~士郎side~
切嗣は眠るように息を引き取った。
それから少し後、俺が魔術の鍛錬をしていたある日の夜。
「シロウ、玄関に人が来てる」
土蔵に美遊がやってきて、そう言った。
「こんな時間に?」
もうすでに夜も遅い。こんな時間に人が来るなんて普通には考えにくい。
切嗣の言葉が脳裏をよぎる。
僕たちのような奇跡を奪い取ろうとする者
そんな者が他にもいるという事。
切嗣のいないこの状況で訪れる者なんて嫌な予感しかしない。
屋敷の警報は鳴っていないから、今のところ敵意が無い事は分かるが…。
念の為メジャーをポケットに入れて、俺は立ち上がった。
まだ強化魔術も上手く使いこなせていないが、無いよりもマシだろう。
「美遊、屋敷に戻ってろ。俺が呼ぶまで、出てきちゃ駄目だぞ」
「うん…」
玄関先に立っていたのは神父の司祭服を来た人物だった。
けど正直、どこか胡散臭さを否めない。
俺は余計に警戒を強め話し掛けた。
「あんた、誰だ」
「私の名前は言峰綺礼。夜分遅くに失礼する」
「こんな時間になんの用だ」
俺はポケットの中身を握りしめる。
「そう邪険にするな。私は警告に来ただけだ。魔術の鍛錬をするのも結構だが、屋敷の結界と隠蔽はもっと強力にするべきだろう。
「お前、やっぱり!」
とっさにエセ神父から、距離を取りメジャーに強化魔術を施した。
不安だったが、一発で成功してくれて良かった…。
「確かに私は朔月美遊の存在は認知しているが、それを奪い取ろうとする者では無い。ただの監視役だ」
「そんな事、信じられるか!」
男は、分かりやすくため息をついた。
「その気になれば、未熟な魔術師である君を殺める事などたやすい。私と敵対した所で君に利点は無い。それに工房の結界も反応していないのならば、敵意が無い事は分かるのではないかね?」
「それは…そうだが」
それから俺たちはいくつか問答を交わし、本当にこの神父に敵意や悪意のたぐいが無い事が分かった。
彼から協会の存在や、俺が切嗣から聞いた事の無い様々な魔術の知識や鍛錬の方法を聞かされた。
それに切嗣の亡くなった今、学校や家の権利に関して俺の年齢では出来ない事の代理人や名義人にもなってくれた。
時には、言峰の経営してるというラーメン屋に行ったりもした。
「なぁ、言峰」
「なんだ、少年」
「なんでここには麻婆しか無いんだ!ラーメン屋じゃなかったのか!」
「私の趣味だが」
「世話になってる礼に、美遊にお土産でも買ってこうかと思ったけど…こんなん食わせられないぞ!麻婆しか見えないぞ」
「麺なぞ飾りだ」
「あーもう!あんたにも料理を教えるから、もっとマトモな物を作ってくれ」
それからも言峰との付き合いは続き、彼の料理の癖はだいぶマシになった。
美遊と俺、そして言峰。しばらくは平和に時が過ぎた。
気が付けば、街を飲み込んだ闇の発生、そして美遊を引き取ってから5年が過ぎた。
だが、俺は迷っていた。
美遊はずいぶんと人間らしくなった。なってしまった。
切嗣のように道具として扱うこともできず、かと言って完全に人の子として育てることもできず。
俺は、どうしたいのだろう。
どうすれば良いのだろうか…?
~士郎side out~