メズールと一戦を交えてしばらく、俺たちはやってきたバスに乗りこんだ。
まだ朝早いということもあり、バス内には俺と彼女、そして運転手の3人しかいなかった。
「メズール、学校にいる時は用意した名前を使ってよ」
「わかってるわよ」
運転手だけとはいえ人に聞かれると不味いので後ろの方の2人席にメズールと座り、小声でつぶやく。
別にメズールと一緒に座りたいとかそんな私的な理由ではない。
……ズボン越しに触れる太ももの感触が柔らかい。
「
真顔でそんなことを言ってくるメズール。
ちなみに七海愛というのは俺が作った仮名だ。
そもそもメズールは戸籍もなにもない上に人間ですらない怪人。
そんな彼女と高度育成高等学校に通うためには戸籍などもろもろを用意する伝手と権力が必要がだった。
そのために鴻上会長を利用した。
一応、俺は錬金術士の子孫ということもあり鴻上会長に手を貸すことで快くサポートをしてもらえたからウィンウィンの関係だろう。
あの人、欲望のために生きるものなら、素晴らしい!とか言って支援してくれるから。
「にしてもメズールって制服姿も似合ってるな」
「あら、ありがとう」
改めてメズールの姿を上から下へと確認する。
メズールは基本的に青色の服を着てるか怪人態だ。彼女のイメージカラーが青色と言ってもいい。だからこそ、赤い制服を身に纏う彼女は新鮮で、俺の好みにクリティカルヒットしている。
「うふふ、それじゃあどのくらいかわいいのかしら?」
「ひゃっ!め、メズールさん?」
俺の肩にしなだれるメズールに対して上擦った声が出てしまう。
腕に絡みつくように抱きしめてきた彼女の落ち着いたおっぱいやら柔肌な感触がムニムニと俺を襲ってきた。
もしかしてこれはご褒美か?
それともさっき契約内容を話していたときに控えめなこと言ったから、もっと大きなこと言えってことか?
なら、ここは男を見せるときだろう。
「エッチしたいぐらいにかわいい」
「素直ね。気持ち悪いわ」
なぜだ。本心を伝えたら体ごと引かれた。
これは選択肢を間違えたようだ。でも、そんな反応をするメズールもかわいいんじゃ。
そんなやり取りをしているとバスがゆっくりと止まった。まだ目的地まで時間があるから、たぶん乗客だろう。
予想通り、ドアが開き乗客が一人入ってきた。
「あらま」
「どうしたの坊や?」
「いや、知ってる子がいたから」
なんとなく乗りこんだ乗客を眺めていたら、それは見たことのある女の子だ。
「顔見知り?」
「あぁ、一方的にだけど」
「なにそれ」
変質者を見る目で俺のことを見てくるメズールを傍らに、前の席に座りスマホをいじる女の子を観察する。
垢抜けた髪をシュシュでポニーテールに纏める女の子。それは彼女はDクラスの女性陣を仕切るギャルっぽい子、軽井沢恵に違いない。
えっと確か平田と付き合うんだったっけ?
あー、くそ。意図的に記憶が封じられるせいで軽井沢のことがよく思い出せない。
「あら、あの子の欲望は大したものね」
メズールの言う通り、彼女の欲望は膨大だ。自分自身コアメダルを体内に入れてるからか、人の欲望が感知できるし俺から見ても彼女の内に溜まる欲望の渦が大きなことが見てわかる。まぁ、重要そうなキャラってことだけは覚えてるから、この量の欲望も別におかしくはないだろう。
「ヤミーを作り出すのに十分な素質があるじゃない」
メズールがそんな言葉とともに1枚のセルメダルを構えた。もしかして軽井沢にセルメダルを入れて、ヤミーを作る気なのだろうか。
そんな彼女に俺はため息をつきながら、グリード化させた指でかわいらしいおでこにデコピンをかました。
「いたっ!なにするのよ!」
おでこを赤くしたメズールが目に涙を浮かべて睨んでくる。ちょっぴり威力が強かったのか額からセルメダルが1枚飛び出してきた。
が、今回はメズールが悪い。
「前から言ってるじゃん。メズールはヤミーを作っちゃダメって。メズールがヤミーを作ったら町に被害出て、オーズが来ちゃうでしょうが」
「でも、ここまで離れたらさすがにこないでしょ」
「ダメだよ。仮面ライダーを甘く見ちゃ」
彼ら仮面ライダーは物語の主役。それを差し置いてもヒーローとしての素質があるものばかりなんだ。
たとえ離れた場所でも、それどころか時代が違えど、世界が改変されても怪人によって誰かが傷つけば必ず駆けつけるのが仮面ライダーなのだ。
それは物語を診ていた俺だからこそわかっていることなのど。
「わかったわよ」
俺の鬼気迫る言葉に珍しく怯えたような顔をするメズール。
彼女自身もそれは薄々実感していたのか、渋々ながらもセルメダルを収めてくれた。
俺は彼女の素直な反応に微笑みながら、メズールから飛び出て足元に落ちたセルメダルを拾い上げる。
「だから代わりに、
それゆえに傷つけない選択を選べば、仮面ライダーは駆けつけない。
アンクたちのように片手でセルメダルを投げつける。
それは綺麗な直線を描いて、軽井沢の後頭部に出現した投入口に挿入された。
「ん?」
軽井沢が不思議そうに周りを見渡すが、特になにもないとわかると興味をなくしたのかスマホの画面をまた見始めた。
成功だ。
彼女の願いがなにか忘れたけど、それが上手くいくことを心から願いながら、笑みを浮かべる、
「坊や、笑いかたも気持ち悪いのね」
本日2度目の気持ち悪いいただきました!
メズールの冷たい言葉が胸に染みた。
★
学校に着いた俺たちは自分たちのクラスを確認するために掲示板に向かうことにした。
「私たちはDクラスみたいね」
「Dクラスねぇ」
表面的には普通に言葉を返す俺だが、内心は喜びで裸踊りをしていた。
この学校、クラスは4つしかないが、それでも同じクラスになる確率は低い。
この学校が意図的にクラス分けをしていたことは原作知識として覚えていたけど、その条件は全然思い出せなかった。たぶん、ストーリーに関係していたのだろう。
場合によってはメズールと別のクラスになる可能性もあったから、ホッとしている。
「メズールと一緒のクラスになれて良かったよ」
「私はあなたと一緒にいるのはうんざりなんだけど」
このやり取りもいつも通り。
嫌そうな顔をするメズールとなんだかんだ続く会話をしながら、教室を目指す。
教室のドアを開けてみれば、それなりに生徒がそろっていた。
「へぇーそうなんだ!あたしもバスで学校まで来たけど朝早くて大変だったんだよね」
さっき一緒のバスに乗車していた軽井沢は先に来ていたみたいで早くもクラスの女の子と談笑していた。
うん、同じクラスだからセルメダルの管理も楽そうだし、なにより主人公のいる教室。ストーリーがわからなくてもそれなりにやっていけそうでなりよだ。
「私、あっちのほうに席があるから」
自分の席を確認したメズールが空席を指さして、てくてくと歩いていく。
もうちょい俺と会話してくれてもいいのに。ここで殺されないだけましなんだけどさ。
仕方ない。
メズールとの会話は一旦諦めて、俺も席を確認するために黒板に張り出された座席表を見る。
メズールの席の近くにあるかなー。
「うげ、メズ、……愛から離れてるし」
俺の席はメズールからものすごい離れてる。というか、メズールの席綾小路の前じゃん。
そこって普通はさ、よう実に転生したオリ主ポジションじゃないの?
綾小路の強さとか見たらメズールが気に入っちゃいそうで嫌なんだけど。
とりあえず担任が来るまではメズールのところに行って、綾小路に威嚇しとこう。
「あの、ちょっといいかな?」
そ席に荷物を置いてメズールの元に直行しようとしたところ、隣から声をかけられた。
振り返ると、肩口近くまで切り揃えられた明るい髪の巨乳美少女。
俺は彼女を知ってる。確か物語のメインキャラ、櫛田桔梗だ。天使みたいにかわいくて良い子。
「私、隣の席なんだ。もし良かったらちょっとお話しないかな?」
彼女からの提案に内心、迷ってしまう。
うーん。すぐにでもメズールのところに向かってそこらの男を寄せ付けたくないんだけど。とはいえここで彼女の提案を断るのもなぁ。初日からクラスメイトと仲悪くなるようなことはしたくないし。
「あー、うん。俺は別に構わないよ」
「やった!嬉しいな」
とりあえず話をすることにしたけど。
んー、あざとい。でも、嫌いじゃないわ!
「私、
「ん、よろしく櫛田さん。俺は
「じゃあ、金城くんって呼ぶね!」
自然な感じで手を伸ばしてくる櫛田に思わず引きつってしまう。コイツ、コミュ力が高すぎる。しかも、おっぱいがでかい。
これは思春期な男の子には刺激が強すぎる。
メズールマジラブな俺じゃなかったら耐えられなかったね!
とはいえ、俺のメズールラブとかは置いといて、今は櫛田に興味津々でもある。
もちろん好きとかではなく好奇心。
彼女見た目も仕草も完璧なんだけど、半グリード化した俺の目には、彼女の内にとんでもなく大きな欲望の塊があるようにしか見えないんだよな。
割と大きな欲望を持つ軽井沢と同じかそれ以上の欲望。
こんなにかわいい笑みを浮かべてるのに、中身はずいぶんと欲望的である。
「金城くんは一人でこの学校に来たの?」
「いや、同じ中学の知り合いがいるよ。あそこで男子生徒誘惑してるおバカ」
俺がメズールのほうを指さすと、ちょうどメズールが綾小路のあごに手を伸ばそうとしている場面だった。隣にいる
「あはは、あの子初対面の男子なのにすごいね」
櫛田がどう言ったものかと苦笑いする。
ほんとですよ、メズールさん。仮にもあなた今朝告白されたばっかなのに、なんで俺の前で他の男の子愛でようとしますか。嫉妬でファイアーしちゃうよ?
というか綾小路がまじ羨ましいんですけど。
俺がゲーム病に感染していたら確実にバグスター出現だよ。そんなことを考えてると、隣にいた櫛田から
「うぉっ、え?」
「どうしたの?」
俺の驚く声に反応した櫛田が不思議そうに首をかしげる。その愛らしい仕草の裏で、今も欲望がドロドロと勢いを増していくのがグリード・アイ(仮)でわかる。
え、ほんとになんで急に欲望が増えたんだ?
特に櫛田はなにもやってないのに。
やったことと言えば俺と会話したことと、さっき綾小路たちのやり取りを見ただけでそれ以外は別に……。
ははーん。
「櫛田、頑張れよ」
「えっ、金城くんいきなりどうしたの?」
俺の応援に疑問の表情を浮かべる櫛田だが、このしぐさはフェイク。きっと本心がバレないよう必死に誤魔化しているのだろう。
安心しろ、俺はわかってるけど口になんて出さないよ。
彼女の欲望がなにか。俺にはそれがわかったからだ。
櫛田はきっと——綾小路のことが好きなんだ!
理由とかは知らないけど、だからメズールかベタベタと綾小路に触れて欲望の塊が膨張したんだ。
わかるよー。だって櫛田、メインヒロインの一人だもんな。ラノベの挿絵に描かれるだけのキャラなんだし。
それに綾小路は主人公だ。パッと見冴えなさそうに見えて、アレはやるときはやる男なんだろう。惚れる気持ちもわかる。
それにきっと敵が多いはずだ。
他に堀北や軽井沢、佐倉や一ノ瀬といった魅力的なヒロインたちが大勢いるんだ。櫛田がいつ綾小路に惚れたか知らないけど、これだけ美少女がいれば好きな男子を取られないか、気が気でないのは確かだ。
俺だってメズールが他の男子と話しているとイライラするもん。
「大丈夫だよ。、強敵かもしれないけど櫛田なら勝ち取れるよ。俺、櫛田のこと応援してるから」
「本当になんのこと⁉︎」
櫛田の肩にぽんと手を置いた俺はできるだけ優しく誠意を込めて、応援していることを再度告げるが、櫛田は最後まで俺の応援を素直に受け取ることはなかった。
よう実ってハーレム系作品だっけ?
オリ主は原作知識でどのキャラがいるのかは知ってるけど、ストーリーに関わるほとんどは思い出せないようになってます。
あと、頭の回転は悪くないけど鈍感でバカなので、櫛田が堀北を見ていたことには気づいてないです。