ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
アイとアリア社長は、大きなイベント会場を見上げていた。
「アリア社長、ほんとにここなんでしょうか?」
アイたちが目にしていたのは、映画祭のために出展していた、オレンジぷらねっとのイベントブースだった。
今回の映画祭のための設営ブースとはいえ、信じられないくらいの大きさだった。
アリア社長は両手を腰に当て、大きく足を開いて仁王立ちとなっていた。
そして巨大なブースを見上げた。
そのまま身体が反り返ってゆくと、後ろに倒れていった。
「アリア社長!大丈夫ですか?!」
アイの横で大の字になって、アリア社長は空を見上げていた。
「ばいちゃ・・・ばい」
入り口付近でキョロキョロ見回していたアイの方に声が聞こえてきた。
「アイちゃん、こっちこっち」
中から顔を出したアリスだった。
「アリア社長もようこそ」
「ぷいにゅーい!」
アリア社長のリアクションにアリスから笑みがもれた。
「アイちゃん、わざわざ来てもらってありがとう。迷わずに来れた?」
「はい。あ、いえ、実は迷いました」
「そうだったの?」
アイとアリア社長は、アリスの案内で控え室に通された。
そこでアイは、ここへ来るまでの経緯をアリスに話して聞かせた。
「へぇ~、そんなことがあったんだ」
そう言いながら、アリスは、アイの前のテーブルにジュースを入れたコップを置いた。
「アリア社長はこれね」
そう言って浅い器にミルクを入れて置いた。
アリア社長はそこに顔を突っ込んで飲み始めた。
「そうだ。先に大事なもの渡しておきます」
アイはそう言って肩からたすき掛けにしていたポシェットを外して蓋を開けた。
中から取り出したのは、キラキラと輝きを放つブローチだった。
「ありがとう」
アリスは大事なものを扱うように両手で受け取った。
「アテナさんが、どうしても時間が作れそうにないということで、ARIAカンパニーに来られた時に、預けて帰られたんです」
「これをどうしようかと悩んでいるの」
アテナはアリシアと灯里の前でかばんからブローチを取り出した。
「とてもきれいね」
「とても素敵です、アテナさん!」
アテナはそのブローチをテーブルに置いた。
「これが悩んでる理由?」
アリシアはそのブローチにそっと手を伸ばした。
「さわってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
手に取ってみると、輝きがいっそう増したかのようだった。
灯里もアリシアの横で目を輝かせていた。
「アリスちゃんにどうしてもつけてほしくて」
「映画祭のステージで?」
「うん、そうなの」
「アリスちゃん、きっと喜ぶに違いありません!」
灯里が興奮してしまっていた。
「でも渡せるタイミングがないの。本番までもう時間がないし」
アテナは元より、アリスも時の人となっていて、ふたりが会える時間がなかなか見つからない状況だった。
「そうね。私も今は動きが取れない状況だし・・・」
「私、行ってきます!アリスちゃんに届けてきます!」
灯里は勢いよく声をあげた。
「でも灯里ちゃん、ARIAカンパニーはどうするの?」
「あっ、そうでした」
急にガクッとうなだれた。
「ふたりの気持ちはありがたく受け取っておくわ。なんとか方法は考えてみる」
アテナがブローチをかばんにしまいかけた時、入り口のドアが開いた。
「灯里さん、ただいま!」
アリア社長と連れだってアイが帰ってきた。
「あっ、こんにちは。アリシアさん、アテナさん」
「あら、こんにちは、アイちゃん。アリア社長もご苦労様です」
「ばいにゅい!」
「アイちゃん、どうだった?」
「はい。アリスさん、すっかり元気になられてました」
「そう。それは良かった」
「アテナちゃんもこれで一安心ね」
「うん、そうね」
「これでプレゼンターの方も心配なさそうですね」
灯里が何気なく、アイの方を見て言った。
それを見たアリシアが言った。
「そうだわ。ここにもいるじゃない?かわいいプレゼンターさんが」
「えっ、どういうことですか、アリシアさん?」
「ブローチを送り届けてくれるプレゼンターさんがね」
アテナはなるほどといった表情でアイを見た。
「よろしくお願いね。プレゼンターさん」
アイはなんのことかわからず、キョトンとしていた。
「でも、私もそれなりにネオ・ヴェネツィアのあちこちを見てきたつもりですけど、そんなウンディーネは見た記憶がないですね」
アリスは、テーブルを挟んでアイの向かい側に座っていた。
「アリスさんでも知らないんですか?」
「そうですね。ちなみに制服の色はどんな色でしたか?」
「制服の色?」
アイは眉間にシワを寄せて真剣な表情で思い出そうとしていた。
「う~ん。あれ?おかしいなぁ。ぜんぜん思い出せないです」
「そうなんですか」
「長い髪が金色で、とってもきれいだったのは覚えてるんですけど」
「金色の長い髪」
アリスはそう呟くと、壁に貼られた映画祭のポスターに目がいった。
最も名誉ある作品賞の、金獅子賞のトロフィーの写真が写し出されていた。
「アリスさん、本番で話すコメントはもう決まってるんですか?」
「えっ?ああ、コメント。まだ決まってません」
「私、期待してます」
「期待・・・ですか」
「でも私、もうすぐマンホームに帰らなければいけないんです」
「そうなの?でもどうして?」
「今回アクアにやって来たのは、もともと社会見学が目的なんです」
「社会見学?」
「はい。将来希望する進路先を実際に見て、考えるきっかけにするためです」
「それでアイちゃんは、何を見に来たの?」
「もちのろん、ARIAカンパニーです」
「何それ?」
アリスは思わず笑い声をあげた。
「そうなんだ。ARIAカンパニーが将来の希望なんだ」
「はい、そうなんです」
アリスはオレンジぷらねっとの巨大なイベントブースの前でアイとアリア社長を見送った。
かわいい後ろ姿を見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。
そのまま振り返り、会場の入り口から会場全体の姿を見上げた。
「なんだか大げさな気がする」
映画祭と直接は関係していない水先案内店が、何故ここまでのことをするのか。
もちろんそれは、アリスがプレゼンターとして授賞式に出演することがきっかけであることに間違いなかった。だがしかし、それだけでないことも、オレンジぷらねっとの力の入れ様を見れば明らかだった。
映画祭という場所を利用して、売り上げだけでなく、水先案内店の中で知名度としても一番だと印象付けようとする魂胆が見え見えだった。
アリスはため息を漏らした。
「なんだか浮かない表情ですね」
かけられた声にハッとしてアリスは振り返った。
「アローナさん」
「お久しぶり、アリスさん。調子はどうですか?」
いつもの明るい笑顔で腰に手を当て、ポーズを決めるように立っていた。
「ご心配かけましたが、すっかり大丈夫です。身体の方はですが・・・」
「何?身体の方はって?」
「なんというか、気持ちの方はまだ追い付いていない感じです」
「そっか。あれだ。プレゼンターだ」
「ああ、その言葉、できれば聞きたくありませんでした」
アローナはアリスの憂鬱な表情を見て吹き出した。
「なんなんですか?そんなに今の私の顔、おかしいですか?」
「ごめんごめん、笑ったりして。でもアリスさんの今の姿はちょっと・・・」
「一体なんなんですか?心外です!」
「違うんです」
「何が違うんですか?」
「だって、こんな立派なブースの前に立っている人が、しかもこのブースの会社の、オレンジぷらねっとの今を代表するウンディーネだという人ですよ?正面玄関の真ん前で愚痴ってる姿って・・・」
アローナはお腹を押さえて笑った。
「そんなにおかしい・・・ですよね」
アリスはアローナに指摘されて、自分の姿を思い浮かべた。
頬を赤くしてうつむくと、苦い表情になった。
「私って、なんでこうなんだろう」
「アリスさん、それにしてもなんでそんなにプレゼンターが憂鬱なんですか?」
「私、元々話すのが子供の頃からずっと苦手だったんです。緊張すると特に声が上ずってしまって」
「でも今や立派なウンディーネじゃないですか?」
「これはこれまでアテナさんや先輩方と一緒に日々を過ごしてきた結果で、私ひとりでは何にもできなかったと思います」
「そんなことないと思いますよ。今ある結果はアリスさん自身が導き出した結果に間違いないです」
「アローナさん」
「とまぁ、偉そうなこといってますが、その本人はこんな有り様ですけどね」
と言ってアローナはウィンクしてみせた。
「奉仕活動・・ですか?」
「つまりは、そういうことです」
今度は両手を肩のところまで上げて、やれやれといったポーズをとった。
「でも本当はありがたい話です」
と言って、うんうんと頷いてみせた。
すると今度はアリスが笑い出した。
「えっ、何かおかしいですか?」
「だって、よくそんなにコロコロ表情が変わるもんだなぁと思って・・・」
「私の子供の頃からの通信簿の性格欄ってずっと同じ。落ち着きなし!」
アローナは両手をめいいっぱい上に向けて伸ばした。
「ハハハハ」
アリスはお腹を抱えて笑い出した。
「学校の通信簿に、絶対といっていいくらい書かれてた。でもある先生だけ違うことを書いてくれたんですよ」
「違うことを?」
「ええ。前向きだって。いつも明るくて、前向きな性格だって書いてくれた」
「いい先生ですね」
「はい。私はその先生の言葉だけ信用してました。今でもそのことだけは信じてます」
アローナは遠くを見るように目を細めた。
「そうだ、アリスさん。いいこと教えてあげましょうか?」
「いいことですか?」
「はい。本番が心配なんですよね?」
「まぁ、そういうことです」
「そういうアリスさんに、うってつけの言葉があるんです」
アローナは少し神妙な表情でうつ向くと、パッと顔を上げた。
「ぶっつけ本番!」
「えっ、何それ!」
アリスは思わず聞き返した。
「だからこういうことです。考えて悩んでみても仕方がない!体当たりするんです、いつもの自分で」
「いつもの自分」
「そういうことです」
アリスはアローナの言葉を自分の中で繰り返してみた。すると先程までの不安な表情は薄らいでいった。
アローナはアリスを見て、ニンマリした。
「良かった。アリスさんのいい表情が見れた」
「アローナさん、もしかしてそのために・・・」
「いえいえ、今の自分は奉仕活動中です」
「そうなんですか?それならこんなところで油を売ってる場合じゃないですよね?」
「違いますよ!ちゃんと取材をして回ってるんですよ!」
「ほんとですかぁ?」
アリスはイタズラっぽく疑いの目を向けた。
「ネタです、ネタ。ネタを探してるんですよ。アリスさん」
「ネタねぇ・・・」
「本当ですよ。アリスさん、何かないですか?話題になるようなネタ」
「う~ん」
アリスは眉間にシワを寄せた考えた。
「映画祭に関係することでもいいんですけど」
アローナの言葉に何かを思い出したようにパッと閃いた表情になった。
「先程、アイちゃんとアリア社長がきてたんですけど。ここへ来る途中で不思議な体験をしたっていってました」
「それ、どんな体験なんですか?」
「ここへ来る途中、道に迷ってしまったんですね。その時、あるウンディーネが声をかけてきて、道案内をしてくれたそうなんです」
「うん、それで?」
「それで、その後サン・マルコ広場までは一緒にいたはずなのに、そこで忽然と姿を消したと」
「見失った、ではなく?」
「う~ん、その辺はちょっとわからないですが・・・」
「ふ~ん」
アローナは期待したほどではなかったと、浮かない顔をしていた。
「あっ、もうひとつ思い出しました」
「えっ、何んですか?」
「そのウンディーネがどの店に所属しているのかがわからない、ということです」
「それはまたどうして?」
「制服の色が、どうしても思い出せないって言ってました、アイちゃん」
「思い出せないって・・・」
アローナはアイのまだあどけない顔を思い出していた。
「そんなところか・・・」
「あっ!」
「まだ何か?」
「もうひとつありました」
「なんですか、それは」
「そのウンディーネは、髪の色が金色で、おしりが隠れるくらい長く伸ばしていたらしく、とても綺麗な人だったそうです」
「へぇ~、そんなウンディーネがねぇ・・・ん?ちょっと待って、アリスさん」
「あと、アリア社長がそのウンディーネさんにくっついて離れなくて、ちょっとはずかしかったと言ってましたね」
「いや、そこは別にいいです。それよりそのウンディーネの話、もう少し詳しく話してもらえないですか?」
アローナは神妙な顔になっていた。
「私の聞いた話はそれぐらいですけど。何かあるんですか、そのウンディーネさん」
「もしかしたらなんですけど・・・いや、まさかそんなこと・・・」
「えっ、なんなんですか?アローナさん」
「アイさんはどこへ?」
「アイちゃんたちは、ARIAカンパニーへ戻ったと思いますけど」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます」
そう言ってアローナは駆け出して行った。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください!いったいそれって、なんなんですか?!」
アリスは頬を膨らませて不満げな顔でアローナを見送った。