「さぁせんしたー」
「反省していないな、貴様!」
場所は移り変わり、王城の中。
王の前。
膝をつくとか、そんなこともなく頭掻きながら謝罪とも言えぬ謝罪をしていた。
ちょっと前まで「『ごめんなさい』言えないのかー」とか言っていたやつの謝罪とは思えない謝り方である。
貴族をフルボッコにしてしまったK。
事態の解決に駆り出されたのは、王国戦士長であうガゼフ・ストロノーフだった。
なにせ、つい先日強大な悪魔に襲われ、その残党が残っている状態の王都で、局地的とはいえ炎の壁を作り、伝説級の魔法をぶっ放したのだ。
てっきりヤルダバオトがもう1回来たのだと、王都中がパニックになってしまった。
なので、ガゼフ・ストロノーフがやってきたのだった。
事態を理解したガゼフがKを拘束。
そのまま、現場を見ていたクライムとブレインを伴い、招集された王と王都にいた貴族のもとへと連行。
事実を伝えた後、今に至る。
「王よ! この者を不敬罪で処断しなければ国の威信に関わりますぞ!」
「あァ? 処断だァ? やってみろやァ!」
さっきからこの調子だ。
王の御前は、いまや貴族とKの喧嘩の場と化していた。
蒼の薔薇がなぜ彼の情報を集めていたのかが、ようやく理解できたガゼフ。
いうなれば、不発弾だ。
どんなタイミングで大惨事になるかわかったものじゃない。
「Kとやらよ」
「うん?」
「なぜ、このような事件を起こしたのか貴殿の言葉で聞きたい」
「父上! そのようなことはいりませぬ。この者は、即刻処断すべきですぞ!」
リ・エスティーゼ王国国王ランポッサ3世の言葉に、第1王子であるバルブロが噛み付く。
「よい。……聞かせてくれるか」
「貴族の馬車が女性を轢いて、下賤云々と言って去ったんでムカついてブッ飛ばした」
「……なるほど」
短慮ではあれど、私怨ではない。
決して正しいとは言えぬが、そこに正義がないわけでもない。
このことが優しい国王であるランポッサ3世の判断を迷わせていた。
「どのような理由であれ、貴族に手を出すなど言語道断! 首をはねてしまえ!」
1人の貴族の発言に、そうだそうだと追随する貴族たち。
判断を鈍らせることに拍車をかけているのが、貴族たちのこの言葉だ。
民を慮って発言しているものは、彼らの中に、誰1人としていない。
「王よ! 確かに彼は過激な行動をとり、混乱を招きました!」
「クライムっ!?」
え? そっちからも攻撃食らうの?
と困惑するK。
「しかし、彼の迅速な行動で1人の女性の命が救われたことも事実です!」
「ええ。それは俺も保証しましょう。少なくとも、彼の力が無ければ良くも悪くも事態の解決はしなかった」
クライムとブレインから養護の声。
それに不快感を表すのは、王の前に並ぶ貴族たちだ。
「黙れ! ええい、平民の騎士に私兵なぞ何故この場にいるのだ」
「私が呼んだからです」
答えたのは、王の横から。
第3王女ラナー。『黄金』と言われる美貌を持った姫だ。
「王女殿下、この者達が貴方の部下であることは知っています。しかしながら、このような場にまで連れてくるとは、この場の品位が傷つきます」
「私が彼らを呼んだのには、理由があるのです」
「事件の目撃者として、ですかな?」
「それもありますが……クライム、私に話してくれたことを皆様にも聞かせてあげてくれないかしら?」
「かしこまりました、ラナー様」
嘲る様な声色の貴族の発言をやんわりといなし、これまた柔らかな口調と声でクライムに尋ねる。
「まず、我々が事態に関わったのは、件の馬車と女性との人身事故が起こった後でした」
「ふん。その事故とやらも本当にあったことなのやら……」
厭味ったらしい貴族の声。
ニヤニヤとしている貴族が、Kとブレインのにらみで一気に委縮する。
「……話を続けます。女性は肋骨が折れ、ポーションを飲ませてはかえって危険とのことでかの冒険者Kさんが回復魔法を使用しました」
「ほう。回復魔法とな」
「道具ありきっすけどね」
「その後、伯爵家の方が馬車から降りられて、こちらに声をかけた後、再度馬車に乗りこまれ……」
「ストップです。クライム、もう少し詳しく伯爵様の発言を皆様に教えて差し上げて?」
「かしこまりました。確か、私は貴族派閥の中枢の家柄だ。これ以上はラナー様の立場に差し支える……と」
これを聞いた、でっぷりと贅肉を蓄えた第2王子ザナックが話し始める。
「それはつまりこういうことか妹よ。――『私は、王家である王女を脅かす準備をしている』と発言している、と」
「なっ……! で、でたらめだ!」
貴族たちの顔色が一気に悪くなる。
これが本当であれば、それは『反逆罪』だ。
冗談であっても、口にしてはならぬ類の発言をしていることになる。
「いいえ、お兄様。私はそのようなことは何も。ただ私は、きちんと事実を精査する必要があると考えているのです。特に、冒険者の方々には。王都はいま、大変ですから」
「なるほど、一理ある。悪魔の残党どもが闊歩する状態の王都では、戦力はいくらあっても足りない。冒険者がこの地を離れぬようにするには、事実を精査した上で沙汰を言い渡す必要がある。――しかしだ、妹よ。その時間も惜しいのがこの現状なのだ」
「まぁ。それでしたら、貴族のことは貴族に聞きましょう。――レエブン候はどう思っていらっしゃるのかしら?」
レエブン候と言われた、痩身の男。
王宮内では貴族と王家の両方に取り入る蝙蝠と言われる男だ。
「そうですな。であれば、いっそのこと、この者に恩赦を与えられてはいかがでしょうか」
「恩赦ですか」
恩赦。
罪を犯した者を王家が無罪もしくは減刑を言い渡す行為だ。
リ・エスティーゼ王国において恩赦は、貴族を保護するための制度なのだったのだが、もはやその原型が無くなってきているが故の裏技だ。
「我々貴族は反逆罪などと痛くもない腹を探られることもなく、王都から冒険者が流出するような事態になることもない。そのうえで、この者に罪を問うことができますので」
「それは素晴らしい考えですね! では、恩赦の内容はどうしましょう?」
「ラナーが決めるといい。恩赦のきっかけは、ラナーだからな」
ザナックの含みのある言い方に、クライムは不快感をその顔に滲ませる。
しかし、渦中のラナーは特に何も感じていないかのように顔色1つ変えない。
「それでよろしいですか? 父上」
「うむ。よかろう」
「であるなら、冒険者Kよ、汝の罪に恩赦を与える。以後はラナーからの沙汰に従え」
「……うっす」
「議題は以上だ」
ヤバい。
ストックが切れそうだ。