ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・   作:neo venetiatti

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第22話

「それではお客様、こちらに一列にお並びください」

そう言ったかと思うと、アトラは腰を押さえた。

「イテテテ」

「あれ、アトラちゃん、どうしたの?」

列の一番前に並んだ常連のおばちゃんが声をかけた。

「ちょっときのう、立ったりしゃがんだりを繰り返したので・・・」

「気をつけてなきゃダメだよ。身体が資本の仕事なんだから」

「そうですね」

アトラはその言葉に照れ臭そうにうつむいた。

「なんだか一気におばあちゃんになったみたいだな、アトラ?」

「ちょっとやめてよ、あゆみ。まだそんな年じゃないんだから!」

「そうですよ。きのうはちょっと特別だったからですよ」

杏はアトラをフォローするように言った。

「でもあのあと、どうなったんだろう。ふたりはなんか聞いてないの?」

「アリスさんは、大分と遅くに戻ったらしいのだけど、会ってはいないし・・・」

「もうそろそろ時間ですよ」

杏はアトラとあゆみにゴンドラを出すよう促した。

客を乗せたゴンドラは、ゆっくりと船着き場を出発した。

岸に残った杏は、水面からの照り返しに眩しそうに目を細めて、ゴンドラを見送った。

「今日も忙しくなりそう」

その杏の後ろから、杏の肩を誰かがチョンチョンと人差し指でつついた。

少し驚いて振り返ったところにニッコリと微笑む女性が立っていた。

「先程の会話のことなんだけど、よかったら聞かせてくれない?」

「だ、誰ですか?」

 

「あなたがアローナさんですか?」

杏は頭の先から足先までじっくりと眺めた。

「私のこと、知っていただいてたんですか?どうして?」

「あのアリスさんの一件のときの方ですよね?」

「そうか。やっぱり知られていたんだ。そりゃそうだろうな」

アローナは苦笑いで頭をかいた。

「そのアローナさんがどういう理由で話をって・・・そうか。アリスちゃんのことだからですか?」

「まあ、そういうことなんですが」

「別にあなたを信用しないというわけではないのですが、いきなり来られてもちょっと・・・」

「確かにそれはそうですよね」

アローナはどうしたもんかと困った表情になっていた。

「そもそもアリスちゃんとはどういう関係なんですか?」

杏は少し疑いの眼差しで尋ねた。

「関係か。最初は客とウンディーネとの関係でした。そのあとアテナさんとも久し振りに再会して・・・」

「アテナ、さん?」

「ええ。私、以前はあなたと同じウンディーネだったんですよ。それもオレンジぷらねっとのね」

「オレンジぷらねっと、ですか?そしたら先輩・・・」

杏の顔に少し緊張感が漂い始めた。

「いやいや、まあ、一応そうなるのかな」

アローナはちょっとどや顔で応えてみせた。

「そういえば、アトラちゃんが知ってるようなことを言ってた」

「アトラ?懐かしい名前だなあ。知り合いなの?」

「アトラちゃんのこと、ご存知なんですか?」

「確かトラゲットで一緒になったこと、あると思う」

「そういえばそんなことも言ってたような・・・」

「そうなの?なんだかうれしいなあ」

すると、対岸からゴンドラが戻ってきた。

「お客様、足元にお気をつけください」

アトラが乗船客の手をとって降りる手助けをし、杏は陸上で出迎えた。

「お疲れ様でした」

その光景を見ていたアローナは、懐かしそうに微笑んでいた。

「じゃあ次、杏お願いね」

「了解」

杏と交代で、今度はアトラが岸に残った。

すれ違うとき、杏はアトラに小声で耳打ちした。

「あの人、私たちの先輩らしいですよ」

出発したゴンドラを見送ったあと、アトラはくるっとアローナへ向き直った。

「アローナさん、ですよね?」

「えっ、あなたもわたしを知ってるの?」

「私、多分だと思うんですけど、以前トラゲットでご一緒したと思うんです」

「そうか。あなたがアトラさん?すぐにわからなかった」

アトラは眼鏡のズレを直した。

「私たちの先輩ということは、オレンジぷらねっとですか?」

「まあ一応・・・」

「やっぱり。記憶に間違いなかった!」

アローナは、またどや顔で応えようとしたが、その前にアトラが話始めてしまった。

「それでどうしたんですか?」

「そうだった。実は先程みなさんの会話が聞こえてきて、気になったもので」

「会話?」

「アリスさんのこと、なんだけど」

「そのことですか・・・」

アトラの反応が、アローナを神妙な気分にさせていた。

 

「そんなことがあたったの」

アリスのブローチの件を、アトラはアローナに説明した。

「アローナさんは、そのアテナさんのブローチのこと、何かご存知ですか?」

「ブローチのことは何も知らない。私はアテナさんとは、そこまでの関係じゃなかったから。どちらかと言えば、お荷物だったのね。あの頃の私」

「そんなぁ、お荷物だなんて」

「ほんとにそうだったのよ。それも後で気付かされた訳なんだけどね」

「そんなイメージじゃなかったですけど」

「トラゲットのこと?あの頃はまだなんとかなるかもって思ってたのよね。まぁ、なんともならなかった訳だけどね。その差が、あなたと私の、この違い」

アローナは両手を広げて、自分の姿とアトラの制服姿の違いを示した。

「アトラさん、あきらめちゃダメだよ」

「えっ、どうして?アローナさん」

「トラゲットを続けているシングルって多いでしょ?あの頃もそうだったから、よくわかる。ここを早く抜け出したいってね」

「アローナさんの言う通りです」

「だけど、そのうち慣れてくるの、この生活に。これも悪くないかって。でもその時に本当の自分が試される。お前は本当にプリマになりたいのか、ってね」

アトラは、アローナの言葉にハッとさせられた。

「もしかして、アローナさんもですか?」

「うん、そうだった」

アトラは真剣な眼差しのアローナの横顔を見つめた。

「実力は嫌でも思い知らされる。だからもう潮時なのかなって考えるようになった。一方で、シングルでウンディーネを続けるという手もある。お客様と直接接するトラゲットも悪くない。でも私はどっちも嫌だった。プリマは諦めたくない。だけどここに落ち着いてしまったらと考えると、いつしか怖くなった。だから・・・」

「だから?」

「だから、逃げた」

アトラはアローナの言葉に一瞬身体が震えた。

「諦められない。でも答えも出せない。どうしようもないよね、私って」

そう言ってアローナは笑ってみせた。

「アローナさん・・・」

「大丈夫!ちゃんと踏ん切りがついたから、ここにいてるんだから」

アトラは何も言えなかった。

「それもこれも、アリスさんのおかげ」

「アリスさんの?」

運河の方から声が聞こえてきた。あゆみだった。

「もうすぐ到着」

「あ、はい」

アトラは入口のロープを外して、到着の準備に入った。

 

「アローナさんて、アリスさんを助けたって人でしょ?」

「え、まあ、そういうことになってますね。ハハハハ」

あゆみの屈託のない問いかけに、思わずアローナは苦笑いになっていた。

「いやぁ~、すごいっすねぇ。なかなかできるもんじゃないっすよ」

「実は何もしてないんだけどね」

「またまたご謙遜を」

あゆみはそう言って、両手を腰に当てて、にこやかに笑った。

「あなたもシングルなの?」

「ええ、そうっすね。正真正銘のシングル。シングルの中のシングルといってもいいですね」

「何、それ?」

「アローナさんもウンディーネだったんですよね?」

「まあ一応ね」

「だったらわかると思うんですけど。あいつらとうちの違い」

「あの二人と?」

「そう。あいつらは、いつかプリマになって、この運河で輝くウンディーネになる」

「あなたは違うの?」

「うちはトラゲット専門です。買い物に行くおばちゃんや仕事に行くおじちゃんたちと関わってる日々が、とっても楽しい。これだって立派な仕事ですよ」

「確かにそうね」

あゆみの笑顔にアローナは、なぜかうれしくなっていた。

「それでアローナさんは、結局のところ、どこまで行ったんですか?」

「行った?」

「ええ。プリマにまでなったのか、どうなったのか、です」

「あゆみさんだっけ?結構聞きにくいこと、ズバッと聞くよね?」

「そうっすか?まあ、なんでもいいんすけどね」

「いいんかい!」

アローナの突っ込みに、思わずあゆみは笑い声を上げた。

それを見て、アローナもつられて笑っていた。

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