筆が全く乗らずモチベが下がっていたのですが、次の小説を書きたいので完結目指してぼちぼち書いていきます。
[第二十六話]交わり始める世界線
~言峰side~
衛宮兄妹が平行世界へと旅立ち、三ヶ月が経った。
時間は何をしてようと過ぎ去るものだ。少なくとも、私はまだ生きてこの冬木の地にいる。
冬木教会と店は既に拠点としては利用していない。エインズワースに知られている以上、工房としてはあまり意味が無い。
今はこの冬木に存在する家を何軒か購入し、簡易的な結界を施し身を隠している。
あのクレーターが発生した事件以来、この街から移住した人間は多い。安値で空き家を買い付けるのは簡単だった。
だが時折、赤毛の少女…彼女の独り言によればベアトリスという名の少女が私を見つけては攻撃を仕掛けてくる。
そのたびに逃走を繰り返し、逃げ切ってはいるがその代償にこの街の至る所は穴だらけだ。既に人は少ないとはいえ、戦いの度に念のため人避けの結界とそれに付随して事後処理を行わなければならないのは非常に面倒くさい。
しかし、逆を言えば襲撃は三ヶ月の間その少女のみ。その襲撃の回数もたまたま見かけたから攻撃した、というような低い頻度のものだ。
工房がある地では、エインズワースは規格外の魔術を行使する。元より、本気で私を殺すつもりならば私の位置を特定が出来ないわけがない。
エインズワース家自体には、本腰を入れてこちらの始末をする気はない。いや、大した脅威ではないと見逃されているだけなのかもしれない。
監視活動は続けているが、あれからのエインズワースは不気味な程に動きが無い。さしもの彼らも平行世界に逃げられては手も足も出ないか。それとも、手段を探しているのか…。
そしてまだ他にも、懸念点は三つ程ある。
一つは、最近発生している謎の失踪事件。
眉唾ものだとあまり大きな騒ぎにはなっていないが、突如として人間がいなくなる事件が噂になっている。
失踪した人間がいたであろう場所には、魔力の残滓も確認されている。調査のたびにベアトリスに見つかる危険を負うのも面倒だが、仕方あるまい。
2つ目は、保護した間桐桜が姿をくらませた事だ。最期に姿を見たのは、聖杯戦争が決着をむかえ衛宮士郎がこの世界から旅立った事を伝えた時。当面の危険は去った為、自己管理に関しては放任していた。
衛宮士郎の忘れ形見とも言える女だ。失踪事件の折に無事を確認しようと捜したのだが、その姿を再び見る事は無かった。
そして、最期の一つ。ごく最近現れた頭痛の種。
「また来たよ、おじさん。お腹減ったから、何か作ってよ」
幾つもある隠れ家のひとつに戻れば、どこから侵入したのか知らないが不意に現れる金髪の少年。
「ギルガメッシュ…。隠れ家に侵入するのはまだ良いが、結界を人知れず破壊するのは止めてくれともう何回言った?」
「その代わりに僕の
「まったく…」
最初はただの少年かとも思ったが、程無くしてこいつが人間でないことには気が付いた。
何より、最初に出会った時にお代は払うから料理を作ってよ、と虚空から黄金を取り出したのだ。
それは見間違えようもなく、私が一度戦ったアーチャーのカードの宝具だった。
なぜ少年の姿なのかは知らないが、本人の言によればカードを
敵意も感じなかった為、事を荒立てる必要もなかろうとその時は大人しく料理を振る舞った。
それがいけなかったのか、ここらで食べられる物の中ではおじさんの料理が一番マシだと、ギルガメッシュは殆ど毎日私の隠れ家に来て料理を食している。
我が者顔で居間に居座る少年を尻目に、キッチンへと立つ。
「なんだかんだ準備をしてくれる辺り、おじさんも結構優しいよね」
「昼飯にありつきたければ、少し静かにしていたまえ」
しばらくの間はお互いに無言で、調理の音のみがキッチンに響く。
気が付けば、ギルガメッシュは居間ではなくキッチンの椅子に腰掛けていた。
「ねぇ、君は何時まで続けるのかな?」
「…何の話だ」
尋ねられた質問の意図が掴めずに、そう聞き返す。
「おじさんじゃない、
ピタリと腕の動きが止まる。……どこまで知っているのか、この少年は。
「皮肉なものだよね。おじさんも君も、幸せになりたかっただけなのに。ただ、普通になりたいが為に苦しんできたのにね」
震える手をもう片方の手で抑え付け、精神を落ち着けようとする。
まさか今更になり、その部分に踏み込んでくる者がいるとは思わなかった。
「君は幸運だった。いや、不幸だったとも言えるのかな?君の中にある魂は確かにひとつなのに、抱えている苦悩や業は二人分。その鍛え抜かれた肉体と精神があるからこそ、君は自己矛盾に耐えられている」
少年は興味深そうにしげしげとこちらを観察していたが、やがてフーッと息を吐き出した。
「思ったより動揺しないんだね」
こちらの反応の薄さに、どこか退屈そうな様子だ。
人の本性を暴き面白がるとは、大した英霊だ。
「私がどのような者か、それは既に嫌と言うほど自覚している。それに……託された思いがあるのでな」
私は既に…理解者を必要としていない。
今はもう、この身に受けた生も、自我も、運命も否定する気は無い。
「ふーん。良縁があったんだね。なんだ、僕の出る幕でもなかったって訳か」
調理に戻ろうかと思った矢先、ズズゥンと外から音が聞こえてきた。
ニコニコと笑顔のギルガメッシュを放っておき、外へ出る準備をする。
「あれ、僕の昼食は?もしかして怒ったの?」
「様子を見てくる。お前が出てくると逆に面倒だ。ここに居ろ」
音のした方へ様子を見に行くと、破壊の痕跡が続いている。
公園から始まり、道路の電柱は折られ車もグシャグシャに潰れている。
その連なる破壊は、恐らくはベアトリスによるものだろう。力任せで、事後処理なぞ頭にも無さそうな所がいかにもそれらしい。
だが、彼女に襲われていた者はどこか?
まさか私をあぶり出そうと、一般人を攻撃したのかと周囲を確認する。
だがベアトリスの姿は見えなかった。
「どど、どうしよう。食べ物なんてどこに行ったら…」
近くにいたのは二人の女のみ。周囲に他の人間の気配は無い。となると、このあうあうと狼狽えている少女と体操服を着た地面に伏している女が襲われてた者なのだろう。
ベアトリスに襲われたのならば、エインズワースの手の者ではないのは明らか。それに、空腹で動けないというのならば、このまま餓死するまで放置するのも寝覚めが悪いというものだろう。
そう判断した私は、声をかけた。
「どうした?行き倒れか?」
食事を提供しようと言えば、渡りに船とばかりに少女は私に付いてきた。特に何をしようという気もさらさら私には無いが、驚くべき警戒心の無さだ。
それに気を失っていた為、今私が背負っている体操服の女。衣服を見る限り攻撃を食らっているはずなのだが、体を改めてもどこにも負傷の痕が無い。
この二人が何者なのか。どこから来たのか。疑問は絶えぬが、ひとまずは飯を食わせてやろう。
やがて隠れ家へとたどり着き、居間の扉を開ける。
「遅いよ、おじさん」
少し腹を立てた様子のギルガメッシュ。
「あ、あなた…どうしてここにッ!」
そのギルガメッシュを見た少女は警戒するように、シュバッと私の背後に隠れた。
「知り合いか、ギルガメッシュ」
ギルガメッシュに目を向ければ、あぁ君か…と彼は小さく呟いた。
「まぁ知り合いと言えばそうかな?ねぇ、イリヤスフィール」
微妙な表情をする少女と、感慨深そうに少女を眺めるギルガメッシュ。
緊迫した空気の中、グーーーと間の抜けた音が無遠慮に響く。
「本当に…おなかがせつないです…」
全員が音の鳴った方、体操服の女を見る。
「何やら禍根があるのは分かったが、取り敢えず昼飯の準備に取り掛かっても良いかね?」
反論を上げるものは、その場にはいなかった。
「何かいいにおいがするです!!」
「ふむ…目覚めたのなら、そのまま待っていたまえ。じきにできる」
ガバリと起き上がった女。体操服の胸の部分には田中と大きく書いてある。
そうして少し経ち、出来上がった料理を皆の前に並べる。
「……赤い。あの…これはいったい…」
料理に箸をつけようとしたようだが、少女の手が止まる。
「麻婆ラーメンだが?」
私の自信作のひとつだ。味に関しては、衛宮士郎にも振る舞い、納得するまで付き合わせたレシピなので問題は何もない。
「私特製の、辛そうで辛くない無駄に赤いラー油をふんだんに使った一品だ。味わうといい」
「ホントに無駄に赤いだけで、おじさんの料理は美味しいよ」
既にギルガメッシュと田中は料理に口をつけている。
「見た目どおりの辛さにすると大抵の者に不評だったのでな。私のものは本当に辛いが、食うか…?」
「え、遠慮しておきます…」
おずおずと料理を口に運んだ少女だったが、食した瞬間にニパーッと笑顔になった。
「美味しいッ!ちょっと辛いけど、あったまる…」
黙々と全員が完食した後、少女が手を上げて発言する。
「あの…ちょっと聞きたいことがあるんですが」
少女がした幾つかの質問は、この街に住んでいるのならば当たり前に知っている事ばかりだった。
「エインズワース家はどこにありますか?」
この質問から察するに、やはりこの少女はこちらの世界の人間らしい。
「なぜエインズワースに関わろうとしているのかは知らんが、立ち入らざる世界だと私は思うがね。特に君のような歳の少女が見るには、あれはあまりに醜悪なものだ」
そう制止の声をかけてみたが、どうやら意思は固いようだ。
「それでも、わたしは救うって決めたから!絶対に、美遊の事を諦めたりなんかしない」
呟いたその言葉を私は聞き逃さなかった。
「美遊…もしや君も、朔月美遊を求める者かね?」
「朔月?、わたしの友達は、衛宮美遊だけど…」
そうか、
「私の名は言峰綺礼。衛宮の兄妹とは多少の関係があってね」
どうやら、この少女はある程度信用しても良さそうだ。そう判断した私は、衛宮兄妹との五年間の話やこの街で起こった聖杯戦争、エインズワースの情報など多岐に渡って話した。
話を聞いた少女は、色々とありがとうございましたと頭を下げ、席から立ち上がった。
「あの…協力してくれたりはしないんですか?だって、士郎さんと美遊とは五年間も一緒に暮らしてたんでしょう?」
遠慮がちにではあるが、そう聞かれた。
「…無理だな。私が与えれた役割に背こうと、もはやそれを咎める人間もいない。だが、これ以上立ち入れば命の保証が無い。私とて、無為に命を散らすわけにもいかないのでな」
少女は何かを言いかけたが、開きかけた口をギュッと閉じた。
「…分かった。わたし達だけで、なんとかする」
「止めはしない。だが、無策で行けば死ぬことになるぞ」
彼女の意思は尊重する。だが本音を言えば、彼女は行くべきでは無い。敵は、あまり強大な存在なのだ。
「僕も行くよ。エインズワースの工房には僕も用がある」
静観していたギルガメッシュが、立ち上がりそう言う。
「ハイハイ!田中も行きますです!」
……少々、心配が残るメンバーではあるが、取り敢えず玄関まで三人を見送る。
「改めてではあるが、名前を教えてもらえないかな?」
「イリヤ、…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」
「確かにその名前、覚えておこう」
エインズワースの工房へと向かった少女達の背中を見送った私は、彼女らの無事を願わずにはいられなかった。
~言峰side out~