織斑千冬にとって今日は散々な一日だった。
十蔵から聞かされた四組のクラス代表を狙った襲撃。それに重なるようにして起こった第二アリーナの襲撃。事件としては既に終了して怪我を負ったものの重症じゃないと聞かされて安堵した後に襲った重役たちとの会合。正しく批判の嵐とも言えるものだった。
―――生徒に任せた挙句逃げられるなど
―――最初から君が出ていれば良かったのではないのかね?
―――そもそも君がまともに篠ノ之博士を制御下に置けば
などと言った、自分たちでも不可能なことを平然と要求してくる相手に何度キレかけたことか。
そもそも千冬が世界最強の座に君臨できるのは彼女の実力はもちろんだが、
ないものねだりをしてもしょうがないとはいえ、彼女の本音は「ごちゃごちゃ言うなら先にそっちがどうにかしろ」だった。
(……いかんいかん)
首を振って冷静になる。ここで愚痴っても仕方ない。今日の仕事は終わりで明日は休みだから飲み明かそうと考えながらドアを開けようとすると、中から妙な気配を感じた。
すぐにドアノブを回して開け放つと、何故か自分の部屋に親友が鎖で拘束された状態で鉄棒で釣られており、その近くで自分の机で作業をこなす生徒の姿があった。
「おかえりなさい。コートお預かりしますね」
「あ……ああ……」
本来ならばあり得ない光景に混乱する千冬。その場にいる三人―――特に武は真剣に何かをしており、自分の接近に気付いていないようだ。
「ご飯できていますよ」
「ああ。頂こう……」
それから現実逃避気味になった千冬は楓が出す食事を食べ始める。夜も遅いこともあってお腹に良いメニューを美味しくいただいていると、
「ねぇねぇちーちゃん。久しぶりに会った親友に何か一言ないの?」
「………この料理、美味しいな。将来楓は立派な嫁になるだろうな」
「えへへへ」
「え? 無視? まさかの無視!? ねぇちーちゃん返事して!! 私を見捨てないで!!」
「………………束」
「何かなちーちゃん」
「そろそろ遊ぶの止めたらどうだ?」
「待ってちーちゃん! いくら何でもその反応はおかしい!!」
「私も正直疲れているんだ。お前の相手をする時間が惜しいくらいにな」
「あ、マジだこれ。ガチトーンだよ。あれなら私がアイツら爆破するよ? でもお願いだから助けて。マジで出れない」
束の方も本気で懇願する。その声のトーンで本気だと気付いた千冬はおそらく縛っているであろう存在に目を向ける。
「……とりあえず続きは……あ、おかえり」
「ただいま………じゃない! 何故お前がここにいる!!」
「楓に鍵を……あ、そうだ。そこにサンドバッグ置いてあるからストレス発散に殴ればいいよ」
「……そうか」
それだけ言って武はその場から去ろとしたところであることを思い出して束の首を掴んだ。
「そう言えば、さっきのは一体どういう事だ?」
「さ、さっきのって?」
「クロエのアレだよ!! アンタが変な事を吹き込んだんだろ!?」
「し、してないよ!! 思えば最近変な雑誌とか読んでた気がするけど!」
「………変な雑誌?」
そんな会話をしていると千冬は楓に尋ねた。
「クロエって誰だ?」
「束お姉ちゃんの娘」
「はぁ!?」
「おいそこ! お前に「お姉ちゃん」なんて呼ばれたくないんだけど!!」
と楓に対して敵意を剥き出しにする束。楓はそれに対して平然と答えた。
「……じゃあ束おばさんって呼べばいいの?」
その言葉は束、そして千冬に刺さった。束の今の歳は千冬と同じ24。今年11歳になる楓の年齢を考えれば確かにおばさんと呼んでも問題はなさそうだが、流石に彼女たちのプライドが許さないらしい。
「束。悪い事は言わないからお姉ちゃんと呼ばれておけ」
「私はちーちゃんみたいに老けてな―――」
その瞬間、雷よりも鋭いと思われるストレートが束の身体に炸裂する。確かに束の見た目は20代よりも10代後半と言ってもおかしくはないぐらいだが、だからと言ってもその言葉は本人の前で言うべきことではなかった。
「死ぬか?」
「ちょ、たっくん助けて! 束さん死んじゃう!!」
「………でも俺、アンタを助ける義理なんてないよな」
そう真面目なトーンで言葉を吐いた武に一番驚いたのは千冬だった。
「……武?」
「結局姉から見下されていたしお邪魔虫だし、可愛い可愛い妹に愛を注ぐことを忙しいもんな。むしろ俺いらなくね?」
「あ、それはその……」
「という事で俺は帰るわ。楓はどうする?」
「……私はここにいる」
「そっか。その馬鹿に殺されそうになったらすぐ呼べよ。クロエは悲しむだろうが」
武は部屋を出て行く。完全に静まった部屋に沈黙が訪れたが、千冬が楓に尋ねた。
「………本当にどうしたんだ? 私の記憶では武は束に物凄く懐いていたはずなんだが」
「銃姫を見せていた時にお兄ちゃんが自分で作ったって言ったんだけど、束お姉ちゃんは信じずに私が作ったと馬鹿にした事で本格的な衝突になりました」
「……束。お前……」
「だ、だってその時にたっくんはそいつ連れてたし……私のクローンだったらアレくらい余裕だし……」
「私、クローンじゃないんだけど」
「似たようなものでしょうが!!」
姉妹で言い争いを始めるのを見て千冬は割って入り楓に声をかけた。
「楓、一緒にお風呂に入ろうか」
「わーい!」
さっきも風呂に入った楓だったが、待っている間に汗をかいたのでもう一度風呂に入りたいと思っていたところだ。
「ちーちゃんちーちゃん! 私も一緒に入る!!!!」
「千冬お姉ちゃん。殴るんだったらこれの方が良いよ」
そう言って楓が千冬に渡そうとしたのは、対IS用装備のはずのパイルバンカーだった。ちなみにIS用の装備なのだが、千冬ならば大丈夫だろうと思って出した楓に千冬は笑みを浮かべてから笑顔を見せて頭を撫でてから説明した。
「楓、勧めるならばもう少し消音性があるものを頼む」
「待ってちーちゃん。そこはまず武器を渡さないことを説明するべきだと思う!」
「お前が常識を語るとはな。明日は槍か核が降るな」
「消音性を重視するなら、これですかね」
そう言って取り出したのは注射器だった。
「どんと来い!!」
「さて、楓。風呂に入るか」
「わかりました」
「待って! 見捨てないで!! 私のことを放置したら叫んでやるんだから!!」
楓はガムテープを出してそれを束の口に貼り、声を抑えさせる。それでも喚くが二人は無視して風呂に入る。
「ところで楓。武の事は大丈夫なのか?」
「……私は結局、妹なんです。生まれも、お兄ちゃんに出会うまでは育ちも違うとはいえ、二等親しか離れていない。だからいつかは私もお兄ちゃんも別の人と一緒に暮らすようになるし、お兄ちゃんは束お姉ちゃんとは別の意味で天才だから引く手数多―――それこそ何人の女性とも関係を持つかもしれない」
「確かにな。まぁ私もあまり知らないが、武は実際どうなんだ? 日頃から女から敬遠されるようなことを言っているが……」
「千冬お姉ちゃんもお兄ちゃんの事、好きなの?」
突然の質問に千冬は間を開けてから答えた。
「……そんなわけがないだろう。私と武の年の差を考えろ」
「そういうことにしておいてあげる。どっちにしろ、千冬お姉ちゃんは諦めた方が良いよ。お兄ちゃんは年上の女に発情どころか―――殺意を持っちゃうから」
それを聞いた千冬は時折武が妄想を垂れ流す真耶に対して殺気を放つ理由がわかった気がした。
■■■
部屋に戻ると、一人で紅茶を飲むクロエがいた。優雅に見ているのはそんな彼女に似つかわしくないロボットアニメ。しかも俺が親父にせがんで買ってもらったスーパーロボットである。
「ただいま。悪いな、一人にして」
「……時折束様もどこかに行かれますので、慣れました」
「あの女、娘にするって言っておきながらこれか」
やっぱり連れ出しておけば良かったかと思ったが、そんなことをしてクロエが取り返しの付かないことになったら嫌だったからあの時置いて行ったんだっけ。
「………お風呂頂いても?」
「別に良いさ。俺らが入った後だがな」
「………そうですか」
何でこいつは残念そうに言っているのやら。あ、楓と一緒に入りたかったのか?
「楓は今日は織斑千冬のところにいるそうだ。必然的に姉貴と一緒になるが大丈夫だろ」
「……随分、自信があるのですね」
「まぁな。箒が楓の存在を知った以上、楓が姉貴が原因で死んだとなったら箒との溝は決定的だろうからな。中身はどうあれ見た目は子どもな一応は自分の妹を殺したとなれば、箒でも思うところはあるだろ」
そう言う意味ではもう既に箒が知っている事は楓にとって助けになる。
「武様が楓様を守るのではないのですか?」
「理不尽な暴力からな。だが俺は「篠ノ之という戦士」としては歴代でも最強クラスになっているとは思うが、世界の理想としての人種族の見本としては欠陥極まりないからな。人として生きて欲しいと思う俺としては、楓の世話役としては向いていない」
それでも俺が楓と一緒にいるのは、やはり楓個人の価値が高すぎるからだろう。
確かに束ほどの能力はないにしろ、楓の存在が例えば世界征服を企む組織にいた場合は世界にとって甚大な被害が出るのは当たり前だと言っても過言ではないからな。まぁ後は俺や姉貴を反面教師として性格も成長してくれたらなと思っているが。
「……ところで武様」
「何だよ」
「これからどこに行かれるのです?」
「俺の研究所。近くにあるからそこで寝ようと思ってな。ああ、安心してくれ。ちゃんとこの部屋のバリア機能は復活させてから向かうから」
流石に身内贔屓抜きにしても美少女と呼んでもおかしくない姪を何の防衛措置を施さずに置いて行ったりはしない。
「……何故ですか?」
「いや、流石に嫌だろ。お互い年頃なんだし、そもそも日本には「男女七歳にして同衾せず」って言葉もあるんだ。男にとっちゃクロエみたいな美少女と一緒に寝れるのはご褒美でもあるが、流石に線引きはしないとな」
「……私は構いませんが」
と口をとがらせるクロエ。ほんと、会った時よりも表情が増えてやがる。それにあの姉は娘に一体何を教えているんだ。ましてや叔父と一緒に寝るなんて……部屋が別ならともかく……部屋が別?
「わかったわかった。俺もここで寝るから涙目でこっちに近づくのは止めてくれ」
「……絶対に逃げないでくださいね」
そう言って風呂に向かうクロエ。さてと、こっちも仕掛けをしないとな。
■■■
一人の男が殴り飛ばされ、血が舞う。その男は立ち上がろうとするが、眼前の存在に圧倒されて立つことができない。
「……何で……何で幹部様がその女を庇うんですかい?」
「庇った覚えはないがな。どこかの馬鹿に対して腹が立った。それだけだ」
そう言った男の後ろには髪も眼も白色の女の子がおり、怯えて逃げ出そうとしていた。近寄りがたい気配を放ちながらも守ってくれた男にお礼を言おうとするが、それよりも先に別の男が現れる。
「また派手にやっているね、オーガ」
「……ファルコンか。何の用だ」
「別に。さっき人が飛んでいたからまさかと思って来てみただけだよ。案の定君だったけど」
笑顔を向けるファルコンと呼ばれた少年は怯える少女に「もう行きなさい」と優しく声をかけると、少女は深く礼をしてその場から去る。
「で、君たちは一体何をしたのかな?」
「…私たちはその……」
「さっきの子どもを虐めてた」
オーガと呼ばれた男がそう言うとファルコンは「へぇ」と言ってから怯える男たちに近づいて伝える。
「今回のは見逃してやるけど、基本的に僕らは子どもには寛容なんだよ。それを無視して虐めるって言うなら―――死ね」
最後の言葉だけで殺気を感じた男たちはその場から逃げ出す。
「全く。ああいう手合いにも困ったものだね。ちょっと力を持てば自分たちが強いと勘違いする」
「……仕方ないだろう。奴らも被害者だ……が、個人的に気に食わん」
そう答えたオーガはファルコンを見る。
「……どこに行く気だ?」
「組長が呼んでいるんだ。そろそろ行かないとね」
それを聞いた瞬間、オーガは面倒そうな顔をする。
しばらく歩いた二人は大きなドアの前に立つ。オーガはノックもせずに開けると、そこには白衣を着ている男が―――寝ていた。
「……起きなかったか」
「あー。そういえば僕らの出撃前に五徹したって言ってたっけ?」
「だから起こそうとしたんだけど」
どうしようかと顔を見合わせる二人。すると机に突っ伏して寝ている男は上体を起こす。
「あ、おはよう二人とも。戻ってきたんだね」
「……さっき、あなたから戻ってきたらここに来るように言われたんだけど?」
「そうだっけ? まぁ細かいことは言いなさんな!」
「……寝なさすぎ」
「そう言わないでくれよ。こっちとしては初実戦なんだから感想とか聞きたいじゃないか!! で、どうだったんだい! 対IS用殺戮機動スーツ「サブヴァ―ト」は?」
組長と呼ばれた男は興味深々で二人に問い詰めると、ファルコンは「最高だ」と言った。
「流石は組長。まさかあんなものを作り上げるとはね」
「我ながら傑作だと思うよ。こんな狂った世界に終止符を打つにはさ。でも今のままだと足りない。衝撃が!! インパクトが!!」
「……徹夜ノリ」
「あ、うん。それは言わないお約束の方が良いと思う」
冷静に呟くオーガに対してファルコンは止める。そしてファルコンはいくつかの写真を組長に渡した。
「これは?」
「五徹のあなたを倒すのに最適なものと思ってね」
その写真には白銀の機体が映っており、ファルコンは続ける。
「この写真の機体はおそらく―――ISじゃない」
「………なるほど」
すぐに理解した組長は笑みを浮かべる。
「まさか我々以外にもそう言う機体を持つ存在があるとはね。いや、別に不思議ではない。そしてこれがIS学園にいるとしたら―――なるほど。轡木は最高のカードを手に入れたか」
「……知り合い?」
「私の家は特殊でね。彼は裏の世界でもそれなりに有名だよ。なにせIS学園の真の支配者と言っても過言ではない。それがさらに強力なカードを手に入れたかもしれないというのは専らの噂だったのでね。ああ、確かに強力なカードだろう。恐ろしい」
だが組長と呼ばれる男の顔にあるのは恐怖ではなく歓喜というべきものだ。
「彼らもまたこちら側でありながら女の味方をする存在だ。いやぁ、面白い。……あ、違うか。味方をしているのは一人であって、もう一人は基盤を作っているんだよ」
「基盤、ですか?」
「そう。なんだったかなぁ……でも確か面白い基盤だよ。人類のネクストステージのための基盤だったはず」
「……今の世界にそんなことを考える奴の気が知れない」
オーガは面白くなさそうな顔をする。その理由を知る二人は納得してため息を吐いた。
「じゃあ次は彼らを勧誘すること?」
「あー、それは良いや。ここまで力を付けてるとなると、おそらくもう一人がぶち切れて暴れるだろうから。なにせアレは友達のために剣一本で違法施設に乗り込むのだから恐ろしい……それよりもオーガ、篠ノ之武はどうだった?」
「………」
何も言わないが、笑みだけは浮かべるオーガ。組長はそれを見て同じく笑みを見せた。
「なるほど。まさか人類で君のお眼鏡に叶う人間が現れるとはね」
「……だから次は学園で戦わない。海におびき寄せる」
「これじゃあ次は「生身で」かなぁ」
と笑いながらも内心恐怖を抱きつつ、今なお学園で学生生活を謳歌しているであろう男に同情する。
「……すまないが、先に部屋に戻る」
「ああ。ゆっくり休んでくれ」
「あなたもな」
そう言ってオーガは部屋を去りながら笑みを浮かべる、
(……篠ノ之武。男尊女卑―――いや、弱肉強食の体現者。お前はどこまでの器だ。とっくに目覚めているんだろう。篠ノ之の血に)
その笑みは周囲を怯えさせるだけで十分であり、後日彼はその施設にある練習場を壊滅させた。
■■■
やりきった顔をしている俺は伸びをしてベッドに寝る。姪とはいえ、お互い年頃なんだし、やっぱり一緒に寝るのはなと思って簡易バリケードを設置したのだ。これでクロエがこっちに入ってくることはないだろう。問題があるとすれば俺の生理現象か。性欲はともかく不要物の排出は避けられない。
シャワーの音が止み、ドアの開閉が聞こえてくるが俺は気にせずベッドの上で横になる。
それにしても、今回の敵は妙だな。まるで本気を出していないという感じだった。だが妙な気配はあった。まるで歓喜しているような。
「……武様?」
おっと。今はクロエだ。アレをどうにかいなさな―――
―――バキッ!
「あ、いました」
「いましたじゃねええええええ!?!」
何であっさりと破壊してんの!? 何しちゃってんの?! え? クロエにそんな筋力あったっけ?! っていうか、え、何で―――
「……武様」
「いやその前にお前服は?!」
「必要ないと思って洗濯しました」
「他のは?!」
「………ありませんよ? それに性交をする時は裸でする……いえ、中には服を着てされる方もいますから、武様はそちらが良いと―――」
「いやまず寝間着とかあるだろ!!」
「……? 寝る時は裸ですが?」
ヤバい。ガチでヤバい。何で裸なの!? しかもこの子、膨らみかけなんだよ! それはそれで趣がある………よし、箒の顔を思い出そう。あのクソ面を思い出せば少しは………あ、ダメだわ。クロエの方が可愛いから普通に上書きされる。つうか誰だよ箒の事を可愛いとか言ってたやつ……あ、織斑か。
よし。織斑のおかげで冷静になった。というかよく見れば雫が垂れているじゃないか。
「こっちおいで、クロエ」
「はい」
俺は自分のシャツとバスタオルを出して彼女の頭を拭いてあげる。俺の股の間に座るクロエだが、心さえ落ち着かせれば問題ない。そして同時に俺は箒に連絡を取る。
『どうした。こんな時間に』
「明日休みだが、買い物に行くからお前も来い」
『何故命令なんだ』
「どうせ頼んでも来ないだろ。だから命令。たまには家族水入らずで遊ぼうぜ―――政府の金で」
『……鬼かお前は』
「守る名目で俺たちを引っ掻き廻したんだからこれくらい当然だ。じゃあ、明日9時に正門で集合だ」
『……はぁ。まぁいい』
電話を切って次は織斑先生に電話をかける。
『こんな時間にどうした?』
「明日、俺たち兄妹で買い物に行きますので外出届ください。護衛いらないので」
『……そんなこと急に言われても困る』
「じゃあ明日、織斑先生は裸で過ごしてくださいね」
『そんなこと無理に決まっているだろう。なんだ? もしかしてお前は私の裸でも見たいのか?』
「寝言は寝て言え。あ、ちょっと姉貴に代わってくれない?」
『……ちょっと待ってろ』
何でアイツちょっとキレてんだろ。まぁいいや。
『どうしたのたっくん? 解放する決意した?』
「明日、アンタの娘と買い物に行く」
『え? 何で? もしかしてくーちゃんにぞっこんでエッチな下着を買ってムフフな事を―――』
「ああ、あと―――いくら血が繋がっていないからって自分が育てると言った娘に適当な事をしているなら―――お前を殺す」
それだけ言って通話を切った俺はクロエに自分の身体を拭かせて、その間にドライヤーと新品の櫛を出して準備をする。
「できました」
「じゃあこれ着て」
そう言ってシャツを渡して着せた後にドライヤーで乾かした後に髪を櫛でとかした。ああ、そうだ。箒を無理矢理同行させるんだから、アイツが喜ぶことをしてやらないとな。
そして翌日、俺は箒の分の外出届を持って外に出る。しばらくしてから楓とクロエを合流すると、箒が驚いてクロエに注目する。
「……誰だそいつは」
「俺たちの姪」
「そうなのか……はぁ?!」
「……もしかしたら、お姉ちゃんになっちゃうかも」
「いやそれはない」
楓の冗談を否定しておく。一緒に寝るだけでなんとか妥協してくれたが、いつか叔父と姪が一緒に寝ることはないと説かないといけない。
「いやいや、待て待て待て! 何で姪?! ってことは姉さんの娘なのか!?」
「養女だけどな。にしてもそろそろ三年になるはずだが、十分凄くね?」
「……それは確かに―――じゃない!! 嫌確かに凄いがそうじゃない!!」
「ちなみに今日はこいつの服を買いに行くから。後、ちゃんと箒にご褒美あるから付き合え」
「ふざけるな!! 一体何を好き好んであの姉の関係者などに―――」
「―――両親に会わせてやるって言ったらどうする?」
すると箒は完全に停止する。まぁ当然だろう。こっちは切り札を切ったのだから。
箒がここまで荒んでいるのは両親の愛をまともに受けていないからだ。それに何度か口に出していた頃から余程会いたいのだろう。
「……冗談だろう?」
「本気だけど? ま、向こうの暇じゃないし六月ぐらいにならないと会えないって話だけど、それでも良いなら会わせてやるよ」
そう言うと箒にしては膝を付いた。
「さて、とりあえず行こうぜ。流石にここじゃ邪魔だしな」
「……うん」
思ったよりも効果は抜群だったようでなによりだ。
変な終わり方かもしれませんが、これで第1章は終わりです。