セカンドールマスターー育成者とドールのイロモノシリーズー 作:御舘雅盛
数日後、ネイシングルは無事退院した。
あの夜、泣き濡れたネイシングルを病室に送り、僕らはそこで一晩過ごし、様々な会話を楽しんだ。
その中で、ネイシングルは家門に戻り、次の大会に備えるという話を持ち出した。
休暇は過ぎていたが、術後の安静を図るという事で、ステンキル辺境伯閣下からは退院後一ヶ月の休暇を与えられていた。
だが、彼女は家門で少しづつ次の試合に備えたいとのことだった。
僕もその意見には賛成し、ネイシングルは退院後、家門に帰ることになった。
今日はネイシングルが家門に帰る日だった。
約束通りの時刻に馬車の停車場に来たが、彼女の姿がそこにない。
……どうしたんだろう? まさか寝坊でもしたのだろうか?
「あ、ごめんごめん」
通りの向こうからネイシングルが駆けて来る。
「遅いよ」
「ごめん、二人に捉まっちゃって」
あの二人か……仕方がないな。
ここで過ごす最後の時を楽しんで停車場に戻ると、長距離旅客用の馬車が一台停まっていた。
ネイシングルはこれに乗り帝都に帰る。
「……行くの?」
「うん」
短い言葉。でも、その言葉を交わす間にいくつもの会話が流れていた気がする。
初めて言葉を交わした舞踏会。
互いを少しづつ知り、一度は失いそうになった事もあった。
そんな今までの想いが全て今の言葉に集約されていたような気がした。
「そうか………頑張ってね」
「ピッコニードも早く上がって来てね。……何時までも私を独りにしないで」
「うん。……頑張るよ。………ネイシングルも焦らないで。迷ったら隣を見て。そこに必ず僕がいるから」
「うん………」
「僕も頑張る……いつかお互いに自信が持てたら……」
「そうしたら……」
「また……」
馬車に足を掛けるネイシングルが僕を振り返り、一瞬動きを止める。
「またいつの日か会おう」
「うん」
満面の笑みを浮かべるネイシングル。
時には迷い、挫折し、諦める事もあるかも知れない。
でも、もう僕もネイシングルも1人じゃない。互いを信じ、互いに支えあって生きていこう。
去り行く馬車を見送りながら、僕はそう思った。
【後書き】
本作は第三期休暇の光景を『flutter of birds』というゲームを流用して(パクッて)書いたもののはずだったんですが……別物に近くなってしまった様です。いろいろなものを詰めすぎました。
それにしても、一気に完結まで持っていった作品で、執筆に3週間以上かかったのは初めてです。
なお、舞台中のセルピルム神殿(温泉)は、玉川温泉をイメージして作りました。
……ですが、十分に生かしきれていなかったようです。
次に同じような作品を書くときは生かせていければな。と考えていますが……その機会はあるでしょうか。
何はともあれ、この度はこのような長編にお付き合いいただき、ありがとうございました。
【追記】
副題の意味は漢和辞典を参考にしてください。すぐに見つかります。
透身鏡のモデルは田中芳樹著「阿羅壬の鏡」に出てくる「秦鏡」です。多分気がつく人は気が付いていると思いますが。