東方外典 萃姫†無双   作:古葉鍵

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■第十七話 太閤立鬼伝的な計画

 

 

 

「まずは商売を始めようと思う」

 

 話し合いの結果、一刀の立身出世のために活動するという方針が定まった。

 そのために何をすべきか、という話の流れで一刀が提案した。

 

「商売……ですか。なるほど、売官制度を利用するのですね?」

 

 察しの良い鄧艾が一刀の考えを言い当てた。

 一を聞いて十を知るとはこの事か、と一刀は内心で舌を巻く。

 

「ああ。未来の知識を利用して商品を作り、売って、金を稼ぐ。そしてその資金で地方の太守、できればこの南陽郡太守の位を買いたいと思ってる」

 

 鄧艾はしばし沈思黙考して、答えを出す。

 

「……いくつか問題はありますが、方向性としては良いお考えだと思います」

「ありがとう。ちなみにリンの考える問題って?」

「そうですね……まず大きな問題として、お金があれば必ずしも意中の官位が買えるわけではない、という事でしょうか。また、官を買うためには当然、朝廷の中枢に口利きしてもらうための人脈が必要となります。さらに言えば、無位無官の者がいきなり高位の官職を買おうとしても恐らく許可が下りないでしょう」

 

 つらつらと鄧艾が問題点を挙げるたび、一刀の顔が曇ってゆく。

 

「難しいのは分かっていたつもりだったけど、結構厳しいな」

「そうですね。官を買うにも最低限の資格はいる、という事でしょう。他にも、買官で地位に就いた場合、名声が地に落ちる、という問題もあります」

「ああ……そりゃそうか。金で地位を買った奴なんて、誰も尊敬したりしないだろうしなあ。むしろ軽蔑の対象になりそうだ」

 

 両腕を組んで、うんうんと頷く一刀。

 

「ちなみに買官ではない通常の任官でも、後でお金を支払わされるそうですよ」

「え、そうなの? だとしたらお金がない人はどうするんだろ」

「何でも借金をしてでも払うそうですよ。そうしないと罪に問われますから」

「マジか……酷いな売官制度。いや、ひどいのは霊帝か?」

「それはそうですけど、他人がいるところで天子の批判はしないようにして下さい。不敬罪で捕まる事もありえますから」

「そっか、この時代だと不敬罪とかあり得るのか。ありがとう、気をつける」

 

 一刀は頷き、心もち姿勢と表情を正して話を続ける。

 

「話を戻すけど、リンは買官する場合の問題点をどうやって解決すればいいか良い案ある?」

「そうですね……名声の問題は事前に何らかの実績を上げる事である程度緩和できるでしょう。また、実績はそのまま買官時の任官理由にもなりますから、希望が通りやすくなると思います。人脈の問題は、洛陽に人を遣って作るしかないですね。一番てっとり早いのは、相応しい立場の者に献金して口を利いてもらう事でしょう」

「献金か……それって賄賂を贈って便宜を図ってもらうって事?」

「ありていに言えば、そうです」

「やっぱり賄賂かぁ……」

 

 現代日本でも政治家に対する献金については問題視されたり、スキャンダルとして取り上げられる事が多い。

 当然ながら、献金だの賄賂だのといった行為に対する一刀のイメージは悪かった。つまりそれだけ、その手段に対する抵抗感が強いとも言える。

 

 だが郷に入りては郷に従えと言う。

 別に三国志時代でなくとも、現代中□では体制側に何らかの希望を通そうとすれば、大なり小なり付け届けや便宜の供与が必要になる。

 それを知っていた一刀は、必要な事だと割り切った。

 

「まあ、それは仕方ないな。で、実績作りの方だけど、具体的にはどんな事をすればいいんだ?」

「それは立場と能力によりますね。商人でしたら名声の高い人物を食客にして世話をしたり、経済的に援助したりする場合が多いです。他には貧民に施しをしたり、賢者と交流して人物だと世間に広めてもらったりですね。あとは、恒常的に取れる手段ではありませんが、私兵団を組織して賊を討伐するなどの方法もあります。いま思いつくのは、ざっとこれくらいでしょうか」

「なるほど。要約すると食客、施し、交流、賊討伐の四つか。さて……」

 

 一刀は腕を組んで考え込む。

 

(どの手段を取るにせよ、それなりの資金が必要だな……やるとしたらある程度商売が軌道に乗ってからか。……いや、まてよ?)

 

「なあリン。ひとつ疑問というか、質問なんだが、昨日萃香がやった賊討伐って功績になるのか?」

「それは……はい、恐らくは。どの程度評価されるかは領主の裁量によるところが大きいですが、今回のものは規模と被害が大きいので、何がしかの恩賞なり褒賞をいただけると思います。ただ……」

 

 鄧艾はわずかに目を伏せて言いよどむ。

 

「ただ?」

「……李厳おじさまが仰ってた事ですが、今回の件を評価する南陽太守の褚貢(ちょこう)は親劉表派です。また、鄧家襲撃の陰謀に加担していた疑惑のある人物でもあります。なので、どの程度正当に評価してもらえるか、疑問が残るところかと」

「あぁ、そっか。推測が正しければ、野盗を嗾けた側の人間だもんな。言ってみれば自分の手駒を討たれたのにそれを評価しないといけない訳だ。これじゃとても期待できそうにないな」

「はい。とはいえ、逆に言えば恩賞が見合わないものだった場合、陰謀に関与した者である可能性が高まるわけですから、それはそれで意味があるでしょう」

「なるほど確かに。ものは考えようってわけか」

 

 一刀は感心しながら頷いた。

 

 ちなみに後日、賊討伐の恩賞は相場以上の金銭を与えられる事になる。

 しかし同時に「いたずらに人心を乱す元となる故、公にすることを禁ずる」という、事件の口封じをするかのような命令も受けた。

 結果として、一刀たちは褚貢に対する疑惑を深める事になる。

 

「まあ、それはそれでいいとして。商売についてなんだが、それを語る前に萃香に聞いておきたい事があるんだ。いいか?」

「ん? いいよー、何?」

 

 テーブルに突っ伏して寝ていた萃香がぱちりと目を開け、一刀に視線を向ける。

 

「商売するに当たって、できれば萃香に力を貸してもらいたいんだけど、頼めるか?」

「あぁ、そういう事。うーん……そうだねぇ」

 

 萃香は再び目を瞑り、考え込む。

 

(必要以上に人の営みに関与するのは気が進まない……が、一刀の頼みだし、何もしないで毎日過ごすってのも暇だしねぇ。あまり面倒なものじゃなきゃ、手を貸してあげるかぁ)

 

「まぁ、いいよ。ただし、何でもやるわけじゃないし、報酬もいただくよ」

「いや、それで十分だよ。ありがとう助かる。ちなみに報酬って?」

「酒」

「やっぱりそれか。ぶれないなぁ」

 

 苦笑する一刀。

 

「まあ報酬の酒については俺の考えてる商売にも関係するからむしろ好都合かな。で、その商売についてなんだが……」

 

 かくかくしかじか。

 

「――ってわけだ。できそうか?」

「できるできないで言えばできるけどさぁ。よくそんな事思いつくねぇ一刀」

 

 萃香が呆れたように半眼で、しかし感心した口調で言った。

 一刀は心なし胸を張り、

 

「いやー、異世界での商売とか、NAISEIとか考えるのに一時期はまっててさ。アイデア……案だけなら色々持ってるんだ。あとはその中から使えそうなものを選んで、応用すればいいだけだからね」

 

 やや照れくさそうに言った。

 

「ふーん……小賢しい智慧を働かせるのは人間らしいねぇ」

「そりゃね。そうやって人間は未来を切り開いてきたんだし」

 

 萃香の皮肉を気にした様子もなく、一刀はニヤリと笑う。

 

「というわけで、商売の内容はこれで行こうと思うけど、何か問題とかあるかな?」

 

 言って、一刀は萃香、鄧艾の順に視線を向ける。

 もっとも萃香がアドバイスしてくれるとは期待してないので、実質鄧艾に意見を求めたようなものだが。

 鄧艾がアドバイザーとして有能すぎて、一刀的にはもはや軍師に尋ねる主君の気分だった。

 

「いえ、特にこれといった問題はないかと。鄧家と李厳おじさまが後ろ盾になりますから、商会の立ち上げや運営も支障なく行えると思いますし……。私は父の喪に服す必要があるため、表立っては関与できませんが、お話を聞いた限りでは人手も少なく済みそうですので、やはり問題はないかと思います」

「そっか、ありがとう。リンのお墨付きがあるなら安心だ」

「いえ、それほどでも……」

 

 少し恥ずかしそうに恐縮する鄧艾。

 その年相応の表情を見て、微笑ましい気持ちになる一刀だった。

 

 

 




果たして一刀の考えた商売アイデアとは!?
当てた人には、はらたいらさんの称号を授与(古い
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