ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
アテナのステージを見た翌日、アリスはいつものように仕事に出ていた。
朝からニコニコ笑顔が止まらない状態だった。
すれ違う他のゴンドラの乗船客が、アリスを見つける度に声をあげていた。
号外が出てから、その記事を一般紙も扱うようになり、ますます注目の的となっていた。
オレンジぷらねっとには、その記事が出て以降、取材の申し込みが殺到していた。
アメリア部長は、アリスのプレゼンターの件が先にもれてしまってから、正直あまり機嫌がいいとはいえなかったが、今日は朝から笑顔が絶えなかった。
このエピソードは、まぎれもなくアメリアがアリスにブローチの件を話したことがきっかけだった。
「アメリア部長、話題になってますねぇ」
アリスが映画祭のプレゼンターに抜擢されるきっかけを作ってくれたアレックス社外取締役は、つい笑顔がこぼれてしまうアメリアに声をかけた。
「いえ、アレックス取締役のお陰です。何から何まで本当にありがとうございます」
「たまたまだったんですよ、アテナさんの話が出たのは。アリスさんの感触に好感を持った映画祭の事務局が、今回の映画祭は、ウンディーネに焦点を当てるのはどうだろうかという案が急遽出てきて、それで相談を受けることになったんですよ」
「でもアテナのライブは、急なことなのに難しかったのではないですか?」
「そこは事務局の方が乗り気だったから、以外にスムーズに行ったんです。それより、君の方こそ、それなりに手を回したんだろ?あの記事」
「そんな人聞きの悪い言い方やめて下さい」
アメリアはそう言いながらも、笑みが漏れていた。
「今回は、偶然が重なっただけなんです。いいタイミングで」
アリスのケガの件の後、オレンジぷらねっとはゴンドラ協会に今後の対策を申し入れていた。
ウンディーネの安全をどうするかは、各水先案内店だけの問題では済まない、業界全体の問題でもあった。
それと今回のように、アローナのような存在がもたらした結果についても、重く受け止める必要があった。
だが、この度はアリスを助けようとした結果の出来事であると、オレンジぷらねっととゴンドラ協会は一致した認識で落ち着いていた。
そこで、オレンジぷらねっと、ゴンドラ協会、つまり責任者としてそれぞれ対応することになったアメリアとアリシアは、ひとつの折衷案を思い付いた。
アローナを処分するという名目で、映画祭の取材をさせる。もちろんアリス中心で、ということだった。
「ちょっとそれ、どういうこと?」
藍華は、アローナがうっかり落とした関係者パスを自慢げに拾い上げたのを見て、思わず突っ込んでいた。
それは普通の記者用のパスではなく、一部の関係者しか手にいれられないものだった。
「まっ、こういうことです。内緒ですからね」
「確か処分受けたのよね」
「奉仕活動です」
ネオ・ヴェネチア国際映画祭は、いよいよ最終日の授賞式を迎えようとしていた。
前日には改めてその日の確認をアメリア部長の下、繰り返し行っていた。
「明日は用心のため、午前中には会場入りするから、遅れないようにね」
どちらかと言えば、アメリアの方が緊張していた。
アリスは部屋へ戻ると、ふとこれまでのことを思い返していた。
「なんか、いろんなことが一気にありすぎて、まだちゃんと整理がついてませんね」
「まぁ~」
アリスの呟きに、まぁ社長が応えた。
アリスはまぁ社長を抱き上げると、ニコッと微笑んだ。
「ねぇ、まぁ社長」
朝起きると、明るい日の光が窓から差し込んでいた。
窓を開け、爽やかな風を受けて気持ち良さそうに目を細めた。
「いよいよですね」
予定通りスタッフと合流したアリスは、特別に用意したゴンドラに乗って会場のあるリド島へ向かった。
他にもリド島へ向かう大小様々なボートとすれ違い、いやが上にも緊張感が高まっていた。
船着き場に到着すると、映画祭の事務局の男性と数名のスタッフが待ち構えていた。
「アリスさん、お待ちしておりました」
スタッフの案内で会場へと向かっていった。
「アリスさんはこちらに」
関係者出入口へそのまま向かおうとしたが、事務局の男性に違う方へ導かれた。
「えっ、私だけ?」
そのまま関係者出入口へ向かう会社のスタッフがアリスの方へ振り返った。
「アリスさん、頑張ってください」
そのスタッフの気持ちの高ぶりが伝わってきそうだった。
事務局の男性に導かれるまま、ひときわ人だかりのある方へと進んでいった。
そして、前方にアリスが想像していなかった光景が見えてきた。
「ちょ、ちょっと待ってください。私、あそこを通るんですか?」
会場の正面にある鮮やかなレッド・カーペットが、アリスの目に飛び込んできた。
アリスはそこであることに気がついた。
オレンジぷらねっとを出発する前、やたらと派手な服装に着替えさせられていた。
会場へ行けば、どうせ用意したドレスに着替えるのに、なんでこんな格好をするのか不思議だった。
その答えが、今、アリスには理解できたようだった。
事務局の男性とスタッフたちによって、そこにいる人たちが左右に分けられると、目の前には鮮やかな赤が一面に広がっていた。
そしてアリスが現れた瞬間、カメラのフラッシュが嵐のように瞬いた。
アリスはその場に立ち尽くして、固まってしまった。
「アリスさん、そのまま階段を上がって、正面の入り口から入って下さい」
事務局の男性の声が耳に届いてはいたが、足が思うように動かなかった。
すると、柵によって遮られた多くの観衆の中に、ひときわ輝く金色の髪が見えた。
「あれは確か、アローナさんのお知り合いの・・・アンジェロさん」
そう言った瞬間、自然と足が前に出るようになった。
「そうだ。ブローチのお礼をまだ言ってなかった」
改めて、輝くその髪を探そうとしたが、見失ってしまった。
アリスはあきらめて正面玄関に向かう階段を一歩ずつ、ゆっくりと上がっていった。
「アリスさん、すみません。こちらをお願いします」
その声の方に目を向けると、フラッシュの嵐が再び降り注いだ。
目の前が真っ白になって気を失いそうだった。
「アリスさん、スマイル!スマイル!」
どこか聞き覚えのある声に目をむけると、階段の途中のところ、カメラを構えているたくさんの記者たちの中にアローナがいた。
「アリスさん、クレープの屋台のおじさん!」
「はぁ?」
アリスはその言葉に眉間にシワを寄せて怪訝な顔をしたが、次の瞬間、思わずプッと吹き出していた。
そのタイミングでカメラの音とフラッシュが一斉に瞬いた。
アリスは階段の一番上まで登りきると、その場で振り返ってペコリと頭を下げた。
そして会場へと消えて行った。
〈でもなんで、アローナさんがあのクレープ屋のおじさんのこと、知ってたんだろう・・・〉
アリスは会場の外を振り返った。
外のざわめきが嘘のように、ロビーの中は落ち着いた雰囲気だった。
ロビーでは、たくさんの関係者があちらこちらで談笑していた。
その中に、ひときわ鮮やかな赤のドレスに身を包んだ女性が、たくさんの人に囲まれていた。
その女性はアリスに気がつくと、その姿をじっと見つめた。
「アリス・キャロル・・・」
アリスは、中で待ち構えていた別のスタッフに促され、楽屋のある方へと急ぎ足で向かっていった。
赤いドレスの女性は、その場から去ってゆくアリスの背中をずっと目で追っていた。