衛宮士郎との邂逅から5年。
彼の生活と成長の助力をしたのは、全くの善意というわけでは無い。確かに、個人的な心情もあるがそれ以上に衛宮士郎の存在の仕方には多いに興味を持ったからだ。
養父、衛宮切嗣に救われた子供。そして、その正義に憧れた少年は抜け殻の心を、正義を真似る事で埋めた。
そして、そんな正義の味方が万能の願望機をどのように使うのか。全てを救いたいと願った男を受け継いだ者が、全を救う為に一を切り捨てるのだろうか?
私の心には、そんな仄暗い愉悦に似た期待があった。
どうやら、衛宮士郎は朔月美遊を人間として、家族として扱う事に決めたようだ。
だが、彼女を隠匿するのではなく、人間に堕とすのならば聖杯を求めるエインズワース家との対立は避けられないだろう。
第5次聖杯戦争の時も近いかもしれない。
時は止まらない。
「…気がついたか」
朔月美遊はエインズワースに連れていかれ、その際に負傷した衛宮士郎を協会に連れていき治療した。
「言峰か…」
「あまり動かない方が良い。痛みが酷くなるぞ」
治療は完璧だが、傷が無かった事になるわけでは無い。痛みに顔を歪める少年を留めた。
「治療には感謝してる。だが、俺はもう行かないと…」
「どこへ行こうと言うのかな。敵の情報も、工房の場所も分からぬ状態ではそれすらままならないだろう」
この街に存在する魔術師。私は、彼にそういった事は教えていない。彼がその工房の事など知る由もない。
「あんた、ジュリアンが美遊を狙ってたのを知っていたのか?」
俯き、彼はそう呟いた。
「私の監視対象には、あの少年も含まれる。当然、彼らが願望機を望んでいる事も承知だ」
私がそれを伝えなかった事。彼は、どこかそれが心外であったかのように苦い顔をした。
「ならなんで教えてくれなかったんだ!」
衛宮士郎にしては珍しく、怒気を振りまいている。もっともな感情ではあるだろう。
私は衛宮士郎と朔月美遊、二人の親の真似事はしてきた。だが、本当の親というわけでも無い。そのつもりも無い。
「言っただろう、私はただの監視役に過ぎないと。君の敵になりうる存在だからと、理由も無くおいそれと魔術師の情報を流すのは公平ではなかろう。私が朔月美遊の所在を知りながらも、エインズワースを含むどこにも報告していないのと同じ事だ」
「俺は、どうしたら良いんだ」
これを伝えれば、彼は間違いなく戦いの中に身を置くことになるだろう。だが、私は期待した。その先にある未来を、正義と悪逆の相反する者の行く末を。
「君には、識る権利が与えられた。もう関係者も同然だからな。朔月美遊の所在、エインズワースの工房並びにその目的、そして恐らくもうすぐ起きるであろう聖杯戦争。その全てを教えよう」
少年には酷な選択だろう。しかし、立ち向かわなければ何も得ることは出来ない。
「さぁ、選択せよ。衛宮士郎。傍観か敵対か、…いずれにせよ君の背から正義は崩れ落ちるだろう」
補足1:言峰は士郎に鍛練をつけていたので、体術・魔術・治療の技術などはあまり衰えていないです。
補足2:漫画版だと美遊を保護してから聖杯戦争の時までに何年経過したか、明確な記載はたしか無かったはずですが、映画だと5年後となっていたのでそちらに合わせています。