そろそろ、最近見る太字とかも使ってみたいところ。
保健室から戻ってきた千冬を見た一夏はすぐにその変化を発見した。
(あれ? ジャージが変わってる?)
千冬は授業開始からずっと白いジャージを着ているが、それでも細かなデザインが違う。そしてこれは一夏が一緒にいたからなのだが―――少しばかり顔が緩んでいる気がするのだ。
(……席を外している間に、一体何があったんだ?)
凄く気になった一夏だが、同じチームにいた箒によって現実に戻された。
■■■
昼休み。購買で食事をゲットした俺はあんな騒ぎを起こしたこともあって人目を避けるため屋上に行き、ベンチを独占して横になる。食事はまだ腹には入れず量子化している。
「……何をしているのですか?」
「………お前がな」
平然と現れたクロエに驚きを隠せなかった俺は冷静にそう言うと、クロエは笑顔を向ける。
「……束様に頼まれましたので。できるだけあなたのおそばにいるように、と」
「じゃあ明日から転校生?」
「……してきましょうか?」
「だったら合法的に恋愛できるな」
と、言ってから内心「何を言っているんだ、俺は」自分で突っ込むとクロエが顔を近づけて来るので顔を逸らした。
「逃げないでください」
「いや逃げるから。というかさっきのは冗談だから本気にするな。大体俺とクロエは叔父と姪の関係なんだからそれ以上は望まねえよ」
特にクロエの笑顔は貴重と言っても過言では―――ヤバいな。どうやら心が弱っているようだ。さっきトラウマが再発したからだろうか。
俺としては今の状態でクロエがこの学園に来るのは困るんだがな。
「大丈夫です。あなたが呼ぶならいつでも来ますから」
「……そう」
喜んでいる俺の心に色々と言いたくなったが、とりあえず一言。マジで正気に戻れ。
「では。私はこれで」
そう言ってクロエは消える。その場にヒラヒラと一枚の紙が舞って、そこには「また夜に…」と書かれていた。何か? 今度は「泊めてください」とか来るのだろうか? まぁ、クロエは楓と一緒に寝かせれば良いか。
「……武? こんなところで何やってんだ?」
「ベンチで寝ていただけだが?」
「いや、そういう事を聞いているわけじゃねえよ…」
何故か呆れる織斑。物凄く殴りたくなったんだが、今は自重しておこう。
「げ!? 何でアンタがここにいるのよ?!」
「俺がどこに居ようと勝手だろう? それとも二組の連中が俺を殺そうと躍起になっているとかか?」
「………まぁ、そんなところよ」
やれやれ。面倒な奴らだ。そんな事で切れられても困るし、何より先に手を出して来たのは向こうだ。それでこっちに喧嘩を売るなんて馬鹿だろう。
「というか、何であそこまでしたんだよ。あの後雰囲気最悪だったんだからな」
「そうよ。特にこっちなんて宥めるにどれだけ必至だったか……大体、ISコアを複数所持している事自体異常なのよ」
「―――それ、今更過ぎません?」
と言ったのは他でもないオルコットだった。
「何だ。お前もいたのか」
「何だってなんですか。まぁ、わたくしも気になることはありますし」
ドアをチラ見するオルコット。そこから箒とデュノアは現れた。箒の顔はどこか気落ちしているところを見るに、今回織斑のみを誘ったがそれ以外が―――特にオルコットと凰の参戦だろうか。
「まぁ、フランスとイギリスの垣根を超えた恋愛は難しいと思うがな」
「いえ、そういう事ではございませんわ。そういう事では……」
まぁ言わなくてもわかっている。おそらくデュノアの事だろう。おそらくオルコットも凰も代表候補生としての勘が働いて警戒していると思われる。
さっきまで箒と話していたデュノアは俺に気付き、俺に近づいて来て手を差し出した。
「改めて、よろしくね。篠ノ之君」
俺もそれに応じて握手した。
「ああ。よろしくな」
「「「「え?」」」」
周りの反応が酷いが、まぁ俺を知っている人間なら誰だって驚くか。俺はこれまでこうやって握手したことないし。
「み、みんなどうしたの……?」
「さぁな。どうせ下らないことを考えていたんだろ? というかアンタもアンタでよくもみくちゃにされなかったな。俺の予想じゃ発情したメス共が襲い掛かってくると予想していたが」
「………発情したメス共って……」
別に間違いじゃないだろ。と思ったがデュノアも織斑寄りの思考を持っているようだな。ここで切るのは早計が過ぎる。
「ああ、悪いな。癖みたいなものだ。女関連だと苦労と死線しかなかったからな」
昔はパソコンが友達と言わんばかりに姉の後を追っていたんだが、それがいつの間にこんなことになったのやら……。
「篠ノ之君も、色々苦労してきたんだね………」
「そりゃあな。むしろ今の世の中だと男が苦労しないことがないと断言したくなる」
「……うん。そうだね」
今、間があったな。
とはいえまだ要観察だろう。答えを出すのはまだ早すぎる。
「そうだ武。どうせなら一緒に昼飯食べようぜ!」
「……しゃあねえな」
まぁ俺の飯はどうせ購買で買ったな。
俺たちは空いていたパーティ用のテーブルに座る。
「にしてもまさかフランスで男性操縦者が見つかるとは思わなかったな。身内にIS関係者でもいたのか?」
「う、うん。僕の家がデュノア社って言って―――」
「ああ、ラファール・リヴァイヴを作った」
「そう。そこなんだ」
なるほど。それでしばらくは会社にいて技術を磨いていたと言われれば回避できるな。そもそも専用機が与えられる前提とはいえ、何の訓練もなしに来た織斑の状況の方がある意味異常か。
「ところで篠ノ之君、これって―――」
「織斑の現状は気にするな。気にしたら色々と負けだ」
「……そうなんだ」
「精々、どっちと結ばれるか賭けたら良いんじゃないかってぐらいだろう」
「え? 良いの?」
と不思議そうに俺を見て来るデュノア。もしかして箒の事だろうか?
「さぁ。別におかしくないことだろう? 生物である以上は番を求める事は」
「そ、そうなんだ」
「というか箒の性格上、織斑ぐらいしか相手いないしな。後は胸で誘った男で当たればってところじゃないか?」
「……聞こえているぞ」
俺を睨む箒。夏服になって少しばかり解放感があるが、それでもまだ固さは抜けないようだ。
「武さん、今日はサンドイッチを作って来ましたの? いかが?」
「そういえばサンドイッチってイギリス発祥だったな。一つ頂くとしよう」
オルコットが出してきたバスケットからサンドイッチを一つもらった俺はそれを食べる。どうやら味はそれなりのレベルがある―――と思っていたのかと嘲笑うように俺の味覚を不能にさせた。
『ちょっと、何食べたの? あなたの体内から毒物から検出されたんだけど!?』
ふむふむ。中々に個性的な味をしているな。
「オルコット」
「何でしょう?」
「はい、あーん」
「え? いやその―――」
無理矢理突っ込んだサンドイッチ。オルコットが持ってきていた紅茶をぶちこんだ俺はそのまま無理矢理口を閉じる。そして―――白目をむいたオルコットは倒れた。
「お、オルコットさん!? オルコットさん!!」
「安心しろ、デュノア。食してみたところトリカブトなどの毒はなかった」
「そういうこと言っている場合!?」
俺は三つほど量子化して零司に成分分析を依頼する。
「安心しろ。無免許名医から万能薬を貰っているし、さっき入れておいた」
「そ、そうなんだ……って無免許!?」
「ただし可愛い」
「見た目に騙されちゃダメだよ篠ノ之君!?」
「漆黒の堕天使が言っていた。思考は時という材料でいくらでも塗り替えられる。故に可愛い少女は愛でるべきだとな」
「天の道を行って総てを司る人みたいに言ってもダメなんだからね!! あと、その堕天使さん色々と大丈夫なの!?」
「大丈夫だ。ただ身内に甘すぎて敵対者は四肢を切り落とすが」
にしてもデュノアは意外と博識だな。最近では動画サイトでアップされているが、女には「男を増長させるためのものでしかない」と何度も削除依頼をされているシリーズだと言うのに。
「なんだろう。篠ノ之君の取り巻く環境が凄まじい事が簡単に想像できてしまう」
「付いてこれるだろうよ。選ばれた人間ならな」
「あ、うん。そうだね……否定しないんだ……」
「実際凄まじいし壮絶だったぜ。考察含めて本一冊書けるくらいは」
と軽口を叩くが、流石に「本一冊」は言い過ぎか。
「なんていうか……アンタがそこまで他人に気に掛けるなんて意外ね」
凰が失礼な事を言ったのでデコピンしてやった。
「痛ったい!? めっちゃ痛いじゃない! 何すんのよ!?」
「なぁに。やりたくなっただけさ」
「ひっどい! 痕が残ったらどうするのよ!」
「きっと良い人が見つかるだろうよ」
そう言うと凰はキーキー喚き始めたが、俺がある一点を少し見たことで大人しくなった。
「何してんのよ、アンタ」
「ん? 凰でも欲しいと思う奴がいるのかと思って」
「……一度アンタら兄妹と決着をつける必要があるみたいね」
と炎のオーラっぽいものを出す凰。その時にオルコットが置き出した。
「う、うぅ……わたくしは……」
「お前の名前はセシリア・オルコット。つい最近までイギリス代表候補生として頑張っていたが、俺に完全に敗北した際に自分の愚かさを知った後に弟子入りするために日本に帰国。今では師である俺の性欲処理もする間柄に―――」
「そ、そうでしたわね。わたくしは師匠の性欲処理も―――してませんわよね!?」
「そもそも欲情した記憶がないがな。……って言うか俺、思春期真っ盛りなのに欲情した記憶がない……」
クロエもアレもどちらかと言えば恥ずかしさから来る奴だし、本当に俺、欲情した事ないのでは……?
「いやいや、いくらなんでもそれは……」
「姉妹で巨乳な上に発情しないし、中学の時に色々あって基本的に女嫌い。その上考えていることは面白そうなゲームが発売されるか今度はどんな武器を開発しようかとか考えていない………………いや、そんな事ないよな? いくらなんでも……」
本来なら俺もそれなりに染まってきたこともあって楽しくなるはずだった食事会は、下ネタに近い会話内容なのに俺が発情した記憶がないせいで静かなものになった。
午後からの授業に出ると、俺がリーダーを務めるチームのメンバーは一新されていた。織斑先生がメンバーを組み直したらしい。そのおかげか俺の所だけ二組の人間がいなくなっていたが、それについては敢えて触れないし、黙っておくとしよう。
そして俺のところは俺が破壊したラファール・リヴァイヴを修復するという仕事だったが、布仏がいてくれたおかげで割とスムーズに行っている。
「しっかし、ムカついたとは言えよくもここまで破壊できたな、俺」
「そのおかげでこっちは得した気分だけどね~」
「そんなもんか?」
「そりゃそうでしょ~。まだこの時期で機体の修復体験なんて早々できないから~」
なるほどね。先にこういう経験ができるってのは貴重なのか。それに俺にとってストッパーにもなる。俺が修復すると悪い面しか見ずに改造しちまうからなぁ。
なんて会話をしていると、誰かが小さく「あ…」と言った。俺はそこに行くと、処置を間違ったようで泣きそうになっている。
「あ、そこは―――」
「ひぃっ!?」
俺を見た瞬間、悲鳴を上げる生徒。誰だったか……誰だっけ?
「落ち着けよ」
「でも私、ミスして……」
「まだ俺ら学生だぜ? これくらいのミスで誰も怒らねえよ。取引先とかもないんだからミスしたくらいで怖がるな。それでここだけどな―――」
状況を説明するとその生徒は真剣に聞き始める。そしてもう一度やらせてできた事で凄く喜んでいた。
「んじゃ、続き頑張れよ」
「はい!」
とりあえず俺は離れて、と。少しして難しい処置があったのか布仏が戻ってくる。
「たけっち、やっちゃったね~」
「何がだ?」
「ないしょ~」
いや、教えろよと言いたくなったが、その時に零司から連絡が入る。それは例のサンドイッチの成分分析と―――俺が待っていたものだった。零司には授業が終わったら直行する旨を送り、今は授業に集中する。
「そういえば、さっきたけっちが倒したひと、一週間停学だって~」
「へー」
「…あまり興味なさそうだね?」
「まぁな。また俺に喧嘩を売るって言うなら、その時は消すさ」
「そっちか~」
そりゃそうだろうよ。敵となるならそれ相応の心構えをしろ。ないなら来るなって思っているからな。これでも伊達に戦い続けていないさ。
ラファール・リヴァイヴの修繕も終わったところで、同じクラスの
「あの、篠ノ之君。ちょっとお願いが……」
「どうした」
「その、ボーデヴィッヒさんのところで、なんだけど……」
言いにくそうにする鷹月。何を言いたいのかわからない俺に変わり、布仏が言った。
「たけっちはハッキリ言われないとわからないから、ちゃんと言った方が良いよ~」
「……助けて欲しいの」
「…………」
助けて欲しい、か。ボーデヴィッヒの方を見ると、自分の分に一生懸命で訓練機の方には目をくれない。山田先生が話に行っているが、まともに取り合うつもりはないようだ。ちなみに織斑先生は呼び出しを食らって授業の頭から来ていない。朝の山田先生効果もあるからか生徒を任せたのだろう。
俺は布仏に軽く指示してからボーデヴィッヒのところに向かった。
「ですから―――」
「ボーデヴィッヒ、自分のチームメンバーの面倒ぐらい見たらどうだ?」
そう声をかけるとボーデヴィッヒは俺を見てから鼻で笑った。
「レイヴンか。貴様は違うと思ったがどうやら見込み違いのようだな」
「そんな判断で大丈夫か?」
「当然だろう………おい。何故そこで頭を押さえる」
そこは「大丈夫だ、問題ない」って言ってくれよぉ!! ちなみにクロエに振ったら「大丈夫です。問題ありません」と言ってくれた。やっぱりクロエ良い子じゃん!!
「大体、何がそんなに気に入らないんだ?」
「貴様にはわからないのか?」
「ああ。全く」
「やはり見込み違いか。貴様なら理解してくれると思ったがな」
「………そう悲観するなよ。確かにこの学園の生徒のレベルは高くてそこの教師の胸は異常発達していると言って良いが、お前だって見た目に反してそこそこあるんだ。あとそこの教師の乳に大きすぎて需要がない」
「誰がそんな話をしていると思っている。それに胸など戦いにおいては邪魔だ」
「………ぐすっ」
年上の教師がなんか泣き始めたけど知らん。弾でも紹介してやろうか。……意外とアイツなら喜ぶ気がしてきたんだが。
「レイヴン、貴様はこの学園の生徒をどう思う?」
「どう思う、とは?」
「意識的な意味でだ」
「………少なくともまだまともだと思うがな」
と、俺の指示で全員を集めてボーデヴィッヒのチームの応援に行った奴らを見て考えを改めていた。
奴らは確かに意識は低い。常にISを遊びの延長上と考えている面もあることを否定はしないが、さっきの奴のように一生懸命にやっている奴もいるのだから別にと思い始めている俺がいる。……冷静になったらわかることなのだが、ああも容易くISを作る方が異常なんだよなぁ。やっぱ。でも男見下しておいてその程度の技術ってプギャーしたいんだよねぇ。
「正気か貴様!? 何故そんなことを―――」
「ちょっと最近思う事があってさ。それで考え直してみたわけ。確かに俺も女尊男卑を許容できないけどさ、少なくとも今は一生懸命やっている奴らぐらいは認めてやって良いんじゃないかって思って」
「……信じられん」
まるで裏切られたような顔をするボーデヴィッヒ。今のところ、これが本音だったりする。
「察するに、アンタは生徒たちの思考とかを否定して欲しかったとか?」
「………」
「だったら俺は止めておきな。俺は人規模ではなく世界規模で見下すタイプだ。当然だがアンタの出身地でもあるドイツも―――俺以下だと思っている」
「……ほう」
突然だった。ボーデヴィッヒは俺の顔に回し蹴りを放つ。俺は咄嗟に受け止めると俺ごと外に出て足を離した。
「ここはどこだ!?」
「学園内さ。ただあそこだと色々と問題が起こりそうだから移動した」
「転移も使えるだと!? 転送装置は出していないはずだ?!」
「あったとしてもわからせるわけないだろう。それに説明したとしても理解できまい」
「……流石は篠ノ之束の弟と言ったところか」
この技術は俺独自のモノだったりするんだけど、それは野暮か。
それにしてもあんなところで戦闘を始めようとするとは、ドイツはかなりの狂犬を飼っているらしい。趣味が悪いと言わざる得ない。
「悪いがあそこで戦闘なんて勘弁してくれ」
「何をそんなに怖がる?」
「あそこで戦闘をすれば他の奴が被害に遭う。それはアンタがご執心の織斑千冬にだって迷惑が掛かるってわからない?」
「くっ……」
どうやらご執心ではあるが故にあの女には迷惑をかけることはしたくないようだ。
「まぁいい。ここは退いてやる」
そう言ってボーデヴィッヒは大人しく去る。あのままだと孤立するっていうのもあるが、何よりもとんでもないことをしそうだな。なんとなくだがヤンデレの気を感じる。狂信者共も大概厄介だが、ボーデヴィッヒはそれ以上の存在な気がしてきた。それにしても―――あのボサボサした髪を物凄く手入れしたい。