ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
アリスは、アテナのブローチに込められた思いを知って、少しでも早くアテナに返そうとしていた。
それは、アテナの映画祭でのステージの日が決まったからだった。
ちょうど真ん中の5日目の日曜日。
明日に迫っていた。
勝手に最終日だろうと思っていたアリスは、ことのほか早めの出演に驚きを隠せないでいた。
時間が空いたらブローチを渡しに行こうと考えていたが、本番前日となっては、そうもいかない状況に焦りを感じていた。
なんとか直接手渡したいという思いから、お昼のインターバルの時間を使ってアテナの元へ向かうことを決心した。
この日はステージのリハーサルが行われる会場に、アテナが朝からいるという情報を掴んでいたので、このタイミングしかないと考えていた。
アリスは午前の予約を予定通り終わらせると、急いでアテナのいる会場へと向かった。
午後の仕事の時間までには、なんとか間に合いそうな距離だった。
〈この分なら、なんとか間に合いそうです〉
急ぎ足で向かった通りの向こうに、会場となる建物が見えてきた。
息を切らせながら玄関口に行くと、セキュリティのスタッフに制止される。
「私、オレンジぷらねっとのアリス・キャロルです。ここでリハーサルを行っているアテナ先輩・・・アテナ・グローリィさんにどうしても届けたいものがあるんです。取り次いでいただけないでしょうか?」
アリスは息をつまらせながら、そのスタッフに声をかけた。
「アテナ・グローリィさんのリハーサルは、場所が変更になりましたよ」
「えっ」
アリスは言葉が出てこなかった。
「どうしよう・・・」
会場の出入口で茫然と立ち尽くしていると、オレンジぷらねっとの関係者らしき人がアリスに気付いて話しかけてきた。
「アリスさん!どうしたんですか!?」
アリスはアテナの居場所を聞き出すと、そのまま駆け出していった。
〈このまま行けばなんとか間に合うかも。明日は私に時間がないから、今日中に渡しておかないと〉
アリスは普段はあまり通らない路地の近道を走って行った。
途中、賑やかな市場の中を通り抜けようとした。
その時、女の子が倒れて泣いている姿が目に入った。
瞬間、アリスは迷った。
時間はギリギリ。このまま行けば、会社に戻るのに少しだけ遅れるかもしれない。
アリスは立ち止まった。
その女の子のそばに駆け寄ると、女の子を立たせて服の汚れをはたいた。
「どうしたんですか?お母さんはどこですか?」
女の子にそう話しかけながら、辺りを見回した。
すると、少し先の店の屋台の方から前掛け姿の女性が出てきた。
「だからウロチョロするんじゃないって言ったろう?」
そう言うと女の子の手を取って店の方へ引っ張っていった。
アリスは呆気にとられて、その場に立ち尽くしていた。
だがハッとして腕時計を見た。そして走り出した。
市場の屋台が囲む通りが、一瞬、サッと人通りが途絶えた。
その通りの真ん中に、キラキラ輝くブローチがひとつ、地面に落ちていた。
なぜか誰もその存在に気付いていない。
そこにひとりの女性がやって来て立ち止まった。
地面に何かあると気付いた女性は、「ん?」と顔をそのブローチに近づけた。
そのブローチを手にとって目の前でじっくりと眺めると、にっこり微笑んだ。
するとその市場に一陣の風が吹き、屋根のテントが大きく波打った。
その女性の金色の長い髪も大きく揺れた。
このままだと戻るのに時間が足りないと判断したアリスは、アテナのところへ向かうのを諦めることにした。
〈でも、どうにかして届ける方法を考えないと・・・〉
午後の予約の客が待つ店に戻ると、急いで支度にとりかかった。
帽子を被り、服装を整えていると、アリスの顔から血の気が引いた。
〈ない・・・〉
持っていたはずのブローチが、ない。
無くしてはいけないと思い、ポーチに入れて肩からたすき掛けにしていた。
そして、そのポーチをロッカーにしまおうと中を見たら、なくなっていた。
〈どうして?なんで?〉
アリスは何も考えられなくなっていた。
「アリスさん、ご予約のお客様がお待ちです」
アリスを呼びに来たペアのウンディーネの声に、アリスからは返事がなかった。
「あの、アリスさん?」
「は、はい」
ようやく声に気付いたが、返事をするのに精一杯だった。
アリスは茫然としたまま、船着き場までやってきた。
どこをどう歩いてきたかも思い出せない。
アリスは、先ほどアリスを呼びに来たウンディーネにオールを渡された。
「アリスさん、大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ」
「あ、いえ、大丈夫です」
アリスはなんとか気を持ち直して、ゴンドラのそばで待っていた客に手を差しのべた。
灯里は本日の営業を終了しようと、海に面したカウンターのシャッターを降ろそうとしていた。
「ちょっと待ってください!」
「はひっ!」
ARIAカンパニーのデッキを回り込むようにして、その声の主は灯里の前に姿を現した。
「アトラさん!それに杏さん!」
トラゲットで知り合ったふたりが、ARIAカンパニーに直接訪ねてくるのは珍しかったが、それ以上にふたりの切迫した表情に灯里は驚いていた。
「どうしたんですか?」
「灯里さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
息を整えるように少し間をおいてアトラが話を続けた。
「アリスさん、見なかった?」
「アリスちゃんを?」
灯里は目を大きく見開いた。
「今日は一度も会ってないけど・・・」
「そうなんだ・・・」
アトラは少々落胆した表情だった。
「アリスちゃんに何かあったの?」
アトラの横で杏が説明した。
「実はアリスちゃん、まだ会社に戻ってないの」
「えっ、まだなの?」
灯里はすっかり暗くなった海を見た。
「忙しくて遅れてるとか・・・」
「それはないみたい。今日最後のお客様と一緒のところを、うちのウンディーネが何人も目撃してるから」
アトラが神妙な面持ちで答えた。
「じゃあいったいどこに行ったの?」
灯里は不安な気持ちがどんどん強くなっていった。
その時、カウンター横の電話が鳴った。
灯里は急いで受話器を取った。
「はい、ARIAカンパニーです」
「あ、灯里?」
「藍華ちゃん」
「そこにオレンジぷらねっとの人来てる?」
「うん、来てるよ。アトラさんと杏さん」
「やっぱりそうなんだ。いやね、うちのあゆみが妙な事を言うもんだから、ちょっと心配になって電話したんだけど」
「妙な事って?」
「なんかね、後輩ちゃんのゴンドラを見かけたらしいんだけど、その近くに後輩ちゃんの姿が見当たらないって言うもんだから、ちょっと気になってね」
その声を聞いたアトラと杏がカウンターから身を乗り出して電話の方を覗きこんだ。
「それってどこですか?!」
「えっ、何?」
「藍華ちゃん、アリスちゃんがまだ会社に戻ってないんだって」
「戻ってないって、もう仕事が終わってる時間でしょ?どうなってるの?」
「わからない」
「わからないって。それ、大変なことになってるんじゃないの?」
「どうしよう~藍華ちゃ~ん」
「すみません!それよりあゆみが見たって言う話しを教えてもらえませんか?」
アトラが思わず割って入った。
「ちょ、ちょっと待って」
藍華がそう言うと、アトラと杏のふたりにとっては、いつもの聞きなれた声が電話から聞こえてきた。
「アトラ?今ARIAカンパニーにいるの?」
「あゆみなの?詳しい話しを聞かせて」
あゆみからの説明はこうだった。
いつものようにトラゲットを終えた三人は、それぞれの帰路に着いていた。
アトラと杏の二人と別れたあゆみは、途中の運河でアリスのゴンドラを見つけた。
が、アリスの姿はどこにもない。
少し歩くと市場があるため、そこにでも立ち寄ったのかと思ったが、どの店も閉店の片付けにおわれているところで、見回してもアリスの姿はどこにも見当たらなかった。
気になったあゆみは、藍華に相談しようと思い、カンナレージョ支店に向かったのだったが、オレンジぷらねっとから藍華のところにアリスが支店にいっているかどうかを問い合わせる連絡があったということを聞いた。
そこであゆみから話を聞いた藍華は、何か知らないかを灯里に聞いてみようとARIAカンパニーに電話を入れたというわけだった。
「あゆみ、今からその場所へ私たち行くから。あゆみも来てくれる?」
「当たり前っしょ!そこで落ち合おう!」
あゆみたちは、アリスのゴンドラを見かけたというその運河の場所へ向かうこととなった。
「灯里、私もあゆみのあとを追ってみるから」
「わかった。わたしも戸締まりを済ませたら行ってみる」