十五話の内容が大幅に変わってますので、お手数ですがまずそちらを先にお読みください
十六話の方は旧十五話とそれほど内容が変わりません。あと短めです
わりときわどい政治的な内容があります
興味がない方にはつまらないかもしれません
戦記ものなのでこういう話もありますよという事でひとつご容赦を
鄧艾にとって陳震との別れはすでに一度覚悟し、経験した道なのだと一刀は理解した。
そしてそれ以外に鄧艾をこの世界に引き止めうる
(天涯孤独……か。思えばリンが俺と萃香に傾倒するのはそれが原因なんだろうな。であるなら、その信頼は裏切れない。日本に戻るにせよ戻れないにせよ、俺が幸せにしてやらないと)
鄧艾の父親になったような気持ちで、一刀は固く決意した。
「まあ元の世界に戻る方法を探すと言っても、現状では雲を掴むような話さ。これといって手がかりもないしな。現実的に考えれば長期間、あるいは二度と戻れない覚悟をした方がいいのかもしれない」
「そうですか……」
一刀の見解を聞いて、痛ましげな顔をする鄧艾。
どちらかと言えば戻る方法など見つからない方が鄧艾にとっては好都合だが、むろんそれをわざわざ表に出したりはしない。
「だから次善策として、この世界での身の振り方を考えた。やりたい事その二、だな」
だいぶ寄り道をした気がするが、一刀的には今から語る方が本命の案だ。
元の世界に戻る方法を探すにせよ、まずは地に足をつける必要がある。
「はい。それは?」
「まずはこの世界に基盤を築く。そしてゆくゆくは……漢王朝を生まれ変わらせたい。平和が千年以上続くような国に」
「は……」
予想以上に気宇壮大で突拍子もない話だったため、さすがの鄧艾も絶句した。
そんな鄧艾の反応を見て、一刀は苦笑する。
「身の程を知らない、大きすぎる目標だってのは自分でもわかってる。でもさ……俺はリンみたいに理不尽で不幸な目に遭う子供を一人でも減らしたいんだ。そしてその為には国を長く平和に、豊かにして人々の意識を変えていかなきゃいけない。そうすれば……遠い未来でこの中華が孤立する事もなくなるはずだ」
遠い目をして語る一刀を見て、その言葉を聞いて、鄧艾の背に鳥肌が立つ。
「お兄さまの言う事はあまりにも壮大で、遠大すぎます……」
「ははっ、そうだな。我ながら誇大妄想もいいとこだよ」
「でも、それくらい大きい目標がある方が支え甲斐があります」
熱っぽい目で一刀を見つめる鄧艾。
思いのほか肯定的に受け止められた事で、気恥ずかしくなった一刀はぽりぽりと頬をかいた。
鄧艾はやや興奮した面持ちで、一刀に質問する。
「お兄さま、聞かせてください。遠い未来で中華が孤立する、とは?」
「ああ。これは俺の個人的見解なんだが……この国は戦乱の時代が長く、頻繁に訪れる。そしてその度に既存の王朝が倒れ、新たな国が興る。そういう事をこれから二千年近くも繰り返してゆくんだ」
「……それは、予言ですか?」
以前一刀は鄧艾に別世界からやってきたとは説明していたが、そこが時代的に未来の世界だとまでは教えていなかった。
厳密に言えば世界が違うので未来から来たとははっきり言えなかったし、詳しく説明する状況でもなかったためだ。
「そう思ってくれて構わない。とにかく、何千年も戦乱と王朝の滅びを繰り返してきた結果、この国の民には“中華思想”とでも言うべき考え方が根付いてしまったんだ」
「中華思想、ですか……」
「そうだ。それがどういうものか、一言で言えば……『他人を蹴落とし、自分が利益を得るためならあらゆる手段が正当化される』という、極めて利己的で傲慢な思想だ」
「なるほど……争ってばかりいる時間が長すぎて、人々の心が荒んだのですね」
「ああ。なまじ戦争では勝つためにあらゆる手段が肯定されがちだ。勝てば官軍という言葉もある。勝つために相手の嫌がる事、裏切り騙し討ち暗殺等々、卑怯卑劣な戦い方を続けてきた結果、民個人の価値観にもそれが定着してしまったんだよ。何事であれ、どんな手を使ってでも成果を、利益を得るのが人として正しい事だってな」
「理屈としては解りますが……そこまで人心が極まってしまうと社会の秩序を維持できなくなるのでは?」
「もちろん、そうならないよう体制側も法と武力で取り締まるし、善人だって沢山いる。体裁や建前を投げ捨ててまであからさまな利得行動に出る者はそう多くない。だから、社会の維持自体はできる」
「なるほど」
「ただ……価値観や思想の根底にその中華思想が染み付いている人民が十億人以上いる。そんな大国があったとして、果たしてその国はどんな振る舞いをすると思う?」
「それは……他国へは高圧的に接し、可能な限り搾取しようとするでしょうね。同じような大国が相手なら、どんな手段を使ってでも蹴落とし、奪おうとする。対等の相手など認めない。そんなところですか?」
「さすがはリン、正解だ。付け加えるなら、その大国は自国の民からも搾取するし、役人など支配者層では賄賂や汚職などの腐敗が横行する。まあ、今の漢帝国もすでに似たような状況だけどな」
「その結果が遠い未来での中華の孤立……ですか。理解はできましたが、数千年先の十億人の国だなんて、とても想像ができません」
「はは、だろうね。俺がいた時代では、全世界の人口が70億人以上いた。そのうち15億人くらいが中華の地で暮らしていたよ」
「70億……」
鄧艾が呆然とする。
「話が長くなったが、とにかくだ。人民に中華思想が蔓延するのを防ぐ。そのために戦を減らし、平和な時代を少しでも長くして、道徳と倫理と良心を醸成する。その手段として、俺は立身出世してゆくゆくは漢という国を立て直したい。漢皇帝の血筋が中華人民の誇り、支柱として尊敬を集め、可能な限り長く続いてゆく王朝にしたいんだよ」
一刀は考える。
日本の天皇家のように千年単位で王朝が続けば中華人民の象徴、心の拠り所になるはず。
そしてそれは長期間、平和と繁栄の時代が続くという事でもある。
(そうすればモラルの向上によって中華思想が下火となり、自分が生まれた時代の中華も多少マシな国になる、はずだ。……まあ繁栄した分、中華の人口が数倍になって東西南北中央不敗、世界最強スーパーチャイナ爆誕! なんて悪夢のような可能性もあるけどな)
近代のIF戦記ものを読みすぎて国際感覚が発達している一刀であった。
一刀の結論を聞いて、少しのあいだ考え込んでいた鄧艾が口を開く。
「……お考えは解りました。お兄さまは、王道を往かれるのですね」
「そうなる、かな。まあ王道と言っても、この時代では力を示す必要があるけどね。ただそれにしたって、戦は少なく済ませたい」
「未来を知るお兄さまは、この国がこれから乱れるとお考えなのですね?」
「ああ。俺のいた世界と同じように歴史が進むなら、近いうちに漢帝国は乱れ、そして滅びるだろう」
「漢が、滅びる……」
「それを防ぎたい。そのためには立身出世が必要だ。漢王朝を守れるだけの力を俺は得なければならない」
想いを口にする事によって段々と決意が固まり、一刀の顔つきが凛々しく真剣なものに変わる。
その表情は鄧艾の目にとても眩しく映った。
(ああ……やはりお兄さまは……天が遣わした救世主その人なのですね……)
誰かに心奪われるというのはこういう事なのだろうか。
心惹かれる異性だと一刀をはっきり意識したのはきっとこの瞬間だったと、鄧艾は後になって考えるようになる。
「今の俺には地位も力も、この国の一員であるという戸籍すらない。だが――知識ならある。この時代のものより遥かに高度な、未来の知識が。それを活用して成り上がろうと思う。だからリン、萃香。俺に力を貸してくれ」
「私にできる事であれば何なりと。微力を尽くします、お兄さま」
「ほどほどでいいなら手伝ってあげるよ」
鄧艾は目を輝かせて、萃香はダレたまま軽く片手をひらひらさせて応じた。
一刀が言う中華思想は一般知識のそれとは異なるので鵜呑みにしないようお願いします
あくまで作者独自の歴史観に基づく考察です
要は孔明の罠だ! みたいな卑怯卑劣上等な戦争のしすぎにより個人レベルでその価値観が根付いてしまった結果が今の中○人かなと
(作者の偏見だと思われましたら申し訳ありません)
以下続きは活動報告にて。