ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
アリスは会場の入り口で、オレンジぷらねっとのスタッフを見つけると、一緒に関係者入口を入っていった。
あちこちで忙しそうに動き回る人たちが通路に溢れていた。
本番が近づいている証拠だった。
スタッフに連れられて奥へと進んで行くと、ある部屋のドアの前に立ち止まった。
スタッフがノックした。
すると中から返事が帰ってきた。
アリスはその声に、うれしさと懐かしさを感じた。
ドアを開けると、部屋の中の様子が目に飛び込んできた。
真っ白なドレス。肩から胸元にかけて大きく開いていて、褐色の肌とのコントラストがとても鮮やかだった。胸元には白い花飾りがあしらわれていた。
正面にある鏡から視線を移した表情は驚きに満ちていた。
「アリスちゃん、どうしてここに?」
大きく目を見開いたアテナは、ドアのところに立っているアリスに目を奪われた。
「あ、あの、ちょっとそこまで用事がありまして、寄ってみた次第です」
「えっ、そうなの?」
「はい。いわゆる陣中見舞いというやつです」
「陣中・・・見舞い?」
「そういうことです」
「そうなんだ」
噛み合ってるのかどうか微妙な感じの、いつもの会話だった。
「でもアリスちゃん、うれしいわ。わざわざ来てくれて。忙しいでしょ?」
「はい。会社がたくさんお仕事を入れるので、とても忙しいです」
「そうなの・・・」
アテナは苦笑した。
「それじゃあ無理して来なくても良かったのに」
「あ、いえ、実は大事な用がありまして」
「何?大事な用って」
アリスはたすき掛けにしていたポーチの蓋を開けた。
そして、中から大事そうに銀色に輝くブローチを取り出した。
「アリスちゃん、それ・・・」
「先日、アテナ先輩からお預かりしたブローチです」
「それはアリスちゃんが、映画祭のプレゼンターをするときに使ってもらおうと渡したものよ」
「はい、わかっています。でもこれは、今日アテナ先輩が着けるのが一番相応しいと思ったんです」
「どういうこと?」
アリスは自身のドレスの試着の時に、アメリア部長から聞いたブローチにまつわる話をアテナに話した。
「そうだったの」
「アテナ先輩を応援されていた方が、もしご健在だったら、アテナ先輩なら今日これを着けてステージに立っていたはずだと思ったんです」
アリスのまっすぐな眼差しに、アテナは感動していた。
「アリスちゃん、そこまで考えてくれていたのね」
アリスは少し照れたようにうつむいた。
「私のスケジュールが決まった後で、アテナ先輩の出演が決まったようだったので。ここは是非、アテナ先輩につけて欲しくて。いえ、先輩が着けるべきだと思って持ってきました」
「そうね。確かにアリスちゃんの言う通りかもしれない。そのブローチは、私にとってとても大切なものであることに間違いないわ。それを着けてステージに立つことは、私にとってとても意味のあることだから」
そう言ってアテナは立ち上がって、アリスのそばに近づいた。
「アテナ先輩、どうぞ」
広げた両手の上にのせたブローチを、アリスは大事そうにアテナに差し出した。
アテナは、そのアリスの両手を包み込むように、下から自分の両手を添えた。
「ありがとう、アリスちゃん」
アテナは優しさに溢れた眼差しでアリスを見つめた。
アリスはそのアテナの眼差しに、頬を赤らめて見つめ返した。
「実はその話しには、続きがあるんです」
「何?どういうこと?」
ARIAカンパニーのカウンターの前で、藍華はアローナの方にグッと顔をつきだした。
「どうしようかなぁ」
「ちょっと!そこまでしゃべっておいて、どういうことですか?」
「だって、これはこれでネタですからね」
「ネタって、アローナさんは、アリシアさんのお陰で取材ができてるようなもんでしょ?」
「それを言われると」
「へぇ~そうだったんだぁ」
灯里が二人の会話に割って入ってきた。
「あのねぇ、灯里。あんたは、いつも、そうやって、なんで、マイ、ペース、なの、よ!」
藍華はカウンター越しに、灯里のほっぺをつまんで、引っ張ったり戻したりを繰り返した。
「れも、このきひ、ひいよへぇ~」
灯里は手に持っていた新聞をカウンターの上に置いた。
「ありがとう、灯里さん」
「わかるの?」
「いい記事ですねぇって。そうですよね?」
「そうだよ」
「はぁ~。灯里、あんたの人生はこういうことよね?」
「どういうこと?」
「別にいいの!それより、どうしてこんな記事が書けるの?まるでその場にいたみたいよね」
「ええ、いましたから。そこに」
「えっ、いたの?そこに?」
「厳密には後から聞いた部分も結構ありますが」
アテナが映画祭のスペシャルゲストとしてステージに上がる直前、アリスが楽屋を訪ねてブローチを渡したときの様子が、特別に出された号外の記事になっていた。
もちろん、その記事はアローナが書いたものだった。
水の三大妖精と称えられたアテナと、その後輩であり、映画祭の授賞式のプレゼンターに抜擢されたアリスとの感動的なエピソード。
このエピソードは、水先案内業界のみならず、映画祭のトピックスとしても扱われた。
本来はアテナのステージがメインの記事として出された号外であったが、それと共に大きな反響を呼んでいた。
そしてこのエピソードの後、アローナが言った通り、その続きとなる話があった。
映画祭のスペシャルステージとして行われたアテナのライブは大盛況のうちに幕を閉じた。
アテナのドレスの胸元には、最初着けられていた花飾りがなくなり、アリスが届けたブローチが輝いていた。
関係者席から観ることができたアリスは、ライブ中、感動でウルウルが止まらなかった。
そしてその余韻のまま、アテナの楽屋に向かった。
楽屋の中はさながら花畑のように、お祝いの花でいっぱいだった。
その中でアリスが来るのを待っていたアテナは、ドレス姿のまま、アリスにブローチを手渡した。
「今度はアリスちゃんが、これを着けてね」
アリスは目を潤ませながら、そのブローチを大事そうに受け取った。
「なんでそれを書かないわけ?」
藍華は納得いかないといった感じでアローナに言った。
「これは感なんですけど、まだ何かありそうな予感がしてるんですよ」
「予感?なんかもったいぶってるわねぇ」
「でもその場面、見たかったなぁ」
「まあ確かに灯里の言う通りだわね」
「でもまだですよ、本番は。何て言ったてアンジェロ・レオーネのご加護を受けたんですから、アリスさんは」
「な、何?そのアンジェロなんとかっていうのは?」
「まだ、内緒です」
「えぇ~何それぇ~。知りたい~」
「あんたってほんとに・・・」