ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
屋台が立ち並ぶ市場は人で溢れていた。
アローナは、アトラから聞いた話がどうしても気になっていた。
そして話の様子から、まだブローチは見つかっていないこともわかった。
「ねえ、ちょっと聞きたいことあるんだけど」
アローナはあちこちの屋台に聞いて回ってみた。
だが、どの屋台の人も、ブローチに関しては聞いたことすらないという返事だった。
もし落としたとしたら、気づきにくい市場が有力だと踏んでいたが、なかなかそれらしい話は聞けそうになかった。
「あんた、久し振りだね」
果物屋のおばちゃんだった。情報通として知られていて、アローナもちょくちょく通っていた。映画祭に関して、オレンジぷらねっとの動きが怪しいと最初に教えてくれたのも、このおばちゃんだった。
「そうだ、おばちゃん。この辺でブローチの落とし物見なかった?」
「ブローチ?そんなしゃれたもん見なかったねえ」
「そうか」
アローナが諦めて行こうとした。
「そういえば」
「何?なんかあった?」
「いやね、なんか最近へんなうわさ話を耳にすることがあってね」
「どういう話?」
「あくまでもうわさだからね」
「わかったから」
アローナは待ちきれないように苛立ちを隠せないでいた。
「なんかね、見るんだって。女の人」
「それってつまり、幽霊か何かってこと?」
「そこまではわかんないんだけど、子供たちが言うんだよ」
「それって都市伝説か何かなの?」
「だから細かいことまではわかんないんだって。だけど、大人は見た人はいないのよ。子供ばかり」
「へぇ~。ちなみにどんな感じなの、その幽霊」
「金色の髪を長~く伸ばしてるらしいんだけど」
「ちょ、ちょっと待って。その話ほんと?」
「だからうわさだって」
アローナは屋台のおばちゃんから聞いた、その話の出どころらしき子供たちを捜し回った。
ネオ・ヴェネチアの土地勘には自信があった。
路地を通り抜けた先の狭い広場で、早速そこで遊ぶ子供たちに遭遇した。
「ねえ、君たち、金色の長い髪の女の人のこと、聞きたいんだけど、知ってる?」
「おばちゃん、知ってるの?」
「お、おばちゃん?」
〈この子たちには、あの屋台のおばちゃんも、自分のことも、同じおばちゃんにみえてるのか・・・〉
アローナは、さすがにショックを隠しきれないでいた。
「ハハハハ、おばちゃんも聞いたことはあるんだけど、良くはしらないんだよね」
ひきつった顔で、なんとか笑顔を作ろうとしていた。
「いつもいるわけじゃないんだ。この時期になると時々見かける」
「この時期って、つまり映画祭をやってるこの時期ということ?」
「そうだよ」
「映画の人」
「映画の人?どういうこと?」
「わかんない」
子供たちはそれぞれに印象を語った。だが、つかみどころのないものばかりだった。
「その人と話したことはないの?」
「う~ん、ないと思うけど・・・」
「でもあのおねえちゃん、いつもニコニコしてた」
「うん、なんか楽しそう」
アローナは確信した。
ネオ・ヴェネチア国際映画祭の時期になると、いつしか現れるようになった女性。
その話は結構前から耳にしていた。
その内容には、決まって金色の長い髪の女性が登場する。
だがもうひとつ、共通点があった。
それは、子供にしか見えないということ。
大人の目撃証言は希にしかなく、ほとんどが子供たちから聞くものだった。
だから、最初は誰も相手にしていなかった。
だが、あまりにも目撃証言が繰り返されたため、いつしか都市伝説のような話として定着していった。
しかし、何のために現れるのか。
結局誰にもその理由がわからないため、少しずつこの話は風化していくこととなった。
アローナはネオ・ヴェネチアを詳しく調べていた時期に、このうわさ話に遭遇していた。
いったいこれは何を意味しているのか?
その時、アローナは漠然と、このネオ・ヴェネチアの守り神である金の獅子をイメージしていた。
ネオ・ヴェネチア国際映画祭の時期にだけ現れる存在。
そして、金色の長い髪の女性。
もし、そんな存在が本当にいるのなら、ブローチのことを何か知っているかもしれない。
何の根拠もなかったが、きっとそうに違いないとアローナは確信していた。
その時だった。
「いたよ!」
路地の少し先にいた少年がアローナの方に向かって呼び掛けた。
「どこ?どこなの?」
アローナはその少年のいる方に走り出していた。
午前の予定を終えたアリスは、事前に会社に申し出ていた通り、午後から休暇を取った。
もちろん、体調がすぐれないことが理由ではなく、本当の理由はブローチを捜すことだった。アテナのステージがある今日の夕刻までに、絶対見つける覚悟でいた。
そして、昨晩、灯里や藍華たちと捜した市場を再び探そうとしていた。
夜とは違い、人の多さには覚悟していたが、さすがにこの状況では大変そうだと、思わずため息をついた。
「ウンディーネさん、なにが要るんだい?」
屋台のおばちゃんが話しかけてきた。
「いえ、特に要るものはありません」
アリスの返答に、おばちゃんは不思議そうな顔をしていた。
〈そんな顔になるの、無理もないでしょう〉
そんなことに構ってられないとばかりに、アリスは屋台から屋台へとくまなく探し歩いた。
「すみません。この辺にブローチは落ちてませんでしたか?」
一軒一軒お店の人に聞きながら、その上で探すのはなかなか骨の折れる作業だった。
その時、路地の方から何か叫んでる声が聞こえてきた。
「なんだろう・・・」
アリスはその路地の方に何故か引かれるように向かっていた。