IS-Black Gunner-   作:reizen

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篠ノ之神社……言わずと知れた篠ノ之束の実家。日本のIS操縦者を志す者の大半は祈願として祈りに来ているらしい。最近ではとある組織の本部にしようという話があるとか。


第2章 絶望の闇に響く足音
第16話 女と男の憩いの場


 突然現れたその施設は、IS学園に所属する生徒の中でも噂になっていた。本来ならば増設すらあり得ないその島に案内されている箒はその光景に驚きを露わにする。

 まだ自分と同じくらいやその下の子どもたちが畑仕事に精を出す者や、訓練をする者など大勢いる。こんなにもたくさんいるものなのかと目を疑ってしまった。

 

「お姉ちゃん、こっちだよ」

 

 先導者である楓が手招きしながら呼ぶと、箒は付いて行く。

 

「ねぇ、あのお姉ちゃん……武お兄ちゃんに似てる?」

「あの人なんじゃない? 双子の妹っていうのは」

 

 そんな声が聞こえて、そこが武の通う場所でもあることを知った箒は身体を強張らせた。

 

「楓、何なのだ、あの子らは?」

「……知りたいならこれから会う人が教えてくれるよ」

 

 そう言った楓はまるで慣れているような動きで移動していくが、箒は慣れない靴で移動しているため何度かこけそうになっている。

 

(……やっぱり和装を持ってきていて正解だったな)

 

 と持ってきたボストンバッグを見ながら今の水色のワンピースにデニムジャケット、さらにブーツサンダルという普段は着ないと思われる服装は今後絶対に着ないと心に誓いながらあまり整備されていない道を歩いて行く。ちなみにすべて武が選んだものだ。

 IS学園に近く懸垂式モノレール一本で行ける大型ショッピングモール「レゾナンス」での武の行動に箒もクロエも心から引いていた。武曰く「妹の保護者は男だからって甘えちゃダメだからな。楓を完全無欠の一般庶民女子に育てるにはこういった事にも気が回せないといけない。特に今は婚姻後の若年離婚がかなり高くなっているんだ。その年齢に合わせた化粧方法を学んでおかないといざとなった時に競争率の高い男を手に入れることができない」と語り、箒とクロエの服は10着、楓は3着買うという暴挙。しかも箒がチラッと見た時に額が5の後ろに0が五個ほど並んでいたのを見て金銭感覚が狂っているのかと戦慄したほどだ。さらには「今度織斑とデートする時にでも着ていけば?」と言い出したので箒は顔を赤らめるしかなかった。ちなみに箒は知らないが、武はクロエ用にクロネコ着ぐるみパジャマを買っており、それを着て現れたクロエを見た束が鼻血を流しながら写真を百枚は撮っており、それを元に最強のパワードスーツを作り始めているらしい。

 そんな背景はともかく、箒は一つの大きな屋敷の前に立つ。その家の表札には「篠ノ之」としっかり書かれており、近くには道場と思われる建物もあった。

 箒が心を決めているところにじれったく感じた楓がインターホンを鳴らす。

 

「か、楓!」

「箒お姉ちゃんは自分の家に帰ってきただけなんだから、別に気にしなくていいじゃん」

「気にするわ!」

 

 そんなやり取りをしていると、引き戸が開かれて40代ぐらいの男性が現れた。

 

「……………箒、か?」

「お、お久しぶりです。父さん」

 

 視線が注がれる箒は耐えられなくなる。そんな状況になっている間に箒の父である篠ノ之柳韻(りゅういん)の頭が叩かれた。

 

「何をしているんですか、柳韻さん。娘をジロジロ見るのは感心しませんよ?」

「母さん!」

「久しぶり、箒ちゃん。元気にしてた?」

「母さんこそ……どうしたんですか、その左腕は?」

 

 柳韻の妻で箒の母親でもある春海(はるみ)の左腕は骨折した人間にするように白い布で釣られている。

 

「これは、ちょっとね。今では楓ちゃんが手伝ってくれるから大助かりよ」

「……そんなことになっていたのか。ここからだと近いのだから手伝いに行くくらい―――」

「大丈夫よ。今日に楓ちゃんに診てもらって、外すか外さないかってところ」

「……いや、楓って確かまだ十歳……」

「それでもかなりの修羅場潜ってます―。ま、お兄ちゃんに負けるけど」

 

 勝ち負けの問題ではないだろう、と箒は思うが同時に武がどれだけ修羅場を潜っているのか気になった。

 

「だが楓はまだ幼いんだ。知っているとはいえいくら何でも―――」

「待って箒お姉ちゃん、そろそろ私も中に入りたい」

「……そうだな。中に菓子を用意している。それでも食べながら話そう」

 

 柳韻の言葉に従った三人は家の中に入り、和室に移動した。

 

「……実家そのものだな」

「武がその方が良いと言っていたからな。おかげで以前の家よりも気楽だ」

「……確かに」

「お前の部屋もある。後で見に行くと良い」

「ほ、本当ですか!?」

「というか、箒ちゃんの荷物すべてそっちに移動されているわよ。武君が当時の写真を持っていたから、それを再現したって言ってたわ」

 

 それを聞いた箒はすぐに立って階段を昇る。そしてかつて束が箒のために作った木でできたネームプレート「ほうきちゃんのへや」もかけられており、ドアを開けると、そこにはかつての自分の部屋そのものが再現されていた。違うのは十分な部屋の広さと収納容量、それに―――

 

【部屋主である篠ノ之箒を確認。状態保存機能の解除を行います】

 

 機械での管理がされており、何かが作動する音がした。

 突然、箒の前にウインドウが投影される。

 

【初めまして、箒様。お部屋の新機能の説明を始めますか?】

「え、いや、これは―――」

「次回にするって言えばすぐに使えるよ」

 

 後を追って現れた楓に従った箒は「次回にする」と言うとウインドウが【では一新された部屋をお楽しみください】と表示された後、消えた。

 

「す、凄いな……」

「今は量子化されているけど、お掃除ロボットもあるからね。各所に人に害のない殺虫剤が設置されているから、虫たちはそっちにおびき寄せられて消えた後、ロボットは地下で洗浄されます」

「………は?」

「お兄ちゃんみたいな人間がただでIS学園に入学するはずないじゃん。大空島と一緒にくっついているみたいに見えるけど、実際は独立しているの。言うなればここは「篠ノ之島」ってわけ。ちなみに束お姉ちゃんがいつ帰ってきてもいいように、地下にはいくつも部屋があるんだ」

「……………」

 

 箒は本気で頭を抱えた。そこまでするか、と。

 我が兄ながら姉並にぶっ飛んでいるなと思いながら、ふとしたことに気付いた箒は「たばねさんのへや」と書かれたネームプレートが引っかけられたドアを開けると、その部屋にはまるで最初から誰もいなかったかのように閑散としていた。

 

「……ここは」

「束お姉ちゃんの部屋だよ。何もしていないのは……まぁ、お察しかな」

「………そう、か」

「口ではああだけど、やっぱり同じ技術職だしね。思うところはあると思うよ。そうじゃなければあの時だってちゃんと束お姉ちゃんを逃がしはしなかったと思う」

 

 箒は「そうか」と呟き、下に降りる。そこには放っておかれたからか少し不機嫌になっている柳韻とそれを見てニコニコと笑顔を浮かべている春海がいた。

 

「部屋はどうだった?」

「その、広くなっていたことに驚きましたが、凄いことになっていましたね。あと、勝手に上がってすみませんでした」

「良いわよ。柳韻さんは放置されて悲しくなっていただけだもの」

「………」

 

 むすっとする柳韻。そんな父を見て楓は春海に提案した。

 

「ねぇママ。腕の様子を見たいから向こう行こう?」

「そうね。そろそろこの腕も窮屈だしね」

 

 春海は同意し、掘りごたつから出る。楓も同行し、その場から離れてドアを閉めた後に和室の引き戸が自動で閉まった。

 

「これは……?」

「普段はオフにしているがな。今手動で閉めてみた」

「……そう、ですか」

 

 どれだけこの家に金をかけているのだろうかと思った箒だが、柳韻からただならぬ気配が放出されたことで真剣になった。

 

「春海のあの傷、どう思う?」

「どう、とは」

「本当に骨折した怪我だと思うか?」

 

 柳韻の質問がわからず、素直に「はい」と答えた箒。柳韻は少し考えてからさらに質問した。

 

「武はどうしている?」

「……あまり良くありません。誰が相手だろうが構わず反抗的な態度を取っていますから、おそらく武が不利になった出来事が起きた場合は真っ先に糾弾されるでしょう」

「…………やはり、な」

 

 悲しそうな顔をする柳韻に箒はますます疑問を持つ。

 

「何か、知っているのですか?」

「……ああ。篠ノ之の人間としては喜ぶべきかもしれないが、今の世界ではあまり受け入れられないことだ」

「何かしたんですか!?」

「……そうだな」

 

 柳韻は意を決し、箒に尋ねた。

 

「箒。これから話すのはお前には荷が重いかもしれない。もしそう思うならば、ここから先は話さない」

「………いえ。話してください。そもそも色々とおかしいでしょう。武は確かに今の社会を快く思っていませんでしたが、あそこまであからさまじゃなかった。それに楓の事もです。まだ幼い楓を何故ああも簡単に信じられるのですか!? 確かに楓は人の心を弁えていますが、だからと言って信じるべきではないでしょう!」

「……普通じゃないだろうな。だが楓の事を話す前にある事を話さなければならない」

「何ですか、それは」

「束が人間不信になった理由だ」

 

 箒の口から「何故……」と零れる。柳韻は言いにくそうにしてから言った。

 

「束が人間不信になったのは、私たちが束を政府の研究所に渡したからだ」

 

 そして箒は知る。束の性格の理由、楓の出生、そして武がああなった真実を。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 翌日。俺は実家に戻っていた。久々に来たが思った程劣化していないな。

 

「あら、もしかして武君?」

「久しぶりです、叔母さん」

 

 まさか入り口でバッタリ会うとはなぁ。俺たちが離れた後に親戚が面倒を見ていると聞いていたが、まさかあの菩薩こと雪子(ゆきこ)叔母さんがいるとは。

 

「どうしたの? 確か今ISを動かしてIS学園にいるって聞いたけど」

「別に監獄じゃないからな。抜け出そうと思えばいつだって抜け出せる。あんなゴミの巣窟なんざってところだからな」

「………柳韻から聞いた通り、すっかり変わってしまったわね。昔はあんなに純粋だったのに」

「破壊衝動は昔からあったから」

 

 そう言うと叔母さんは「あらまぁ」と言う。俺は面倒だと思ってそのまま蔵の方に行こうとすると、叔母さんに呼び止められる。

 

「どこ行くの?」

「蔵」

「そうなの? あまり荒らさないでね」

「へいへい」

 

 そう答えてから俺はダークフェイトを出して蔵の鍵を開ける。ダークフェイトには形状変形機構があるので、それを利用して蔵の入り口を縛る南京錠の鍵を開けただけに過ぎない。決して鍵穴に向けてロックを解除したわけではない。グミの箱舟には乗ってみたいと思うがな。

 まぁそんなことより、絶対にあるかもしれない資料を探さないと。

 

「どこかで見たことがあるはずなんだ。あの力をモノにできるなら……」

 

 ―――俺はもっと強くなれる。

 と言っても所詮はまやかしだ。果たしてどこまで通用するか。だがこの力がなければ俺は中学の時点で死んでいただろう。

 ともかく今は知識だ。コントロール方法とかを身に付ければどうにかできるだろう。

 

 

 

 

 

 しばらくして俺は、自分のした達成感に満足していた。

 あのオンボロだった蔵が、まるで時を超えて生まれたてのように綺麗に―――って何をしているんだ、俺は。

 

「あら、これは一体……」

「俺、あんまり埃とか好きじゃないから」

 

 思わず掃除しちまったんだよなぁ。おかげで蔵の中が綺麗になったけど。

 

「という事でここの本、すべて持って行っていい?」

「別に良いけど、こんなにあるけど大丈夫? 持っていける?」

「俺を誰だと思っているんだよ」

 

 そう言ってから俺は指を鳴らして鎖を展開し、すべての本に触れていった。するとすべての本が量子化していき、蔵の中に置かれている本棚の中はからっぽになった。

 

「すっごいわねぇ。まるで束ちゃんみたい」

「量子化ってホント便利だからな。まぁ渡すつもりないけど」

「そうねぇ。あったら便利だけど、束ちゃんの件もあるし、止めておくわ」

 

 ちなみにこの量子化はカビとか埃とかを自然と除去してくれるので俺としてはありがたい機能だ。付けたんだけどな。

 

「そうそう、武君。お昼どうする?」

「せっかくだけど、近くにいい店があるからそっちで食べるよ」

 

 叔母さんの料理、美味しいから好きなんだよな。人嫌いの姉貴も叔母さんの料理だけは奪って逃走していたし。

 

「そう。じゃあどうせなら持って行っちゃいなさい。楓ちゃんにも食べさせてあげて」

「………知ってたんだ」

「柳韻から聞いているわ。正直私は信じれられないけど」

「鑑定結果あるけど?」

 

 「この紋所が目に入らぬか」って言いながら出したいなと思っていると、やんわりと断られて大量に食材を量子化するのだった。

 

 

 

 

 

 俺が住んでいた町には古くから大体の人は知っている「五反田食堂」という店がある。最近ではガテン系のおっさんがたまり場として利用しているのだが、話を聞いている限り何かを企んでいる感じの人ではないらしい。

 久々に訪れたその店に入って美魔女と言って差し支えない女性が「久しぶりね」と言って俺を迎えてくれたので「ども」と返す。

 

「業火野菜炒めの豚肉定食」

「はーい」

 

 カウンター席に座ってそう告げると、女性が注文を受け付けてくれた。待っている間に蔵から持ってきた古文書を開こうとすると、入り口の方から「げっ」と聞いたことがある声が聞こえてきた。

 

「何? 何か問題でもあるの? あるならお兄一人で外で食べてもいいよ」

「聞いたか一夏。今の優しさに溢れた言葉。泣けてきちまうぜ」

 

 とめそめそとなく知り合いを見て俺も「げっ」と言いたくなった。

 

「別に三人で食べれば良いだろ。それより他のお客さんもいるし、さっさと……って、武?」

「え? 武?」

「………久しぶり。娘は元気にしているか、バレット」

「そもそも彼女すらできたことねえよ、俺には!」

 

 と的確に突っ込みを返してくれるのは五反田(ごたんだ)(だん)だ。そのやり取りに驚いたのは他でもない織斑である。

 

「何で武がここに!? ってか弾、知り合いだったのか!?」

「たまに来ていたからな」

「嘘だろ!?」

「別にお前だって毎日ここに来ていたわけじゃないだろ。その日がたまたま被っていただけだ」

「え? でも武だって箒と一緒で重要保護プログラムで監視されてたって話なんじゃ―――」

「姉貴と同じで反逆属性あるってだけだ」

「もしかして武って実は女なんじゃ―――」

 

 弾が変なことを言い出したのでこっちもそれに乗ってやる。

 

「おいおい。俺が綺麗だからって惚れるなよ?」

「………さっきから何をしているんですか、あなたたちは」

 

 と、弾と同じだが色が違うバンダナをしている少女。顔が少し似ているということは、これが噂に聞く看板娘か。

 

「あ、じゃあ四人で食べる?」

 

 女性からの提案で、俺たちは四人で食べることになった。

 案内されたテーブルに移動した俺たちは席に着く。俺の隣に弾。弾の前に看板娘、そして看板娘の隣には織斑だ。

 

「そう言えば武は会った事なかったな。こいつは妹の(らん)だ」

「初めまして……」

「篠ノ之武だ」

「え?」

 

 俺をまじまじと見る蘭という女。篠ノ之という姓がそんなに気になるのだろうか。

 

「前に「篠宮」って名乗ってなかったか?」

「その時は政府の命令で偽名を使わされていたからな。一般市民の悲しい性って奴だ」

「にしても篠ノ之かぁ。武が何か隠している事はわかっちゃいたが、まさか姓だったとはな」

「悪かったな。偽名使ってて」

「気にすんなよ。黙っているのには理由あったんだろ?」

 

 と会話している俺たちを見て、織斑が不満そうな顔をしていた。

 

「納得いかねぇ」

「何がだよ」

「何で弾とは普通に話してて俺には冷たい態度なんだよ……」

「一度二次元彼女を四、五人攻略してから胸に手を当てて考えてみろよ」

「あー、確かに。数馬に言って何か見繕ってもらった方が良いんじゃね?」

 

 という事はコイツも相当苦労しているとみて間違いないだろう。

 

「? 何でそのゲームを?」

「そうです! 一夏さんにはもっと相応しい人がいるんです!!」

「……あ、そういえば蘭、着替えたみたいだけど、どこか出かける予定?」

 

 唐突にそんなことを言う織斑。唐突に話題を振られた蘭はもじもじとし始める。

 

「ああ、デート?」

「違います!」

「ご、ごめん……」

 

 にしてもこの蘭ってやつ、箒や凰のような匂いがするんだが決して気のせいではないだろう。なんとなくだけど。

 

「あ、いえ……。と、とにかく違いますから……」

「違うっつーか、むしろ兄としては違って欲しくもないんだがな。なにせお前そんなに気合の入れたおしゃれをするのは数か月に一回―――」

 

 ―――パシッ

 

 弾に伸びる手を咄嗟に掴んだ俺。口と鼻を狙ってだろう。蘭は驚いて俺から腕を戻そうとするが、手首を掴んでいるため早々抜け出せやしないだろう。

 

「ちょ、は、放してください」

「ああ、悪いな」

 

 にしても俺も危なかった。咄嗟に手首を折ろうとしていたからな。

 

「業火野菜炒めの豚肉定食、お待たせしました」

「ありがとうございます」

 

 相変わらずうまそうな盛り合わせである。これで上手いのだから本当に言う事がない。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 後から三人分の食事が来たので一緒に食べる。

 

「でよう一夏、鈴と、えーっと、誰だっけ? ファースト幼馴染? と再会したって?」

「ああ、箒な」

「ちなみに俺の双子の妹だ」

「え!?」

 

 と今度は驚いたのは弾だ。

 

「双子!? ってか妹まだいたのか?」

「え? 武の妹って箒だけだろ?」

「むしろ俺は楓ちゃんだけだと思ってたぜ。あの時の可愛がり方は異常だったからな」

「まぁ、楓は可愛いからな。仕方ない」

「………信じられねぇ。これまでの武から想像できない言葉が出てきた」

 

 失礼な奴だ。俺だって妹を可愛がったりするものさ。

 

「……もしかして、武さんってシスコンなんですか?」

 

 と、蘭から聞かれたので返してやった。

 

「誰が織斑みたいだと?」

「待て武。それって俺にシスコンだと言いたいのか?」

「………否定できる要素、ないだろ」

 

 と俺ではなく弾に言われて少しショックを受ける織斑。

 

「そうそう、その箒と同じ部屋だったんだよ。まぁ今は―――」

「お、同じ部屋!?」

 

 慌てて立ち上がる蘭。

 

「ど、どうした? 落ち着け」

「そうだぞ落ち着け」

 

 蘭は弾を思いっきり睨みつける。弾はそれで委縮したみたいだが、もう少し耐性を付けないとこの先に生きていけないと思う。

 

「い、一夏、さん? 同じ部屋っていうのは、つまり、寝食を共に……?」

 

 おそらくそこまではしていないだろうと思うがな。絶対にアイツらはまだそう言う関係じゃないだろうし。

 

「まぁ、そうなるかな。ああ、でもそれ先週までの話で、今は別々の部屋になってる。当たり前だけど」

「い、一か月半以上同棲していたんですか!?」

「ん、そうなるな」

 

 その会話で何故か弾が汗をかいている。何か問題でもあっただろうか。

 

「……お兄、後で話し合いましょう」

「お、俺、この後一夏と出かけるから……。ハハハ……」

「では夜に」

 

 全くわからん。何故これで弾と話し合う必要があるのか。どうせ一線すら超えられていないだろうに。

 

「決めました。私、来年IS学園を受験します!」

「お、お前、何言って―――」

 

 椅子が倒れる。するとお玉が飛んできたので触れて、量子化して、シンクに落としてやった。

 

「え? 受験するって、何で? 蘭の学校ってエスカレーター式で大学まで出れて、しかも超ネームバリューのあるところだろ?」

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」

「いや、IS学園は推薦ないぞ」

 

 何故、弾はそんなことを知っているのだろうかと疑問が生じる。もしかしてこいつ、女好き過ぎて入学しようとでも企んでいたのだろうか?

 

「お兄と違って、私は筆記で余裕です」

「いや、でも……な、なぁ武! あそこって実技あるよな!?」

「あるらしいな。俺が判明した時はギリギリ過ぎてやってないけど」

「IS起動試験っていうのがあって、適性が全くない奴はそれで落とされるらしい」

「そう言えば織斑がISを動かしたのもそれだろ? 馬鹿な奴だよな、全く。試験会場に迷って部屋にあったからって普通触るか?」

「うぐぅ……」

 

 痛いところを突かれたからか、織斑が泣きそうになる。その間に蘭はポケットから紙を取り出して弾に差し出すと、弾は「げぇっ!?」と変な声をあげたので俺と織斑はその紙を見ると織斑は普通に読み上げて俺はため息を吐いた。

 

「IS簡易適性試験……判定A……」

「問題は既に解決済みです」

「……してねえからな」

 

 どや顔をする蘭に対して俺は冷たく言った。

 

「何故ですか!?」

「まず一つ、君はISを扱うという事がどれだけのことかわかっていない。そして二つ目、このまま入学したところで君に何のメリットもない。この辺りで織斑が言っている私立中学と言ったら「聖マリアンヌ女学院」だろう? ハッキリ言ってIS学園に行くよりもそっちに在籍している方が良いと断言する。少なくとも君のその心に従って碌な事がないのは確かだからな。別に君はどうしてもISを勉強したいわけじゃないのだろう?」

「そ、それは……」

 

 と口ごもるので俺は内心確信した。やっぱりこの女の目的はISではなく織斑だと。

 

「だから、その気持ちでIS学園を受けるのは止めておけ」

「………」

「サンキュー武! マジ助かる!!」

「お前ここだと立場低そうだもんな……」

 

 今度は弾がしょげた。だけどこの話、まだ終わってないんだよなぁ。

 俺は周りに聞かれる事を防ぐために俺たちが座る席にバリアを張って話を続けた。

 

「正直言って、俺は今の内にISの勉強をした方が良いと思っている」

「何で!?」

 

 弾の方から悲痛な叫びが上がった。さっきと違ってお玉が飛んでこないのは聞こえていないからだろう。

 

「適性がAという事はIS学園では珍しくないが国ではかなり珍しい部類に入る。代表候補生になって努力すれば凰のように専用機持ちになれるだろうからな」

「凰って……もしかして鈴さん?」

「そうだ。だがアレはあの性格だから成せる業で、あまりお勧めしないからな。だがそれは同時に同性に喧嘩を売り、場合によっては出る杭は打たれるが如く酷い目に遭う。特に今の世界の女の虐めってえげつないからな。それでも君はISで大成したいかい?」

 

 最後だけ丁寧に話すと、蘭は暗い顔をした。

 

「……ありがとうございます。IS学園を受験する事、少し考えてみます」

 

 そう言った蘭。弾は心から安堵した様子だ。

 だがこの話はあながち間違いではない。女尊男卑になった今、女のやり口というのはかなりえげつなくなっている。男を使って暴力を振るうのは当たり前。最悪人を刺したとしても死ななければ、そして相手が男であれば「性的暴行を受けそうになったから」とかという理由をでっち上げられる。俺が一時期警察に事情聴取と言う名の暴行を加えられたのもその風潮が蔓延っているからだ。

 そんな世の中で女を守りたいなんて思う人間なんているはずもない。五反田蘭を改心させようと思ったのはあくまで「弾の妹」だという理由でしかない。

 今日の態度で蘭は弾を舐めていると思われるが、こうした縁が人を助けることになる。機会があれば俺はその事を説明してやろうと思った。

 

 ―――ピッピピピピピピピピピピピピ―――

 

 俺が持つ小型端末から音声が鳴り響く。端末を操作すると、そこには俺の研究所に謎のポットが飛んでくるという情報だった。今ではそれを受け止めて研究所に収納しているらしい。残っている食べ物をすべて平らげてから俺は弾を呼んで会計を済ませた。

 

「助かった。蘭の奴、俺が何を言っても聞かないからな」

「……だろうな。ああ、そうだ」

 

 俺はあるキーホルダーを出して弾に渡した。

 

「弾、これを貰っておいてくれ」

「何だ?」

「お守りだ。一つはお前用。もう一つはこの家を守るためのものだ。俺たちを狙ってお前らが被害に遭うかもしれないからな」

「………そっか。ありがとな。で、もしできたらで良いんだが、蘭の分も作ってくれると……」

「出来次第そちらに送るよ」

 

 全く。できた兄だよ。

 

 会計を済ませた俺は織斑を呼ぶ声を無視してすぐに自分の研究所に向かった。その出会いが面倒ごとの始まりという予感を持ちながら。




五反田食堂……ガテン系からサラリーマンまで、男たちのおすすめ食堂。スポーツマンも近くに来れば寄るらしい。最近では店員もするとある生徒会長を目当てに訪れる客も多いそうだ。ちなみにその店員に手を出そうものなら、店主の鉄拳とジェイソン並の恐怖体験を味わえるとか。
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