セカンドールマスターー育成者とドールのイロモノシリーズー 作:御舘雅盛
……昨日の事が気になりつつ、いつもの森へ足を運んだ。
何やってるんだろうな……。ネイシングルがいるとは思えないし、いても何て言ったら良いのかわからない。
森が途切れ、広場が見え始めた。
そこに、人影がいつもと同じように、二つあった。
…………二つ?
そこには、キャスバルさんにアルティシアさんの姿がある。
ネイシングルの姿は見えない。
……やっぱり、来てないのか。
二人が僕を見つけたらしい。
「……こんな所で待ち合わせか?」
「え? ……いや、散歩がてらに……」
「……来るような場所じゃないと思うけど? ネイシングルちゃんと待ち合わせかな?」
そう言って僕の言葉を引き取るアルティシアさん。でもその表情が何時もより暗い。
「時間、空いてるかい?」
キャスバルさんの声。
「はい……」
いつもと若干違う雰囲気のキャスバルさんの声に、違和感を持ちながら答える。
「そうか……なら、少し話を聞いてもらおうかな、ピッコニード君」
キャスバルさんが真剣な表情を見せていた。
「……昨日、あの子が帰ってきてな」
いつになく真剣な眼差しだった。
「……食事も摂らずにそのまま部屋に閉じこもっちまったんだ。どうしたのかと思っていたんだが、暫らくするとな、そこから押し殺した泣き声が聞こえるんだよ。……俺達も驚いてな、扉を開けさせようとしたんだが、俺とアルティシアが幾ら言っても開けようとしない。………あの子は昔から気が強くてな。どんな事があっても人前で、育成者の前ですら泣いた事がないんだ……。無理して何でも背負い込んで、自分を鎧ってな……。それが声を押し殺して泣いているんだよ……。落ち込んだ表情を見せても、泣く事は絶対になかったあの子がな……」
ネイシングルが……。
「何があったかは聞かない。無理に聞くことでもないだろうからな」
キャスバルさんはそこまで言うと溜息を一つ吐き、これまでにない真剣な表情を僕に向けてきた。
恐い……。
その貌から、その眼差しから、普段感じた事のない、押し潰されそうな威圧感を覚える。
不敗を謳われていた理由が、『闘神』と呼ばれていた理由が今わかったような気がする……。
この人が真剣になった時の本当の恐さの、その一端を見たような気がした。
「……だがな、あの子は俺にとっても娘のようなもんだ。……もし、あの子を悲しませるような事があったら、俺はそいつを許さない」
キャスバルさんの初めて見る表情は正に『父親』の顔だった。
「……ピッコニード君。ネイシングルちゃんをどう思っているの?」
アルティシアさんの真剣な眼差しが僕を射ぬく。
「正直分かりません」
「そう……。でも、これだけは覚えておいて。いつか、あなたも決断を迫られる時が来るわ。……その時、どんな答えを出すにしても、あの子を不幸にすることだけはしないで」
少し間があってからアルティシアさんがそう言った。
「行きなさい。あなたなら解かるでしょう、あの娘が何処にいるのか。……ピッコニード君、私達の『娘』をお願いね」
二人の想いが……。
「はい」
ネイシングル……。
森の中の何処にもネイシングルの姿はなかった。
……やはり森にはいない。
「……ネイシングル。……やっぱり、あそこにいるのか?」
ネイシングル、君をこのままにしておくわけにはいかない。
あの場所にきっと……ネイシングルはいる。