすぎるかなと思いましたが、座に繋がってすらいない屑カードで召還に応じたんだから、美遊兄士郎には彼も思うところがあったんじゃないでしょうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。