夕暮れ時、王都を太陽が赤く染める。
これから夜に差し掛かる。悪魔の時間だ。
そのせいか、街中は閑散としている。
「人気のなさは、それだけじゃないわ」
「というと?」
「王都から多くの人が悪魔に連れ去られたのよ」
「なるほどねぇ」
聞けば、今の王都は悪魔騒ぎの最中に行方不明になった住人が大勢いて、その捜索を並行して行っているらしい。
その状況で悪魔が未だに居残っている。
まさしく明日は我が身、というわけだ。
そのせいもあって、人気がまるでない。それなりの大通りであるにもかかわらず。
本来ならこれから稼ぎ時であろう酒場ですら閉まっている。
ゴーストタウンか、滅んだ王朝か。
そういった言葉を彷彿とさせる。
「ちっ。嫌いな空気だ」
「そうピリピリするなよイビルアイ。夜中閉まるからってんで、昼間から旨い酒が飲めるようになったんだ。悪いことばかりじゃねえだろ」
「そう能天気になれるのはお前くらいだ。ガガーラン」
気分が悪そうにイビルアイが悪態をつく。
それに対して、茶々を入れるガガーラン。
街の雰囲気は兎も角、蒼の薔薇はいつも通りの平常運転だ。
「敵影ナシ」
「とりあえず今のところは異常なし」
「出てこないねぇ」
索敵担当のティア・ティナ姉妹とウサ耳をはやしたKが告げる。
これから悪魔が頻出する夜だといえども、太陽が残っている今ではなかなか出てこない。
もはや、王都観光と変わらない始末だ。
そうこうしていると、広場に出る。
曰く、漆黒とかいう王国のアダマンタイト級冒険者とイビルアイがヤルダバオトとその部下と戦った場所らしい。
確かに、未だに破壊の跡が残っている。
「あ、やべ」
バッと振り返ったKがそう呟く。
どういうことかと蒼の薔薇が聞く前に異変が起こる。
広場を中心に薄暗い半球状の結界が張られる。
「おいおい! どういうことだよ!」
「嵌められた」
「嵌められたぁ? ティアとティナもか!? あの2人の探知を潜り抜けるなんて並じゃねえぞ!?」
「……油断はしてなかった」
「意識の外からやられた」
そういって、ティアが指をさす。
その方向には、結界を張ったと思われる術者がいた。
ただし、悪魔じゃない。悪魔ではなく、禍々しい水晶のようなものを持っていること以外は普通の格好の人間の男だ。
「悪魔を警戒しているところに、人間の術者にやられた」
「俺も人間が来るとは思わなかったな」
「なるほどね。なんにせよ、今までにいなかった相手だわ。黒幕か、そうじゃなくても」
「手がかりってわけだ!」
その言葉に返事をするように、辺りから悪魔が寄ってくる。
それだけじゃない。
薄暗い魔法陣が辺り一面に現れ、そこから複数の悪魔が召喚される。
蒼の薔薇とKのいる広場は、あっという間に悪魔の大群で埋め尽くされた。
「おいおい。やべえ数だな」
「完全に囲まれてる」
冷や汗をかきながら、つぶやく。
「まあ問題ない」
そうであるにもかかわらずKは涼しい顔をしている。
「実は俺はね。――殲滅戦の方が得意だったりする」
そういうと、魔法陣を展開する。
「〈魔法三重化・
第4位階魔法〈
連鎖するように球状に広がる爆破が複数起こる。その魔法が三重で唱えられると、一気に悪魔がその爆破に巻き込まれて灰になっていく。
「負けてられんな。〈
イビルアイがそう叫ぶと、巨大な魔法陣から大量の水晶の散弾が飛び散る。
散弾の1発1発が致命的な威力を誇り、それが広範囲にばらまかれる。
「さすが」
「そうね。イビルアイとKを中心にして、悪魔を殲滅! 一点突破で術者を捕縛するわ!」
「了解!」
ガガーランが一閃した戦鎚が
それを開戦の狼煙にするかのように、悪魔が押し寄せる。
「させん! 〈
「これで通行止めっと! 〈
押し寄せてくる悪魔を押し返すように水晶と炎の壁が現れる。
水晶の壁は、現れる際に悪魔を下から突き上げ、後続の悪魔の波を押しとどめる。
炎の壁は、現れるときにいた悪魔、後から激突した悪魔、その区別なく灰にする。
「イビルアイ! 前の敵を頼むわ! 俺は後続を焼く!」
「承知した! 〈
「〈
水晶で出来た騎士槍が悪魔を貫いて、術者への道を作る。
蒼の薔薇へと殺到する悪魔を、炎の結界が炭化させていく。
悪魔は、蒼の薔薇に近づけずにまんまと一点突破の図が出来上がった。
「行くわ! ガガーラン先行して! ティアとティナはそのサポート! 傷は私が癒すわ!」
「はいよ!」
「了解」
ガガーランができた一本道を、武器を振り回しながら進む。
まるで戦車だ。目の前に出てきた悪魔は、すべて1撃でぺしゃんこにつぶされている。
脇から攻撃は、疾風のような速度でティアとティナの2人に斬り付けられて、そのまま絶命して終わる。
よしんば攻撃が当たっても、次の瞬間には治っている。
「よしよし。あれは問題なくイケるな」
「当たり前だろう。あれでもアダマンタイトだ。お膳立てをしたうえ、あの程度では止められん。――だが、念のためだ。後続は潰すぞ」
「わかってるって」
そう言い合う
彼らの背後に、炎と水晶の壁が立つ。
「大体ザコだけど、何体か後ろに行かせたらヤバそうなのがいるな」
「どれだ」
「カエルっぽい
苦悶の顔が浮かび上がった巨大カエル、悍ましい二足歩行のカマキリ、触手のようなものがうごめいている案山子のような袋の塊。
ラキュース達では、倒せなくはないが時間がかかる相手ばかりだ。
「では、それは私がやる」
「俺がやってもいいけど」
「舐めるな。それに、適材適所だ。範囲攻撃の多いお前が数をやれ。〈
「はいはい」
大きく魔法で飛び上がったイビルアイは、先ほどKが言っていた悪魔を視界に入れる。
カエル、カマキリ、案山子。
「まずは
脳天に水晶の短剣が叩き込まれる。
カエルと人を融合させたような禍々しい悪魔が、その攻撃に対して大きな悲鳴を上げる。
だが、倒すにはまだ足りない。
「やはり、この程度では倒れんか! ならば〈
無数の弾丸がその体を貫く。
穴だらけとなった
「ちっ! 〈
その攻撃が水晶の楯によって防がれる。
「蟲というより悪魔に近いのだったな。〈
巨大な騎士槍が
カマキリの討伐が終わり、案山子の方へと目を向けるとちょうど炎の波に飲み込まれる瞬間だった。
蒼の薔薇の中ではKの代名詞の様な認識をされている魔法〈
それが三体暴れまわっている。
「いやさすが。やっぱり蒼の薔薇の中でも頭1つ抜けてんね」
「貴様こそ。素行さえ正せばすぐにでもアダマンタイトになれるだろうに」
「そこまで立場にこだわりがあるわけじゃないしね」
「……求めぬものに神は微笑むか。皮肉なものだ」
「そんな御大層なもんじゃないと思うけど」
さてあちらは、と目を向ける。
人間の術者の方向だ。
「超技!
「ぐぅ!?」
「どうした!?」
ラキュースの声が聞こえた瞬間、胸を抑えてKが膝をつく。
「どこかやられたのか!?」
「い、いや……ラキュースの……」
「ラキュース? キリネイラムか! 確かにラキュースは暗黒の精神に肉体を乗っ取られると言っていたが、他人にも危険があるのか!?」
「ォォォォオオオオ……ッ!」
絞り出すような、唸るような、そんな苦悶の声を上げる。
それを見て、イビルアイがさらに焦りを見せる。
「だ、大丈夫。大丈夫だから」
「大丈夫なわけあるか!」
「いや! ほんと! 過去の傷がちょっとうずいて……」
「過去の?」
「13とか14の頃のっていうか……」
「……今は大丈夫なのか」
「当たり前だろっ!?」
「そ、そうか」
大きくあたりの強い声で否定をされる。
イビルアイは(……確か、トレジャーハンターをしていた過去があると言っていた。幼いころの傷だ。その頃から危険な仕事をしなければならなかった生まれに言及されたと思い、自尊心を傷つけてしまったか。これは私の配慮が足りなかった)と1人で考えていた。
「動くな」
「鬼ボス、確保した」
一方、ティアとティナが術者を確保していた。
ティアが首筋に、ティナが心臓に、短刀の切っ先を向ける形で確保している。
普通であれば、動かない。動かない――はずが、表情1つ変えずに手に持っている水晶を掲げる。
「お、おぉぉぉォォォォオオオオオアアアアアァァァァガガッガガガガガッ!」
突然、男が奇声を上げ始める。
奇声を上げた男の体から黒いオーラが噴き出す。
「ティア! ティナ!」
「くっ!」
ティアとティナが飛びのいて、その男から回避する。
「ごめん鬼ボス。確保しきれなかった」
「構わないわ。そんなことより、あれはどうなっているの」
男の体が黒いもやに覆い隠されると、足元に広がった黒い沼のような影に飲み込まれていく。
男が飲み込まれた場所から、異形の悪魔が浮上してくる。
黒い山羊の頭。肉感的な女性の体にそれが乗っかっている。
手は、体つきに反して異様にデカく、枯れているように細長い。
その目は、赤い光が怪しく灯っている。
第2ラウンドが始まる。
レベル:20~25くらい
概要
二足歩行のカマキリ(グロ)といった見た目の悪魔。蟲っぽいけど悪魔。
鎌のような両刃の曲剣が腕と連結し、200度くらい動くため、見た目よりよっぽどリーチが長い。物理攻撃が高く、防御能力に乏しい。
転移後の世界では、倒すにはミスリルは欲しいくらいの強さ。
蒼の薔薇なら1人でも倒せる。2人なら危な気なくやれる。
レベル:22~30
概要
触手が詰まった麻袋の案山子といった風貌。結構キモイ。
攻撃手段は、体当たりくらいだが、触手で行動を阻害してきたり、常時スーパーアーマー状態で全く怯まない。嫌がらせに特化したような奴。
転移後の世界だと、1匹でも結構ヤバい。できれば、アダマンタイトがベスト。
イビルアイだと相性悪かったかも。