セカンドールマスターー育成者とドールのイロモノシリーズー 作:御舘雅盛
あれから数日が過ぎた。
ネイシングルと剣舞を稽古しているうちに、剣術家の動き方の基本が読めてきたように感じる。
ネイシングルの動きも、何となく『こう来るんじゃないか?』と感じられるようになってきた。
5回訓練をやると1回は幻術が成功する。
今も……。
「……あっ!」
ネイシングルの斬撃を幻術でかわし、背後に出る。
「……!」
ネイシングルの後頭部に手を当てる。
試合なら『爆裂』が発動するタイミング。
ネイシングルが両手を上げ、終了の合図。
広場の端へよろめきながら歩き、日陰に腰をおろす。
「おつかれ!」
涼しい顔のネイシングルが、ねぎらいの言葉をかけてきた。
それに引き換え、相変わらず汗だくの体たらく……ネイシングルと比べるのが間違いなのかもしれないけど。
「……喉渇いたぁ!」
無意味に大声を出し、暑さと滴る汗の不快感を紛らわそうとする。
「あ! そうだ、ちょと待ってて」
と言うとネイシングルは、持ってきていた背嚢に駆け寄り、何かを探っている。
「飲み物なら持ってきたわよ。……多分温くなっているけど」
「飲めれば何でもいい……」
「はいはい、急かさないの。……『秘蹟印冥界巡り』と『マテ茶』あるけど、どっちがいい?」
「『秘蹟印冥界巡り』って何味?」
「極楽甘味だって」
「……マテ茶、いいかな?」
「いいわよ。はい」
綺麗な弧を描いて水筒が飛んでくる。
「おっと。……頂きます」
「は~い」
殆ど同時に栓が抜かれる。
「……うわ、やっぱり温い。……泉の湧水口に置いとけばよかった」
顔を顰めるネイシングル。
それでも充分美味しかった。
喉を鳴らし、温い飲み物を二人で飲む。
「っかぁーっ! やっぱ暑い時はこれに限るわ~」
ネイシングルの豪快な飲みっぷり。
……否、これはむしろ、年寄り臭いというのだろうか?
……間違いなくキャスバルさんの影響だな。
それにしても、と思う。
……ネイシングルって、一緒にいても気兼ねなくっていいな……。
「どうしたの?」
「何か、ネイシングルって気兼ねがなくて良いなって」
思った事をそのまま口に出してみる。
「だって、生まれも育ちも帝都の旧市街シティよ? 私」
「ホント!? ……意外だよ」
「何が?」
「うん。……こう言うと気を悪くするかもしれないけど、見かけの印象と違うなって」
「ああ……別に気にしないわよ。よく言われるから」
「……何で大会に出るの、ネイシングルは? 両親が選手でも闘技場とは無縁の人生送る人だって多いし、ネイシングルなら、そんな生き方も出来たんじゃないかなって。何か特別なきっかけでもあったの?」
失礼な言い方かもしれない。
ただ、容姿端麗な女の子が何でこの生き方をしてきたのか疑問を感じた。
「きっかけ? だって、両親も祖父も選手だったから……」
「ありきたりなんだ……」
「だって、そんなものでしょ? 子どもの生き方なんて」
あっさりと言うネイシングル。
「それに、両親の夢だったらしいから。『死の狩人』以上の称号を獲ることが」
「そうなんだ」
「うん。それに私の両親、私が生まれた年に門家引退しちゃったから……私、二人の顔って実際に見たこと無いし、絵画以外に知らないんだ……。小さい時は『烈風の戦鬼』とかになれたら両親に会えるかも、なんて思ったりしたわ」
「……ごめん、悪い事聞いちゃった……」
「ん? 別に良いわよ、私にはそれが普通だったし。……二人を知っている門家の人に聞くとね、戦っている時の二人は格好良かったって言われるの」
「へぇ……」
「だから、小さかった頃は、私の両親ってどんな人だったのかなって考えながら過ごしたんだ」
「………」
「でも、今は両親会いたさに戦っているわけじゃないわ。今の私には夢があるから」
「目標?」
「うん……女性初の『超刃拳』になること」
「超刃拳に?」
超刃拳――格闘・剣術を同時に極めた者の称号では最高峰の称号。
「うん。家門で勉強しているうちにね、気がついたんだ。剣聖とか闘神とかって女性でも、難しいけど獲れない事はないの。でも『超刃拳』はいないんだ。だから、私が女性初の『超刃拳』になってみようかなって」
「超刃拳か……」
確かに女性の超刃拳は今まで生まれていない。
それは……。
「簡単じゃないのは解ってるけどね。絶対に獲ってみせる。夢かな、それが」
夢、そう言い切るネイシングルの横顔は決然としていて、清々しかった。
「すごいな、ネイシングルは」
「え?」
「何だか、すごいなって。そう思った」
「すごいでしょ、私」
ネイシングルが微笑んだ。
そこには何の気負いもなかった。
「そうよね。……自分でもそう思うかな、小さい頃からよく続けられたなって」
ネイシングルは手にした水筒を呷って、残りの中身を飲み干す。
「あんまりこんな事は言わないんだけどね。……他の人には内緒にしてね?」
思わず苦笑する。
「……ばらす相手がいないよ」
「あ、それもそうね……。ここには私達だけだし、帝都に戻ったら……ってやっぱりいるじゃない、ばらす人」
「あ、そう言えば……」
「帝都に戻って会う機会が無くなったからって、ばらさないでよ?」
ネイシングルの言葉で、僕は自分達がついこの間親しくなったばかりの他人で、休暇が終われば別れる間柄でしかない事に改めて気がついた。
「……そうか」
何だか寂しくなってしまった。
ネイシングルはどう思っているんだろう?
「……」
彼女を見つめる。
「ん? ……どうしたの?」
……きょとんとした彼女の表情を見ている限り、あまり意識していそうにはなかった。
「なに?」
「……何でもない」
ネイシングルが眉を顰める。
「……変なの」