ドイツの代表候補生――ラウラ・ボーデヴィッヒによって引き起こされたVTシステム事件。それがVIP席を強襲するというのはかなりの衝撃を与えた。
だがただ一人、その犯人である男性は別の衝撃を与えられていた。
(信じられん……よもや生身でVTシステムを機能停止させるなど)
しかもそのやり方が乱暴すぎる。下手すれば中身や自分すらも掴まってしまうかもしれない―――と、ここで男性はある事に気付いた。
(何故だ……)
このVTシステムは従来のシステムをさらに改良したもので、ある一定のレベルに達すると自動的に発動し、ある一定のレベルに達すると自動的に操縦者を捕食するようにプログラムし直したものだ。つまりはただのVTシステムではなく、最早別物と言っても過言ではない。そしてそのレベルはある人間のGOサインが出たことで実施され、今こうして現存している。
だが映像の中の人物はそれすらものともせず、手に入れていたのだ。
「………つまり、こいつは―――」
その時だった。男性が持つPCが突然爆発を起こした。さらに男に刃が突き立てられる。
「かはっ……だ……誰だ……」
「博士。あなたの役目は終わりです。お疲れさまでした」
それだけ伝えた誰かはPCを回収しようとするが、既にほとんどが燃えていることを確認する。
「どうだ?」
別の人間が現れてPCを確認するが、首を振る。
「そうか。では当初の目標通り―――ローレライを回収する」
そう言うと別の人間たちが現れて死体を回収。他の者たちは行動に移した。
突然の事だった。ラウラは勢いよく起き上がる。突然のことにたまたま顔を見せていた千冬も驚いて声をかけた。
「だ、大丈夫か……」
声をかけてきた相手が誰かと認識したラウラの口から思わず声が漏れる。
「……きょう…かん……」
「学校では織斑先生だと……はぁ、まぁいい。とりあえず身体を拭いていけ。凄い汗だぞ」
「………すみません」
ラウラは受け取ったタオルで汗が酷い首や顔を拭き始める。千冬はそれを見て内心舌打ちをしたのは嫉妬心からである。
しばらくして落ち着きを見せたラウラに千冬は声をかける。
「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲があると聞いていたが、その分だと問題ないようだな」
「………何が起こったのですか?」
「一応は重要案件である上に機密事項なのだが……当事者であるお前には伝えておこう」
ドアの方を見て誰もいないことを確認した千冬は質問をした。
「VTシステムは知っているな?」
「はい。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム……。過去のモンド・グロッソの
「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに積まれていた」
「………そんな」
「巧妙に隠されていたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意思……いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」
「……願望」
ふと、ラウラは思い出す。あの時自分は何を願っていたのかと。そしてそれは―――
「……私の奥底が篠ノ之武を倒すための手段として、あなたになることを望んだから、ですね」
「…………私になる、か」
「―――たぶんそれ、お兄ちゃんに言ったら爆笑するか全力で止められると思うよ」
そう答えたのはラウラが見た事がない少女だった。いつの間にかラウラがいるベッドに上がって近づいてきている。
「何をしている、楓」
「新しいお兄ちゃんの下僕の体調管理に」
「不要だ。大体、いつの間に現れた」
「あ、大丈夫。千冬ちゃんがばらしていた事は黙っておくから」
「そういう問題ではないのだがな」
ため息を吐く千冬だが、楓は構わずラウラの胸を掴んだ。その無駄のない動作にラウラも千冬も思考を止めてしまう。
「み、見た目と違ってそれなりに大きい。これならお兄ちゃんも喜んで吸ってくれるかもね」
「さっきから何を言っているんだ、お前は」
「千冬ちゃんのおっぱいも捨てがたいんだけど、9歳も上だとお兄ちゃんが拒否反応を起こしちゃうからねぇ。ごめんね?」
「………あの、彼女は?」
「篠ノ之家の三女で天真爛漫な残虐天使こと篠ノ之楓です。よろしくね、
妙な発音に違和感を覚えるラウラ。しかし楓の独特な動きと「篠ノ之家の三女」という言葉にある事に気付く。
「……まさか、あの男の妹か?」
「うん。影響を受けているって点では。あ、ちゃんと血も繋がってるよ? そうじゃなかったら今頃お兄ちゃんとエッチなことしているから」
「堂々と教師の前で風紀を乱す事を言うな」
「………」
急に黙りだすラウラ。その様子がおかしいと思った千冬はラウラに声をかけようとすると、急に震え出した。
「………おい、ラウラ」
「す、すみません……」
「―――
楓の言葉に注目する二人。視線が集まったのを見て楓はラウラに確認した。
「知っちゃったんだ。ああなってしまった始まりを」
「……だがおかしいだろう。現実であんな覚醒など―――」
「忘れた? そこにいる
「……そうか?」
と疑問を呈したのは千冬だったが、それは付き合いの差だろう。
千冬の発言に驚いた楓だが、少し考えて納得する。
「でもラウラお姉ちゃんなら大丈夫だと思うよ」
「……その根拠は?」
「低身長」
「………はい?」
予想外な言葉に反応したのは千冬だった。
「お兄ちゃんの趣向の一つで低身長の女の子を可愛がるところがあるから、たぶん―――」
そこまで言った楓は姿を消した。同時に千冬は入り口を警戒すると、ドアがノックされる。
「誰だ?」
『すまないね。ラシウス・クロニクルだ』
男性の声だが、その名前をこの場で知らないのは楓ぐらいだろう。千冬は少し緊張した声で「どうぞ」と答える。
「ご無沙汰しております、元帥殿」
「なに、楽にしてもらって構わんよ。今回の私は彼女にとって悪役だ」
と自嘲気味な笑みを見せるラシウスと名乗った男性は「単刀直入に言わせてもらおう」と前置きをして告げた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。今回の君の処分に関してだが、残念ながら君をドイツ軍並びに国家代表候補生から強制除籍。そして―――国外追放処分となった」
あっさりと告げられたその宣言に、ラウラは顔を青くした。
「待ってください。それはあまりにも―――」
「だが彼女は暴走状態だとしても、他国の人間にも危害を加えてしまった。となればこちらもそれ相応の対応を取らねばならないのでね」
「………つまりは邪魔な尻尾を切ったという事でしょうか?」
「そんな意地悪な言い方は止めてくれ」
と降参のポーズを取るラシウス。否定をしないところを見るに、どうやら本気だと理解した千冬は鋭く睨みつけようとしたところで先にラシウスは言った。
「話は以上だ。身体を癒した後に早々に立ち去るが良い」
「待ってください。話はまだ―――」
ラシウスの後を追って外に出る千冬。残されたラウラは呆然としており、楓は心配そうに見ていたが、やがて耐え切れずに部屋を出た。
「一体何を考えている、あなたは」
「………ここまで来れば良いだろう」
そう言ったラシウスは千冬に向き直り、話始めた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒの処分だが―――あれは仕組まれたものだ」
「何を根拠に?」
「IS学園に所属しているという協力者から連絡があったのでな。シュヴァルツェ・ハーゼを排除するために軍が動いていると」
「……一体誰がそんなことを―――」
「その相手はわかっていないが、その者はシュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが仕組まれている事を言い当てている」
ラシウスは懐から紙を出した。そこにはシュヴァルツェア・レーゲンのVTシステムの件と、それを仕組んだ罪でシュヴァルツェ・ハーゼが排除されることが書かれていた。しかも文面の最後に「IS学園からの使者」とも記載されていた。
「……一体誰が」
「君なら知っていると思っていたのだがな」
「……心当たりはありません。それを可能とする者は数名心当たりがありますが、わざわざあなたに報告するような性格はしていないので」
その言葉で頭を過ったのはうさ耳を付けた女性だが、ラシウスは「確かに」と内心同意した。
「これは彼女の荷物、そして彼女用に口座を作らせている。今後は日本で生活をすれば良いと思ってな」
「……ありがとうございます」
「なに。私とて遺伝子強化素体の存在と権利に疑問を持っている者の一人だ。これくらいはさせてもらうさ」
そんな時、千冬の携帯電話から着信音が鳴る。
「誰だ?」
『た、大変! ラウラお姉ちゃんが消えちゃった!!』
「………は?」
今しがた、彼女の荷物を渡されたところである。しかも見えない敵の目的が「排除」と来ているのだからどう考えても危険すぎる。
千冬はラシウスに「失礼します」と言ってからすぐにラウラが寝ているはずの保健室に向かう。そこには既に誰もおらず、ただ枕元にあったはずの制服は回収されていた。
■■■
目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入るが枕が眠るにはあまり適していない柔らかさをしている。だがこれはこれでと思っていると意識がはっきりしてきた俺は誰の膝を枕にしているのか気付いて声をかける。
「何やってんの?」
「束様が言うには、この方が男は喜ぶと」
「否定はしな―――そんなわけないだろう」
「………流石の私でも、それは嘘だとわかりますよ」
別に俺は女に対して容赦はしないが女が嫌いってわけじゃないからな。例え気に入った相手が女尊男卑だったとしても絶望を植え付けて抗う事こそが無駄だと心と体に教え込むくらいには異性に興味はある。だがそんな女なんて一握りでしかないし、俺みたいな男と恐怖心以外で一緒に居たいと思う人間なんているわけがない。
というかマジで世の中の女はクロエの従順系美少女っぷりを見習った方が良い。従順系美少女はこれからの時代流行るから。
「………」
膝枕状態でクロエを見上げるというのは、つまりは彼女の胸も見えるわけだ。俺の目測に狂いがなければ、クロエの胸は少し成長したと思う。………うん。落ち着け。流石にそれはアウトだろ。
「どうしました?」
「そろそろ離れた方が良いかなと思ってな」
するとクロエは俺の顎に腕を回してきた。
「ダメです」
真剣な顔で見てくるクロエから良い匂いがしてきて、俺は理性をなんとか抑える。
「クロエ。前々から言いたかったんだが。別に俺のために無理はしなくていいんだぞ?」
「無理なんてしてませんよ」
仕草の一つ一つがここまで可愛い子がいただろうか。楓以外に見たことがないのは確かだろう。それにしても自然と首を傾げる少女がいるとは。おじさん、あまりの感動に鼻血をぶっ放しそうになった。
もはや理性が崩壊寸前なのだが、本当に気合でどうにかしているところにクロエは顔を近づけて来る。
「ストップ、クロエ。それ以上はダメだ」
「……何故ですか?」
断られるとは思っていなかったのか、不満そうな顔をするクロエ。その顔がもう可愛くて可愛くて仕方ない。
「それは―――」
「流石は束様です。武様の理性をこうも容易く壊してくれました」
クロエはおそらく彼女の持つISから鏡を展開して俺のにやけ顔を映した。
「………うわ、きもっ」
「それが今の武様の顔ですよ?」
「死にたくなってくるな」
しかもそれがリアルタイムでクロエに見られるなんて死にたいなんてレベルじゃない。
「ちなみにこれが寝ている時に武様です」
と言ってクロエは俺に寝ている時の顔を見せてきたが、それはもう酷いものだった。しかも寝言で「クロエ、あーん」とか言っているからよほど世間には見せられない酷い夢を見ているのだろう。おそらく、俺の願望の一つであるクロエが小学生の時分で懐く姿に興奮していたのだろうか。ここまでさせるクロエの膝はおそらく魔境でできている。……うん。これはシャレになっていないわ。
「止めてクロエ。もう俺、お婿に行けない!」
「その時は私がいますよ?」
怪しい笑みを浮かべるクロエ。彼女の顔に触れようとした瞬間、ドアがノックされた。クロエはすぐに姿を消し、俺は立ち上がってドアを開けるとスーツ姿の轡木さんがいた。
「……こんにちは。轡木さん」
「ええ。お久しぶりですね。姪御さんといたしている時に申し訳ない」
「………部屋には妹しかいませんよ?」
「篠ノ之博士から正式にお達しが来ていましてね。ほら、これ」
スーツの内ポケットから書状を出す轡木さん。それを受け取って中身を確認すると、そこは確かに乱暴な字で「弟の心的ストレスを軽減させるために娘をそっちに送るよ。誘拐とかしたら箒ちゃんとたっくん回収してそこぶっ壊すから」と書かれていた。珍しく織斑姉弟の名前がない。
「ところで、この書状に対する返信をしたいので姪御さんに渡していただけませんか?」
「……何書いたんですか?」
「彼女にとってのメリットですよ。まさか三回り下の女性と文通まがいの事をするとは思いませんでしたが」
「あれは有能過ぎてまともに男ができない部類ですからね」
あといくら轡木さんでも孫持ちはちょっとって思う。
「それにしても、随分と派手にしたようですね。それで気絶とは、弱くなったのではありませんか?」
「……ですね。三月の時まではアレ以上に暴れたのに無事でしたから」
地形変わったしなと考えていると、俺の視界に着信アリのモーションが稼働した。
「失礼。どうした?」
『お兄ちゃん、ラウラお姉ちゃんがいなくなったの!』
「……ボーデヴィッヒが?」
いなくなる原因でもあったろうかと考えていると、轡木さんは面白そうな顔をした。
「わかった。こっちでも探しておく」
そう言って通信を切り、轡木さんに確認した。
「そういえばアイツはどうしました?」
「戻ってきていますよ。ですから、あなたが私に許可を求めて外に出たとしても、何の問題もございません」
「そいつは重畳。では準備してから行きますので」
「………私から一言良いでしょうか?」
「何でしょう?」
あまり派手な事はするな、とかだろうかと考えていると、俺の考えていた事よりも斜め上の事を言われた。
「彼女たちにも人生があるので、性欲が抑えられないからと言って姉妹丼を楽しんだ挙句に妊娠は止めてあげてくださいね」
「それに関してご心配なく……って、姉妹丼って何ですか!?」
「またまたぁ。御盛んな事はこのご時世的にも良いことですがね」
「そういう事じゃないですから!!」
思いっきりドアを閉めて鍵をかける。全く。これでクロエが変な誤解をしたらどうするんだ。そりゃクロエは可愛いけど、俺としては姪としか見ていないのだからそういう感情はないと―――
「………あ、あの……」
少し恥ずかしそうにしているクロエ。安心して。俺はその気は一切ないから。
そう思いながら俺はクロエに姉貴に渡してもらう手紙を渡す。
「ちょっとクラスメイトを回収してくる。今日は帰ってくれ」
「………」
すると真顔になったクロエ。声は聞こえているみたいで助かった。さて、どうやってこいつを姉貴の所に帰ってもらおうかと考えていると、クロエはとんでもないことを言い出した。
「……あの女を求めるのは、私の身体がおかしいからですか?」
「? いや?」
可愛がったら可愛いだろうなと思っているだけなんだが、この子は一体何を言っているんだ?
「私だって色々な事はできます。性知識だってあります。だから、私を……捨てないで……」
何故そんな話になるの!?
「クロエ」
「……あなたが望むなら、私もこの学園に通います。束様にお願いしますから……」
それを聞いてからか、それとも欲望に忠実になっただけかはわからないが、俺は自然とクロエを抱きしめて、彼女の唇にキスをしていた。
とうとう姪に手を出した主人公。一応、何故クロエがこうして武を求めるから後々書く予定です。