Hero of Magical girl 作:迷子屋エンキド
人が行き交う道路の真ん中。そこには複数の人影がある。
防弾ジョッキや小銃で武装された男達のほとんどは、皆一輪の花を携えて気絶している。
そんな中、動き続ける影があった。巨躯の男と、帽子を目深に被った薄手の衣装を着た少女だ。
互いに最適な位置を獲り合う二人。男は少女を捕らえるため、少女はそれから逃れるためだ。
そして、少女は、一つの動きを見せながら言った。
杖の振り下ろしと共に放たれたのは、呪文と稲妻だ。
「悪を禊いで花になれ! エンチャント・ブルーム!」
「ぐあああ――!?」
巨躯の男に、曇りでもないのに稲妻が直撃した。凄まじい悲鳴に周囲がドン引きする中、薄手の衣装を纏った少女が言った。
「フィニッシュ!」
宣言と共に、稲妻が消え男が膝をついた。白目を剥き、完全に失神している男に、少女は躊躇いもなく近づいていく。
簡易のメディカルチェックを周囲に悟られないように済ませると、少女は男の額にそっとキスを落とした。
周囲の野次馬がざわめくのを無視する。少女は、薄手の衣装に施してある菊の花を男の耳元に飾った。
「もう、悪いことしちゃダメですよ?」
そう言って、少女は立ち上がり、一礼した後この場から消えた。
人々は呆然とする中、一連の出来事を思い出す。小柄な少女が、武装した屈強な男達を華麗に屠る姿を。圧倒的な力を見せながら、彼ら一人一人に花を添える優しさ。
そして何よりも、可憐で花のような笑顔が、少女の雰囲気をより幻想的にさせていた。
まるで、本当に魔法を使ったかのように……。
●
その様子を眺める者がいた。
騒ぎのあった道路の向かいにあるビルの屋上。そこに、機殻で包まれた箒を携えた少女がいた。
少女は、道路での一部始終を観察し、口元を引き攣らせながら言う。
「よくもまあ、あそこまで見事に女の子出来るわね……」
言って、それだと見事と思ってしまうほど、自分に女子力足りないのか? という疑問が出たが、あまり深く考えないようにした。
確かに、異性を真似る、演じることを趣味とする人間がいることは知っていた。奴もその類なのかと思ったが、事態を収拾した後落ち込んで人生にため息ついているので、そうではないようだ。
そうなると、あの可憐な少女は演技だ。
花岡・馨。彼の提案が通ったとき、所長の正気を疑ったが、〝大丈夫、私もパンツ脱がせたくなったから〟とは、一体どういうことだ。
とにかく、そんな女装趣味の変態野郎をこのまま見逃すことは出来ない。知り合いにも協力して貰い、奴の個人情報を徹底的に調べ上げた。
その中で、よく目にする言葉がある。
「〝成績優秀〟、ねえ……」
そう、奴の一定評価は、どれも〝何やっても優秀〟というものだった。
12歳のとき、新興組織〝
何でも屋とうちの所長は昔馴染みらしいが、かの組織は業界でもかなり異端な扱いを受けていると聞く。
能力発現型の超人系は勿論、ただの人間だけど怪物な達人、ロボットや異族、他にもジャンルに富んだヒーロー達が所属している。それだけなら、大手の〝
だが、〝ボロ小屋〟と自ら呼ぶように、あの組織はヒーローとしての〝志〟ではなく、利益や資金を得るために一時しのぎとしての集団だ。烏合の衆と言ってもいい。そういう組織は、基本的に
だが、何でも屋は、不思議とそういう噂が無い。ヒーローとしての志、立場が違っても、何処か互いの距離を見誤らない仲間意識がある。……らしい。
らしい、というのは、所長から聞いたことだ。若々しい姿からは想像も出来ないが、アレでも老れ……、れ、歴史を重ねていらっしゃるので、ときどき、懐かしむように話すことがある。
その中でも、何でも屋のことは特別視しているようで、彼らの活躍を聞くたびに、笑顔か、悪い笑顔をしている。
花岡・馨。
眼下の騒ぎを収拾させたのは、彼の発電能力での制圧術だ。強力なうえ、電子機器の多い現代では汎用性にも高い。
「才能、ね……」
もちろん、それだけではないのは知っている。ヒーローという存在が現れて数十年、歴史を重ねただけに、国家論のようにその存在の本質については語り尽くされている。
――ヒーローとは、単純な勧善懲悪を差すものではない。
たとえば、ヒーローが強盗犯を捕まえたとする。その強盗犯を捕まえたことで、自分ではない誰かは被害を受けずに済んだ。これは善だ。
だが、強盗犯には、どうしても金が必要だった。それは、自分の大切な人に治療を受けさせるためだった。強盗犯を捕まえたことで、自分ではない誰かは治療を受けられなかった。これは悪だ。
つまり、ヒーローとして行動するということは、善も悪もどちらも打倒することだ。
ヒーローとして活動する者は、まず何よりもその戦いの醜悪な本質を理解させられる。決して己の行動を見誤らないようにだ。
そうした〝ヒーロー像〟を理解出来なければ、それはただの〝俺カッケー〟と妄想するだけのバカだ。
彼も、それを理解したうえで、己の志を捨てなかったのだろう。それも、まだ子供の時分からだ。
何が彼をそこまで決意させたのか、それを考えってしまったことに気づき、
「あ、七海さーん。お待たせしましたー」
「うひゃあっ!?」
しまった。考えこんでいたせいで気配に気づかなかった。しかも動揺して変な声出たし……!
タイミングの悪い奴め、と睨み付けると、奴は若干怯えた様子で身構えた。
――しかし、よくよく見ると、本当に女みたいな奴ね……。
帽子を被っているが、黒のウィッグを付けた髪は腰まで届くストレートになっている。薄い衣装は、インナースーツのようにピッチリしていて扇情的。コートを着て上半身を隠してはいるが、太もものラインなど嫉妬してしまう。くそっ、いや、くそとか言っちゃ駄目ね、ここは、そう、太くなれ……! ムチムチに太くなれ……!
あれ、男である奴的には、筋肉質な太さはプラスなのだろうか? なにそれずるい。
「ふぁ!? ふぁにすん、いふぁいいふぁいれす! ほっふぇたやめっ」
「うるさいわね……」
「ひぃ」
小さく悲鳴を上げて後退った奴を解放し、憎らしいその姿を再び目に納める。
くそっ、やっぱり可愛い……! こいつホントにチンコ付いてんの!?
いけない、今の少し下品だった。
「で? 今日一日見せて貰ったけど、これがあんたの言う魔法少女ってわけ?」
「はい! その通りです!」
奴は、両こぶしを胸の前で握りながらそう言った。だから、何で一々ツボを押さえてるのよ……!
やはり、ここまで自分を可愛く魅せることが出来るということは、元からそういう趣味があるからじゃないか?
疑いの視線を受けた奴は、少々俯きがちに答えた。
「あ、あのどうでしたか? ここ一週間ほど、うちとそっちの所長に指導して貰ったんですけど、ちゃんと出来てますかね」
「所長――!! 一体何をしてるんですか――!!」
誰だ、魔法少女としての技術を男の子に仕込む馬鹿は。うちの所長か、そうか……。
現実に負けそうになったが、何とか踏み止まる。いけない、このまま所長に任せてたら、そのうちジャンル:魔法少女(♂)とかが出来かねない。そうなれば、先日こいつが言っていたように、魔法少女としての存在意義が揺らぐ――!
ああ、なるほど、そういうことか、
「全部お前が悪いのか……」
「あっれ? 何か酷く勘違いしてませんか!?」
「そうね、あんたが可愛く見えるのも、全部勘違いなのよね。そう、私は正常だものね」
「か、可愛い……!」
「そこで嬉しそうにするんじゃなーい!」
砲撃術式を搭載している機殻箒を抱え、奴へと照準を合わせて言う。
「魔法少女の未来のために、あんたはここで消えなさい――!」
「あ、結局こうなるんすかー……」
ぶち込んだ。
●
くっ……! 厄介だ!
ビルとビルの間を飛び移りながら、こちらを追う少女、日高・七海を見る。
彼女は機殻箒に跨り、高速飛行により追って来ている。それは、推進力をもった直線の動きだ。軌道はほとんど戦闘機などと同じになるので、旋回は大きく回り込む動きになる。
だが、入り組んだ建物の隙間をノンストップで擦り抜けてくる。市街地での戦闘に慣れている。
やはり、新型の魔術具である機殻箒を所持するだけはあり、相当な実力者なのだろう。
今も、ビルの高さの違いを利用して隠れようとしたが、瞬時に砲撃の態勢を移られた。
砲撃術式は箒部分に仕込まれており、飛行時にはエンジンになる。飛行から砲撃に移るには、様々な過程を含んでのアクションが必要だ。
彼女は、その通常の手順を無視して、直進の状態から〝身体だけ〟を翻したのだ。
そうすることで、推進力を殺すことなく、砲撃体勢に移れ、
「ぶっ放せ!!」
青白い光線が、こちらに向けて放たれた。
魔法少女の技能である〝
変化や反発の力としての黒魔術。
不変や結合の力としての白魔術。
プラスとマイナスで例えられるそれらは、特性としては正反対だ。だが、磁力を操る能力を持つ自分には理解出来る。どちらも、本質的に自分に近い属性だ、と。
向かう砲弾を包む光も、魔術の現れだ。ならば、
「これならどうですか!」
瞬間、幾条の光線が、馨に激突した。
書いてて思ったけど、この作品のジャンルって何?