セカンドールマスターー育成者とドールのイロモノシリーズー 作:御舘雅盛
午前中、休暇を貰えた。
……神殿や医療院内にいるとあの二人に出会う可能性もある。今、昨日みたいに二人に出会ったら何言われるか解ったものじゃない。外に出るに限る。
そう考え、前にディナポーズちゃんに教わった丘にいくことにした。
神殿から見えるその小高い丘に登ると、辺り一面に草花が咲き乱れていた。その草原を心地よい風が通り過ぎていく。
草原に寝転んでいると、何か影が見えた。
「あれ……?」
こちらに登って来る人影。
まさか……。
「あら、ピッコニード君!」
……アルティシアさんだった……。
「……何やっているんですか? こんなところで」
「え? 散歩よ、散歩。たまには身体を動かさないとね! 現役の時みたいに一日16時間とはいかないけど」
「……そうですね」
あれだけの食事量だもんな……。
「それにしても……」
アルティシアさんが丘からの山並みを眺めていた。
「いい景色よね、ここ」
「そうですね」
ディナポーズちゃんに教えられたこの丘は、夏の日差しを一瞬忘れてしまうような、荘厳な眺めだった。
こうして見ると、この地は山と太古からの森に囲まれ外界から切り離されているような印象を受ける。
この景色を見ているのは、アルティシアさんと二人だけ……。
アルティシアさんが溜息をつく。
「まるでこの世界に二人きりになった気分ね……」
僕も頷く。
……待てよ?
「……冗談じゃないですよ!」
思わず叫んでしまった。
「どうしたの? 急に大声出して?」
「……いえ、別に」
仕事がありますからと誤魔化し、大慌てで丘を駆け下りた。
午後の修行の前に、食事を摂ろうと食堂を訪れると其処にアルティシアさんがいた。
「あら、ピッコニード君じゃないの」
「うっ……。アルティシアさん」
「どうしたの? さっきは突然……」
「はぁ。……少し疲れているみたいです」
そう誤魔化す。
「あらあら大変。駄目よ、気をつけなきゃ」
そう言うと、アルティシアさんは目の前にあった皿からメケドセラ麺を豪快に頬張った。
「…………」
相変わらず豪快な食事だなぁ……。
呆れてその様子を見ていると、アルティシアさんが皿から麺を掴み突き出す。
「何? 食べるの?」
「い、いえ」
思わずのけぞって首を振るう。
「美味しいのにねぇ。食が細いと大変ね」
食が細いわけじゃない。アルティシアさん達の食事量が凄いだけだと思う……。
メケドセラ麺を頬張りながらアルティシアさんが話し続ける。
「でもねぇ……。だめよ、あなたくらいの子が一人でお昼なんて……。そりゃキャスバル兄さんみたいのはちょっと困るけど」
苦笑を顔に貼り付けたアルティシアさん。
「ねっ。あなたには彼女いないの? お弁当を作ってくれるような甲斐甲斐しい人は?」
「いませんよ……」
苦笑して答える。
「あら。可愛い子いっぱい居るのにね」
「毎日こき使われてそんな暇ありませんって」
「嘘ばっかり言って……。お気に入りの子が居るらしいって噂じゃないの」
「え? な、何ですか? 誰がそんなことを?」
迂闊な事は言えない……。
下手な事を言うとアルティシアさんが噂の元になる。
多分この噂も元はキャスバルさんかアルティシアさんに違いない。
僕がここに来ているのはそんな理由じゃない……。ここには修行に来ているのだ。
それなりに忙しいし、そんなことをやっている暇も……あまりない。
話を逸らさなくては。
「そんなの、根も葉もない噂ですよ。それより、お身体の方、大丈夫なんですか?」
「あら? 心配してくれるの?」
「え? そりゃ……まぁ」
「嬉しいわ。若い子からそんな事言ってもらえるなんて。……もしかして……あなたのお目当てって、私の事……?」
「え!?」
思わず後ずさりしてしまった……。
「そう言えば、私の事ずっと追いかけていない? 私が行くところ行くところ、必ず居るし……」
「み、見習ですから、あちこち回されるんです!」
「そんな遠慮しなくっても……いっそのこと、今日の舞踏会、御一緒しない?」
「え? ぶ、舞踏会って……何なんですか?」
「あら……知らなかったの?」
なめまかしい視線を注ぎながらアルティシアさんが教えてくれた。
ここの上の丘にある庭園で毎年舞踏会が開かれるらしい。ここの住民が皆楽しみにしているもので近隣からも人が多く来るとか……。
「どう? あなたも一緒に……」
ジリジリと詰め寄るアルティシアさん……。
と、いきなり笑い出す。
「あはは……。あなたってホント、面白いわね」
目に涙まで浮かべて笑い転げている……。
「本気にしちゃダメよ。……ホント、からかいがいがあるわね」
と言ってさっさと立ち去ってしまった。
周囲の忍び笑いが耳に痛い……。
「よう! 精が出るな、若いの」
修行を終え、温泉の管理に訪れた僕の肩を強く叩く手とその持ち主。
キャスバルさん……温泉の『ヌシ』だ。
「んで、どうだ」
肩に手を回しヌシが聞いてくる。
「どうって……何がですか?」
笑い声とともに肩が強く叩かれる。
「何って……これだよ、こ・れ」
耳元に口を近づけ、目の前に小指を立てて見せるヌシ。
「可愛い娘がこれだけいるんだ。一人ぐらいはもう手つけたんだろう?」
「なっ!」
あまりの言葉に二の句が継げない。
「レミーちゃんだろ、ムテファンナちゃんだろ、センメリーちゃんだろ、魔術医なら……お前より少し年上だが、パラレナンバちゃんかな。あの普段の優しさと仕事の時の冷たい感じの差がいいんだよな……。お、そうそう、将来性ならディナポーズちゃんが一番だな。あの子は10年もすれば必ず美人になるぞ」
指を折り数えるヌシ。
この人はいつの間に……。
「で、誰に手つけたんだ?」
身を乗り出してくるキャスバルさん。
「そ、そんな事、患者の女の子達にはしませんよ。大体僕はドールですよ。ドールというものは……」
「んなこといってもなぁ。お前まだ若いんだし……俺がその歳の時はあちこち覗きに行ったけどなぁ」
ニヤリと笑い、更に声を顰める。
「何なら、紹介してやるぞ、門家やっていた所の娘。俺の家に休暇で遊びに来ているんだが。あいつなら歳も近そうだし…ぐぉ」
何時の間にか近付いていた『ヌシの妹』さんが後頭部を殴りつけていた。
「馬鹿言ってないの、キャスバル兄さん。全く。……ピッコニード君、邪魔したわね」
引き摺られて去る『ヌシ』の姿。
……やっぱりアルティシアさんの方が強そうだなぁ。
そんな感想を抱いた。