まっこと猛々しや鬼神楽 其にうたわれしは鬼々怪々
これぞ天下乱世の宴よと 酒呑の鬼子はかく語りき
中華大漢皇国 南部 民間伝承の一説
「ところで萃香。俺たちはお互いの事をもっとよく知るべきだと思うんだ」
遅い自己紹介を済ませた後、おもむろに一刀が話を切り出した。
まるで女性をナンパする口説き文句のようだが、無論一刀にそんな意図はない。
「ん? なんだい急にかしこまって」
「いや、俺って萃香のことほとんど何も知らないからさ。相互理解って大事だろ? だからいろいろ聞きたくて」
「相互理解ねぇ……なんか一刀、うさんくさいよ」
「うぐっ」
胡乱げな眼差しを一刀に向ける萃香。
変質者を見るような態度に心を抉られるも、一刀はめげずに続ける。
「べ、別に変なことを聞こうってわけじゃない。真面目な話だよ」
「ふーん……まぁいいけど。それで、私の何を知りたいのさ?」
「えっと、最初会った時にさ。萃香が言ってただろ。『私をこんな愉快な世界に引きずり込んでくれた』とか何とか」
「あー、そのことかぁ」
過去の言動を思い出し、一刀の疑問を察した萃香は納得顔になる。
「他にも『私の角をこっちの世界に持ち込んだ』って言ってたよな。それってさ、俺が萃香をこの国……世界? に連れ来んだ。そういう意味か?」
「うん、大体正解」
「やっぱりか……。謝って済む問題じゃないかもしれないけど、迷惑かけてごめんな、萃香」
萃香の言い分というか事情を全て理解できたわけではない。
しかし自分に非があるならばと、一刀は素直に受け止め謝罪し頭を下げた。
「あはは、律儀だねぇ一刀は」
口では茶化すような事を言った萃香だが、内心では善良で性根のまっすぐな一刀の事を気に入り始めていた。
(最初はコイツどうしてくれようかと思ったけど、人間にしちゃあこの男、
とはいえナチュラルに傲慢というか、上から目線なのは鬼の基本仕様である。
「律儀だ、なんて初めて言われたな……。話を戻すけど。前にも言ったが何をどうやって萃香を巻き込んだのか、心当たりがなくてさ。こっちの世界? に来てしまった原因というか、発端については思い出したけど……」
一刀の言う発端。それは彼がこの世界で目を覚ます直前の記憶にあった。
高校の修学旅行で京都を訪れていた一刀は国立博物館に来ていた。
観光地でもない博物館にわざわざ足を運んだのは、ちょうど開催期間中だった特別展《歴史に残る名刀・古刀展》で刀を観覧したいがため。
一刀は祖父の運営する道場で剣術を学んでおり、自らの名前の事もあって刀剣が好きだった。将来、自分だけの刀剣を手に入れたいなあと思うくらいには。
さらには趣味が高じて刀剣斬舞というネットゲームにまで手を出し、イケメン
それはさておき、一刀が特別展の目玉であり天下五剣の一つである《童子切安綱》を鑑賞しようとした時に事件は起こった。
突然、童子切安綱が強烈な光を放つ。そしてその光を浴びた一刀は気絶してしまい、目が覚めた時にはこの世界にいた。
(前後の状況から言って、童子切安綱がこの事件の発端なのは確定的に明らかなんだが……)
どういう理由と原理で起きた事象なのかまでは流石に想像がつかない一刀。
(マジで異世界転移とかだったらどうしよう……って、そんなわけないよな。なろう系主人公じゃあるまいし、そんな非現実的な事がそうそう起こるわけが……)
だが現実は非情であり、現実は小説より奇なりという言葉もある。
否定すればするほど、それがフラグになりそうな予感がする一刀であった。
「一刀はさあ、
「ん? ああ。昔の記憶ならちゃんとあるぞ」
色々と意味不明な状況に陥ってはいるが、幸い記憶喪失はその中に含まれていない。
思い出そうとすれば即座に過去の体験や情景が脳裏に浮かんできた。
一刀の回答に萃香は軽く頷きを返し、自分の右の角を指差す。
「じゃあコレ、見覚えない?」
「……角?」
「うん。どう?」
「ふむ……」
おとがいに手を当てて、一刀は自らの記憶を探る。
そうして数秒ほど考え込んだところでハッとした表情を浮かべ、
「……あっ。ある! 見覚えあるぞ! なるほどアレか!」
興奮した様子で一人納得したように叫んだ。
「何か思い出した?」
「ああ。説明すると長くなるんだが。俺、高校の修学旅行で京都に来ててさ。平等院って寺を観光してたらなぜか猫が空から降って来たんだよな。まあその猫は俺の顔を直撃した後すぐ逃げてったんだけど、そのとき足元に動物の角みたいな物を見つけてさ。たぶん猫がどっかから銜えて持ってきたのを落としたんだろうと思う。んで珍しそうだったから拾ったんだけど、今にして思えばあれ、萃香の角だったんじゃないかなと」
「ほー、猫が私の角をねぇ。その後は?」
興味深そうな表情で腕を組み、さらに話の続きを促してくる萃香。
(まあ確かに興味を引くような珍妙な出来事だよな。嘘みたいなホントの話ってわけだ)
萃香の反応を見た一刀もまた自らの体験におかしみを感じ、内心で苦笑する。
「その後? その後は京都国立博物館に行って……童子切安綱って刀を鑑賞しようとしたら強い光を浴びて気絶して、気が付いたらこの土地にいて萃香と出会った……って流れかな」
「……なるほどねぇ。一刀の事情は大体わかったよ。ついでに私が
一刀の事情聴取を終えた萃香は訳知り顔で納得し、うんうんと頷く。
「人間の執念……? 萃香、今の話でなにか解ったんなら俺にも教えてくれないか」
「ああうん、そうだね。一刀にも話しとこうか。えっと、私たちをこの世界に送った元凶は恐らく
事の真相の内容もそうだが、萃香の口から鬼の天敵とも言える英雄の名前が出たことに一刀が驚く。
「いや源頼光って……しかも刀の付喪神とか……マジかよ」
何それ超欲しい。
さして物欲は強くない一刀だが、刀剣男子たるもの付喪神化した名刀と聞いてワクッとしないはずがないのだ。
どうせなら付喪神の源頼光は女体化した巨乳の京美人とかだったらいいな、という所まで一瞬で妄想した。
普段は紳士然とした好男子である一刀もお年頃なのである。
「ま、推測に推測を重ねた仮の話だよ。状況的に一番ありえそうなのがそれってだけで。可能性は半々ってとこかなー」
などと言葉の上では謙虚に説いた萃香だったが、本音ではまず間違いないと考えていた。とはいえ、特に根拠のないただの勘のようなものでしかなかったが。
なお、事の真相を確かめるすべがない現状、「可能性は半々」と結論付けた萃香の話は客観的な道理である。ゆえに嘘を吐いた事にはならない。QED。
「あのさ、今の話を聞いて思ったんだけど。事の原因を作ったのは間違いなく俺だが、被害のとばっちりを食らったのも俺じゃないか? 萃香じゃなくて」
「あぁ、言われてみれば確かに。頼光に狙われたのは私の方で、一刀は巻き込まれただけだね。あっはっは」
一刀の指摘により自身の負い目が浮き彫りになっても、特に悪びれるでもなく呵々と笑う萃香。
そんな彼女の態度に毒気を抜かれた一刀もまた、苦笑を浮かべる。
「まあ今回の件は俺の自業自得だから萃香を責める気は元よりないよ」
「お、さすがは一刀。しつこい油汚れみたいに執念深く女々しいどこかの牛と違って男前だね!」
陽気な笑顔で毒を吐きつつ、萃香は一刀の腰を親しげにぱしぱしと叩く。
先の戦闘で萃香の常識外れの怪力を目にしたばかりの一刀はその行為に内心ヒヤリとするが、鉄の自制心で動揺を隠す。
結局、萃香の力の制御は完璧なようで一刀の危惧した事は起きなかった。
ちなみに萃香の言う「牛」とやらが誰を指しての事かはこれまでの話の流れ的に何となく察していた一刀だったが、聞いて確かめる気にはならなかった。
古今東西、女の諍いに男が首を突っ込んでもろくな事にならないのである。
もっとも、自分をこんな土地に飛ばしてくれた彼だか彼女には、一刀とて多少の恨み言をぶつけてやりたい気はする。
だからあえて萃香の発言に乗る形でその思いを言葉に混ぜる。
「牛よりは高く評価してもらえたようで嬉しいよ」
一刀が肩を竦めながら言うと、我が意を得たりとばかりに萃香は悪どく笑った。
一刀にメテオストライクした猫は尻尾が二股に分かれていたとかいないとか
なお一刀たちの異世界転移が某ゆかりん17歳の陰謀だったりはしません
その辺りの事情も(エタらなければ)いずれ書きます
源頼光さんはFGO基準ですが今のところ登場予定はありません
だって作者がFGO未プレイ勢ってバレて噂されると恥ずかしいし……
鯖太公望とか実装されて劇中で使えそうだったらついでに頼光さんも出すかも
FGOタグはそうなったら入れます
(厳密には既にクロス済みだけどFGO要素/Zero)