ARIA The PIACERE 2 そのシンデレラの行く先は・・・ 作:neo venetiatti
「灯里さん、来ちゃいました」
「アイちゃん、どうしたの~?」
灯里はゴンドラを係留するとデッキに急いで上がってきた。
「だって、しばらくメールができなかったから。そしたらどうしても灯里さんに会いたくなって」
「アイちゃん、うれしいこと言ってくれるね~~」
ふたりは手を取って笑いあった。
「でもどうやって来たの?お父さんやお母さんは?」
「今回は、お忍びで来たんです」
そう言うと忍者のような格好でキョロキョロしてみせた。
「どういうこと?」
「嘘ですよ」
「なによ、それ~~」
「エヘヘヘ。本当は、社会見学なんです」
「社会見学って、あの社会見学?」
「他にどんな社会見学があるのか知らないですが、多分それです」
「社会見学でアクアまで来るの?」
「まあ、そんなとこです」
「時代は変わるんだねぇ」
灯里とアイはテーブルを囲んで座った。
すると、アイは回りをキョロキョロと見回した。
「どうしたの、アイちゃん?」
「うん、変わってないなぁと思って。ほっとしました」
「そうだね、ここは変わらないねぇ」
灯里はアイの顔を見てニッコリとほほえんだ。
「でも、アクアまで社会見学で来るって、何を見るの?」
「それはですね、将来の夢です」
「将来の夢?」
「はい」
「将来何に成りたいか、どういう方向へ進むのかを、実際にその場所へ行ってみて、考えるきっかけにする。それが目的なんです」
「へぇ~、そうなんだ~」
「だから来たんです」
「へぇ~、どこに?」
「だから、ここです」
「ここって・・・」
「私の将来の夢はARIAカンパニーに就職することです」
「はひっ!」
「でもアイちゃん、お父さんやお母さんには話したの?」
「いいえ、それはまだです」
「それじゃあどうするつもりなの?」
「そこが問題なんです」
「ええ~、アイちゃん」
「灯里さん、ダメですか?」
「ダメじゃないけど」
「それじゃあ、いいですか?就職決まりですか?私、氷河期は耐えられそうにないです」
「氷河期って」
アイは座り直すと、真剣な表情になった。
「灯里さん、お願いします。私を雇って下さい」
「え、ちょっと待って。だってアイちゃん、まだ学生でしょ?」
「いますぐって訳ではありません。学校の進路相談もこれからですし、お父さんやお母さんにもちゃんと話すつもりです」
「そうは言っても・・・」
灯里は困惑していた。
アイがそう言ってくれるのはうれしかった。でも、灯里の中ではまだ決心がついてなかった。新人を雇うことも、後輩を育てることも。
「もしかして、誰か新人を雇うことが決まっているとか?」
「ううん、何にも決まってないよ」
「はぁ~、よかった」
アイは安堵の表情を浮かべていた。
「もし雇うとしてもひとりですよね?ふたりも雇う余裕はないですよね?今のARIAカンパニーを考えると・・・」
「アイちゃん、そこなの?心配しているとこって」
「だって実際問題、就職先として大丈夫なのか心配ですし」
灯里はため息ををついた。
そんなに頼りなく見られているのかと、つい落ち込みそうになる。
「でも大丈夫ですよ、灯里さん」
「え、どうして?」
「わたし、バリバリ働きますから。心配無用です」
「ありがとう、アイちゃん」
灯里は苦笑した。
アイは、もう採用が決定したような様子だった。
「そうだ。忘れるところだった」
アイは灯里と一緒にコーヒーカップをキッチンに持っていくとそう言った。
「灯里さんが戻ってくる少し前に、訪ねて来た人がいましたよ。名前はアローナっていってました」
「アローナ、さん?」
灯里には覚えのない名前だった。
「また来ますって言ってました」
「誰だろう?お客様かなぁ」
「失礼します」
アリスはドアを閉じて廊下でひとりになった途端、ため息をついた。
今日は午後からの遅出ということで、ゆっくりできると思っていたが、急の呼び出しで統括部長の部屋まで来ていた。
目的はもちろんわかってはいたが、結局のところ、断れないこともわかっていた。
その答えを、忙しさにかこつけて先伸ばしにしていたつけが回ってきたような感じだった。
「プレゼンターの件、話を進めるわね」
自分には選択権なんてないくせにと、心の中では呟いていたアリスだったが、勿論そんなことは言えるわけなかった。
「やっぱり、やらなければいけないですか?」
アメリア部長は少し首をかしげて、不思議そうにアリスを見た。
「アリスさん、こんな光栄な話、普通喜んで引き受ける人の方が多いと思うのだけど、どうしてそんなふうに思うのかしら?」
「一言で言うなら苦手といったらいいですか・・・」
「苦手、ですか」
「わたし、そんな晴れがましい場所向いてないと思いますし、それに・・・」
「それに?」
「いえ・・・」
「最近、社内でもヘンな噂が流れ始めているのよ。早急に答えを出さないといけない状況でもあるしね」
アメリア部長にはお世話になっているという思いもあり、アリスは最後は小さな声で返答した。
「はい、わかりました」
「それで後輩ちゃん、結局どうするつもりなの?」
藍華は、カフェの椅子でアリア社長のモフモフぽんぽんを撫でているアリスに聞いた。
「何がですか?」
「まっ、しらばっくれて。こっちはちゃんと情報を掴んでるんですからね」
「そうなんですか?もう知ってるんですか?」
「そういうことよ」
「アリスちゃん、まだ話せないんだったら、無理に話さなくてもいいよ」
「灯里、何言ってるの?こんな大事な話を私たち抜きに進めるなんて、どういうことか聞かせてもらいましょうよ」
「藍華ちゃん、そこまで言わなくも」
「いいですよ、別に」
「それじゃあ聞くけど、結局どうすんの?」
「やりますよ」
「えっ、ほんとなの?」
藍華は口をあんぐりと開けていた。
「アリスちゃん、本当にいいの、それで?」
灯里は心配そうにたずねた。
「だって決まったことですから仕方がありません。私は正直いってあまり乗り気ではありませんでしたけど」
「アリスちゃんが乗り気でないってどういうこと?」
「だって会社の意向というやつです。そもそも私には断る権利なんてないんです」
「えっ、どういうこと?会社から後輩ちゃんに言ってきたってことなの?」
「そうですよ」
「ごめん。ちょっと頭がこんがらがってきた。訳がわかんない」
藍華は思わず頭を抱えた。
「アリスちゃん、私もその辺の事情はわかりにくいのだけど」
「だって言われたんです、お世話になっているアメリア部長から。普通喜んで出る人が多いのに、なぜ断るのかって」
「普通喜んで出る?」
「オレンジぷらねっとって、いったいどうなってるのやら・・・」
「あの~、先輩方、さっきから何の話をしてるんですか?」
「何のって、あんたの独立の話でしょ?」
「藍華ちゃん、声が大きいよ!」
「うっ」
藍華は自分の口を思わず手でふさいだ。
「はぁ?なんのことですか?」
「えっ、違うの?」
「どうなってんの?」
「それはこっちが聞きたいです!」