東方外典 萃姫†無双   作:古葉鍵

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■第十八話 葬鬼後の夜会 前編

 

 

 

 一刀たちが宛入りしてから都合四日目の事である。

 

 地元の名士、鄧範の葬儀がしめやかに行われた。

 主な参列者は郡太守の褚貢をはじめ、宛県に住まう名士・有力者が多数。

 当然ながら鄧範の刎頚の友であった李厳や、その部下であり一刀と縁ができた黄忠なども参列していた。

 

 そして葬儀が終わった日の夜。

 鄧家の客室には三人の弔問客がいて、屋敷の主たちと顔を合わせていた。

 

「頼まれた通り、俺の部下で話しても問題なさそうな奴を連れてきたぞ。と言っても二人だけだが。あと岳雷……輔匡の奴も人物的には大丈夫だが、巻き込むには立場が足りんから除外した」

「ありがとうございます。二人でも十分ですわ、李厳おじさま」

 

 話の口火を切ったのは、後ろに若い女性二人を従えた李厳と、両脇を一刀と萃香で固めた鄧艾の二人だ。

 

「そうか。オイ黄忠、文聘。紹介するがこいつが鄧範の娘で、葬儀の喪主である鄧艾だ。挨拶しろ」

 

 振り返り、背後に立つ部下二人に横柄な命令口調で話しかける李厳。

 一刀たちにとって一昨日知り合ったばかりの黄忠と、文聘と呼ばれた女性の二人が前に進み出る。

 

 李厳を挟む形で前に出た二人は、神妙な表情で口を開いた。

 

「昨日ぶりですわね、皆様。改めて自己紹介を。県軍長官・李厳麾下、弓兵部隊長を務めております黄忠ですわ。今後ともよろしくお願いします」

 

 流麗な仕草で拱手した黄忠は、一刀に視線を向けてぱちりとウインクをする。

 一刀は内心どきりとしたが、動揺を表に出さずこらえる。

 

「わたしだけ初対面ってなんだか疎外感を感じるわー。えーっとわたしは文聘(ぶんぺい)仲業(ちゅうぎょう)でーす! 李厳様の下で歩兵部隊長をやってるわ。よろしくねお嬢さんたち」

 

 黄忠に続き、フランクに挨拶した文聘が拱手する。

 

 聞き覚えのある名前を耳にして、一刀は思わず文聘を凝視した。

 

 文聘は活発そうな雰囲気の二十代前半くらいの女性で、一刀が剣道部や弓道部で見かけたことのある袴のような服を着ている。喪服のためか色は黒だが。

 また、黄忠ほどではないがスタイルが良く、美人というよりは可愛い感じの顔にポニーテールの髪型がよく似合っていた。

 

 黄忠もそうだったが、とてもじゃないが勇猛な武将のようには見えない。

 せいぜい体育の女教師がいいところな印象だ。

 

(文聘か……黄忠ほどじゃないけど、またもや三国志の有名人が来たな)

 

 一刀は史実三国志における文聘の情報を思い出す。

 

(初めは劉表に、曹操の荊州侵攻後は魏に仕えた勇将。誠実な人柄で、呉軍から江夏の地を数十年も守り通した人物だったか。確かあの関羽を討った人物の一人でもあったよな。まあ演義のせいかあまり有名じゃないけど、史実通りなら黄忠にも見劣りしない武将のはずだ)

 

 実績で測るなら、むしろ李厳や黄忠よりも有能まであるな、と一刀は思った。

 

 李厳側の自己紹介が済めば、次は一刀たちの番である。

 まずは鄧艾が拱手をし、ぺこりと頭を下げる。

 

「私は前鄧家当主、鄧範の娘にしてこのたび鄧家を継ぎました、鄧艾士載と申します。よろしくお見知りおきくださいませ」

 

 卒なく挨拶を終えた鄧艾に続いて一刀が拱手する。

 

「自分は北郷一刀と申します。異国人ですが、どうぞよろしくお願いします」

「伊吹萃香。よろしくね~」

 

 一刀の挨拶が終わるか終わらないかのタイミングで萃香が声をあげ、片手を軽く上げる。

 萃香に関してはもう挨拶してくれるだけマシであると一刀は悟りきっていた。

 

「李厳おじさま、黄忠さま、文聘さま。この度は我が亡き父の葬儀にご参列くださりありがとうございました。そしてまた、深夜にも関わらずこうしてお集まりいただき感謝いたします」

 

 お互いの挨拶が終わったところで、鄧艾が社交辞令と共に一礼する。

 

「ハッ、相変わらずお堅いな鄧艾の嬢ちゃん。だがまあ、当主としての振る舞いが早くも板についてきたじゃねーか。これなら鄧家の立て直しも順調に行きそうだな」

「恐縮です。これも李厳おじさまを始め、先達の皆さまのご指導の賜物かと」

「カカカ、その調子その調子。さて、時間に余裕があるわけでもなし、さっさと話し合いを始めようか」

「そうですね。では皆さま、こちらへどうぞ」

 

 気の置けないやりとりをした後、鄧艾が手振りで部屋の奥にあるテーブルへと李厳たちを誘う。

 片側五人は座れそうな大きめのテーブルに、鄧艾側と李厳側の三人ずつが向かい合って着席した。

 

 全員が落ち着いたのを見計らい、鄧艾が口を開く。

 

「それでは話を始めさせていただきます」

 

 そう宣言して李厳側の三人を見渡すと、それぞれが真剣な顔で頷く。

 鄧艾もまた頷き返してから、話を続ける。

 

「私がこれから話す事は、鄧家が野盗に襲われた前後の経緯。そして、鄧家を滅ぼそうとした荊州牧・劉表の策謀についてです」

 

 鄧艾が本題を切り出すと、黄忠と文聘の目が鋭く細まった。

 黄忠が流し目で視線を李厳に向けて問う。

 

「李厳様?」

「俺はすでに嬢ちゃんから話を聞いた。その上で劉表はクロだと判断してお前らを集めた。まァとりあえず話を聞いて、それから判断しろ」

「インボーの匂いがするわね!」

 

 李厳がお墨付きを与えた事で、黄忠の表情が和らぐ。

 一方の文聘はわくわく顔だ。

 文聘はいい性格してるな、と一刀は思った。

 

 黄忠たち三人が聞く姿勢に戻るのを待って、鄧艾が話を再開する。

 

「文聘さまがいみじくも仰ったように、これは陰謀の話です。そも、鄧家が宛を引き払おうとしたのも、豪族の粛清を進める劉表の圧力があったからで――」

 

 そして鄧艾は先日、李厳に語った事と同じ内容を話した。

 

「――という訳です」

 

 長い説明を終えた鄧艾は肩の力を抜き、予めテーブルの上に用意してあったお茶を飲んで乾いた喉を潤す。

 

「とまァ、そういうわけだ。黄忠、文聘、お前らは今の話についてどう思う? 忌憚のない意見を聞きたい」

 

 腕を組んで椅子の背もたれに体重をかけながら、李厳は部下たちに尋ねた。

 

「そうですわね……確かに私も、今回の件は偶然にしては出来過ぎていると思いますわ。荊州牧の手によるもの、という推論にも納得がいきます」

「そうだねーわたしも紫苑と同意見かな。宛の近郊で大規模な賊? そこがまずおかしいもん。南陽の目ぼしい賊団なんてとっくの昔に駆逐済みだっての。たぶん小規模の賊を糾合したか、ごろつきを雇って野盗団を組織したとかじゃないかな。だとしたら州牧サマもずいぶん舐めたマネしてくれたわよねー」

 

 ふふふと好戦的に嗤う文聘。その背後に虎のオーラを一刀は幻視した。

 

「やっぱお前らもそう思うか」

「そりゃそうですよー。むしろこれだけ証拠を提示されて疑わない方がおかしいですって」

「だが、どれも決定的な証拠だとまでは言えん。せいぜい傍証止まりだ。その程度で疑いの矛先を向ければ、潰されるのはこっちだ」

 

 忌々しげな表情で断言する李厳。

 隣で黄忠が頷く。

 

「同感です。ただでさえ荊州牧は実力者。勝算もなく弾劾など出来たものではありませんわ」

「そうだな。俺とて今すぐどうこう、なんて事は考えちゃいねェ。お前たち二人にこの話を聞かせたのは、劉表がどーいう奴ばらか知らせるのと、鄧家にまたちょっかいを出された場合を考えてだ」

「要するに有事の際に味方になれって事?」

「ああ。俺だけじゃ庇護の手が行き届かない場合もあるだろうからな。実際、俺は鄧家の守護に付けず、鄧範を死なせてしまった。今後また同じような事がないとも限らん」

「そういう事でしたら、了解しましたわ。民を守るは我らが務め。それを果たすためなら、たとえ荊州牧が相手でも弓を引きましょう」

「わたしも異存なし! 鄧艾ちゃんみたいにちっちゃい子をいじめる奴は、州牧だろうと叩き潰してやるんだから!」

 

 黄忠は正義感、文聘は義侠心を燃え上がらせて承諾した。

 

「へっ、頼もしいこった。……今さらだが、こっちの都合に巻き込んじまってすまねェな、二人とも。協力、感謝する」

「これも武人の務めですわ。それに、鄧家には恩義もありますし……」

「水臭いわねたいちょー! でもお礼してくれるなら今度たるき亭で食事おごって下さい!」

「お、オウ……」

 

 李厳は困惑気味に頷いた。

 それから気を取り直すようにコホンと咳払いをし、鄧艾へ視線を向ける。

 

「とまァ、そういうわけだ鄧艾。今後は俺の代わりに定期的にこの二人を遣すから、懇意にしてやってくれ」

 

 鄧艾ははい、と頷いて拱手する。

 

「よろしくお願いします、黄忠さま、文聘さま」

「鄧家の安全と安寧のため、微力を尽くしますわ」

「いざという時はおねーさんにどーんと任せなさい!」

 

 黄忠は軽く会釈し、文聘はグッジョブ的なジェスチャーを鄧艾に向けた。

 

 

 




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