ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
アリスはお客様を見送った後、腕時計を見て時間を確認した。
「よし、大丈夫ですね」
少し離れた、空いている桟橋にゴンドラを係留すると、そこから街を歩き出した。
ポケットから取り出したメモを頼りに、アローナに教えてもらったヴェネツィアン・グラスのお店を探しだすつもりだった。
古いタイプのものかもしれないと言っていたこともあり、お店の方も古い店構えを想像していた。
何か、宝物でも探しているような、ちょっとワクワクした気分だった。
近くまでくると、パン屋のおばさんに住所の場所を教えてもらった。
「その住所だと、少し先の方だね」
おばさんの指した方向は、今アリスがやって来た方向だった。
通り過ぎていた。
アリスはちょっと苦笑して来た道を戻っていった。
でも、しばらく歩いても、それらしきお店はなかった。
もう一度、進んでみた。
先ほどのパン屋まで来てしまった。
おそらくこの辺りと思うところには、文房具のお店があった。
念のためお店の人に聞いてみた。
以前は工房かお店だかあったらしい。
「そうか、なくなったんだ」
やはり、古いものを扱うお店は、そのお店も古いんだ。だから・・・
アリスはゴンドラを止めた桟橋まで急いで戻り、次のお客様を迎えに出発した。
夕日に照らされたネオ・ヴェネツィアの街並みは、いつ見てもすばらしかった。
その街並みを背景に、アリスはお客様と記念撮影をした。
「カンパニーレ!」
いつまでも大きく手を振る子供にアリスも手を振って見送っていた。
その手を下ろしながら、時計に目を向けた。
「行けそうですね」
アリスはメモにあった二軒目の店を探し始めた。
入りくんだ、迷路のような、ネオ・ヴェネツィアらしい街中を、観光客の間をぬって進んでいった。
様々な店が立ち並ぶ中、今度はお目当ての住所まですんなり来ることができたようだった。
だが、店の正面のシャッターが降りていた。
黒いスプレーで落書きされていた。その落書きもくすんで、色褪せていた。
念のため周辺の店を見て回ったが、やはりそれらしき店はなかった。
近くの店の人に聞こうと思ったが、やめることにした。
気分が進まなかった。
また、観光客の間をぬってもどることに、なんとなく気分が落ちていた。
「それだけ珍しいということでしょう」
まだ少し時間はあるから・・・。
自分に言い聞かせてゴンドラのところへ戻った。
「あれ、アリスちゃん?」
ゴンドラに、礼服をまとった老夫婦と席を同じにしていたアテナ・グローリィは、ゴンドラで進むアリスを目に止めた。
アテナは不安な気持ちに襲われていた。
アリスの表情が暗く沈んでいるように見えたからだった。
「アテナさん、どうかされました?」
アテナの表情に気付いた老紳士がたずねた。
「あ、いえ。なんでもありません」
「それにしても、アテナさんのような方に歌をプレゼントしていただけるなんて、とても光栄です」
オレンジぷらねっとの発展に尽力した実業家夫婦の銀婚式に、アテナはかり出されていた。
思い出の場所で、歌でもっておもてなしをする。
しかし、アテナはアリスが見えなくなるまで、その姿を目で追っていた。
アリスは予定のスケジュールを終えていたこともあり、思いきってメモにある三軒目の店に立ち寄ることにした。
すっかり辺りは暗くなっていた。
「でも、まだお店が閉まる時間じゃないですしね」
店を一軒一軒確かめながら進んでいった。
「あった」
少し離れたところからでも窓から店内のガラス細工が見えた。
店のドアをゆっくりと開けた。
チリンチリンと鈴の音が鳴った。
「いらっしゃい」
若い女性が店の奥から出てきた。
黒く長い髪に黒い瞳。
最近見かけることが増えてきた、マンホームの東洋の女性だった。
「あの、こちらでは古いタイプのヴェネツィアン・グラスを扱っていますか?」
アリスの問いかけに、その店員は何かを理解したような表情で言った。
「その件ですか」
その店員からは期待した言葉が出てこないことがわかるような雰囲気だった。
「時々同じようなことをたずねて来られる方がいるのだけど、ここには置いてないんです」
「そうですか」
「私がお店を開く前に、ここでお店をやってらした方が、その古いヴェネツィアン・グラスを扱ってたらしいの。私はここが空くって聞いたので、それで決めちゃっただけで」
やはりここもすでに無くなっていた。
「すみません。連絡先とか移転先とか、何かご存知ないですか?」
「前の方とは面識がないんです。だからその後のことは私はまったくわからないです。でも確か、不動産屋さんが言ってたのは、お店をやめるときに引退することになったって言ってたと思うんだけど・・・」
アリスは茫然となって立ち尽くしていた。
手がかりも切れてしまっていた。
「ごめんなさいね。はっきりしたことがわからなくて」
「いえ。ありがとうございました。失礼します」
アリスは頭をぴょこんと下げて店を出た。
所々に点灯する街灯のおかげで、夜の街は決して歩けないわけじゃないはずなのに、アリスには、どこをどう進んでいいかわからないくらい、知らない街中にいるような寂しさを感じていた。