オーバーロード外伝 炎の魔術師   作:ヤギ3

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今後の方針

「鍛錬に付き合って頂けないでしょうか」

 という苦手な相手1号――クライムからの誘いにやっぱり断り切れず、鍛錬所へ。

 現在は、ブレインとクライムの2人が剣の修行を行っている。

 

「そういえば、あんたも剣を使うんだってな」

 いつの間にか、クライムを下してきたブレインが問う。

「そんなこと誰から……って言わなくてもわかるか。蒼の薔薇だな?」

「正解だ」

 というより、蒼の薔薇の目の前でしか戦闘らしい戦闘をしてないのだ。

 他のやつは知りようがない。

 

「それならどうだ?」

 と言って、訓練用の剣を向ける。

 一緒に鍛錬をどうだ? ということらしい。

 

「いやいいわ。俺、一応魔法詠唱者ですし」

「そうか。それは残念だ」

「ああ、全くだな。英雄級の冒険者の腕前をもう一度見て見たかったんだが」

 と、不意にそこにいないはずの声が聞こえる。

「苦手2号も来ちゃった……」

 いつの間にか訓練所の入り口に立っていたガゼフ。

 

「特徴的な赤いローブが珍しいところに見えたのでな。つい足を運んでしまった」

「今は、クライム君が使用中だぜ」

「ちょうど終わったところに見えるが」

「逆だ。これから大魔法詠唱者様による特訓が始まるんだよ」

「それは興味深い。だが、ここで先の出来事のようなことはよしてくれよ?」

「大丈夫だって。任せな」

 

 警戒されているような、呆れられているような、気を許されているような。

 少し前の畏まった態度とは異なり、そんな感じの雰囲気になっている。

 どうであろうと、こちらの方が、座りが良い。

 

「さてクライム」

「はい!」

 疲労はしているが余力を残した様子で立ち上がったクライムは、大きく返事を返す。

 いい塩梅で手加減をしたものだと、ブレインに対して関心。

 

「実戦経験あるか?」

「はい。先の事件でも六腕の1人と」

 先の事件。

 八本指という犯罪組織の殲滅を行うつもりが、悪魔と戦う羽目になった事件だ。

 その事件にて、クライムは六腕と言われる八本指の警備部門に属するトップ6人のうちの1人サキュロントと戦い、勝利している。

 

「そうかそうか。……俺はな、強くなるには実際に戦ってみるしかないと思っている。実戦を繰り返すのが1番だ」

「なるほど」

「正直、剣だとかはこの2人に任せればいいと思っている」

 と、親指で背後のブレインとガゼフを指さす。

「そういうわけで、俺が訓練に付き合うとしたらこうだ」

 Kを中心に赤い魔法陣が浮かび上がる。

 魔法の前兆だ。

 

「実戦だ」

 そういった瞬間、魔法陣から炎が噴き出し、Kを覆い隠す。

 その炎が収束して、姿が見えた側には炎で出来た狼の姿がいた。

 

「召喚魔法ってやつだな。こいつは狼火(フレイム・ウルフ)って言って、まぁそんな強い奴じゃない」

「その魔物と……」

「そ。死なない程度に戦いな」

 そういった瞬間、狼火(フレイム・ウルフ)が飛び掛かっていく。

 それは、まさしく実戦。

 クライムは、剣を掲げて対峙する。

 

「それにしても、こんなところで油を売っていていいのか?」

「油を売っているわけじゃないけどね。これも仕事の1つだよ」

 そういって、再度召喚魔法を使用する。

 出てきたのは、真っ黒なスライム。油性粘体(オイリー・スライム)という油で出来たスライムだ。

 本来なら、魔法攻撃の強化のために呼び出す魔物だが、今回は普通にバトルをさせる。

 

「そいつには、炎がよく効くから渡してやったもん使いこなせよ!」

「はい!」

 そういって、ピィーと首からぶら下げた笛を吹く。

 するとどうだろうか。訓練用の鉄剣が赤く燃えだした。

 Kが渡していた例の笛だ。

 

「1つ目は、クライムに渡してやった魔法のアイテムを十全に使いこなすように訓練を行うこと」

 黒いスライムを燃える剣で切れば、大きく炎を上げてダメージを与えるが、対照的に炎で出来た狼には明らかにノーダメージ。

 スライムには道具を使い、狼には道具を使わないようにすることで、道具そのものの使用練度を高める訓練だ。

 

「なるほどな。確かに強力な道具だ。使いこなせれば、大きな力となるだろう。それで2つ目は?」

「2つ目はなぁ……まあ、待機中だ」

「待機?」

「しばらくはいつも通りってこと。逆を言えば、もうちょい時間が経てば一斉攻撃だな」

 そう言いながら、ラナーの部屋での作戦会議を思い出す。

 

 

 

「悪魔には首魁が存在していると考えています」

「首魁? まさか、ヤルダバオト?」

「いいえ。そうであるなら、わざわざ悪魔を潜ませるような行為はする必要がありません」

「確かに」

「ですが、悪魔が徒党を組んでいることも事実です。蒼の薔薇が実際に戦闘を行った悪魔も複数の徒党を組んでいたと聞いています」

「ああ。確かに」

 

 確かに悪魔たちは複数で襲い掛かってきた。

 その徒党の組み方も今思うと、少しおかしい。なにせ、蟲と犬の組み合わせだ。

 ゴブリンとオーガのような共存関係があるとは思わないし、協力関係が築ける魔物同士かと問われると、首を傾げるしかない。

 第三者の介入を勘繰る程度には、確かに不自然。

 

「なるほどね。首魁かどうかは分からんが、裏には確かになんかいるな」

「ああ。そうだな。と、なると――どうするか」

 直にヤルダバオトと対峙したことのあるイビルアイの声が堅い。

 

「今は何もしません」

「は?」

「というよりは、現在は情報が出そろっていない状態です。今まで通り悪魔への対処をお願いします。数が減ってくれば、出現が頻発している場所から首魁の潜伏場所が推察できます」

 

「だけどラナー。私たちが対応してはいるけど、減っている気はしないの」

「ああ。確かに大分やったと思うんだけどよ。それでも、戦う頻度も数も減っちゃいねーな」

 

「なるほど。……ということは、悪魔を召喚している? それとも、多くの戦力を分割している? 後者はないわね。だとすると――」

「ラナー?」

「ああ、ごめんなさい。少し考えてしまって。どうであれ、今はまだ派手に動けないわ」

「なるほどね。わかったわ。何かわかったら、すぐに知らせるから」

「ありがとうラキュース」

「これで今後の方針が決まったわね。今まで通りに戦い、情報をラナーに手渡す。そして、相手の居場所が分かったところで叩く!」

 

 

 

「とまあ、こんな感じ」

「なるほどな」

 と、納得した様子。

 

「はぁはぁ……終わりました……!」

 そう言うクライムの剣が深々と刺さっているのは、形の崩れた炎の塊。

 少し離れた場所には燃え続ける動かないスライムの姿があった。

 どうも訓練が終了したらしい。

 

「おつかれー。どうだった?」

「はぁ……はぁ……」

「息を整えてからでいいぞー」

「はぁ…………、訓練とは違う疲労感を感じます。なんというか、体の芯から疲れた感じがします」

「よしよし。実戦と訓練の違いを掴めたなら、ファーストステップ、クリアだな」

「ありがとうございます!」

「うむうむ。よきにはからえー」

 

 じゃ、そろそろ仕事なんで、とKが訓練所から出ていく。

「さてさて、敵の首魁ねぇ……。どんな奴なのやら。ヤルなんとかより弱いことを祈るばかりだなー」

 

///

 

 時刻は夕暮れ。逢魔が時。

 鮮やかに赤く染まった王都の街並みとは対照的に、そこは黒いペンキをぶちまけたように薄暗かった。

 

「ヤルダバオト……聞いたことの無い悪魔だけど、役に立つわ。こんな素敵なところに来るきっかけを作ってくれたのだもの」

 その声色は鈴のように可憐なものだ。

 しかし、周りと風景と同じように黒く濁ったものを感じる。

 

「――楽しみだわ」

 水晶に可憐な少女が映る。

 

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