ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
すっかり暗くなった街角を、片手にランプを持って歩く人の姿があった。
時折しゃがみこんでは、路面をじっと眺めてみる。
そんなことを繰り返しながら、薄暗い街灯の下をゆっくり進んでいた。
路地の方に灯りを向けたとき、ランプの灯がその人物の顔を照らし出した。
切羽詰まったような表情で、アリスは必死になって無くしたブローチを探し歩いていた。
実は、仕事の途中であることを思い出していた。
アテナがライブのリハーサルを行っていると思っていた場所に到着したとき、一旦ポシェットから制服のポケットにブローチを移していたことを思い出した。
すぐに渡せると思っていたからだった。
だが場所の変更を知って、急いでそのままで走って行った。
今となっては、そのことが原因としか考えられなかった。
アリスは、最初に訪ねた会場から、少しずつ自分が移動した道をたどって行くしかないと考えていた。
だが夜間になり、屋台などは店じまいをしてしまい、昼間の風景とは大きく変わってしまっていた。
〈会社に頼んで、誰か他の人にでも仕事をかわってもらって、すぐに探しに来ればよかった〉
後悔の念が押し寄せていた。
夜の通りをランプを持った集団があちこちに散らばりながら少しずつ移動していた。
「あぁ、さすがに見つかんないわね」
「こう暗いと難しいっすね」
藍華の漏らした言葉にあゆみが返事した。
「すみません、みなさん」
アリスはその場にいた藍華、灯里、あゆみ、アトラ、杏の全員に向けて謝った。
「いいんですよ、アリスちゃん。気にしないで下さい」
杏が気を使うように優しく返事した。
「でもみなさんには、明日があります。これ以上迷惑はかけられません」
「でもアリスちゃんだって、明日もお仕事でしょ?」
灯里はアリスのそばで、ランプの灯りに浮かぶアリスの憔悴しきった表情に心配していた。
「私のことはいいんです」
そう言ってアリスはうつむいた。
「無くしたのは私の責任なんですから」
「でも事情を話せばアテナさんならわかってくれると思うんだけど」
藍華も心配そうに言葉をかけた。
「違うんです。そういうことじゃないんです」
「違うってどういうこと?」
「あのブローチがアテナさんにとって、とても大事なものだということ、何も知らずにただ喜んでいたんです。アテナ先輩の気持ちなんて何も考えてなかった自分が恥ずかしいんです」
「アリスちゃん」
灯里は今にも泣き出しそうなアリスの肩に手を回した。
「どうしよう、わたし・・・」
そのあとは言葉にならなかった。
アリスは灯里の胸で声をあげて泣きだした。
「アリスちゃん、大丈夫だよ。きっと見つかるよ」
杏はアリスをなだめるように寄り添っていた。
「だけどこう暗くなってしまうと、ちょっと難しいのも事実だしなぁ」
あゆみが腰に手を当てて、ふーんとため息をついた。
「あゆみ!こんなときになんでそんなこと・・・もうっ!」
アトラは思わずあゆみに言い返した。
「ごめん。確かに悪かった」
あゆみはばつが悪そうに頭をかいた。
「でもさあ、このままやみくもに時間を費やしてもどうかと思うのも事実ではあるわよね。灯里、どう思う?」
藍華の問いかけに灯里は、まだ気持ちが収まっていないアリスにどう言おうか迷っていた。
「わかった。とにかく三人はここで帰ってちょうだい。明日もトラゲットの予定なんでしょ?」
藍華はあゆみ、アトラ、杏の三人に向かっていった。
「仕事に差し支えがあったら困るからね。そうしてくれる?」
藍華の説得に渋々三人は従った。
「みなさん、ほんとにありがとうございます」
アリスは気持ちを振り絞るように声をかけた。
「さてと」
そう言って藍華は地面に置いていたランプを持ち上げた。
「灯里、まだ体力はありそう?」
灯里は藍華の言葉に笑顔で応えた。
「まだまだ大丈夫だよ!」
目に涙を浮かべたままのアリスが驚いて顔を上げた。
「藍華先輩、灯里先輩。どうしてそこまで・・・」
「ここまできたら、とことん付き合うわよ!」
「うん、そうだね!頑張ろう、アリスちゃん」
「先輩方」
ARIAカンパニーの二階で、藍華は大の字になって眠りこけていた。
お腹には大きめのタオルケットが被せられていた。
灯里はその横で丸まって寝ていた。
窓の外ではすずめがチュンチュン鳴いて、忙しく動き回っていた。
外の光が少しずつ灯里の顔に当たり始める。
灯里は、少し顔をしかめるようにして薄目を開けた。
「あれ、どうしてこんなところに・・・」
ぼぉ~っとしたまま、辺りを見回した。
すぐそばに藍華がいることに気付いた。
「どうして藍華ちゃんがいるの?」
そういってぼんやりと大の字で寝ている藍華の横顔を見ていたが、その目が焦点を合わすように、表情が変わってきた。
「えっ、これって・・・」
灯里はハッキリと事態を思い出した。
「今何時?」
急いで枕元に置いてあった時計を手に取った。
午前8時25分。
「大変だ!藍華ちゃん、起きて!」
ムニャムニャと言いながら上半身を起こした藍華は、目を擦りながら辺りを見回した。
「う~ん、何?どうしたって言うの?」
「藍華ちゃん!もう8時半だよ!急がないと!」
「何が?8時半ってどういう・・・!!」
藍華もハッキリと目が覚めたようだった。
「いったい何?どうなってんの?」
「きのうアリスちゃんとブローチを探してて、それで遅くなって」
「そのままここに泊まったんだっけ」
藍華は思わず頭を抱えた。
「じゃあ後輩ちゃんは?」
「明日のことがあるからって、遅くに帰ったよ」
「そうなの、って落ち着いてる場合じゃないじゃない!」
藍華は急いでカンナレージョ支店に向かった。
「支店長が朝礼に遅刻ってどうするのよぉぉぉ~」
灯里は急いで店をオープンする支度にとりかかった。
カウンターのシャッターを勢いよく開けると、ちょうど外にゴンドラが一艘近づいて来るのが見えた。
「アリスちゃん?」
「灯里せんぱーい」
アリスはゴンドラをARIAカンパニーの正面の位置まで持ってくると、デッキまで出てきた灯里を見上げる位置に止めた。
「どうしたのぉ~、アリスちゃ~ん?だいじょ~ぶぅ~?」
「せんぱ~い、昨晩はどうもありがとうございました!」
「あれからどうっだった?」
「なんとか寝るようにしました」
「あんまり無理しちゃダメだよぉ~」
「はい、ありがとうございます」
「それで、どうするの?」
「実は体調がすぐれないということで、午後から仕事を変わってもらうことにしました。それで本番まで、なんとか探してみます」
「そうなんだ。わかった。わたしも時間が出来たら協力するからね」
「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃ~い!」
アリスの背中に手を振って見送ったが、遠ざかるにつれて心配な表情になっていった。
「見つかるといいね。アリスちゃん」