「貴様ァ! 我ら尊き血を持つ貴族に弓を引きよって! 何をしているのかわかっているのかァ!」
「アァ!?」
恫喝に恫喝が返ってくる。
男にとって――貴族にとって、それは初めての出来事。
貴族である自分が声を張り上げれば、民は委縮し、血の尊さを思い知るもの。
そうだと信じて疑わない貴族の男はそうではない現象に、ようやく恐怖を抱き始める。
「キーキーと猿のようにうるせぇのはテメェじゃねぇか。『ごめんなさい』もママから教わらなかったのか? あァ?」
「くっ……!」
貴族の男は、逃げ出そうと王城の方へと足を向けた。
その瞬間。
「〈
炎で出来た高い壁が道を塞ぐ。
「どこ行こうってんだボケ」
「おのれ……! どこまでもコケにしよって……!」
1歩、Kが足を進めると、しゃがみ込んだ。
頭があった場所に、剣閃が走る。
「ちっ。運の良い奴め……」
「で、坊っちゃん。こいつは仕留めても良いんだよな?」
Kの後ろに立っているのは、剣を持った男。
男は、Kと貴族の間に割り込む。
明らかに貴族の男をかばう動き……護衛だ。
「ふん。ミスリル級冒険者……下賤にしては大した腕だ。だがな、我ら貴族の世にはそれを凌駕する剣士など掃いて捨てるほどおるわ! こ奴もその1人よ。ガゼフ・ストロノーフ、あの下賤を引きずり下ろすために用意したのがこの男だ! 最強と言われるのも、表舞台ではの話。裏の世界であるならば、話は別よ! あの下賤たるストロノーフを引きずり下ろし、王国最強の戦士は、貴族が飼うのだ! 王国の最強はガゼフ・ストロノーフ。あの下賤と言われる。これがどれほどの屈辱か、貴様にわかるか! 下賤の猿風情に誇り高き王国の剣を名乗られる我ら貴人の屈辱が! アレが貴族の飼い犬ならまだ許そう! だがそうではない! ただの野良に貴人の誇りが……」
「もう1度言ってやる。――うるせぇ猿はテメェだろうが」
「……貴様……許さん……許さんぞ! 下賤風情が調子に乗りよって! 遠慮はいらん!縊り殺せぇ!」
「はいよ。ったく。……そういうわけだ。ちょっくら死んでくれや」
「無理はしねぇ方が良いぞ」
「はっ。言うじゃねえか」
「無口の間違いだろ」
青筋が走る男が剣を掲げ、突進してくる。
「〈武技・縮地〉!」
武技を使ったその速度は、並ではない。――が。
「〈
炎を纏った、その俊足には敵わない。
高速での突進は、容易く躱され、代わりと言わんばかりに炎を纏った蹴りをその顔面に食らう。
武技での加速、魔法での強化。
この2つによって威力は、跳ね上がり、ゴム鞠のようにバウンドしながら貴族のもとまで吹き飛ぶ。
「ヒィ……!」
ようやく、わが身の危険を正確に理解した貴族の男。
「た、助け……」
「〈
地面で膨張した炎の余波で、細い体は容易く吹き飛ぶ。
「ゲホッ……ゴホッ……!」
「お前は、どうにも謝罪の意思に乏しいからなァ。――あの女の人と同じになるまで、存分に可愛がってやるよ」
「お、同じって……!」
「〈
地面そのものを起爆する魔法。
下から煽られるように爆風を身に受けた貴族は、再度宙を舞う。
大きく跳ね上がった体は、車輪が壊れた馬車の上に激突する。
「ごぉ……げぇ……」
頭部強打、肋骨骨折。
しかし、まだまだ手足が残っている。
「ついでだ。その誇りとかいうやつごと吹き飛ばしてやる」
右手を家紋の入った馬車へと向ける。
「〈
地面から炎が噴き出し、その炎は龍を象る。
英雄級の魔法――第5位階魔法〈
魔神すらも、灰に変え得る魔法がたった1人の無力な男に向けられる。
「灰になれ」
明らかに尋常ではない笑みを浮かべながら龍を放ち――
「お待ちください!」
「うぇ!?」
と、不意に聞こえた声に驚く。
「あっ!」
そして、その声によって狙いがそれた炎が男の目の前ぎりぎりを通過し、王都の空へと駆けのぼる。
その熱量は、凄まじく、射線上の下にあった出店や人が熱風だけでいくつも吹き飛ばされる有り様。
「はぁはぁ。……やりすぎです!」
「アレが伝説級の魔法ってやつか……とんでもないな」
息を切らしてやってきたクライムとブレインがそこにいた。
さて、辺りを見渡してみよう。
〈
〈
重傷者2人。
地獄絵図とはこのこと。
「K、俺はお前のことを危険人物に見えないと言ったな」
そういったブレインが何とも言えない微妙な笑みを向ける。
「訂正だ。お前は立派な危険人物だよ」
ムカつくやつが書きやすくて困る。