りゅうおうのおしごと!八銀SS特別編 作:しおり@活字は飲み物
『りゅうおうのおしごと!』13巻読了後推奨。
14巻以降と一部設定が異なります。
「はい、これ」
「おお……ついに俺にもカノジョからの本命チョコを貰える日が!!」
「この鈍感クズ!!」
「なぜに罵倒!?」
「本命、チョコなら……毎年……」
「え〜? 去年とか一昨年とかにくれてたのも? もしかして本命チョコだったとか? その時から俺のことが好」
「う、うるさい!! 去年だって小童とかJSとかが手作りしたチョコをたくさん貰ってニヤニヤしてたくせに!!」
「去年は楽しかったな……JS研のみんなが研究会ついでにうちのキッチンで手作りチョコを作ってくれて……」
「そんなにロリチョコが懐かしいなら、私のなんていらないわね? 返して」
「ごめんなさい!! 欲しい! 銀子ちゃんからのチョコが世界で一番欲しい!!」
「そ、そこまで言うなら……仕方ないわね……♡」
「ふぅ……危なかった……ところで、この包みの細長い感じは……既製品、ですよね?」
「な、なによ! 悪い!? 手作りじゃなくてガッカリ、彼女なのに手抜きだとでも言いたいわけ!?」
「いえ、その逆です……」
「あ?」
「何でもありません!! とりゃ!」
「ひわ!? ちょっ……急に抱きつかないでよ……」
「分かってるよ。チョコを手作りするどころか、買いにいく暇すらないことくらい。取材やイベント出演で自由時間なんてほとんどないのに、わざわざ用意してくれたんでしょ?」
「うん……やっと自由時間ができても、その頃にはもうデパートとかは閉まっちゃってるし、通販で探そうとしてもたくさんありすぎてどれがいいか悩んでるうちに、毎回寝落ちしちゃって……」
「そこは無理しないで寝てよ」
「そしたらね? 八一にぴったりなのが、東京の将棋会館の売店に売ってたから……」
「東京の将棋会館ってこんな本格的な包装のチョコまで売るようになったの!? しかも俺にぴったりのチョコ?」
「ふふふ……早く開けてみて」
「じゃあ、ほら、後ろ向いて? 一緒に見られるように」
「ん。ひゃっ!? く、首くすぐったい!!」
「だって、銀子ちゃんをこうやって抱っこできるのも久しぶりだし、触れる時にしっかり補給しとかないと……」
「あっ! んんっ……もう! 早く開けてよ!」
「へいへい。じゃあ、開けますか…………お? 黒い箱に金色の将棋の駒のマーク?」
「ふふん。箱からして八一向きでしょ?」
「かなり上品な感じだな。箱、開けるよ?」
「うん」
「あ、なんか紙が入ってる。説明書? ショーギ、デ、チョコ……?」
「ショーギ・デ・ショコラ。フランス語よ。老舗和菓子屋さんが作ってくれたのを将棋連盟が推薦品として認定したんだって」
「へ〜すごい! 説明書も気になるけど、後でしっかり読むとして……どんなチョコなんだ?」
「ほら、はやくはやく〜」
「はいはい。いっせーのーでっ! …………うわ……凄い。彫りの入った本格的な将棋の駒の形してるチョコだ……」
「凄いよね。王将に飛車、角、金、銀、桂馬に香車と歩まで! 八種類の駒全部あるんだよ」
「一枚一枚、大きさも違うね」
「それぞれ原寸大で作ったんだって」
「色さえ気にしなければ、盤に並んでたら気づかずに将棋指し始めちゃいそうだね」
「それで、終盤になってきたら、なんか甘い匂いがするなって?」
「そうそう。指の熱で溶けてベトベトになったりしてさ」
「金か銀か分からなくなってくるのね。やってみたいね。将棋盤が汚れちゃうから出来ないけど」
「これは、食べるのもったいないくらいだね」
「チョコは賞味期限長いけど、せっかくなんだから、ちゃんと食べてよ?」
「そうだね。せっかくだし……ほら、これ持って」
「銀将?」
「俺は……飛車ね」
「え? あっ……」
「こっち向いてよ。食べさせあいっこ、しよう?」
「う、うん……」
「「あ〜ん……♡」」
fin.
14巻読了後の衝撃緩和リハビリみたいな感じの掌編です。
「Shogi de Chocolat」は一心堂本舗さんから冬季限定で発売されているチョコレートです。2021年はあいにく発売見送りになってしまったそうですが、八銀にぴったりのチョコレートだと思ったので、題材にさせて頂きました。
いつか、実際に食べてみたいです。
「Shogi de Chocolat」
https://www.isshin-do.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000000075