ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
「それで結局こうなったというわけだ」
「そういうことね」
「じゃあ灯里ちゃん、もらいそこなったというわけね」
「うふふふ、灯里ちゃんはいつもこのネオ・ヴェネツィアから素敵なものを受け取っているから大丈夫よ」
「アリシア、お前は相も変わらず、そういうことを恥ずかしげもなく言うんだな」
「あらあら、うふふ」
「じゃあおひとつ、いただきまーす」
「どうぞどうぞ」
灯里が客を乗せて営業に出ている間、アリシア、晃、アテナの3人は、ARIAカンパニーで久し振りのお茶会を開いていた。
「それにしても、こんなふうに3人でお茶するなんて、どれくらいぶりかしら?」
「覚えてないなぁ。アテナ、お前覚えてるか?」
「どれくらい前だっけ?」
「お前に聞いた私がバカだった」
「ええ~」
「そんなことより、晃ちゃんもどうぞ」
「そうだな」
3人は、テーブルの真ん中に置いた「ネオ・シネマ饅頭」の箱を囲んで、アリシアの入れたほうじ茶で、少し空いた時間をゆっくりと過ごしていた。
「アリシアちゃんの入れたほうじ茶にお饅頭の取り合わせって、ほんとに落ち着くわね」
「でも久し振りのお茶会に、ネオ・シネマ饅頭ってどうなんだ?」
「これはこれでいいものよ」
「そうか?」
「それにこれは、アリスちゃんの気遣いが込められているから、その分味も少しおいしいはずよ」
「いや、アリシア。どう味わっても、味はかわらないぞ」
「いいえ、アリスちゃんが買って来てくれたお饅頭だもん。また違うんですぅ~」
「アテナ、確かに今回の映画祭でアリスは頑張ったと思うよ。でもいくらなんでも、饅頭の味までは変えられないだろう」
「そんなことないですぅ~」
「はいはい、わかりましたよ。で、結局のところ、この饅頭をゴンドラ協会やら観光協会やらに配り歩いたって?」
「私ね、アリスちゃんに言ったの。いろんな人に感謝する気持ち、とってもいいと思うって。でも無理はしちゃ駄目よ。気持ちって、がんばっていれば、ちゃあ~んとつたわるものだからってね」
「アリシアちゃん、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
「ただちょっと気になってることがあるんだけど」
「何かしら、晃ちゃん?」
「こないだから、藍華のやつがうるさくて」
「藍華ちゃんが?」
「絶対なんかあるはずだ!ゴンドラ協会とオレンジぷらねっとの間には!とか。なんでうちも映画祭にブースを出さなかったんだ!とか。カンナレージョ支店を立ち上げたところで、そんな余裕があるわけないだろ!って、藍華には言っといたんだけどな」
「そんなこと言ってたのね」
「そうなんだけど。アリシア、実際のところ、どうなんだ?」
「そうねえ。あるにはあるわね」
「あ、あるのか?」
「あると言ったって、ゴンドラ協会としては、ウンディーネの発展に関してなら、協力を惜しまないということ。そんな特別な何かなんてないわ」
そういってアリシアはニッコリ微笑んだ。
「お前の笑顔だけは、なんか信用できないところがあるからなぁ」
「あらあら、晃ちゃんたら」
いつものように市場は賑やかで、人で溢れかえっていた。
アリスはいつものカフェでお昼を済ませると、午後の予約の時間に間に合うよう、市場の人混みの中を進んでいた。
その人混みの中に、チラッと揺れる金色の髪が見えた気がした。
「確かあの人、アローナさんの知り合いの・・・」
だが、すぐに見えなくなってしまった。
すると、近くの屋台から声が聞こえてきた。
「ちょっとあんた、あのときのウンディーネさんだろ?」
「私ですか?」
アリスはキョトンとして振り返った。
「そう、確かにあんただよ。ほら、ブローチをなくしたって、とても困った顔してた」
それなら私だと、アリスは納得した。
「それで見つかったのかい?」
「はい。お陰さまで無事見つかりました」
「そう、それはよかったねぇ。あっ、そうだ!」
何かを思い出したように何やらゴソゴソしていたおばさんは、アリスに大きな紙袋を手渡した。
アリスはそれを両手で受け取った。
想像したよりも、ずっしりと重かった。
「こ、これは、なんですか?」
「いやね、今朝の占いで、今日偶然あった人に贈り物すると、いいことがあるって言ってたもんだから。ウンディーネさんの顔を見てたら、そのことを思い出したんだよ」
「そ、そうなんですか・・・」
おばさんがニッコリとほほえむので、アリスも思わず微笑んで返していた。
「それでは出発しまーす!」
アリスは岸を蹴ってゴンドラを水面に滑らせた。
すぅーと動き出したゴンドラは、明るい陽射しの下に出た。
「気持ちいい!」
「ほんとに!」
女性ふたり連れの客は、思わず声を上げていた。
「お客様、事前にお聞きしていたルートでよろしいでしょうか?」
「ええ、それで結構よ。でも、あそこは絶対行ってね、ためいき橋。どうしてもためいきをついてみたいの」
「はい、かしこまりました」
アリスはニコニコ笑いながら応えた。
「ところでウンディーネさん?」
「はい、なんでしょうか?」
「さっきから気になってることがあるんだけど」
そう言った客の一人が、アリスの足元をじっと見つめた。
「それはなんですか?」
アリスは足元に視線を移した。
「カボチャです」
「それは見ればわかるわ。なんでそんなところにカボチャ?」
「実は、先ほど市場のおばさんからいただいたんです。今朝の占いで、偶然出会った人に贈り物をするといいことがあるって言っていたそうです」
「それでカボチャなの?」
「そのおばさん、面白い!」
二人は楽しそうに笑った。
「それじゃあ、ウンディーネさんはシンデレラってことね?」
「私がシンデレラですか?」
「だって、カボチャの馬車ならぬカボチャのゴンドラ、でしょ?」
「はぁ、なるほど・・・」
アリスは考えてもみなかった話に、なぜか納得していた。
「なんか、いいことあるといいですね」
何気なく言ったその女性の一言に、アリスは顔いっぱいの笑顔で言葉を返した。
「はい。今日はとても素晴らしい一日になりそうです」
ゴンドラはいつものように、ネオ・ヴェネツィアの風景に溶け込んでいった。
完