ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・   作:neo venetiatti

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第12話

翌日の新聞やテレビでは大きく取り上げられていた。

〈ネオ・ヴェネツィア国際映画祭のプレゼンターに抜擢されたオレンジぷらねっとのプリマ・ウンディーネ、アリス・キャロルが記者会見〉

〈アリス・キャロル 多数の報道陣の前で緊張のためか、言葉少ない会見に〉

〈今人気トップのウンディーネ、アリス・キャロル 映画祭のプレゼンターに抜擢で、人気に拍車がかかる〉

「なるほどね」

アローナはカフェのテーブルの上に読んだ新聞を置くと、また次の新聞を広げた。

もちろん読むところはアリスの記者会見の記事だった。

「各紙とも大体同じ内容ね」

少し難しい顔をしながら新聞に目を通していたアローナは、軽く笑みを浮かべた。

そしてその新聞をバッグに押し込むとスッと立ち上がり、店を後にした。

 

ネオ・ヴェネツィアの古い建物が立ち並ぶ路地を、アローナはなんの迷いもなく歩き続けた。

そして路地を抜けた先にいきなり視界が開け、海が現れた。

アローナは眩しさに目を細めつつも、笑みがもれていた。

「さてさて」

行き先は決まっていた。

海沿いを進むと、海に飛び出すように立っているARIAカンパニーが見えてきた。

「今日はいるかな」

岸壁からその建物に渡している桟橋を渡り、扉をノックしようとした。

が、それをやめてぐるりと回るデッキをつたって、海に面した側に回った。

角でチラッと覗き込むと、カウンターの上には小さな鉢植えの他に何も置かれてなかった。

それを確認すると、カウンターの前まで回り込み、中をそっと覗きこんだ。

「あれ?また君なの?」

中ではテーブルを拭きながら振り返ったアイがいた。

「あっ、この前の方・・・ですか?」

「うん、そうなんだけど」

アローナは不思議そうにアイの顔を眺めていた。

「えっと・・・私の顔に何かついてますか?」

「あっ、ごめんごめん。そういうわけじゃないんだけど・・・バイト?」

「私、バイトじゃありません」

「バイトじゃないんなら、なんでいるの?」

「見習いです」

「見習いか・・・」

アローナは感心したようにアイの顔を見た。

「お手伝い?」

「見習いです」

アイは少し強い口調で言い返した。

「もしくは・・・」

「もしくは?」

「実習生です」

「実習生?」

「はい。しいて言うなら見習い実習生です」

「なるほど。だから働いてるというわけだ」

「その通りです」

アイは何か問題でも?と言いたげな表情だった。

アローナは微笑むとじーっとアイを眺めた。

「店番」

「違います」

アイは間髪入れず言い返した。

「ハハハハ」

アローナは思わず笑いがこみ上げてきた。

「あの、冷やかしですか?」

アイは冷静な口調で問いかけた。

「ごめんごめん、冷やかしではないよ」

「じゃあ何ですか?」

「そんな怒らないでよ。悪かったから」

「別に怒ってるわけじゃありません」

「そうなの?」

アイの少しふくれた表情に、アローナはつい微笑んでしまう。

「ここのウンディーネさんに用があるんだけど、この分だと今日も行き違いだね」

「灯里さんにどんな用ですか?」

「灯里さん、ていうんだ」

「名前も知らなかったんですか?」

アイは不信感いっぱいの目でアローナを見返した。

アローナはちょっと気まずそうな表情を浮かべた。

「名前を確認してなかったのは、こちらのミスね。それは申し訳なかった」

「それで?」

「それでね、灯里さんにお話を聞きたくて来たんだけど」

「どんなお話ですか?」

「昨日記者会見があったでしょ?ネオ・ヴェネツィア国際映画祭のプレゼンターの」

「知ってます。アリスさんのことですから」

「アリスさんて、もしかしてあなたも知り合い?」

「一応そうですけど」

「そうなんだ。それでね、灯里さん、アリスさんと親しいようなので、是非感想を聞きたくて来たわけなんだけど」

「そういうことですか」

アイはちょっと考える仕草をして見せた。

「だめかなぁ」

「灯里さんは、今とっても忙しいので取材を受けられるかどうかはわかりません」

「そうか。そりゃ忙しいよね。あのアリシアさんの後を継いで、ひとりでやってるわけだもんね」

「その通りです。ひとりであれもこれも大変なんです」

「だからあなたのような見習いがいると助かるというわけだ」

「はい、そういうことです」

「だからかぁ」

「何がですか?」

「いや、あなたみたいにしっかりしてる人がいるから、灯里さんは安心して仕事に集中できるというわけだ」

「おだてたって、何も出てこないですよ」

アイはクールに言い返した。

「ハハハハ。そんなつもりはないよ。ただ、あなたなら灯里さんに話が通じるのかなぁと思っただけ」

「私はまだ見習いの身分ですので、なんとも言えません。それに」

「それに?」

「とにかく灯里さんは、忙しくててんてこ舞いなんです」

アイがちょっと大きめの声で言い返した時、入り口のドアが開いた。

「ただいまぁ。アイちゃん、今晩はリゾットでいい?」

そう言って中に入ろうとした灯里が、ふたりの姿を見て、その場で立ち止まった。

首だけで振り返ったアイは、目がテンになって、あんぐりと口が開いていた。

アローナも少し驚いた表情だったが、状況を察した様子だった。

「灯里さん、タ、タイミングが・・・」

「へっ、何?」

灯里は灯里でひきつった表情になっていた。

「いやぁ、タイミングが良かった」

「はぁ・・・」

アローナは軽く咳払いすると、姿勢を正すように灯里に向き直った。

「初めまして。私、ルポライターをやってますアローナと申します」

「はい、私はARIAカンパニーの水無灯里と申します」

灯里はいつもの調子で、律儀に挨拶を返した。

「やっと会えた」

「はひっ」

気まずそうに背中を丸めているアイが口を開いた。

「こないだ、灯里さんがいないときに来られたひとです」

「ああ、その時の方」

「先日伺いしたときは、お忙しい時だったようでお会いすることができませんでした。今日もお忙しいとのことだったのですが・・・」

「今日は予約のお客様が一組だけで、そんなには忙しくはないですけど」

アローナがチラッとアイを見ると、気まずそうにテーブルを拭き続けていた。

「そうなんですか。それは良かった」

「アイちゃん、そんなにテーブル拭いてどうしたの?」

状況を飲み込めていない灯里は、アイの行動が気になっていた。

「いえ、あの、お客様をお迎えする用意をしておこうと思いまして」

「そうなの?」

「いやぁ、ARIAカンパニーの見習い実習生となると、さすがにほかの店とは違って、仕事熱心だなぁ」

アローナは場の雰囲気を変えようと思って言ったのだが、灯里の顔には?マークが出ていた。

「見習い実習生・・・」

「あ、いや、それはですね」

アイはシドロモドロになっていた。

アローナもやってしまったかと思った。

「アイちゃん!」

「はい、なんですか灯里さん!」

「アイちゃんて、見習い実習生だったの?」

アイとアローナは、灯里の反応に二人してキョトンとなっていた。

そして、思わずアローナが吹き出した。

それにつられて、アイも吹き出してしまった。

「ええ~なにぃ~どういうこと~?」

 

「アリスちゃんのことで?」

灯里とアローナはテーブルを挟んで座っていた。

そこへキッチンからカップ3つと紅茶の入ったポットをトレイにのせて、アイがふたりのところにやって来た。

それぞれの前にカップを置き、紅茶を注いだ。

「アイちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」とアイが応えた。

その様子に、灯里がニッコリ微笑んだ。

「仲いいんですね」

アローナはふたりの様子を見て言った。

「アイちゃんとはちょっとしたことが縁で、親しくなったんだよね」

「はい。私が灯里さんのゴンドラにただ乗りしたんです」

「ただ乗り?」

アローナは思わず声が大きくなっていた。

「アイちゃん、それはもう気にしなくていいよ。だいぶ前のことだし」

アイは椅子を引いてちょこんと座ると、何事もなかったかのようにカップを手に取り紅茶を飲んだ。

「変わった縁なんだね」

アローナは苦笑するしかなかった。

「ところで、改めてアリスさんのことをお聞きしたいんですが」

「はい、そうでしたね。アリスちゃんとは、藍華ちゃんと合同練習をしていた時に偶然知り合ったんです。なんていうか、すいすいーっと追い抜いて行くゴンドラがあって、それがアリスちゃんとのはじめての出会いでした」

「あ、なるほど。そういうことね」

アローナは少し呆気にとられていた。

〈これは結構手強い相手かもしれないぞ〉

「灯里さん」

「何?アイちゃん」

「夫婦の馴れ初めを聞いているわけではないと思いますよ」

「夫婦?どういうこと?」

「こちらの方が聞きたいのは、アリスさんがネオ・ヴェネツィア国際映画祭のプレゼンターに抜擢されたことについての感想だと思います」

「そうだった。スミマセン」

灯里はすまなさそうに恐縮した。

「それじゃあアイさんからお伺いしましょうか?」

「私・・・ですか?」

アイは戸惑いつつも灯里の顔をチラッと見た。

「いいよ、アイちゃんさえ良ければ」

灯里がアイにやさしく微笑んだ。

「それじゃあ」

といって姿勢を正すと、アイは軽く咳払いをした。

「アリスさんはとても素晴らしい方だと思います。憧れています」

「どういうところが?」

「飛び級昇格でプリマになるなんて、そんなことできるものではないと思います」

「確かにそうだね。他には?」

「他には・・・」

「ないなら別にいいけど」

「いえ、とてもかわいいです」

「なるほど」

「それから・・・」

「それから?」

「それから・・・」

アイの困っている様子に灯里が口を開いた。

「あの、アイちゃんはまだ、そんなにアリスちゃんとは会ってないもんね?」

「会ってない・・・」

アローナは不思議そうにアイの顔を見た。

「い、いえ、まだそんなに深いお付き合いをしていないということで・・・」

「なるほど。そこまでは深いお付き合いじゃないということね」

「まあ、そんな感じです」

アイは焦りながら、ふぅ~と息を吐いた。

「じゃあ、灯里さんに伺います。アリスさんのプレゼンター抜擢について、感想を聞かせて下さい」

「私は、今のアリスちゃんにとても相応しいお仕事だと思っています」

「それはどういう理由で?」

「アリスちゃんの活躍ぶりはすごいですし、人気もとてもすごくて、ウンディーネとしての実力もとてもすごいんですよ」

「ハハハハ、アリスさんがすごい人だというのが、とてもよく伝わってくる感想ですね」

「そうですか・・・なんか変なこといったかなぁ」

「灯里さん、すごいしか言ってないですよ」

「えっ、そう?だってほんとにすごいよ、アリスちゃん」

「それは私にもわかります。先日彼女のゴンドラに乗せてもらったときに思いました」

「乗ったんですか?」

アイはちょっと驚いたように聞き返していた。

「私まだ乗ってないのに。先越されちゃった」

「それなら是非乗ってみるといいよ。彼女の操舵の技術はちょっと見たことないね、他のウンディーネでは。しいて言うならアリシアさんぐらいかな。アリスさんよりできる人と言えるのは」

「そんなに?」

「そうだね。私の経験上では」

「アローナさんは、そんなに沢山のウンディーネを見てこられたんですか?」

「うん、まあ、そういうことかな」

灯里とアイは、ちょっと感心したようにアローナを見た。

「えっ、なに?どういうこと?」

「なんかうさん臭い人だと思ってましたから」

アイはストレートに印象を語った。

「えっ、そうだったの?」

「私はそこまでは思ってませんでしたけど」

灯里はうつむき加減に答えた。

「ええ~そうだったのかぁ。ちょっとショック・・・」

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