二人の“誓い”は運命を変える   作:坂本パン

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 次話のタイトルは、おそらく皆さんの予想通りでしょう。


[第二十二話]クロエと過ごした一日

 ~クロエside~

 

「ちよっとイリヤ…昨日、お兄ちゃんと一日中一緒にいたってホント?」

 

 そうイリヤにわたしは問いただした。

 

「士郎さんと?うん…そうだけど」

 

「なんで言わないのよ~抜け駆けするつもり?」

 

「抜け駆けって…なによ。わたしはただ特訓してただけだよ!」

 

 その時は知らなかったけど、イリヤは自分の弱さを気にして特訓してたそうだ。今にして思えば、ちょっと悪いこと言ったわね。

 

「それでも、黙っちゃいられないわよ」

 

「もう…人の気も知らないで。そんなに言うなら、クロも士郎さんと出かければ良いじゃない」

 

「……、それもそうね」

 

 思い立ったが吉日、わたしは早速お兄ちゃんをデートに誘うことにした。イリヤは余計なことを言っちゃったなーみたいな顔をしていたが、時既に遅し。

 

 二日連続でお仕事を休ませるのも不味いかと思って、一応ルヴィアにはちゃんと聞いた。

 

「むしろ、シェロは少し働き過ぎですわ。無理矢理にでも、連れ出してやりなさい」

 

 返ってきたのは、肯定だった。ルヴィアは止めるかと思ったんだけどね。

 

 そんなこんなで、わたしとお兄ちゃんは新都へ出かけることになった。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、次はあっちに行こっ!」

 

「はしゃぎすぎて転ぶなよ、クロ」

 

「そんなヘマはしないわよ、わたしはね」

 

 新都にやってきたわたしたちは、色んなお店をまわって歩いた。

 

 しばらく経って、だいぶ歩いたのでちょっと休憩することにした。

 

 ベンチで座って待っていると、お兄ちゃんも隣に座る。

 

「ほら、アイスクリーム」

 

 お兄ちゃんが露店で買ってきたアイスクリームを受けとる。

 

「ありがとっ。うーん、美味しい!」

 

 …なんだかこういうのって、嬉しいなぁ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん…」

 

「ん?どうした、クロ」

 

「わたし、こんな風に過ごせる日が来るなんて思わなかった。美味しいもの食べたり、オシャレしたり。ホントに生きてるみたいに」

 

 イリヤの奥底に封印されていたわたしは、わたしが掴むはずだった生活をただずっと眺めていた。

 

 人並みな生活。家族がいて、日常があって、目的がある。

 

 そんな、普通の人間にとっては当たり前のもの。わたしにはそれが途方もなく遠く、羨ましかった。

 

 わたしはここにいるよと、叫んでみてもその声は誰にも届かない。

 

 ママにも、パパにも、セラにもリズにもお兄ちゃんにも。そこにいるのはわたしだったはずなのに。

 

 誰かにわたしを見つけて欲しかった。

 

 だから本当に、あなたに出会えてよかった。

 

 居場所をもらった。家族として、受け入れてもらえた。

 

 イリヤじゃなくて、わたし(クロエ)として生きていける道をもらった。

 

「だから、お兄ちゃんには感謝してる。それに、イリヤにもね。本人には言えないけど、存在してるのが奇跡みたいな、しょせん影法師に過ぎないわたしを受け入れてくれたの」

 

 わたしが何者なのかを知ったイリヤは、泣きながらこう言ったんだ。

 

「わたしが負うはずだった苦しみを背負わせて、ごめんなさい。そして、ありがとう」って。

 

 イリヤの事も憎かったけど、あの子はわたしなのだ。最初から、拒絶なんてできるわけなかったのだ。

 

「でも…、わたしはいつか消える存在よ。存在しているだけで魔力を消費する。魔力供給を受けなければ、この世に存在すらできない」

 

「クロ…」

 

 手に入れた日常は、暖かくて、幸せで。

 

 だからそれがこぼれ落ちるのが、たまらなく嫌なんだ。

 

「元々、わたしは無かったものにされたイリヤそのものだったから、…死んでも構わないって思ってたわ。でも、こんなに幸せだとわたし、消えるその時を想像するのがコワイわ…」

 

 こんな毎日がずっと続くなんて、楽観的に考えることはわたしにはどうしても出来なかった。

 

 こうやって生きていられることを喜ぶ反面、心の隅には常に消失する恐怖を抱えている。

 

 ダメだな…楽しい一日にしようと思ってたのに、お兄ちゃんにはつい弱音を吐いちゃう。

 

「自分が消えるかもしれない、その不安は確かに怖いよな…」

 

「え…?」

 

 そう言い、お兄ちゃんはわたしの手をギュッと握る。

 

 握られた手を離さないように、わたしは無意識のうちにその手を握りかえしていた。

 

 あったかい、なぁ…。

 

「でも、俺がいる。イリヤがいる、みんながいる。その不安を、君がひとりで抱え込まなくてもいいんだよ、クロ」

 

 お兄ちゃんの言葉は、わたしの不安を軽くしてくれた。

 

 本当に、こういう所がお兄ちゃんなんだよなぁ…。

 

「うん、そうね。なんだか、わたしらしくなかったわね。次のお店に行きましょ!お兄ちゃん!」

 

「まだ見てまわるのか…」

 

 呆れているお兄ちゃんの手を引いて歩き出す。

 

「当たり前でしょ、女の子の買い物は長いのよ」

 

「はいはい。わかりましたよ、お嬢様」

 

 二人で笑い合いながら、わたしは幸せを噛み締めた。

 

 

 

 

 

 この時のわたしは、だから見落としていた。

 

 どうしてお兄ちゃんが、自分が消える感覚は怖いということに同意(・・)したのかと…。

 

 それをわたしが知るのは、もっと後のことになる。

 

 ~クロエside out~

 




補足1:クロは精神的にはイリヤより大人だと思いますが、本作では一番の理解者である士郎にはつい甘えて、弱音を吐いてしまう一面もあります。
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