セカンドールマスターー育成者とドールのイロモノシリーズー 作:御舘雅盛
いつもの森……。
目の前にいるいつもの彼女……。
ずっと彼女に付き合って……。
僕はどう思っているんだろう。彼女の事を……。
そして、彼女は……。
わからない……。
いつか、アルティシアさんにも同じ事を訊かれた……。
まだ答えは見つからない……。
今は……。
「間も空いちゃったし……遅れを取り戻さないと、ね」
「うん。お手柔らかにね……」
僕達は訓練を再開した。
ネイシングルの休暇はもう残り2ヶ月を切っている。
にもかかわらず、彼女はいまだ調子を取り戻していない。
「肩の力を抜いて、動きを良く見る!」
限られた時間の中で自分達にできる最良の方法、それは僕の訓練を続ける事だった。
僕への指導を通じてネイシングルは勘を取り戻す。
僕も全力で能力の向上を目指し、ネイシングルの勘を取り戻す手伝いをする。
それが二人で決めた方法だった。
二人の間に友情以上の強い連帯感が生まれてくるのを、お互いが感じていた。
「……ピッコニード?」
ひょっとしたら……。
……良き訓練相手としてだけでなく……。
……もしかしたら、それ以外の日常生活でも良き相棒かもしれない。
「どうしたの? ピッコニード」
闘技場を離れれば……。
お互いに支えあえれば……。
「ピッコニード!」
「何ぼんやりしているの? ……何か変な事考えていたら承知しないわよ!」
……気のせいか。炎天下の屋外で訓練に励んでいた為に見た幻覚だったらしい。
……そうだよなぁ。戦績見ただけだと釣り合い取れていないし。
「ごめん……」
「返事は、はい。でしょ?」
「はい……って、ん?」
「なに?」
「変な事……? 変な事って何?」
「え?」
「いや、だから……変な事って何かなって」
「え? ……その……」
ネイシングルの顔に一気に血が昇る。
……照れている?
「な……なんでも……」
「幻覚、じゃないみたいだ……」
「もう!」
頬を染め、俯くネイシングル。
「……ピッコニード。……訓練中、よ」
語尾が途切れ途切れ。
ネイシングルが恥らう仕草を……。
目を疑った。
「ご、ごめん……でも……」
後が続かない。……気まずい沈黙が……。
ネイシングルが顔を起こし、食って掛かってくる。
「もう! この……! もう……まじめに、やってよ……」
……あまり迫力もない。
照れているネイシングルって可愛い……。
「……雨降って地固まる、だったかな……」
「え?」
「い、いや、なんでもないって」
「……変なの」
「……よし、もう少しやろう。時間もあまりないし」
「うん。……じゃ、もう一勝負、格対魔でお願いね。その後、少し剣舞で身体ほぐして終わりにしましょ」
……剣舞で身体ほぐすって……どんな体力なんだろう?
……身体ほぐすのは別枠でやっておこう。
「茹だる……」
さすがに炎天下で、実戦さながらの訓練は辛い。
休み無しの連続で試合を行なえる限界は1時間そこそこって言われているが……納得。
流れる汗を拭う。
……拭いている側から汗が噴出する。
……脱水症状に気をつけないと。
「ピッコニード、何か飲む?」
「あ、ありがとう……動けないから投げて」
「この……怠け者」
そんな笑い声と共に水筒が一直線に飛んできた。
「もっと軽く投げてよ!」
「したわよ」
これで、軽くか……。
「お、冷たい……!」
「泉の湧水口に置いていたもん」
「冷たくて気持ちいい!」
「良かった。……足りなかったら泉に落としてあげるわね」
「それは勘弁して」
笑いながらネイシングルが隣に腰を下ろす。
「今日はさすがに疲れたかな」
ネイシングルも額の汗を拭っている。
「前は汗なんてかいていなかったのに」
「だって……手、抜いてたもん」
「……」
「あ、傷付いた? でも本当の事よ。でも、もうそんな余裕ないかな?」
「うん。そうだね」
「それに、教え子が上達してきたから。うかうかしてられないし」
「え?」
顔がにやついているのがわかる。
「そ、そうなんだ……」
「うん。だから……、訓練中にあんな事言わないで欲しいの……」
そう言うとネイシングルは俯いてしまった。
「ネイシングル?」
「苦手なの、そういうの……。私、あまりそういうの好きじゃないから……」
「……ネイシングル」
「ごめんね」
「……そういうのって何?」
「え……?」
「そういうのって何?」
「そ、そういうのって……」
絶句するネイシングル。
……少しからかってみよう。
「ね、そういうのって何なの? ネイシングル?」
「そ、そういうのって……」
「ね……ネイシングル? 何なの?」
「……だから、そういうことを言わないでって言ってるの!」
勢いよく突き出される両腕。
「わっ……っとっとっと」
危なかった、もう少しで泉に落ちる所だった。
「危ないじゃないか。落ちたらどうするんだよ」
「ん~? 落として欲しい?」
「ごめん……もう言いません」
「まったく……余計な所で疲れちゃった……」
言いながら両足のふくらはぎを揉むネイシングル。
「……揉んであげようか?」
「いいわ、自分でやるから」
不機嫌そうな声。
「……痛いの? そこ」
膨れっ面のネイシングルが念入りに揉んでいるのは、この間も痛がっていた右足。
「うん。……少しね」
「例の、痛い秘孔?」
「うん……力を入れると痛むのよね。痺れるような感じで……。でも普段は何ともないから……」
「怪我したのって左足だったよね」
「うん。……ずっと左を庇っていたからかな?」
そう言えば、神官長がそんな事言っていた気がする……。
「姿勢も変になるしね。怪我を庇っていると」
「詳しいわね。さすが、神聖魔術医見習い」
……笑っている。からかうつもりかな?
「かっこいいね、ピッコニード」
「そうだろ」
わざとらしく胸を張る。
「……後は、下手な人に付き合ってるからかな? それで疲労が溜まっているのかも」
「……さっきは上達したって」
「あら? そんな事言ったかしら?」
すました表情で、そう言うネイシングルが僕に視線を向け、吹き出す。
「……嘘嘘。上達しているわよ。それとも……才能かな? この頃急に試合運びも上手くなってきた見たいだし。……だから、ね。そんな拗ねた顔しないの」
「そ、そうかな?」
「ま、先生も良いからかな?」
「……って、僕が成長しても仕方ないんだけど」
「え?」
訓練の目的は、彼女が万全の状態で三力祭に臨める事であって、僕の成長は二の次で構わない。
取り敢えずD級大会を卒業できればそれで構わない。それ以上の事は彼女の為に使いたいと思っているから。
「ネイシングルのほうはどうなの? 自分の試合運び、出来るようになった?」
「う~ん。完全とはいかないかな……。でも……今、こうしている事が楽しいの。だからきっと思い出せるわ。あなたが驚くような勝ち方で優勝して見せるから」
「頼もしいな……楽しみにしているよ」
「うん。期待しててね。……じゃ、続きやろっか?」
と言って立ち上がる。
「もういいの? もう少し休んだ方が……」
「大丈夫。身体動かしていた方がいいのよ」
「そう……?」
彼女の後を追って立ち上がりながらも、胸中の微かな不安を取り払う事が出来なかった。
揉んだ時、他の所と比べて右足の気の流れが、僅かに乱れていたような気がする……。
……後で神官長に相談してみよう。
「でも……。辛いと思ったら言ってよ。ネイシングルは何でも抱え込むんだから。そのために僕がいるんだし……」
「……ピッコニード、説教臭い」