某ロリ女王がなんか言ってくる。
え? ビーストマンが人間を食べるために襲うなら、人間がビーストマンを食べても良いじゃない?
何言ってんの、馬鹿じゃないの。
帝国のヒゲ爺が迫ってくる。
新しい……新常識……進化……魔法……魔法の文明開化の音がするー!
全裸で地平線へと駆けていく。
あいつは二度と帰ってこなくていい。
あの優男は出てくるな。
飼い犬に手どころか、飼い魔獣に頭からモリモリやられていいと思います。
さぁ、気が付けばロリもいない。
危険は去った。
え? ラキュースさん?
その手の茶碗わ?
まって、むり、たべれない、むりだって、それたべられないって…………っ!
「食べられないってばァ!」
と、そこでKが目を覚ました。
ここはリ・エスティーゼ王国の王都。
そこにある、高くもなく安くもなくといった値段の宿屋、その1室。
悪魔退治を中心に仕事を行うことにしたので王都に宿をとることにしたのだが、いい宿はないかと蒼の薔薇に尋ねて教えて貰った宿の1つだ。
名状しがたき悪夢の原因は、意外にも堅かったベッド故か、はたまた薄い枕か。
ともかく、噴き出している嫌な汗を手ぬぐいで拭って、仕事着である赤地金糸のローブを羽織る。
窓を見ると、もう日が高い。
悪魔退治は夜中が基本であるため、気を付けていないと昼までぐっすりと眠ってしまう。
やっちゃったなァと思いながら、扉を出て、1階まで下りる。
「あ、こんにちは! お寝坊ですね!」
元気のいい看板娘が明るく話しかけてくる。
宿を決めた際の決まり手が彼女だった。
「昨日も仕事の終わりが夜遅くてねー」
「大変ですねぇ。でも、ぐっすり眠れたようで良かったです! あんなに古典的な寝言まで聞いちゃいましたもの」
「……古典的?」
「よっぽど楽しい夢を見られたんですね!」
「ゆめ……夢……う、うぅ、うぅぅぅぅぅぅぅ!」
「ご、ごめんなさい! わざとじゃないんです!」
早く宿を出よう。
「ハァ……。枕とか、売ってないかなぁ?」
今日も今日とて悪魔狩り。
というより、冒険者の身分を明かしながらパトロールだ。
金級以上の冒険者に対する依頼で、冒険者のタグを分かりやすくぶら下げながら、王都を隅から隅まで歩き回る依頼だ。
高位の冒険者が街中をパトロールしていることをアピールすることで、王都住民の心労と不満を軽減すると同時に外に出なくなることによる経済の停滞を予防するためなのだとか。
よく考えられているなァ。
そんなわけでKが現在いるのは、王都の中でも盛況な店が多い大通りだ。
Kの趣味は、マジックアイテムの製作と収集。
というよりコレクション趣味が高じて製作までするようになったというべきだ。
というわけで、趣味であるマジックアイテムの物色も兼ねて大通りにいる。
後は、どうにも寝つきが悪いので、枕とかないかなという思いも少量ある。
「K様!」
様ァ!? と最大限困惑しながら振り返る。
そこには、同年代と思わしき凡庸な戦士の少年クライムと見覚えのない刀を腰にした男が立っていた。
「奇遇ですね」
「うん奇遇だねぇ。あと、様はやめない? こう……背中がむず痒いっていうか……」
「そうでしょうか。では、何とお呼びすれば」
「普通で良いよ普通で」
「では、Kさん……と」
「まだちょっと堅いけど……まあ及第点かな。それにしようクライム」
「わかりましたKさん」
「それで、横のお連れはどちら様? 置いてけぼりじゃない?」
「少しな。クライム君、良ければ紹介してくれないか」
「あ、申し訳ありませんブレインさん。こちらは冒険者のKさん。そして、こちらの方がブレイン・アングラウスさんです」
クライムがブレイン・アングラウスと紹介する。
Kは、その名前に少し聞き覚えがあった。
「あぁ、なんだっけその名前。戦士長とやり合ったとか何とか」
「……昔の話さ。ブレインだ。お前が噂の赤熱だな。聞いているぞ、なかなか破天荒な奴だとな」
「冒険者のK。そうでもないと思うけど」
「確かに。こうして対面してみると、堅苦しいのが嫌いな気安い奴って感じだな」
「だよねぇ」
なぜか会うやつみんな危険人物扱いする、とブツブツ言いながら非難がましい声を上げるK。
そんなKを見ながら、やっぱり言うほど危ない奴じゃないなと感じるブレインとクライム。
「それで今、噂の冒険者は何をしているんだ?」
「趣味を兼ねた仕事」
「というと、ラナー様が冒険者組合に依頼しているパトロールですね」
「あ、アレ王女主体でやってんだ。あの依頼、よく考えられているよなぁ。頭いいと思うわ」
「はい! ラナー様こそ王国の尊き光であると考えています!」
「……あー」
「クライム君はラナー王女の側付きの騎士でね。主君のことを褒められて嬉しいのさ」
「なるほど」
「あ……も、申し訳ありません!」
「やーいいよ。忠義に厚い騎士は褒められるべきだし」
「だ、そうだ。良かったなクライム君」
「ありがとうございます!」
「……体育会系ぇ」
本物の騎士の熱量というか、忠義の厚さというか、熱さというか、そういうモノに圧倒されながらも、各々会話を楽しんでいる。
その時だった。
ガシャーン!
と、何かがぶつかる様な音と、馬の鳴き声が聞こえてきたのは。
「なんだ?」
「行きましょう!」
「ああ、そうだな」
現場に急行して、人垣をかき分けた先にあったのは、馬車と倒れた女性。
倒れている女性は、決して少なくない出血をしている。
その女性の側では、子供が泣いている。
状況から理解できる。
あの女性は、あの子供をかばってあの馬車に轢かれたのだ、と。
「おい!」
「大丈夫か!」
駆け付けた3人が抱き上げた女性は、頭から出血、右手左足が歪な曲がり方をしており、呼吸音もおかしい。
おそらく肋骨も折れている。
改めて確認するまでもなく、重症。
「これはひどい……。いま治癒のポーションを!」
「ダメだ。この状態ならのどに詰まらせて窒息する」
「ではどうすれば!」
「ポーションはそのまま準備しとけ。〈
緑の魔法陣が出現する。
すると、明らかに出血の量が減り、手足も正常に戻る。
呼吸音もある程度落ち着いてきた。
「すごいな。回復魔法まで使えるのか」
「本当なら使えない。コレクションの力だよ。第2位階が使える奴が使えば〈
そういって見せるのは、首から下げているネックレス。
緑の宝玉を女性が抱きかかえているような、見事な意匠の装飾だ。
効果は〈
ただし、どんなジャンルの魔法でもよいが、第2位階の魔法を使えるもの出なければ使えず、普通よりも多くの魔力を消費する。
「とはいえ、使えると便利なんで普段から持ち歩いているんだよ」
「それに救われたわけだ。不幸中の幸いというやつだな」
「専門ってわけじゃないんで完璧に治るかは分からん。念のためポーションはそのまま用意していてくれクライム」
「はい!」
「よかったな坊主。助かったぞ」
そういって、クライムは青い水薬を片手に緊張した顔で待機。
ブレインは泣いていた子供を撫でて安心させていた。
「ようやく、静かになったか」
その声が聞こえてきたのは、馬車からだった。
よく見れば、その馬車にはきらびやかな装飾と一際目立つ紋章が掲げられていた。
おそらく――というより十中八九、貴族だろう。
貴族の家紋以外に、あんなに派手に主張した紋章を他に知らない。
「子どもが泣きわめいてウルサイと言ったら……。全く平民とは斯くも耳障りな声しか出せんのか」
「あぁ?」
馬車から降りてきたのは、神経質そうな細身の男だ。
その男に対するKの声には隠し切れない怒りがある。
「ふん。平民風情が不敬にも我が道を塞ぎおって。おかげで馬車に異常がないか確認に手間がかかった。それもキーキーと猿のような声で邪魔をしおって」
「……あの貴族様があの親子がいるところに突っ込んだんじゃないか」
「なにか! 不敬な言葉を吐いた平民がいたか!」
「…………」
威圧的な貴族の声に、集まった民衆たちは委縮する。
「貴方は……ッ!」
「うん? ああ、貴様は確かラナー様の側付きか。貴様がその猿を黙らせたのか。その忠節大義である。私は王城へ急ぐ故、それを片付けておけ」
「事故を起こした相手に対して、謝罪の1つもないのですか!」
「口を慎め、犬風情がッ!」
貴族がクライムの言葉に突然、激昂する。
「猿に言葉をかける貴人などいるはずも無かろうが! 私は貴族派閥の中枢ハックルバール伯爵家の当主である! 貴様の発言1つで主である王女の立場が危うくなると思えッ!」
「なっ……!」
あまりの発言に言葉を無くす。
心の中では言い返すべきである、と考えている。
しかし、彼の発言。
自身の主であるラナー王女の立場は他の王子や貴族派閥と比べて、盤石な立場であるとは言い難い。
そうである以上、彼の忠義ゆえに言葉を詰まらせる。
「クライム君。押さえろ」
「しかし……っ!」
「言いたいことはわかる。だが、君の主のためにも貴族を敵に回すのは得策じゃない」
「ふん。ようやく理解したか。では再度命ずる。私は王城へ急ぐ故、片づけておけ」
そういって、満足気に馬車に乗り込む貴族。
「おい待てよ」
ただし、ここには忠義もなく、仕える相手もおらず、我慢の効かない人間がいる。
その男――Kの声は憤怒に染まっていた。
「ふん。平民の中でもさらに下賤な冒険者、か。声を聴くことすら汚らわしい。……出せ」
そういって、馬車が動き出す。
「待て」
怒りに染まった声も届かず、馬車がゆっくり動く。
「おい待てや」
馬車が加速し始める。
「……待ってて言ってんのが――聞こえねぇかァ!」
瞬間、深紅に染まった魔法陣が3つ現れる。
「Kさん!」
「おい! それはまずいぞ!」
「〈
制止する声も聴かず、3つの魔法陣から炎の矢が飛び出す。
2本は手綱を貫き、1本は遅れて車輪の1つを粉砕する。
当然、手綱を失い、車輪が壊れた馬車はもう動かない。
止まった馬車に拍車をかけるよう、もう1度〈
火と狙われている恐怖に平静を失った馬は、千切れた手綱のまま、どこかへと去ってしまう。
「ぐ、クソッ! なんなんだ一体!?」
「待てっつってんだろうが。耳でも腐ってんのか」
明らかに臨戦態勢の冒険者。
馬車から飛び出した貴族が見たのは、それだ。
先ほど、ラナー王女が飼っている犬といた三匹目の下賤。
それが牙をむいたのだ。
少しキリが悪いですが、この辺で。
これから問題児が問題児たる所以が出てきます。