オーバーロード外伝 炎の魔術師   作:ヤギ3

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夜の王都のパトロール

「どうした。今日は随分と上機嫌だな」

「ん? そうか?」

 とある民家。

 王国最強の戦士長であるガゼフ・ストロノーフの家は、その肩書に反して実に質素だった。

 

「そうさ。いつもより旨そうに酒を飲んでいるじゃないか」

 アルコールと食べ物を敷き詰めたテーブル。

 それを挟んでガゼフの向かい側にいるのは、これまた王国最強の1人。

 ブレイン・アングラウス。

 かつてガゼフと互角に戦い、その後も貪欲に力を求めてきた剣士だ。

 

 ブレインがガゼフの家に転がり込んできたのは、ここ最近。

 友と呼べるほど、親交を重ねたのも最近の話だ。

 そんな付き合いがまだまだ浅い男にも、見破られるほどガゼフの顔はいつも以上に緩んでいる。

 

「いやなに。最近は夜まで働き詰めでようやくしっかりと休めるんだ。酒も旨いというモノだ」

「ああ、そういえば最近は帰ってくるのも遅いな」

「例の件でな」

「……悪魔か」

 悪魔の残党が未だに潜む王都。

 当然、残党狩りをしなくてはならないが、奴らが動き出すのは決まって夜中だ。

 それまでは、いったいどこに身を潜めているかわかったものではない。

 そのため、討伐隊も悪魔が顔を出す夜中に呼び出されることも多い。

 

「それにしても、深夜まで残業か。王国戦士長ってのも損な役回りだな」

「そんなことはないさ。王のため、民のため、国のため、この身の力を振るえるんだ。こんなにやりがいのある仕事もない」

「真面目だな、お前は」

 くつくつと笑うブレイン。

 それにつられるように、ガゼフも笑いだす。

 

「その真面目なお前が、この時間に酒を飲んでいるんだ。事態は収まりつつあるのか?」

「どうだろうな」

「どうだろうなって」

 困惑しながら、ワインの入った杯を持ち上げて抗議をする。

 それなら招集がかかるかもしれないのに、飲んで大丈夫か?

 そう言いたいのだろう。

 

「実際のところ、どれほどの悪魔がこの王都に潜んでいるのか正確なところは分からん。だが、王都には頼りになる冒険者もまた多い。彼らの力も借りているんだ。問題はないさ」

「……蒼の薔薇か」

 ブレインの脳裏には、複数の女性の姿が浮かぶ。

 確かに、一騎当千の力を持った冒険者たち。

 特にイビルアイとラキュースといったか。

 方や凄まじい魔法の使い手、方や希少な蘇生魔法の使い手。

 この2人がチームを組んでいるのだ。

 王国どころか、大陸でも屈指の冒険者チームだろう。

 

 他にも、ティアとティナという暗殺者の姉妹。

 あそこまで隠形に優れた存在もいない。

 敵対したと考えると、1番恐ろしいのは、あの暗殺者たちだ。

 

 それともう1人。

 見た目に反して面倒見がいいガガーランも思い出す。

 クライム君が食われていなければいいがな、と心の中で笑う。

 

「彼女たちもそうだ。しかし、他にも強い冒険者はいる。実際、他国から来たミスリル級の冒険者と会ってきたところだ」

「ほう……。ミスリルか」

「ああ。だが、ただのミスリル級冒険者と思うなよ? 俺の目の前で第5位階の魔法を使ったんだ」

「……第5位階ってミスリルどころかオリハルコン――いや、英雄に届くレベルじゃないか。もう酔ったのか?」

「冗談なんかじゃないさ」

「お前が言うなら、そうなんだろうな」

 まったく、この世は強者で溢れているな、と内心毒づきながらワインを煽る。

 

「ああ、今も彼らが戦ってくれている。おかげで俺も少し楽ができているわけだ」

 そう言いながら、ブレインに対して酒瓶を向け、空になった杯にワインをなみなみと注ぐ。

「おいおい。俺を潰す気か?」

「潰れるほど飲めるんだ。いいことじゃないか。それに今晩はとことん付き合えるからな」

「ふっ。それもそうだな。お前の言う冒険者たちに乾杯でもしようか」

「それはいい」

 そういって、カンッと杯と杯をぶつけ合わせる。

 

 

 

 ガゼフとブレインが食事をしている頃。

 ちょうど、その冒険者たちが悪魔の掃討のためパトロールをしていた。

 メンバーは、蒼の薔薇の5人とKの計6人だ。

 

「まだ警戒されてる?」

「そういうわけじゃないわよ」

 この面子に、未だに警戒されているのかと勘繰ったKだが、笑顔のラキュースはそれを否定する。

 

「単純な話よ。仕事とはいえ、失礼な態度をとってしまったからお詫びに仕事を手伝うことにしたのよ」

「あぁーなるほどね。助かる」

「……それにしても」

 上から下まで、まじまじと見られる。

 姿は先ほどの組合にいたときから特に変わらない。

 短めの赤地金糸のローブ。

 前にかかる金の縄には、複数の装飾がある。

 おそらく、その装飾は後からつけたものだ。ネックレスのようなものを編み込んでいる。

 そして、一際目立つものが2つ。

 

「お前、魔法詠唱者(マジックキャスター)だろう。それはなんだ」

「それって?」

「そのバカでかい曲刀だ」

 大きく反った片刃の大曲刀。

 刀身は、広く分厚く、その上1メートルに届こうかというサイズだ。

 横にも縦にもデカい。

 

「確かに、魔法詠唱者(マジックキャスター)がそんなに大きな剣を使うところは鬼ボス以外に見たことがない」

「とはいえ、鬼リーダーは神官戦士。噂を聞いた限り純粋な魔法詠唱者(マジックキャスター)のはず」

「マジックアイテム作りが趣味でね。これもその1つなんだわ」

 と、背後の剣を親指で指さす。

 確かに自作のマジックアイテムの噂があったと、ティア・ティナの2人は納得する。

 

「あと、純粋な魔法詠唱者(マジックキャスター)ってわけでもない。もとはトレジャーハンターでな」

「ほぉ。トレジャーハンター」

 これには、ガガーランが食いついた。

 

「てことは、お宝を探しに冒険でもしてたのか」

「全くその通りだな。西へ東へ、冒険の旅ってやつ。俺の故郷は、この大陸じゃなくてね。遺跡みたいなものが結構あってそこからいろいろ持ち帰っていた。俺の魔法も持ち帰ったものの1つだ」

 

「魔法が、か?」

「正確には、魔法が使えるようになる道具だな。その影響で炎の魔法が使えるようになったんだが、魔法の矢(マジック・アロー)のような基本中の基本の魔法が使えないんだよ。魔法詠唱者(マジックキャスター)として魔法を学んでいた過去があったわけでもないしな」

「ほう。では、その頭の上のものはなんだ」

 と、イビルアイが指さす先、Kの頭上には長細い耳のようなものがあった。

 

「これ? いいだろ」

「うるさい」

 自慢するように手を添えるが、一蹴された。

 

「確かになんだそれ? お前、新種のエルフだったのか?」

「……いや、ウサギの耳でしょどう見ても」

「じゃあ、ラビットマンの新種」

「……一応、人間だよ」

「〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉という第1位階の魔法だ」

 話に聞いたことがあるだけだが、と付け加えながら魔法の1種だと説明するイビルアイ。

 

「そ。俺は、炎の魔法しか使えない。魔法の矢(マジック・アロー)も使えないし、飛行もできない。ただ、例外として唯一『兎さん魔法』だけ使える」

「……なにその変な名前の魔法?」

「ウサギがモチーフの3つの魔法だ。気合で覚えた。お前たちも使ってみないか? バニーはいいぞ、いいぞバニーは」

 と、ラキュースとイビルアイに向けて声をかけるK。

 すごく嫌な顔をされる。

 

「何か嫌な視線を感じるから遠慮するわ」

「同じく断る」

「えー」

 談笑しながら夜の王都を練り歩く一行。

 その陰から、獣のような唸り声が聞こえる。

 

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