セカンドールマスターー育成者とドールのイロモノシリーズー   作:御舘雅盛

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男の思惑

 

 

「……」

 時計の針に目をやり、時間を確認する館の主。

 ……深夜1時。通常であれば館の皆は寝静まる時間であった。

 主が部屋を出て、月明かりの廊下を、目的の部屋に向かって静かに歩む。

 屋敷の中は、怖いくらいに静かだった。

 11時頃まで皆で酒を飲んでいたので、しのぶ達が起き出してくる心配はない。

 目的の部屋の前まで来ると、扉に耳を近づけ、中の気配を伺う主。

「………」

 静かだった。やはり、起きている気配はない。

 部屋の扉を静かに開けると、主は音をたてないように注意して、急いで部屋の中へ滑るように入り込んだ。

 後ろ手に扉を閉めながら、素早く寝台に視線を移す。

「………」

 その寝台では、彼が育成者として幼齢の頃から引き取り育ててきた、夜目にもわかる金髪と今は閉じられているサファイア色の瞳をもつ少女――ワインチェリー――がすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。

『……酔っているな。まさか、こんな真似をしようなんてな……』

 主が自嘲する。

「……………」

 だが。と否定する主。

『……いや、そうじゃない。酒のせいなんかじゃない。ずっとこうしたいと思っていた。ただ、そんな事が許される筈がないと、自分の心を押し殺していただけだ。だが、もう……堪えきれない』

「んっ………お館……様?」

「っ!?」

 寝ている筈のワインチェリーの口から、主を呼ぶ声が聞こえた。

 気づかれたか!?

 慌てて隠れようとする主だが、辺りには隠れそうな場所はない。

 ふと、自分の行為の馬鹿さ加減に苦笑する主。

『……どうせ気づかれるんだ。今更、隠れてどうする?』

 そう思いなおし、静かにワインチェリーの寝ている寝台に近づいた。

「………………」

 静かな寝息を立てるワインチェリー。

 先程の誰何の声はだたの寝言だったようだ。

 月明かりに照らされたワインチェリーの寝顔は、酒のせいか、ほのかに朱に染まっていた。

「………」

『……ワインチェリーはきっと、私の事を恨むだろうな。だがもう限界だ……。これ以上は堪えきれない……』

 そう呟くと主は、そっと手を伸ばし、胸元を探った。

「んんっ……」

 ワインチェリーの口から声が漏れる。

 気にせず、行為を続ける主。

「んっ……ううんっ………………お……館様?」

「っ!?」

 ワインチェリーが目を覚ました。

 覚悟はしていたとはいえ、流石に慌てる。

「お館様? こんな夜中に何………むぐっっ!?」

 慌ててワインチェリーの口を塞ぐ主。同時に、そのか細い、だが張りのある手を上から寝台へ押さえつける。

「むぐっ……むうううぅぅぅーーーーっっ!!?」

 ワインチェリーの押さえられた口から、声にならない声が漏れる。

「………騒ぐな。おとなしくしろ」

 発した当人が些か驚くほど冷たい声が、その耳に聞こえていた。

「むっ………ぅっ………」

 ワインチェリーのサファイア色の瞳が濡れる。

 月明かりに照らされたその滴が、「何故?」と訴えていた。

 だが主は、今更後には引けなかった。

 しばらくすると、ワインチェリーの身体からすっと力が抜けた。

「……いい子だ」

 おとなしくなったワインチェリーの口から手を離す。

 押さえつけている手はそのままだ。

「お館様……どうしてこんな事を……?」

 抵抗を諦めたワインチェリーから、涙まじりの呟きが零れる。

 押し倒されているような状態のワインチェリー。その瞳を、主はじっと見つめて答えた。

「それは……君が一番良く知ってるんじゃないか? 私の気持ちは。……もう堪えきれないって事が……」

「でもっ!! それなら……仰ってくだされば、こんな真似をなされなくても、私は……いつでも……」

 主の目線を逸らし、か細い声で答えるワインチェリー。

「ワインチェリー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金貸してくれっ!!」

 その言葉に、

「……お館様。お館様は、マナ欲しさに、深夜に私の部屋に忍び込んで来て、脱いだ服のポケットを漁るんですか?」

「うっ……」

「大体、何に使うんです?」

「いや、その……指輪買ったり、色々とその……。頼む、しのぶに差し押さえ食らって小遣い無いんだ」

 ワインチェリーの前で顔を下げる主。

「……仕方ないですね。今回だけですよ」

「済まない」

 そう主が礼を述べ、ワインチェリーに近付く。

 目を閉じるワインチェリー。

「……ワインチェリー?」

「……証書の代わりに。……だめですか?」

 微笑むワインチェリー。

 主がその肩を抱き寄せ、背中に右腕を廻す。

 微かに開いた桜色の唇。

 切ない吐息が漏れる。

 主は何も言わず、左手をワインチェリーの夜でも鮮やかな金色の髪の中に通す。

 その手を頬に滑らせ、顔の形を撫でる――何かを確認するかのように優しく。

 首元にその手がたどり着き、微かに震えるワインチェリーの身体。

 優しくその肩を抱く、主の両手。

 瞳を閉じるワインチェリー。

 永遠にも思える一瞬。

 触れる主の唇。

 重なる二つの影。

 

 暫しの後、一つになった影が二つに分かれる。

「……この事は皆には秘密ですよね」

 ワインチェリーが艶然と微笑んだ。

 

 

 

 

 

<FIN>

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