ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
「この先の路地にいたよ!」
少年のあとを追って、アローナは走っていた。
このタイミングを逃したら、もう会えないかもしれない。
なぜかそんな思いにかられ、勢いに任せて走り続けた。
路地を抜けると、小さな教会のある広場にでた。
「ほら、あそこ」
広場の中心には噴水があった。
その少年は明らかにその方向を指差していた。
だが、アローナには見えなかった。
「どこ?どこなの?」
息を切らせて、噴水の周辺を見回した。
「そこだよ。噴水の向こう」
アローナにはどうしてもその姿を見ることはできなかった。
「どうして?どうして私には見えないの?」
子供にしか見えないといううわさは本当なのか。
だとすると、自分には見えないけどそこにいるのか。
「あ、行っちゃうみたいだよ」
少年の言葉にアローナは意を決して呼び掛けた。
「そこにいるんですよね?」
アローナには見えなかったが、金色の長い髪の女性は、その場に立ち止まった。
「もしかして、あなた、アンジェロ・レオーネですか?」
金色の長い髪の女性は、驚いた表情で振り返った。
「なぜその名を知っているの?」
その女性は振り返りながら、アローナをじっと見つめた。
「私、知ってます。あなたのこと」
アローナは何もない空間に必死になって話しかけていた。
「おねえちゃん、見えてるの?」
少年は不思議そうにアローナの顔を見上げていた。
「ううん、見えてないわ。でもわかる。そうですよね?」
アローナは噴水の方に近づこうとした。
だが、足が動かない。
それでも必死に話し続けた。
「聖マルコの象徴である獅子のその使い、天使アンジェロ・レオーネ」
「あなた、なぜそれを」
アローナは少年に問いかけた。
「ねえ、なんかいってるの?どうなの?」
「なんだか、すごく驚いてるみたい」
アローナはしてやったりといった表情になった。
「やっぱり正解!」
アローナのその様子を見たその女性は、目を閉じると微笑んだ。
「どうしても知りたいことがあるの。あなたが天使アンジェロ・レオーネならきっとわかると思う」
アローナからアンジェロ・レオーネと呼ばれたその女性は、小首をかしげた。
「ねぇ、どんな感じ?伝わってるみたい?」
アローナは少年の肩を揺さぶった。
「ええ~、なんだろう?わかんない」
「ここへ来て、今さら何言ってんの?」
「だって・・・」
「しょうがないわね」
アローナは背筋をピンと伸ばすと、そこにいると信じて正面を見据えた。
「今とても大切なものを探しています。ブローチです。銀色に輝くとってもきれいなブローチなんです。そのブローチを私の大切な人が無くしてとても困っています。その人も、その人にとって大切な人から預かったブローチなんです」
その金色の長い髪の女性は、じっとアローナを見つめたままその場に立っていた。
「その人は今回の映画祭のプレゼンターを務めます。ウンディーネとして初めての快挙です。あなたならこの意味をわかってくれると思う。彼女はウンディーネたち全員の希望であり、私にとっての夢なんです」
アローナは思わず手を握りしめていた。
「お願いです。もしそのブローチのこと、知っているのなら教えてくれませんか?」
アローナが力を込めて言い放った。
だが、なんの反応もなく沈黙が流れた。
アローナは心配のあまり、様子を知りたくて少年の肩を掴もうとした。
「誰と話してるんですか?」
背後から声がした。
アローナにとって聞き慣れた声だった。だが、ここで聞くことになると思ってもみなかった。
ゆっくり振り返ると、そこにはアリスが立っていた。
「アリスさん、なんで・・・」
「アローナさん、ブローチ無くしたこと、なんで知ってるんですか?」
「いや、それはたまたま耳にして・・・」
アローナはどういう顔をしていいかわからなくなってしまった。
「それにブローチとあの女性の方と何か関係あるんですか?」
「えっ、アリスさん、今なんて・・・」
「だから噴水の向こうに立っているあの女性の方と、どういった関係があるのか聞いてるんです」
「ア、アリスさん・・・」
「どうしたんですかアローナさん。そんなに驚いて」
「見えてるんですか?」
「だってあんなにきれいな金色の長い髪、誰だって気になるはず・・・ですよ?」
アローナはもう一度噴水の方を見た。
その瞬間、噴水が勢いよく水しぶきを上げた。
日の光に輝く水しぶきが広がり、その向こう側に女性の姿が見えた。
アローナは口を開けたまま、その場に立ち尽くしていた。
「私にも、見えた」
噴水の水しぶきの向こうに、優しく微笑む女性が、確かに立っていた。
「アローナさんのお知り合いの方なんですか?」
アリスは、その場に茫然と立ち尽くすアローナの背中に話しかけた。
「お知り合いとか、そんなんじゃないんです」
「でもあの方、ずっとアローナさんばかり見ていますよ」
「えっ、うそ!ホント?」
アリスの言葉に、アローナは思わず振り返った。
アリスは、答えを求めるようなアローナに、コクッと頷いて見せた。
だが、もう一度噴水の方を見た時、すでにその姿はなかった。
「えっ、どこに行ったの?どこ?」
「いなくなりました」
アリスのその言葉に、アローナは失望感でいっぱいになった。
「でも、会えた。まさか、アンジェロ・レオーネに会えるなんて信じられない」
「先程の方、アンジェロさんというんですか?」
「アリスさん」
「はい。なんですか?」
「奇跡なんです。彼女に会うことは」
「どういうことなんですか?奇跡って」
「だって彼女、人間ではないですから」
「人間じゃないって・・・はぁ?」
アローナは感動に浸って、その場から動けそうになかった。
「でもあのおねえちゃん」
「えっ、何?なんなの?」
またその少年の肩を掴んで、アローナは必死になっていた。
「あのおねえちゃん、ありがとうって言ってた」
「ありがとうって言ってたの?ホント?」
「感謝されてるようですね」
アリスの顔を見たアローナは、口をポカーンと開けていた。
「どういうことなんだろう・・・」
不思議な気持ちになっているアローナだったが、アリスは違っていた。
「ところでアローナさん。私、まだ納得してないんですけど」
「えっ、何が?」
「もうっ、ブローチのことです!」
アリスは頬を膨らませた。
その時、眩しそうにアリスが目を細めた。
「ん?」
アローナもその眩しく放つ光の方を見た。
噴水の縁のところがキラキラ輝いていた。
少年が走って行った。
少年が取り上げたその手にあったものは、紛れもなく探していたブローチだった。