二人の“誓い”は運命を変える   作:坂本パン

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 基本的に本編と変わらぬ部分は省略気味になるため、本編未読の方には読みにくいかと思いますが、ご容赦ください。


[第五話]借り物の聖杯戦争

 ~士郎side~

 

 美遊が連れ去られてから、一ヶ月。

 俺はまだ、クレーターの中央に存在するエインズワースの工房。その結界を破れないままでいた。

 

「言峰に貰った黒鍵も効果無し、か」

 

 言峰は情報や道具は融通してくれているが、直接的な支援はしてくれない。それは彼の立場上出来ないらしい。

 

「美遊…今頃なにを…」

 

 胸の内に焦燥を抱えながら、帰宅する。無茶をし続けても、身体が持たない…。

 その時、声がかけられた。

 

「先輩?」

 

「桜、どうしてここに…?」

 

 俺の、最後の日常である彼女がいた。

 

 

 

 

 

「に…逃げろ桜…ッ!!」

 

 あぁ。どうしてこんな事になったのか。

 間桐桜。彼女も聖杯戦争の関係者で。だけれど、俺を護ろうと立ち上がった。

 俺は、それすらも今失おうとしている。

 

「セン…パイ…」

 

 彼女の心臓をめがけて、奴の腕が伸びる。

 

 このままでは間に合わない。

 身体強化を限定的、素早く両脚に発動する。

 

 桜の手を取り、その体を引く。だが、アサシンの攻撃を回避する程に距離を取る時間は無い。

 

 その時、桜の手に握られたカード。曰く、どの英霊にも繋がっていない屑カード。

 俺はそのカードから、なぜか目を離せなかった。

 

 そして脳裏には、場違いにもいつか言峰と交わした会話がフラッシュバックしていた

 

 

 

 

 

「なぁ、言峰には家族はいないのか?」

 

 それはふとした瞬間に思い浮かんだ疑問だった。彼から、その手の話題を聞いたことが無かったからだ。

 

「妻と娘がいた…それだけだ」

 

 そう答えた彼の顔は、それまでに見たことが無いほどに苦々しいものだった。

 

「いた、って今はどうなったんだよ?」

 

 言峰が自身の事を語る機会は少なかった。俺は、彼がどうしてそこまで苦しそうなのか、その訳を知りたいと思った。

 

「妻は、…私が殺した。娘はまだ赤子の頃に教会に預けたのでな、もうずっと顔も見ていない」

 

 場を沈黙が満たす。

 

「どうした?私を非難しないのかね、正義の味方」

 

 そう言いニヒルな笑みを浮かべる彼は、罰せられるのを待つ罪人のように厳かだった。

 思えばこの時に初めて、俺は言峰綺礼という人間の闇を見たのかもしれない。

 

「俺は…非難なんてしないさ。少なくとも、何年も一緒に過ごしてる俺からは、あんたは理由もなくそんな事をするような人間には見えない」

 

「……フッ、そうか」

 

 淡白な反応とは裏腹に、彼はそう言われた事が少し嬉しそうだった。

 

「少年よ。助けた者が女なら殺すな。愛した者が命を落とす瞬間は、中々に応えるぞ」

 

「…肝に、銘じておくよ」

 

 

 

 

 

 何だって良い。誰だって良い。力を貸せ。その代わりに俺の全部を差し出す。

 

 だから、これは祈りではなく。もっと独善的で、矮小で。

 

 ただ、自分の愛した大切な者たちを守りたい。

 

 そんな自分に向けた、『誓い』だ。

 

 そうして、俺は(英霊エミヤ)と繋がった。

 

 桜に襲い来るアサシンの触手を切り払う。

 

 俺の手には、干将・莫耶。分かち難い、一対の夫婦剣。それが握られていた。

 

 この力の使い方が分かる。(エミヤ)の戦い方が流れ込んでくる。

 

「どう…して?先輩のそのカードは、どの英霊にも確かに繋がっていなかったのに」

 

「繋げやがったのか。隠し持っていたんだな、何か英霊に由来する遺物を…」

 

 アサシンは、ずるいじゃないかと何度も何度もブツブツと呻いている。

 

「お前さ、暗殺者向いてないよ」

 

「オマエモボクヲォ…バカニスルノカァァァァァ!!!!!」

 

 冷静さを欠いた男が、襲い来る。

 だが、俺のすべきことはすでに定まった。

 

投影開始(トレース・オン)--!」

 

 

 

 

 

 アサシンとは思えない巨躯になった男へと次々に干将・莫耶を突き刺す。

 

「弾けろ」

 

 突き刺した刃を巨大化(オーバーエッジ)し、中の本体への致命傷を狙う。

 

「ギィガァァァァアア!!!!!」

 

 だが、まだ吠えるだけの体力があるようだ。タフなやつだ。

 

「いいだろう、それなら…消し飛ばしてやる。跡形もなく」

 

 (エミヤ)が使い慣れた弓と矢を投影し、番える。

 そうして引き絞った時。

 

「先輩っ!」

 

 桜が俺を呼んだ。

 俺はその瞬間、番えた矢を下ろした。

 別に、今更桜の兄を殺す事を躊躇したわけではない。ただ、矢を穿つ必要が無くなっただけだ。

 

「桜…ありがとう」

 

 そうして、下ろした矢を後ろへと突き出した。

 

「ナンで…!?ドウシて…気付いた…!?」

 

 ズブリと、アサシンの腹を矢が貫いていた。

 

 簡単な事だ。桜が俺を呼んだ時、俺は桜の目を見た。彼女の瞳に映る、アサシンの姿を。

 

 気配は感じなかった。だが、アーチャーたるエミヤの視力(千里眼)をもってすれば、その程度が捉えられない訳は無かった。

 

 実際の所、桜が声をかけてくれなければ地に伏せていたのは俺の方だったかもしれない。

 

 そして、桜の兄だった哀れな人形に俺はとどめを刺した。

 

 

 

 

 

「先輩…」

 

 不安そうに瞳を揺らす彼女に、伸ばしかけた手を下ろす。

 剣を握る選択をした俺が、彼女の手を取る事はもう出来ない。

 俺は戦いに身を置く事にしたのだ。桜と生きる道よりも、(美遊)を助ける道を選んだのだ。

 

「桜、俺は戦うよ。この身が尽きる最後まで。そして、絶対に美遊を助ける」

 

「どうか、お気をつけて…」

 

「…あぁ」

 涙を流す彼女を背に、俺は歩きだした。

 

「待ってますから…ずっと!だから、きっと美遊ちゃんと一緒に帰ってきてくださいね!」

 

 美遊を助けたその先。桜と一緒に未来を歩める時は来るのだろうか。

 その時、俺は…。

 

「必ず戻ってくる、桜…」

 

 ~士郎side out~




補足1;黒鍵は無料で譲ってもらった。守銭奴っぷりはかなり薄くなっている。

補足2;言峰が事前に聖杯戦争の事を伝えていた事による、精神的ショックの低減。より実践的な魔術の使用法の鍛錬。そしてクラウディアの話をした事などが合わさった結果、桜の生存に繋がった感じです。
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