東方外典 萃姫†無双   作:古葉鍵

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メタ視点(原作知識)的に読者様が既知の所は極力省略する方針です
正確にはあらすじ化ですが


■第八話 南天鬼路

 

 仲間になりたそうに萃香を見ていた鄧艾が正式に一行に加入してから。

 

 萃香の「家族に隠し事はなしだよ」という鶴の一声により、一刀は鄧艾に自分たちの正体や事情を説明した。

 話を聞いた鄧艾は当初、例になく興奮して「兄さまは天人だったんですね!」とか「姉さまはまるで蚩尤みたいです!」とはしゃいでいた。

 しかし転移後の経緯を聞くに至って鄧艾は急に冷静になり、黙考し始めて一刀を心配させたりした。

 

 事情説明が終わった後、今度は一刀が鄧艾に質問した。

 その内容とは「この国の名称は? 現在の天子の名は? 宦官に十常侍はいる? 現在の大将軍は誰?」といったものだ。

 鄧艾は一刀の問いに対し全て明確に答えた。

 その結果、一刀はこの世界が三国志時代の中国である事を知った。ついでに鄧艾が三国志時代後期の魏の名将ではないかと疑いも抱いた。

 だがしかし、鄧艾がその名将本人だとしたら性別や生誕時期が史実と異なってしまう。

 その違いに着目した一刀は再び鄧艾に質問を重ねた。

 すると主要人物の性別が逆転してたり、時期的に生まれていないはずの者が存在するなど、多くの差異が判明した。

 また、中国のはずなのに日本語で会話が成立している事もこの時点になって気付いた。

 それらの齟齬を咀嚼して、ようやく一刀はここが三国志時代の中国に酷似した異世界である事を確信したのだった。

 

 

 

「さて、これからどうしようか。二人は何か意見とかある?」

 

 お互いを理解するための話が一段落した後、一刀がそう切り出した。

 

「私は人里に行って酒が呑めれば何でもいいかなぁ」

 

 言葉を行動で証明するかのように瓢箪を呷って酒を飲む萃香。

 そしてまたプハァーと酒臭い息を撒き散らす。

 流石にそろそろ萃香の行動に慣れたのか、一刀は微かに眉を顰める程度でリアクションは起こさなかった。

 

 もっともその内心と言えば、

 

(まあ萃香ほどの美少女が吐いた息だと思えば耐えられなくも……ないッ!)

 

 という、邪と言うべきか涙ぐましい自己暗示とも言うべき有様だったが。

 

 なお鄧艾は先の会話時にごく自然な動作で萃香から距離を取っており、一刀(凡人)とは違う如才のなさを発揮していた。

 

 そして、その知性は一刀の問いかけに対しても最適解を導き出していた。

 

「私は……宛の城邑に行くことを提案します」

 

 鄧艾の提案を聞いた一刀が意外な顔をする。

 

「宛って、もしかしてリンが住んでた?」

「はい。私は出戻りになりますが、これからの事を考えればそれが最も良い選択だと思います」

「ふむ……だけど俺たちはともかく、リンが宛県に行くのは危険じゃないのか。劉表に狙われてるんだろ?」

「それについては心配いりません。当主と人材のほぼ全てを失い、力を大きく落とした鄧家は劉表の障害にはなりえませんから。わざわざ追い打ちして自ら評判を落とすような真似はしないでしょう」

「その理屈はわかるが……本当に大丈夫なんだな?」

「はい。もし幼子一人しか残っていないような家を潰したりなどしたら、劉表は小心猜疑にして人非人よと世評されるでしょう。それは劉表にとって政治的致命傷になりかねません。劉表は愚かではありませんから、それは避けるはずです」

「なるほどな。詳しい説明をありがとう、納得したよ」

 

 労いつつも、内心で鄧艾の洞察力、分析能力に舌を巻く一刀。

 

(うーん、幼くしてこの頭のキレ。さすが歴史に名を残す英雄カッコカリなだけはあるな)

 

 一応まだ同姓同名の別人の可能性も残っているので(仮)が付いている。

 

「それなら良かったです。話を続けますが、宛であれば鄧家の屋敷を私が相続して拠点にできます。また、地縁がありますから人を集めたり頼ったりする場合に有利に働くでしょう。おおむね、宛に行く大きな利点はこの二つです。いかがですか?」

「そうだな……」

 

 一刀は考える。

 特に行く当てもない以上、寄る辺があるならそこに身を寄せるのは合理的だ。

 今後の目的や活動についてはその後で考えればいいだろう。

 ただその際、問題となるのは自分と萃香、二人の身元。鄧艾は好意的に受け入れてくれたが、宛ではそう簡単にはいかないだろう。

 なにせ見た目が見た目である。自分は白い学生服を着てるし、萃香の服装も割と現代的だ。さらに言えば萃香には角まで生えてる。その辺りの外見的ギャップを怪しまれたらどうにも言い訳がしづらい。

 まあ恐らく自分より頭が回るであろう鄧艾ならそれらの問題に気付いているだろうし、解決する手段も考えてあるのだろうと期待する。

 自分の半分しか生きてない幼女に頼りきりというのは多少情けないが……

 

「よし、それでいこうか。萃香の希望も満たしてるし、いいよな?」

 

 一刀に水を向けられた萃香が手を上下にひらひらさせて答える。

 

「うん。良きにはからえー」

「良きにって……まあ親分の了解も得た事だし、これから何をすればいいか指示を頼むよ、リン」

「わかりました。では……」

 

 全権の委任を受けた鄧艾がてきぱきと指示を出してゆく。

 

 まずは現場の片付け。

 鄧家関係者と野盗たちの死体を集めて分ける。

 鄧家の当主は遺体を綺麗に清めて確保。家人たちは衣服以外を遺品として徴収し森の中に埋葬。野盗は身包みを剥いでから斬首し、首を確保。体は森の中に遺棄した。

 確保した遺体や遺品、野盗の首は萃香が能力で収納。馬車類や家財類なども同様に萃香が収納確保した。

 それら一連の作業はほぼ全て萃香が一人(+分身)で行った。

 なお一刀と萃香が最初にいた場所で殲滅した野盗たちの首も(萃香の分身を派遣して)確保されている。

 

 萃香が八面六臂の活躍をする一方で一刀は何をしていたかと言うと、野盗の首斬り役をやらされていた。

 これを発案したのは鄧艾で、これには萃香も良い考えだと同調した。

 既に死体ではあるが、人の首を斬るなど凄惨で残酷な行為である。現代人らしい良識と常識を備えている一刀は当然、作業に難色を示した。

 しかし鄧艾は「この世界で暮らしてゆくなら人同士の戦い・殺し合いは避けて通れない。だから人を斬る行為と感触に早く慣れておくべきだ」と主張し、さらには自ら剣を持って野盗の首に斬りつけた。

 非力なため一撃では切断できず、何度も何度も剣を振り下ろす鄧艾の姿を見て、一刀は己の浅慮と惰弱さを愧じた。

 こうして意識を改めた一刀は鄧艾と共に首切りに邁進し、二人仲良く何度も吐く羽目になった。

 萃香はそんな二人を見てニヤニヤ笑っていた。

 

 現場の片付けが終われば、次は移動である。

 しかしこの段になって問題が浮上した。

 

 鄧艾の計画では、父である鄧範の亡骸を載せた馬車で宛入りする必要がある。

 そうする事で鄧家当主の非業の死と、賊を討ち娘である鄧艾を助け出した一刀たちの功績が公となり、世に広まる。

 そしてそのためには馬車が、もっと言えば馬が必要だった。

 

 

 

「馬か……」

 

 鄧艾から馬の必要性について説明を受け、難しい顔で呟く一刀。

 その目には野盗に射殺された馬の死骸が映っている。

 

「最悪、宛の近くでお姉さまに馬車と遺体を出してもらい、そこから人力でという方法もありますが……辻褄あわせや不自然さを無くす必要を考えると、かなりの距離を引く事になります。なのでそれはできるだけ避けたいのです」

「なるほど……」

 

 一刀は頷きながら、鄧艾の意見を考察する。

 人力で引く場合、それは半ば必然的に萃香に役目になるだろう。自分(一刀)でも引けない事はないが、体力的に長距離の曳行は無理だからだ。

 まあ萃香なら軽くこなせる仕事だが、問題がある。

 本来馬が引くものを人が引いている。それが第三者の目にどう映るか、だ。

 時代背景を考えれば、奴隷や下僕のように見られるのは想像に難くない。

 果たしてそのような仕事を萃香に頼んでよいのか。頼んだとして引き受けてくれるのか。

 萃香は賢いし、鬼としての高いプライドも持っている。

 内実はどうあれ、人間の下僕に見られるような仕事を善しとはしないだろう。

 鄧艾もその事は気づいていて、だから避けたいと考えたに違いない。

 一刀はそのように推察した。

 

 つまり結論としては萃香には頼めない、馬が欲しい、だ。

 

 頭を悩ます一刀と鄧艾に萃香が解決策を提示する。

 

「馬が欲しいなら連れて来ようか?」

「えっ。馬を見つけたのか?」

「まあね。野盗の仲間っぽい連中が乗ってたのが近くにいる。連れまわすのが面倒だったから一度は見逃したんだけどねぇ」

 

 あまり気の進まなさそうな表情で答える萃香。

 鬼にも動物愛護精神があるのだろうか、などと暢気な疑問を抱く一刀とは対照的に、真剣な表情を浮かべた鄧艾が口を挟む。

 

「あの、お姉さま。その馬の持ち主はどうされましたか?」

「ん? とっくに殺したよ。まぁそいつら、見た目は賊っぽくなかったけどね。野盗どもに指示出したりしてて怪しかったから纏めて殺っちゃった」

 

 近くを飛んでいた害虫を潰したくらいの気安さで答える萃香。

 それはまさに人外の精神性、価値観の発露であると言える。その事に一刀は今更驚いたりはしない。

 しかし付き合いが浅く、まだ幼い鄧艾には毒気がきついのではないか。

 危惧した一刀が心配の目を向けたが、鄧艾は別のことに気を取られている様子だった。

 

「そうですか……わかりました。ではお姉さま、馬を連れてくる際にその者たちの骸も回収していただけますか? 後で確認したいので」

「いいよ。それじゃちょっと待ってて」

 

 今にも出かけていきそうな台詞とは裏腹に、萃香はその場を動かず瓢箪に口をつけてグビグビと飲酒しだす。

 まだ飲むのかと一刀が呆れた眼差しで見ていると、しばらくしてガッガッと硬いものが地を削る音が聞こえてくる。

 

「来たか」

 

 皆が音の方へと視線を向ける。

 林道の先から乗り手不在の馬が数頭、駆け近づいてくるのが見えた。

 

 

 

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