ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・   作:neo venetiatti

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第8話

朝から騒がしい一日が始まろうとしていた。

オレンジぷらねっと内では、ある噂が飛び交っていた。

アリスが何か重大な役目を担うことになったらしいと。

プリマ飛び級昇格で一躍時の人となり、それ以降も注目の的となっていた訳だが、騒ぎの真相はまだ明らかにされていないようだった。

そして話は、なぜかあらぬ方向へと向かっていた。

「ねえ、後輩ちゃん、独立するってほんと?」

「はひっ」

昼になって駆け足でARIAカンパニーにやって来た藍華は、カウンター越しにいきなり灯里に向かってたずねた。

「藍華ちゃん、いきなり何?」

「灯里、あんたなんか聞いてないの?」

「アリスちゃんが独立するの?」

「だから、それを聞いてるんじゃない!」

藍華は、もどかしさにイラッとした表情を露骨に表した。

「私に聞かれても・・・」

「もう、どうしてわかんないの?」

「そんなこと言われても、今初めて聞いた訳だし・・・」

「今初めて聞いたの?」

「そうだよ」

藍華は大きなため息を漏らした。

「あのさあ、もうお昼だよ。朝から何も情報とか入ってこないわけ?」

「だって今日は朝から忙しくて、それどころじゃなかったもん」

「確かに灯里は、街の噂とかには無縁な感じよね」

「でもアリスちゃんが独立ってどういうこと?」

「なんかね、今の人気にあやかって新たに会社を設立するとかしないとか・・・」

「まだ決まったわけじゃないんだ」

「まあ、そこは噂話だからね。本当だったら今頃もっと大騒ぎになってるでしょうね」

「そう言えば最近アリスちゃんと会ってないなぁ」

灯里はぼんやりと海を眺めていた。

三人それぞれの方向がはっきりとしてきたことで、忙しさもまた以前とは違ったものになっていた。

灯里はひとりで店を切り盛りしているため、なんでもひとりでやる忙しさがあった。

藍華は支店長として動き回りながら、プリマとしてゴンドラに乗り、カンナレージョ支店の顔として奮闘していた。

アリスはプリマ飛び級昇格という称号により、水先案内業界の一躍人気ウンディーネの仲間入りを果たしていた。

「ところで灯里、今年もネオ・ヴェネツィア国際映画祭のシーズンがやって来るわね。あんたんとこの予約状況はどうなってるの?」

「うん、結構増えてきてる。今年はなんかサプライズがあるんじゃないかってことで、いつもより早めの予約が入ってるみたい」

「何?サプライズって?」

「それはわかんないんだけど・・・」

「何それ?灯里の情報は、ほんと当てにならないわね。ちなみにそれ、どこからの情報なの?」

「こないだ市場に行ったときに情報通のおばさんから教えてもらった」

「その情報通のおばさんて、誰?」

「ほら、こないだカボチャを安くしてくれた八百屋のおばさん」

「あぁ、あのおばさんねって、知らないわよ、そんなおばさん!」

「ええ、覚えてないの?藍華ちゃん」

「なんでそう、誰彼かまわずに親しくなっちゃうの?あんたってもう・・・」

 

「おばちゃん」

「いらっしゃい。また来たのかい?」

八百屋の店先にカボチャを並べているおばちゃんに、ひとりの女性が話しかけてきた。

肩からバッグをかけて、手にはカメラを持っていた。

明るい口調で気さくに話しかけて来る様子は、いかにも人懐っこい印象だった。

「この間はいい話が聞けて助かったよ。ありがとう、おばちゃん」

「そう何回来ても大した話は出てこないよ」

「そんなことないよ。あちこちの水先案内店に商品卸してるって言うから、きっと顔が広いんだろうなって思ってさぁ。やっぱりおばちゃんに聞いて正解だったよ」

「おだてたって何も出てこないよ」

「いやいや謙遜しなくても。そう言えばあの話、やっぱりあるみたいね」

八百屋のおばさんは辺りを伺うように見回してから、その女性に近づいた。

「あんたもそう思う?なんかみんな口が固いんだよね。今回はちょっと特別だって言いたげな感じなんだよ」

「へぇ~、特別なんだ」

「あたしはね、きっとあれに絡んでると睨んでるんだよね」

「何に絡んでるって?」

「映画祭」

「映画祭?今度あるネオ・ヴェネツィア国際映画祭のこと?」

「ああ、それそれ。そこで何か特別な何かがあるんじゃないかってね」

「特別な何か」

「例えば、普段お目にかかれないような、すごいVIPが来るとか」

「なるほど。VIPか」

「なんか匂うんだよね」

「そんなに匂うの?」

「特にオレンジぷらねっと」

「え、あのオレンジぷらねっと?」

「あそこはなんか隠してるねぇ」

「ちなみにその話、誰かに話した?」

「いや。あっ、そういえば、いつもひいきにしてくれるウンディーネの娘には話した」

「どこの店の娘?」

「えーと、確かアリアなんとかっていったかなぁ」

「アリア・・・へぇ~そうなの」

 

ドアをノックした。

中から返事がなかった。

もう一度ノックした。それでも返事がなかった。

デッキをつたって、ぐるりと建物の周囲を回る。

海に面した側には、中から海が見渡せる大きなカウンターがあった。

小さな植木鉢に花が植えてあり、そのそばには案内表示が置いてあった。

〈現在、お客様を案内中です。ご用の方は、しばらくお待ちください。〉

「無用心だなぁ」

そう呟くと、手に持っていたカメラのシャッターを切った。

デッキの角に天井から吊るされている〈ARIA COMPANY〉の看板にもカメラを向けた。

そしてファインダーを覗きこんだまま、カメラを下へ向けた。

「ん?」

その白くむっくりとしたものが、ゆっくりと目の前に現れた。

「ばいにゅーい」

「は?」

カメラを構えた女性に話しかけていた。

「もしかして、アクア猫?」

「ばいちゃ!」

「もしかして、君が噂のアリア社長?」

「ばいにゅーい!」

その女性はアリア社長にカメラを向けると、シャッターを切り始めた。

初めは少し照れていたアリア社長だったが、どんどんポーズを決めてきた。

「いいねぇ、きみ。モデルみたいに決まってるよ」

アリア社長はますます乗ってきた。

「あ、ごめん。フィルム入れるの忘れてた」

アリア社長はその場にドテっと倒れ込んだ。

「うそうそ。ハハハハ」

その場に座りみ、腕を組んで怒りを表した。

「ごめんごめん。ところでお宅のウンディーネさん、まだ帰ってこないかなぁ」

アリア社長はプイっとどこかへ行ってしまった。

「怒らしちゃったかなぁ」

すると、角の向こうから声が聞こえてきた。

「アリア社長!お久し振りです!」

まだ幼さの残る女の子の声だった。

「お元気でしたか?」

「ばいにゅーい!」

明らかにアリア社長の声が弾んでいた。

アリア社長の大きなカラダをめいいっぱい抱き抱えて、その女の子が姿を表した。

その瞬間、シャッター音が響いた。

「あっ、ビックリした!」

「ごめんね。驚いた?」

「ええ、少し」

アリア社長を抱き抱えた女の子を見て、その女性はニッコリほほえだ。

「もしかして、お客様ですか?」

「違うの。ちょっとここのウンディーネさんに用があって来たんだけど」

女の子はカウンターの上の案内表示に目を向けた。

「灯里さんなら、もうすぐ戻ってくると思いますけど」

「そうなんだ。知り合い?」

「はい、少し」

「ふーん」

「ばいきゅい!」

アリア社長が何か文句言いたげにカラダをくねらせた。

「一旦退散とするかな」

その女性は立ち去ろうとした。

「あ、あの、私で良ければ伝言か何か・・・」

「そうね。また来ると言っといて」

「お名前は?」

「アローナ。あなたは?」

「私はアイ。愛野アイです」

「アイさん。それじゃあ、また」

そう言うと、ウィンクして立ち去った。

アリア社長がちょっと顔を赤らめていた。

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